AKI(Acute Kidney Injury)は日常臨床でもよく遭遇します。
生命予後にも関わり、場合によっては緊急の介入を要する場合もあります。
今回は、そんなAKIについて、ガイドラインなどを中心にまとめてみました。
※この記事の内容が原因で生じたいかなる不利益にも責任は負いかねます。
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目次
【参考文献】
【基本事項】
AKI(急性腎障害)診療ガイドライン2016
・AKIは、急性の経過で腎機能低下をきたす病態です。
・定義の詳細は次項のKDIGO診断基準に譲りますが、元々は集中治療領域における多臓器不全の1つとして腎障害を捉え直し、早期診断/早期介入による予後改善を目指すべくAKIという概念が提唱された経緯があります。
→特に発症部位や発症様式などは問わず、幅広い疾患スペクトラムを有する病態と考えます。
・AKI診療においては、常に原因の鑑別と可逆性因子を除外することが重要とされます。
・症状/徴候:病態が進行しなければ症状は呈さず、非特異的なものも多いです。
-窒素や老廃物の貯留:倦怠感、食思不振、悪心/嘔吐、意識障害など。
-体液過剰:浮腫、その他の心不全徴候など。
【KDIGO診断基準】
AKI(急性腎障害)診療ガイドライン2016
・AKIの診断のgold standardは上記のKDIGO診断基準になります。
・定義1-3のいずれかを満たせばAKIであり、血清Cr値と尿量から診断ができます。
・過去のRIFLE基準やAKIN基準に比して、生命予後の予測能に優れるとされます。
・一方で腎機能の予後予測については、どの診断基準を用いるべきか明らかではありません。
【原因の鑑別】
⓪基本事項
AKIの典型的なシナリオ例
-高齢者が体液量減少を伴う状況(夏場の脱水や食欲不振など)でRAS阻害薬、利尿薬、NSAIDs等を服用した。
-CKD患者に対してNSAIDs(坐剤含む)や用量調整を無視して腎毒性物質を使用した。
-CKD患者が食思不振や下痢により、細胞外液量が減少した。
-骨粗霧症の高齢者へのビタミンD製剤とカルシウム製剤の併用に伴う高カルシウム血
症があり、除痛のためにNSAIDsも併用した。-心不全患者に盲目的なRAS阻害薬の投与と必要以上に厳格な降圧療法、多種類の利尿薬の投与を行った。
救急外来,ここだけの話(一部改変)
・AKIと診断したら、最も重要なのはその原因を特定することです。
→大きく腎前性、腎性、腎後性に分類され、それぞれ治療方針が異なります。
・なお、上記のようにある程度典型的なシナリオも多いので、知識を持っておくと役立ちます。
・腎前性:腎への血流、灌流圧が低下することによります。
・腎性:糸球体や尿細管などに組織学的な障害が生じることによります。
・院外発症例:腎前性 70%、腎性 11%、腎後性 17%。
・院内発症例:腎前性 35-40%、腎性 55-60%、腎後性 2-5%。
(JAMA 2003;289(6):747-751)
→院外発症例では腎前性や腎後性が、院内発症例では相対的に腎性が多いとされます。
①診療方針
救急外来,ここだけの話を参考に作成(原著:Comprehensive clinical nephrology 6th ed)
②病歴
内科 2012;110(3):379-385
・腎前性、腎性、腎後性の鑑別においてチェックすべき病歴です。
・前述のように典型的なシナリオ例を意識することも重要になると思います。
→腎毒性のある薬剤の他に、RAS阻害薬やNSAIDsの内服の有無の確認は特に重要です。
・また、腎前性の病態は虚血性に腎性のAKIもきたし得ることに注意が必要です(後述)。
③腎エコー(腎後性の鑑別)
上(水腎):腎臓 水腎症|超音波検査法セミナー
下(膀胱):排尿機能に関する情報を収集しよう|ナース専科
・腎後性では尿路閉塞が存在するため、腎エコーで水腎の所見を確認できます。
・また、膀胱の拡張は尿閉、すなわち下部尿路の閉塞を示唆するため、併せて確認します。
・軽度水腎症(上図左):中心部に腎杯に沿った無エコー領域を認めます。
・高度水腎症(上図右):腎盂腎杯が著しく拡張し、腎実質は伸展し菲薄化します。
※高度水腎症は、慢性的な尿路狭窄/閉塞を背景とすることが多いとされます。
・膀胱:尿閉の場合、300mL以上の残尿の存在が目安とされます。
・その他のエコー所見では腎サイズや左右差、下大静脈径も原因の鑑別に役立ちます。
・なお、腹骨盤部CTでも尿路閉塞機転の有無を評価できます。
③腎前性と腎性の鑑別
(0)基本事項
救急外来,ここだけの話を参考に作成
(上の原著:Comprehensive clinical nephrology 6th ed)
(下の原著:Brenner and Rector's THE KIDNEY 10th ed)
・腎後性を除外したら、次は腎前性と腎性を鑑別することになります。
・最も重要な部分ではありますが、実臨床では明確な鑑別が難しい症例もよく遭遇します。
・上表の所見が参考になりますが、様々な要因で変動し、総合的な判断を要します。
→特に重要なFENa、FEUNと最近注目されている尿沈渣所見について後述します。
・特に虚血、すなわち腎前性の原因で生じる急性虚血性尿細管壊死(ATN)を腎前性と鑑別することが重要です。
→腎前性では補液で改善が見込めますが、ATNの場合は補液過剰になり得るからです。
※ATN:Acute Tubular Necrosisです。
⑴FENa
ATNでもFENa<1%となる要因 |
腎前性AKIでもFENa>2%となる要因 |
・肝不全や心不全の伴うAKI ・敗血症関連のAKI ・造影剤腎症 ・非乏尿性ATN ・横紋筋融解症に伴うATN ・ヘモグロビン尿に伴うATN |
・利尿薬の使用 ・CKD ・輸液加療後にFENaを測定 ・尿糖 ・重炭酸尿(嘔吐など) ・Na喪失性腎症 |
救急外来,ここだけの話を参考に作成(原著:Clin J Am Soc Nephrol 2012;7:167-74)
・尿中Na排泄分画(fractional excretion of sodium)です。
・糸球体を濾過されたNaがどれくらいの割合で尿中に排泄されたかをみる指標です。
・計算式:(尿中Na濃度/血清Na濃度)/(尿中Cr濃度/血清Cr濃度)×100(%)
・腎前性では尿細管でのNa再吸収が亢進するため低下、ATNなど尿細管障害があると上昇します。
・ただし、非乏尿性ATNでは10%もの症例でFENa<1%であるとする報告もあります。
→発症直後(特にER)では、尿量を推定することは難しい側面もあり、非乏尿性かの判断も困難です。
・また、尿細管でのNa再吸収を阻害する利尿薬の使用下ではFENaは使いにくく、後述するFEUNを用いることになります。
・従ってFENaのみで鑑別を行うことは難しく、やはり総合的な判断を要します。
⑵FEUN
・尿中尿素窒素排泄分画(fractional excretion of urea)です。
・FENaについて、Naを尿素窒素に置き換えた指標です。
・特に尿細管でのNa再吸収を阻害するループ利尿薬やサイアザイド系利尿薬などの使用時に、FENaの代わりに用います。
・FENaと同様、非乏尿性の症例では精度が下がるとされます。
・ただし発症直後の尿量推定は困難であるため、やはり総合的な判断を行う姿勢が重要です。
⑶尿沈渣所見
救急外来,ここだけの話を参考に作成(原著:Clin J Am Soc Nephrol 2008;3:1615-19)
・尿沈渣所見で腎前性と腎性(ATN)を鑑別できるとする報告があり、注目されています。
・上表のように尿細管上皮細胞や顆粒円柱が増えるほど、ATNの尤度比が上昇します。
・またスコアが高いほどAKIが悪化しやすいとする報告もあり、予後予測にも使用できる可能性が示唆されています(Clin J Am Soc Nephrol 2010;5:402-408)。
【治療】
⓪基本事項
・AKI患者を見たら、まずはABCの安定化を急ぎます。
・次に行うことは、緊急透析の適応の判断になります。
・上記の検討を終えたら、原因に応じた対応を行っていくことになります。
①緊急透析
※RRT:Renal Replacement Therapy、腎代替療法です。
※AKIN:Acute Kidney Injury Networkという国際会議です。
左:内科救急診療指針2022
右:Clin J Am Soc Nephrol 2008;3:876-80
・我が国の"AKI(急性腎障害)診療ガイドライン2016"では以下の記載があります。
AKIに対して早期の血液浄化療法開始が予後を改善するエビデンスは乏しく,臨床症状や病態を広く考慮して開始の時期を決定すべきである。
→記載から分かるように、AKIに対する緊急透析の一律の適応基準は存在しません。
・一般的には上表左の内容を一応の適応基準とすることが多い印象です。
・また、上表右はAKINという国際会議で提唱された適応基準になります。
・いずれにしても、症例ごとの検討を要することに変わりはなく、参考として上表の内容も使用していく形になると思います。
・なお、循環動態が不安定な症例では持続血液濾過透析(CHDF)が推奨されます。
※CHDF:Continuous HemoDiaFiltrationです。
②腎後性の治療
・腎後性の治療は、尿路閉塞の原因に対する治療が基本になります。
・尿路閉塞が解除されると、利尿がついて尿量が増えるため脱水に注意を要します。
→1つの目安として、単位時間尿量の75%の量の0.45%食塩水の投与の記載もあります(内科救急診療指針2022)。
③腎前性の治療
・細胞外液の投与と必要に応じて昇圧剤(ノルアドレナリンが推奨)で、腎灌流圧の維持を試みます。
・細胞外液としては、生理食塩水よりもリンゲル液の方が死亡率や腎有害事象が少ない可能性が示唆されています(N Engl j Med 2018;378:829-839)。
・Fluid challenge:細胞外液500mLを30分程度で投与し、尿量増加を認めたら腎前性と判断する方法です。
※【原因の鑑別】①診療方針の表に記載した、輸液投与→反応あり/なしの部分に該当します。
④腎性の治療
・循環血液量や血圧の維持、腎毒性物質の中止などが治療の中心となります。
・その他に治療として明確に投与が推奨される薬剤はありません。
→唯一、体液過剰を補正する場合のみループ利尿薬の投与が提案されています(AKI(急性腎障害)診療ガイドライン2016)。
・投与例1:フロセミド(ラシックス®) 20-100mg 静注 尿量増加まで60分ごと。
・投与例2:フロセミド(ラシックス®) 2-10mg/時 持続静注。
⑤栄養療法
エネルギーや蛋白質投与量については重症度および基礎疾患に応じた栄養療法を提案する。重症AKIに対しては,可能であれば消化管経由での栄養投与を行い,高度の電解質異常などを伴わなければ厳しい蛋白質制限は行わない。(中略)KDIGO ガイドラインではどの病期のAKI患者に対してもエネルギー摂取量 20-30kcal/kg/日を推奨している。透析を必要とせず異化亢進状態であるAKI患者では0.8-1.0 g/kg/日の蛋白質を,CRRT(CHDFなど)を行い異化亢進状態にある患者では最高1.7g/kg/日の蛋白質を,可能であれば消化管経由で与えることが望ましいとされている。
AKI(急性腎障害)診療ガイドライン2016
・AKIに限定された栄養療法は確立されていません。
・我が国のガイドラインの記載は上記のようであり、特に積極的な蛋白質制限は行わなくてもよいことが重要と思います。
・ただし、過剰なアミノ酸投与は高窒素血症をきたすため、推奨の範囲内とするように注意します。