内科医キューピーのつぶやき

医学部首席になれた勉強法や医学情報を発信したりします。

Dダイマー高値の対応

日常臨床において"Dダイマーが高いな"ということはしばしばあります。

 

特にDダイマー=血栓と考えがちですが、本当にそれは正しいのでしょうか。

 

今回はDダイマーについて病態生理から勉強するとともに、高値の場合にどのような原因を考え、どのように診療方針を立てるべきかについてまとめてみました。

 

※この記事の内容が原因で生じたいかなる不利益にも責任は負いかねます。

 

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目次

 

 

【参考文献】

J Am Coll Cardiol 2017;70(19):2411-2420

Am J Hematol 2019;94:833–839

金沢大学血液内科・呼吸器内科 血液凝固検査入門

 

【凝固・線溶系】

⓪基本事項

ResearchGate(一部改変,a)凝固系 b)線溶系)

一次止血:血小板が集まり、破れた血管壁を塞ぐ止血の機序です。

二次止血:一次止血に続いて生じ、凝固因子の働きでフィブリン網を形成する機序です。

→この二次止血のカスケードが、上図のa)に該当し、本項で主に述べる部分になります。

 

①外因系と内因系

二次止血のカスケードには、外因系と内因系の2種類があります。

外因系:組織因子(TF:Tissue Factor)による凝固です。

→TFはLPSやサイトカイン等の刺激により、主に血管内皮細胞や単球で産生されます。

例えば敗血症では大量のTFが産生され、DICを引き起こす原因にもなります。

→外因系はPT(Prothrombin Time)で評価します。

内因系:血管内に存在する凝固因子により開始する凝固です。

→特に異物に反応して生じる場合が重要で、例えば試験管内での凝固はこれに当たります。

→内因系はAPTT(Activated Partial Thromboplastin Time)で評価します。

・いずれのカスケードでも、最終的にトロンビン(Ⅱa)により、フィブリノーゲン(Ⅰ)がフィブリン(Ⅰa)になることで完結します。

 

②二次止血を制御する反応系

(0)基本事項

・これまで述べてきた二次止血は、血管内の2種類の反応系で制御されています。

・これらの反応系は、凝固が血管の破れた所にだけ起こるようにする働きと、血栓が不必要に形成されないようにする働きを担っています。

→これらの反応系を標的とした治療薬もあり、重要な役割を担っている反応系と考えられます。

 

AT(Antithrombin)

・1つ目はATによる経路で、トロンビンやⅩaなどと結合して働きを阻害します。

→これによりトロンビンが減少し、フィブリンも減少して血栓が形成されにくくなります。

TAT(Thrombin AntiThrombin complex):トロンビンとATの複合体で、凝固亢進状態のマーカーです。

 

TM(ThromboModulin)

・2つ目は血管内皮細胞の膜蛋白質であるTMによる経路です。

・TMはトロンビンと結合すると、プロテインCを活性化させます。

プロテインCは活性化プロテインC(APC:Activated Protein C)になります。

APCプロテインS補酵素にして、ⅤaやⅧaを分解します。

→これにより最終産物のフィブリンが減少して、血栓が形成されにくくなります。

 

③線溶系

フィブリンを分解して、血栓を溶かす作用を線溶と呼びます。

※⓪基本事項の図のb)に該当します。

・血管内皮細胞で産生されたtPA(tissue Plasminogen Activator)が、プラスミノーゲンをプラスミンに転換します。

→プラスミンは主にフィブリンを分解して、FDP(Fibrin/Fibrinogen Degradation Products)にします。

→主に上記の機序により、線溶が行われます。

FDPはその名の通り、フィブリンとフィブリノーゲンの分解産物の総称です。

→(後述しますが)DダイマーはFDPの中に含まれるものとなります。

・また、プラスミンは主にα2-PI(Plasmin Inhibitor)により阻害されます。

PIC(Plasmin α2-plasmin Inhibitor Complex):プラスミンとα2-PIの複合体で、線溶亢進状態のマーカーです。

 

【Dダイマーの生成過程】

J Am Coll Cardiol 2017;70(19):2411-2420

・Dダイマーの生成過程に的を絞り、更に細かく見ていきます。

フィブリノーゲン中央のEドメインと両側で結合する2つのDドメインからなります。

トロンビンはフィブリノーゲンのEドメインのペプチドを切断して、フィブリンモノマーが形成されます。

→切断によりEドメインknobs(突起状構造)ができ、これがDドメインに存在する穴にはまります

→このようにしてフィブリンモノマーが重なり合い、二本鎖のプロトフィブリルを形成します。

→更にプロトフィブリル同士が結合し、フィブリル(フィブリン線維)が形成されます。

・このフィブリン線維の結合を強化するのがXIIIaになります。

→XIIIaは、隣接する別々のフィブリンモノマーのDドメインを架橋します。

→この架橋されたDドメインこそが、Dダイマになります。

・最終的にフィブリン線維は図のようにプラスミンにより分解されます(線溶系)。

→その構造の最終産物が、Dダイマということになるのです。

・このように最終的にDダイマーは線溶系のプロセスで生成されますが、それ以前に凝固系の産物であるフィブリンに由来しています。

・従って、Dダイマーは凝固系および線溶系の過程を経て生成される産物になります。

・また、前述のようにFDPフィブリノーゲンとフィブリンの分解産物の総称ですが、Dダイマーはあくまでフィブリンの分解産物である(フィブリノーゲンの分解産物ではない)ことも重要な点になります。

 

【Dダイマー高値の対応】

①Dダイマー高値を示す病態

-静脈・動脈血栓 -DIC

-大動脈解離 -冠動脈疾患

-肝疾患 -重度の腎疾患

-感染症 -炎症性疾患

-多量の胸水や腹水

-大きな皮下血腫

-外科手術 -外傷

-血栓溶解療法(tPAなど)

-癌 -妊娠 -加齢

Am J Hematol 2019;94:833–839("多量の胸水や腹水"と"大きな皮下血腫"は追加した)

・上記のようにDダイマーは様々な原因で高値を示します

・特にDダイマー=血栓という限定した考え方は、診療方針を間違える可能性があります。

・後述しますが、例えばPEやAADではDダイマー以前に臨床所見が重要とされます。

→基本的に病歴/身体診察が第一で、そのうえでDダイマーを利用する考え方が重要です。

 

●コラム:採血手技によるDダイマー偽高値

採血がスムーズに行われず時間がかかった場合などにDダイマーが偽高値を示すことがあります。

試験管の撹拌が不十分採血量不足などでも偽高値を示し得るとされます。

試験管内で凝固/線溶反応が生じることが原因とされ、臨床所見から明らかに乖離する場合は再検を行う価値があります

※私自身も年に2,3回程度不自然なDダイマー高値を経験しますが、再検で正常範囲内であることがほとんどです。

 

②肺血栓塞栓症/深部静脈血栓症

救急外来,ここだけの話より一部改変

※Well`s scoreなどの詳細は肺血栓塞栓症の診療の記事も参照ください。

・PEの診療において、Dダイマーは上記のように補助的な使い方をします。

・Dダイマーより前に病歴などからPEの検査前確率を考えることが最も重要です。

・なお、前項でも記載のように加齢によりDダイマーが高値を示すことがあります。

→そのためPEの診断において、カットオフ値として50歳未満は500μg/L50歳以上は年齢×10μg/Lを使用すると、感度を落とさずに特異度が上がるとする報告が複数あります(JAMA 2014;311:1117-1124など)。

 

③急性大動脈解離

・AADがあるとDダイマーは高値となり、しばしば除外のために検査されます。

低リスク患者において500μg/Lをカットオフ値とした場合、感度95%陰性的中率98%除外診断に有用とする報告があります(Ann Emerg Med 2015;66:368–78)。

→ただし、低リスク患者でなければ感度は十分ではないとも結論付けられています。

・従って、PE同様にDダイマーより前に臨床所見から検査前確率を考えることが重要とされます。

※参考:AADの検査前確率を評価するAHA(American Heart Association)のリスクスコアでは、突然発症の胸部/背部/腹部の疼痛、Marfan症候群、新規の大動脈弁雑音などがなければ低リスクと判定しています(J Am Coll Cardiol 2010;55:e27)。

 

④DIC

・DICにおいて、DダイマーはFDPとともに感度が高く、除外診断に有用とされます。

・一方で特異度は低く、各DIC診断基準は複数の項目からなることは有名です。

・線溶系が優位に亢進する"線溶亢進型DIC"ではDダイマー/FDP比が低下します。

→線溶系亢進に伴いフィブリノーゲン分解が亢進し、Dダイマーに比してFDP(フィブリノーゲンとフィブリンの分解産物の総称)の上昇の度合いが大きいことによります。

 

⑤心房細動

・AFが存在する患者では、そうでない患者よりもDダイマーが高値になるとされます。

→また、除細動後や抗凝固薬開始後に低下することも知られています。

・更に高血圧、糖尿病、心不全などの脳卒中リスク因子を合併する場合、よりDダイマーが高値になる傾向があります。

→このことから、DダイマーはAF患者における脳卒中予測のマーカーとなり得るという仮説も提唱されました。

→しかし、Dダイマーをリスク予測モデルに組み入れても予測能は向上しなかったとする報告があり、現在はこの仮説は否定的であるようです(Clin Chem 2017;63:152など)。

 

HIV感染症

HIV感染者は非感染者よりも心血管疾患の発症率が高いとされます。

・また非感染者と異なり、Dダイマーが心血管疾患発症の予測のバイオマーカーとなる可能性が示唆されています。

HIV感染症への治療により値は低下し、中止により値が上昇するとされます。

研究段階ではありますが、HIV感染者の心血管疾患予測にDダイマーが有用である可能性があります。

 

【その他の検査所見異常の原因】

①PT延長

-関連凝固因子の欠乏症/分子異常症

-ビタミンK欠乏 -ワーファリン内服

-肝機能障害 -DIC

-多発性骨髄腫 など

 

②APTT延長

-関連凝固因子の欠乏症/分子異常症(血友病など)

-von Willbrand病 -抗リン脂質抗体症候群

-(重症)肝機能障害 -DIC

-ヘパリン投与 -ビタミンK欠乏 など

 

③フィブリノーゲン減少

-DIC -肝機能障害

-大量出血 -巨大血栓症

-無(低)フィブリノーゲン血症 など

※<100mg/dLがFFPの投与基準であり、止血能力の喪失を示唆します。

 

④フィブリノーゲン増加

-感染症 -悪性腫瘍

-脳梗塞 -心筋梗塞

-糖尿病 -ネフローゼ症候群

-膠原病 -妊娠

-ヘパリン中止後 -FFP投与後 など

※>700mg/dLで血栓傾向が出現するとされることが多いです。