内科医キューピーのつぶやき

医学部首席になれた勉強法や医学情報を発信したりします。

コロナ後遺症について

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キューピーです。

 

COVID-19によるコロナ禍、少なくとも病院に勤めているとまだ終わりが見えません。

 

一方で個人レベルで見ると、重症化率は当初よりも低下してきています。

 

これにはワクチンや株の変化などによるところが大きいと言われています。

 

また(自分を含む)若者からすると、"ちょっと重いただの風邪"と思いたくなる気持ちもよく分かります。

 

度重なる行動制限やコロナ禍の長期化による"コロナ疲れ"も社会問題化しています。

 

ただし、眼を背けることのできない懸念事項として後遺症の存在があります。

 

この後遺症が無視できるレベルまたは治療法が確立したときに、コロナ禍は終わりを迎える(?)のではないかと考えています。

 

今回はこのコロナ後遺症について、出来る限りエビデンスに基づいた、著名な医学誌に掲載され、かつ出来る限り新しい論文をもとに今分かっていることについてまとめてみました。

 

※情報は目まぐるしい勢いでアップデートされており、必ずしも最新の内容とは限りません。

 

※この記事の内容が原因で生じたいかなる不利益にも責任は負いかねます。

 

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目次

 

 

コロナ後遺症の正式名称

・コロナ後遺症について、WHOは”post COVID-19 condition”と称しています¹。

・その中で、以下のような定義を提唱しています。

COVID-19後の症状は,新型コロナウイルスSARS-CoV-2)に罹患した人に認められ,少なくとも2か月以上持続し,また,他の疾患による症状として説明がつかないものである.通常はCOVID-19の発症から3か月経った時点にもみられる.症状には,倦怠感,息切れ,思考力や記憶への影響などがあり,日常生活に影響することもある.COVID-19の急性期から回復した後に新たに出現する症状と,急性期から持続する症状がある.また,症状の程度は変動し,症状消失後に再度出現することもある.小児には別の定義が当てはまると考えられる.

・ご存じの方も多いと思いますが、文献によりその他にも"long COVID"、"PASC(post-acute sequelae of SARS-CoV-2)"、"post-acute COVID-19"、"long-haul COVID"などとも称されており、まだ用語が統一されておらず混乱を生む原因でもあるとされます。

・また、WHOの定義も浸透しているわけではなく、文献によって持続期間の定義などが微妙に異なることもあり、注意が必要です。

・ちなみに日本の診療の手引き²では、WHOの”post COVID-19 condition”の定義を受けたうえで、”罹患後症状”と称しています。

※ただし、日本語の難しい部分でもあるのですが、罹患後症状=post COVID-19 conditionではなく、"罹患後症状の存在する状態"がpost COVID-19 conditionと同義です(ややこしいですね)。

・海外論文や日本の総説などではlong COVIDやPASCの使用頻度が高い印象ですが、この記事の中ではWHOを尊重して"post COVID-19 condition"で統一することとします。

・ただし文脈によって分かりにくい場合は単に"後遺症"と記載することとします。

 

post COVID-19 conditionの症状・頻度

文献2(原著は文献3)より

・世界中から様々な報告があり、より大規模な報告もありますが、まずは我々の住む日本においてどのような状況であるか、知りたいと思うのが自然(?)だと思います。

・上図は、現時点で国内最大規模と思われる研究(厚生労働科学特別研究事業)³の結果です。

・まずはこの研究でpost COVID-19 conditionの概略を確認してみます。

研究の概要(部分的に私見を記載しています)

-対象:2020年1月から2021年2月にCOVID-19のPCRもしくは抗原検査陽性で入院した18歳以上の患者。最終的な解析対象は1066例(男性679例/女性387例)。

-方法:関連する診療科の専門家の意見を統合した症状に対する問診項目を網羅的に作成し、自覚症状について回答を得た。2021年1月から2022年3月までに回収されたアンケートに基づいて解析が行われた。

-重症度別症例数:軽症(無症状含む) 247例、中等症I 412例、中等症II 226例、重症 100例であり、軽症-中等症Iの患者を多く含んでいた。

-図示している代表的な24症状の割合は、多くは経時的に低下傾向を認めた。

時間経過でpost COVID-19 conditionが改善傾向を示す可能性が示唆される。

-12か月後にも5%以上残存していた症状は以下の通りであった。

→13%:疲労感・倦怠感、9%:呼吸困難、8%:筋力低下/集中力低下、7%:睡眠障害/記憶障害、6%:関節痛、筋肉痛、5%:咳/痰/脱毛/頭痛/味覚・嗅覚障害。

-中年者(41-64歳)は他の世代と比較してpost COVID-19 conditionが多かった。

-性差:3か月時点では女性の方が咳、倦怠感、脱毛、頭痛、集中力低下、睡眠障害味覚障害、嗅覚障害など様々な症状が高頻度で認められた。一方で12か月時点で咳、痰、関節痛、筋肉痛、皮疹、手足のしびれが男性で高頻度となり、全体の頻度としては性差が減少した。

→女性の方が頻度が高いとされるが、男性は症状が長期化する傾向があるかもしれない。

-入院中に酸素需要のあった重症度の高い患者は酸素需要のなかった患者と比べて3か月、6か月、12か月といずれの時点でもpost COVID-19 conditionの頻度が高かった。全体での有症状率は酸素需要有り:45.7%(6か月)、36.1%(12か月)、酸素需要無し:37.7%(6か月)、31.8%(12か月)であった。重症度による頻度の差は10%未満であった。

酸素需要があった患者の方がpost COVID-19 conditionの頻度が高い

・結果は図に集約されており、一定頻度でpost COVID-19 conditionと思われる症状を呈する患者がいて、1年後も続いている場合があることが分かります。

・ただし、この研究には大きな注意点があって"健常者との比較"がなされていないことです。

→例えば疲労感・倦怠感は、コロナに関係なく自覚し得ることが想像しやすいと思います。

・更にpost COVID-19 conditionの論文を読むときに常に注意を要するのですが、この研究の対象は2020年1月から2021年2月に診断された患者です。

→つまり現在とは株も違うし、ワクチンも打っていない状況下でのデータということになります。

・従って、今後は国内における健常者との比較を行った研究やワクチン接種や株による影響を考慮した研究が待たれるところだと思います。

 

文献4より

・とはいえ、海外では健常者(正確にはCOVID-19に罹患していない群)との比較を行った報告はあって、上図は2022年5月のMMWR⁴の内容になります。

・MMWR(Morbidity and Mortality Weakly Report)は、米国のCDCが毎週報告しているレポートで、著名な医学誌とは異なりますが、正確な情報源なのではないかと思います。

・研究は2020年3月から2021年11月の電子健康記録のデータからCOVID-19罹患群(353164例)と非罹患群(1640776例)における後ろ向きコホート研究(追跡期間は30-365日)を行い、post COVID-19 conditionのリスク比を報告したものです。

・結果を考える前に少し注意が必要で、前述した日本の研究のように自覚症状ばかりを見ているわけではなく、様々な疾患(循環器/呼吸器/内分泌/神経/精神疾患など)の発症のリスクについても評価しています。

・結果は図の通りで、COVID-19罹患群において多くの自覚症状や疾患発症のリスクが上昇することが示唆されました。

→例えば肺塞栓症や呼吸器疾患(respiratory conditions)について、罹患群で発症のリスクが非罹患群の2倍という結果でした。

・また、1つ以上のpost COVID-19 conditionを呈したのは罹患群で38.2%非罹患群で16%でした。

・この研究はpost COVID-19 conditionが確かに存在しており、厄介であることを示した研究と思いますが、やはり注意点としては2020年3月から2021年11月のデータであり、恐らくオミクロン株の感染例は解析対象となっていない可能性が高いことが挙げられます。

※それでも"こわいな"と思ってしまう結果ではあると思います。

 

オミクロン株は後遺症が少ない?

文献5より

・オミクロン株の重症化率が低いのは事実であり、直感的に"オミクロン株は後遺症も少ないのでは?"という考えに至るのはごく自然なことです。

・株の間の比較は研究デザイン等容易ではないと思うのですが、この疑問に答える現時点で最も適切な研究は、恐らく2022年6月のLancetに掲載された英国内のオミクロン株とデルタ株におけるpost COVID-19 conditionのrelative oddsを調べた症例対照研究⁵だと思います。

※Lancetは世界で最も有名で、評価の高い医学誌の1つです。

・この研究のpost COVID-19 conditionは"急性期から4週間以上経過後に存在する新規または持続する症状"と定義されており、前述のWHOの定義とは少し異なりますが、大きな解釈には影響しないと思います。

・研究では2021年6月1日から11月27日をデルタ期2021年12月20日から2022年3月9日をオミクロン期と設定することで、株同士の比較を行っています。この期間については、それぞれ英国内のCOVID-19患者の70%以上がデルタ株、オミクロン株に感染したと推定される期間です。

・それぞれの期間に初めてCOVID-19に罹患した患者について、スマホのアプリを用いて自覚症状の情報が収集されました。

・結果、post COVID-19 conditionの割合オミクロン期で4.5%(2501/56003例)デルタ期で10.8%(4469/41361例)であり、オミクロン株の方が後遺症の頻度が少ない可能性が示唆されました。

オッズ比は図のようにワクチン接種からの経過時間を考慮して層別化されており、0.24-0.50でした。年齢層(若-中年者と高齢者)で層別化した場合にも同様の傾向でした。

→やはり、オミクロン株はデルタ株よりも後遺症の頻度が少ないものと考えられます。

・なおワクチン未接種者については、データ不十分のため解析対象となっていません。

・よく言われていること(この論文でも言及あり)ですが、結局オミクロン株は感染者数が圧倒的に多いので、いくら後遺症の頻度が低くても必然的に後遺症を経験する患者の絶対数は増加します。なので、楽観視はよくないというオチになっています。

・ただ、感染者個人レベルで考えるとやはり後遺症の頻度が下がってくれるのは喜ばしいことと思います。これで後遺症の頻度も上がってしまってたらかなり絶望的ですよね。

 

ワクチンは後遺症を予防する?

文献6より

・ワクチンにより、人類はCOVID-19の死者数を相当数減らすことができたのではないかと思います。

・となると"ワクチンは後遺症も予防してくれるのでは?"と思うのが自然です。

・この疑問に答える現時点で最も適切な研究は、恐らく2022年5月のNature Medicineに掲載された米国退役軍人省の医療データベースを用いたコホート研究⁶だと思います。

※Nature Medicineは、学術ジャーナルで世界トップクラスであるNatureの姉妹誌で、Nature Medicineそのものもかなり評価の高い医学誌です。

※本研究は2回接種後を対象としており、自分が検索し得た範囲でエビデンスレベルの高そうな3回接種後を対象とした研究は見つけられませんでした。何か知っている方は是非教えてください。いずれにしても近い将来に3回接種後を対象とした研究結果が明らかになるのではないかと思うのですが。

・研究ではワクチン接種後の感染、すなわち"ブレイクスルー感染"については、ファイザー社とモデルナ社製では2回目接種後14日以上、ジョンソンエンドジョンソン社製では1回目接種後14日以上経過した後の感染と定義されました。

・結果、ブレイクスルー感染者(33940例)ワクチン未接種の感染者(113474例)と比較して、(少なくとも1つ以上の)post COVID-19 conditionのハザード比が0.85(95%CI 0.82-0.89)とリスクが低下することが示されました。ただし、(論文内にも記載がありますが)思ったよりも効果は限定的であると言えます。

・従ってワクチン2回接種後の感染では後遺症の予防効果はあるものの、効果は限定的と考えられます。3回接種後の研究が待たれます。

 

post COVID-19 conditionの病態

文献7より

・では一体どういう仕組みで後遺症が出てきてしまうのか?、この疑問も当然出てきます。

・post COVID-19 conditionの病態はまだ仮説段階かつかなり多数の研究があり、ただの一臨床医の自分では全てまとめ、理解することは正直言って難しかったです。

・今回の記事は最初にも述べましたように、"できるだけ著名な医学誌からまとめる"という意図もあるので現時点で最もよくまとまっていると思われ、かつ著名な医学誌に記載されている論文についてまとめます。論文は2022年5月のNature Medicineに掲載されており、4つの病態仮説をまとめています⁷。

・この4つの仮説が図のa-dになるのですが、詳細に見ていく前に注意点があって、これらの仮説は必ずしも単独で病態を説明するものではなく、重複したり関連し合い共存している可能性があるという点です。従ってただ1つの正解があるのではなく、全てが正解である可能性もあります。個人的には、post COVID-19 conditionの種類によって病態も異なってくるのではないかと思っています。

 

左:文献7より 右:文献14より

1つ目の仮説(a)は、PCR検査などでは病原体を検出できなくても、病原体が持続的な感染を起こしたり、非感染性の残骸が組織の深部に残っているという仮説です。

・これによりウイルスRNAなどのPAMPs(pathogen-associated molecular patterns)が生成され、これが宿主のPRRs(pattern recognition receptors パターン認識受容体)に作用することで自然免疫の活性化が引き起こされます。更に残存する病原体や残骸はT細胞やB細胞活性化の引き金にもなり、病原体や残骸を除去できない場合は、慢性的な炎症状態が持続し得るという病態です。

・類似した仮説はエボラ出血熱でも言われていて、エボラ出血熱の生存者の精液には、感染後3年にわたりウイルスRNAが排出され、これが慢性的な眼症状や関節痛と関連し得るという報告⁸⁻¹⁰があり、これらの後遺症とT細胞¹¹や持続的な自然免疫の異常¹²が関連し得るという報告があります。

SARS-CoV-2においてもこれを支持する研究はいくつかあり、鼻咽頭拭い液で陰性を確認してから9-180日後に大腸、虫垂、回腸、痔核、肝臓、胆嚢、リンパ節からウイルスRNAやnucleocapsid proteinを認めたという報告¹³があります。また、未査読のpre printではありますがCOVID-19患者67例(うちpost COVID-19 conditionは37例)における研究で、post COVID-19 condition群では65%感染から数か月(任意のタイミングに採取された検体、最長で12か月)後時点ウイルススパイク蛋白(特にSpike)が血漿中から検出されたという報告¹⁴があり、1つ目の仮説を支持します。

 

文献7より

2つ目の仮説(b)は、自己免疫の活性化によるものとする仮説です。

・自己抗原に対する免疫応答は感染後に起こることが知られており、通常は抑制されている自己反応性リンパ球が、制御性T細胞(Treg)の機能低下大量のサイトカインによる刺激により一時的に活性化し得ます。もしくは、病原体由来の抗原が自己の抗原を模倣する分子模倣(molecular mimicry)により自己反応性リンパ球が活性化し得ます。

・これらの機序で生じるとする仮説ですが、同様の病態は既にGuillain-Barré症候群多発性硬化症1型糖尿病全身性エリテマトーデスなどの自己免疫疾患におけるメカニズムとして議論されており、COVID-19罹患後にもこれらの疾患の発症が報告されています。この事実は2つ目の仮説を支持します。

・また、自己免疫疾患は概して女性に多いことが知られていますが、post COVID-19 conditionも女性に好発する可能性があり、2つ目の仮説を支持します。

※論文中では、post COVID-19 conditionのリスク因子は不明であるとしつつも、多くの文献で"女性"がリスク因子であることは比較的一致していると述べられています。

 

文献7より

3つ目の仮説(c)は、SARS-CoV-2への初感染やその後の免疫反応によって微生物叢(microbiome)が影響を受け、EBV,CMV,HSVなどのDNAウイルスの再活性化が生じるとする仮説です。

再活性化によって新たに生じる免疫反応一部の病態を形成する可能性もあり、例えばHSV-2の再活性化では、CD4陽性のメモリ-T細胞により血液脳関門の透過性を一時的に上昇させる可能性があり¹⁵、これが神経症状と関連する可能性があります。

 

文献7より

4つ目の仮説(d)は、感染と免疫反応によって生じた組織損傷を修復できないことによるとする仮説です。

・例えば、肺の血管損傷や線維化は適切に修復されないと長期的な呼吸機能障害につながることが分かっており¹⁶、特に重症例で肺損傷が激しい症例ではよく当てはまる仮説である可能性が高いと考えられます。

 

文献17より

・更にもう1つ、post COVID-19 conditionの病態を考える上で重要かつ著名な医学誌に掲載された論文があります。

・論文は2022年3月のNatureに掲載されており、英国のUK Biobankに登録されている51-81歳の785例を対象に、2回の頭部MRI検査を行い、その検査間にCOVID-19に罹患した401例罹患しなかった対照群384例脳の変化を解析・比較したものです¹⁷。

・感染の確認から2回目の検査までの平均日数は141日でした。この研究の重要なことは、感染前のデータが利用でき、それと比較を行っている点です。罹患群と非罹患群のbaselineの差については、少なくとも今回判明した研究に影響を与えるだけのものはなかった可能性が示唆されますが、完全に差がないというわけではありません(これについては私にはやや難解であったので原著論文を確認、ご指摘等頂ければ幸いです)。ただし、少なくとも”COVID-19の罹患そのものによる脳への影響”の評価はできる研究デザインなのではないかと思います

・今回、この結果を病態と関連付けて考えてみようと思うのですが、結果はCOVID-19罹患群で眼窩前頭皮質や海馬傍回の灰白質厚およびや組織コントラストの大幅な減少、あるいは全脳サイズの大幅な減少を認めました。また、COVID-19罹患群の方が認知機能低下(遂行機能障害の評価に頻用されるTMTを用いて評価)を認めました。

・更に病態に迫る結果として重要であるのが、大脳辺縁系と嗅覚皮質系(limbic and olfactory cortical system)において組織損傷(diffusion measuresで確認)が大きく、容積減少の程度も大きかったことです。

・このことから、嗅覚伝導路を介した神経変性や炎症あるいは嗅覚障害による感覚入力の喪失により、後遺症としての認知機能障害が出現したのではないかと考察されています。

・なお、これらの結果は入院患者(15例)を除いた非入院患者のみでも認めました。すなわち、軽症例でも脳の萎縮や認知機能障害を認め得るということになります。

・ただし、今回の画像所見の変化は必ずしも神経の変性と同義ではなく、また例えば嗅覚入力の喪失による脳萎縮は嗅覚入力の回復により可逆的に改善し得るという研究などもあることから、今後、所見が改善し得るか、あるいは神経変性の引き金となってしまうのか、などについては更に経過をフォローすることが重要であると述べられています。

・特に後遺症のうち、中枢神経症状については嗅覚伝導路を介した影響が病態の1つなのではないかと述べたくて、この研究も紹介させていただきました。

 

Brain fog

文献18より

・post COVID-19 conditionの中でも名前が印象的であり、メディアなどにも取り上げられる頻度の高いものとしてBrain fogがあります。

・Brain fogは"患者自身の自覚として認知機能低下、頭がはっきりしない、集中力低下といった主観的な状態"を示す用語です。

・あくまでも自覚症状のみに依拠する用語であり、偶然にCOVID-19の罹患が契機になったように見える既知の疾患による自覚症状を含む可能性があります。従って、Brain fogのような訴えをする全患者を1つの病態で説明することは困難と考えられます。すなわち、Brain fogの診断確定の前には必ず既知の疾患の除外をしなければならないということです。

・一方で前述の研究¹⁷も含めて、COVID-19が認知機能障害を引き起こすとする研究は多数あり、Brain fogの核となる病態は恐らく存在するものと思われます。

・この病態に迫る研究が2022年7月のCellに報告されました¹⁸.

※Cellは前述のNatureやScienceとともに世界三大化学誌に数えられ、ノーベル生理学・医学賞受賞研究に関する論文の掲載も多いことで有名です。

・研究では、Brain fogの自覚症状や認知機能障害が”chemo fog”と呼ばれる癌治療に関連して認める病態(大脳白質ミクログリアの活性化が中心病態と想定)に類似していることに着目し、これらが類似病態であるという仮説を立て、マウスとヒト双方を対象に行われました。

・いくつかの研究が含まれており、まず、マウスとヒトの双方で、呼吸器へのSARS-CoV-2の感染に伴い大脳白質に選択的なミクログリアの活性化を認めました。更にマウスでは、感染後の海馬における神経細胞新生の持続的な障害オリゴデンドロサイトの減少ミエリンの喪失を認め、CCL11を含む脳脊髄液のサイトカインやケモカインの上昇を認めました。

・一方で、マウスにインフルエンザウイルス(H1N1)を感染させた場合、CCL11を含む脳脊髄液のサイトカインやケモカインの上昇を認めましたがSARS-CoV-2と比べて種類が異なりやや少なくもありました(上図右側参照)。また、海馬における持続的障害の病理像は同様でしたが、大脳白質におけるミクログリアの活性化は初期(感染7日後)には認めたものの感染7週間後には認めずSARS-CoV-2のように持続はしない結果となりました。

・これらより、大脳白質における持続的なミクログリアの活性化感染に伴い上昇するサイトカインやケモカインの種類の(インフルエンザウイルスとの)違いBrain fogの病態に関与するのではないかと考察されています。

※研究ではこれらに加えて、マウスへのCCL11の全身投与で海馬におけるミクログリア活性化と神経新生の障害が引き起こされることや、COVID-19罹患後に認知機能障害が持続するヒトでも血漿中のCCL11が上昇していることが確認されました。

CCL11は認知機能障害を引き起こす作用について注目されており、Brain fogの病態に関わる可能性もありますが、上記のマウスの研究ではインフルエンザウイルスへの感染においても脳脊髄液におけるCCL11の持続的な上昇を認めており、この判断については慎重な検討を要するのではないかと思いました。

 

post COVID-19 conditionの治療

文献19より

・治療について、post COVID-19 conditionに対する特効薬や根治治療は自分の知る限りありません。

・現時点での治療方針は日本の診療の手引き²によくまとまっていると思いますが、基本的には症状に対する対症療法か、既知の病態が合併していればそれに対する治療を行うことになります。

・今後は、よりpost COVID-19 conditionに特化した治療が望まれると思いますが、2022年7月のscientific reportsに恐らく世界で初めて、post COVID-19 conditionに対する有効性を示した二重盲検のランダム化比較試験が報告されました¹⁹。

※scientific reportsはNaure系のオープンアクセスジャーナルで、前述してきた医学誌と比べるとやや格は落ちますが、Nature系でもあり査読は手堅く、内容の正しさについて担保されていると思います。

・研究では、18歳以上でpost COVID-19 conditionとして認知機能障害が3か月以上持続する患者73例(外傷や既知の認知症や脳病変を伴う患者は除外)を対象となりました。37例がHBOT群36例が対照群に割り付けられ、治療終了から1-3週間後に治療効果の評価を行いました。

HBOTは高酸素と高圧の複合作用により、酸素や圧感受性遺伝子を標的としながら組織の酸素化改善をもたらし、抗炎症作用、ミトコンドリア機能回復、血流増加などを通じて神経可塑性を高める可能性が示唆されているようです。

・HBOT群は、2.0ATA(絶対気圧)で100%酸素を90分間(20分ごとに5分間休憩)投与することを週に5回、合計40回行いました。一方の対照群では、1.03ATA(最初の5分間のみ1.2ATA)で21%酸素を90分間投与しました。主要評価項目Mindstreams computerized cognitive testing battery (NeuroTrax Corporation, Bellaire, TX)で評価された認知機能(高次脳機能)とされました。

・結果、主要評価項目ではHBOT群で全般的な認知機能、注意力、遂行機能において有意な改善を認めました。また、副次評価項目として活力(SF-36)、睡眠(PSQI)、うつや不安などの心理的苦痛(BSI-18)、疼痛(BPI)においても有意な改善を認めました。更にこれらの臨床的な改善は、縁上回,左補足運動野,右島皮質,左前頭前野,右中前頭回,上部放線冠における微小構造や灌流(perfusion)の改善と関連していました。

・上記よりHBOTはpost COVID-19 conditionの中でも、特にBrain fogを含む認知機能障害に有効であることが示されました。limitationとしては、小規模であることや長期間の効果は不明であること(評価は治療完了から1-3週間後に行われている)などがあり、より大規模で長期間に及ぶ経過のフォローや更なる研究が待たれます。

 

文献20より(感染後24週目にワクチン初回接種、その12週後(感染後36週目)に2回目の接種を受けた仮想患者のpost COVID-19 conditionの確率をモデル化した図、網掛けは95%CIを示す、その他詳細は上文参照)

・"治療"と位置付けるかは迷いますが、ワクチン未接種者がCOVID-19罹患後にワクチンを接種することで後遺症を軽減するという研究が2022年5月のBMJに報告されています²⁰。

BMJは、LancetやNEJMなどと共に世界4大医学誌に数えられている医学誌です。

・研究対象となったのは、COVID-19罹患後にアデノウイルスベクターワクチン(ジョンソンエンドジョンソン社製)またはmRNAワクチン(ファイザー社/モデルナ社製)を少なくとも1回接種した患者で、対象者の23.9%にあたる6729例で、感染から12週間以上経過した段階でpost COVID-19 conditionを認めました。この患者群においてワクチン接種によりpost COVID-19 conditionを経験する確率はどのように変化するか研究が行われました。経過観察期間の中央値は初回接種から141日、2回目接種から67日でした。

・結果、1回目のワクチン接種post COVID-19 conditionのoddsは初期に12.8%減少(95%CI -18.6%~-6.6%、P<0.001)し、2回目のワクチン接種では初期に8.8%減少(95%CI -14.1%~-3.1%、P=0.003)し、更に2回目の接種後も少なくとも67日間に渡り1週間ごとに0.8%減少(95%CI -1.2%~-0.4%、P<0.001)しました。

・なお、1回目から2回目の間はむしろ微増傾向で、post COVID-19 conditionの再発などとも関連している可能性があります。この事実より、一部の患者では1回のワクチン接種のみでは、持続的な改善には不十分であると考えられます。

・また種々の健康関連因子、ワクチンの種類、感染から接種までの期間などは結果に影響しませんでした。

・上記より(特にワクチン未接種者における)感染後のワクチン接種は、後遺症を軽減する可能性が示唆されます。

 

おまけ:上咽頭擦過療法(EAT)は効果がある?

・自分は仕事終わりに帰宅すると、よくテレビのニュースを見るのですが"コロナ後遺症"もよく取り上げられているので、何の気なしに見ているとメディアではこういった内容を持ち上げているのか、ということが分かり興味深く思うことがあります。

・その中でもしばしば取り上げられているコロナ後遺症の治療法に上咽頭擦過療法(EAT:Epipharyngeal Abrasive Therapy)があり、実際に検索してみると治療を行っているクリニックも多いようです。

・上咽頭擦過療法(EAT)は、塩化亜鉛溶液を染み込ませた綿棒で上咽頭を擦過する治療法です。

・自分なりにこの治療法を調べてみましたが、①安全性は確立されていない、②効果があるという明確なエビデンスは乏しい、と感じました。そもそもEpipharyngeal Abrasive TherapyをPubMedで調べても、全然論文がヒットせず少し驚きました。

・ただし、コロナ後遺症の治療はまだまだ未確立であり、この治療法の効果がないとするエビデンスもないと思いますので、患者さんの自己責任において治療を行うことは選択肢の1つだとは思いました。

・論文としてはViruses 14: 907, 2022.などがあります。ちなみにVirusesはMDPI社のジャーナルです。MDPI社は色々と物議を醸しており、ハゲタカジャーナルとの批判も少なからずあるため、色々と注意しながら考えていく必要があると思います。勿論、論文は玉石混交なので悪い研究ばかりではないとも思います。

※今回の記事の趣旨(より著名な医学誌の研究を考えること)と異なるため、論文の詳細な内容に触れることは避けたいと思います。

・繰り返しになりますが自分はこの治療法を批判する気は全くなく、今後更に研究が進み、よりエビデンスレベルの高いところで有効性が示されると良いな、と感じました。

・このようにニュースで話題になったり、実際のクリニックで行われている治療でも、必ずしも根拠が明確でないものも多数ありますので、情報を受け取る側も注意していく必要があると思いました。

 

参考文献

1.WHO. A clinical case definition of post COVID-19 condition by a Delphi consensus, 2021.

2.新型コロナウイルス感染症(COVID-19)診療の手引き 別冊 罹患後症状のマネジメント編集委員会. 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)診療の手引き 別冊 罹患後症状のマネジメント 第1.1版, 2022.

3.厚生労働省特別研究事業. 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の長期合併症の実態把握と病態生理解明に向けた基盤研究(福永班). 第86回新型コロナウイルス感染症対策アドバイザリーボード資料, 2022.6.1.

4.Lara Bull-Otterson, et al. Post-COVID Conditions Among Adult COVID-19 Survivors Aged 18–64 and ≥65 Years — United States, March 2020–November 2021. Morbidity and Mortality Weekly Report 71: 713-717, 2022.

5.Michela Antonelli, et al. Risk of long COVID associated with delta versus omicron variants of SARS-CoV-2. Lancet 399: 2263-2264, 2022.

6.Ziyad Al-Aly, et al. Long COVID after breakthrough SARS-CoV-2 infection. Nature Medicine, 2022.

7.Jan Choutka, et al. Unexplained post-acute infection syndromes. Nature Medicine 28: 911-923, 2022.

8.PREVAIL III Study Group, et al. A longitudinal study of Ebola sequelae in Liberia. N. Engl. J. Med 380: 924–934, 2019.

9.Bond, N. G, et al. Post-Ebola syndrome presents with multiple overlapping symptom clusters: evidence from an ongoing cohort study in eastern Sierra Leone. Clin. Infect. Dis 73: 1046–1054, 2021.

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