内科医キューピーのつぶやき

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ランバート・イートン筋無力症候群の診療

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キューピーです。

 

ランバートイートン筋無力症候群は、見逃されやすい疾患です。

 

そのため、その特徴の理解と疑った際に行うべき検査を把握しておくことが重要です。

 

2022年5月に本邦で初めてとなるガイドラインも発刊されました。

 

今回は、ランバートイートン筋無力症候群の診療についてまとめてみました。

 

※この記事の内容が原因で生じたいかなる不利益にも責任は負いかねます。

 

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目次

 

 

【参考文献】

 

【基本事項】

臨床神経生理学 2016;44(1):28-35

LEMS:Lambert-Eaton Myasthenic Syndromeです。

シナプス前終末の活性帯からのアセチルコリン放出障害により、四肢筋力低下腱反射低下自律神経症を呈する神経筋接合部/自律神経自己免疫疾患です。

90%に活性帯に局在するP/Q型電位依存性カルシウムチャネル(VGCC)抗原に対する自己抗体を認めます。

・また、悪性腫瘍の合併を伴いやすく傍腫瘍性神経症候群としての一面もあります。

50~70%に悪性腫瘍が合併し、その84~100%が小細胞肺癌(SCLC)とされます。

メルケル細胞癌乳癌前立腺胸腺腫リンパ腫など他の腫瘍合併例の報告もあります。

※SCLC:Small Cell Lung Cancerです。

・近年、MG同様に免疫チェックポイント阻害薬に伴いLEMSを発症した報告もあります。

病態:P/Q型VGCC抗体がチャネルの機能を妨げ、神経終末のCaイオン濃度が上がらず、アセチルコリン放出量が減少し、筋無力症状が出現します(上図)。

→持続的な筋収縮や高頻度反復刺激でCaイオンが蓄積すると神経終末の濃度が高まり、アセチルコリン放出がスムーズに行われるようになります。

疫学:本邦で2017年に受診した患者は348人、有病率は0.27/10万人と推計されています。

予後

-LEMSそのものは生命予後に影響を及ぼさないと考えられています。

-合併する悪性腫瘍(SCLC)が主な死因となり、生命予後を規定します。

→悪性腫瘍を合併しない場合、生命予後は良好ですが、長期的な身体障害は重度とされます。

-なおSCLCの側からみると、LEMSの合併はむしろ予後改善因子とされます。

→病態として、腫瘍への免疫応答が神経組織に交差反応することが想定されているためです。

→すなわち、免疫学的監視機構(immune surveillance)による予後改善と考えられています。

-実際にSCLCのLEMS合併vs非合併例で平均生存期間18vs9.5か月とする報告があります(Neurology 2017;88:1334-1339)。

 

LEMS診断基準2022】

            A. 症状

⑴ 四肢近位筋の筋力低下

⑵ 腱反射低下

⑶ 自律神経症

 B. 反復刺激試験の異常

⑴ 1発目の複合筋活動電位の振幅低下

⑵ 低頻度刺激(2~5Hz)で10%以上の漸減現象

⑶ 高頻度刺激(20~50Hz)あるいは10秒間の最大随意収縮後に60%以上の漸増現象

    C. 病原性自己抗体

P/G型電位依存性カルシウムチャネル抗体

             D. 判定

以下の場合,LEMSと診断する.

Aのうち⑴を含む2項目以上があり,Bの3項目が全て認められる.

Aのうち⑴を含む2項目以上があり,Bのうち⑶を含む2項目以上を満たし,Cが陽性.

重症筋無力症/ランバート・イートン筋無力症候群診療ガイドライン2022

・GLには偽陰性を少なくすることを目標として作成されたとの記載があります。

・Dからも明らかなように、Cは診断に際して重要性が低く位置付けられています

自己抗体は特異的でなく、陽性でもLEMSでない症例が存在するためです。

・一方でB(特に⑶)は感度/特異度とも高く重要性が高く位置付けられています

LEMSを疑った場合、電気生理学的検査が最も重要な検査になります。

※各項目についての詳細は後述します。

 

【症状】

⓪基本事項

下肢筋力低下(5)

83~100%

上肢筋力低下(3)

78~82%

複視(5)

5~48%

眼瞼下垂(3)

21~46%

構音障害(4)

12~68%

咀嚼障害(2)

8~32%

嚥下障害(2)

12~43%

呼吸筋障害(3)

5~10%

ドライマウス(4)

31~78%

性機能障害(4)

4~65%

便秘(4)

9~29%

排尿障害(1)

20%

腱反射低下(3)

85~100%

腱反射の強収縮後増強(1)

78%

小脳失調(4)

2~14%

()内は5つの研究のうち、割合の報告のある研究の数

Brain 1988;111:577-596,Neurology 2002;59:1773-1775,J Neuroimmunol 2008;201-202:153-158,Muscle Nerve 2017;56:421-426,J Clin Neurosci 2019;65-41-45を参照(各研究毎の割合は原著論文やGLを参照ください)

・診断基準にあるように四肢近位筋の筋力低下腱反射低下自律神経症が中核となります。

小脳失調は後述する”PCD-LEMS”に関連した症状になります。

 

①筋力低下

・筋力低下は下肢近位筋に最も認めやすく、初発症状としても頻度が高いです。

・次いで上肢近位筋に認めやすく、(診断基準通り)四肢近位筋の筋力低下が重要な症状になります。

・その他に眼筋を含む顔面筋筋力低下球症状四肢遠位筋筋力低下も生じ得ます。

呼吸筋障害の頻度は低いと考えられています。

 

②自律神経症

LEMSでは、自律神経症状も中核症状の1つとして認めます。

・特にドライマウス性機能障害便秘が高頻度にみられます。

LEMSを疑う場合、これらの症状の確認も重要になります。

 

③腱反射低下

・⓪のまとめでも85~100%に認めており、非常に重要な所見です。

私見ですが、神経疾患の中でも特に腱反射を確認する意義が強い疾患と感じます。

近位筋筋力低下に腱反射低下(消失)を伴う場合は、必ずLEMSを鑑別に挙げます。

・また、腱反射の強収縮後増強(post exercise facilitation)は特徴的な所見です。

→ただし、LEMSに一般的でないとする報告もあります(Neurology 2002;59:1773-1775)。

※実臨床では、明らかに変化を認める場合は分かりやすいと思います。微妙な変化の場合は、LEMSでない患者でも認めた経験があり、所見の解釈はやや難しい印象です。

 

【検査】

⓪基本事項

LEMSの診断に寄与する検査は、電気生理学的検査血液検査(病原性自己抗体)です。

・診断基準の項目で述べたように、特に電気生理学的検査が重要になります。

・なお、下記以外におさえたい所見として針筋電図でのmyopathic MUPsが挙げられます。

 

①CMAP振幅低下

・診断基準の項目として、”反復刺激試験の1発目のCMAPの振幅低下”があります。

・すなわち、通常のNCSでCMAPの振幅低下を認めることと同義と考えられます。

・しばしば筋力低下を認めない筋でも、このCMAP振幅低下を認めます。

→このような所見を認めた際に、必ずLEMSを鑑別に挙げることが重要です。

 

②反復刺激試験

日内会誌 2013;102:1994-2000

・MGと異なり遠位筋でも感度は低下しないため、ADMなどの手内在筋を被検筋とします。

低頻度刺激3Hz10回刺激を行うのが一般的で、減衰率が10%以上で異常(waning)と考えます。

減衰率:第1刺激のCMAP振幅に対する、後続の最小のCMAP振幅の比率(%)です。

→3Hzの刺激では4or5発目Ach放出量が最低となるため、この時の比率を減衰率とします。

LEMSのwaningは直線的なCMAP低下(progressive decrement pattern)が特徴です(上図)。

MGのU(J)字型とは異なる漸減パターンと考えられます。

高頻度刺激(20~50Hz)漸増現象(waxing)を確認します。

疼痛の強い検査であり、現在は次項のpost-exercise stimulationを行うことがほとんどです。

 

③post-exercise stimulation

日内会誌 2013;102:1994-2000

・高頻度刺激の反復刺激試験に代わり、推奨されている検査法です。

・まず、通常通りに被検筋のCMAPを記録します。

・次に、被検筋を10秒間最大随意収縮させます(MMTをとるイメージです)。

・10秒間の収縮が終了した直後にCMAPを記録し、初めのCMAPと比較します。

60%以上の増大を認めた場合に、診断基準の項目を満たすことになります。

・この場合、感度97%特異度99%と報告されており、非常に有用な検査になります。

 

④病原性自己抗体

LEMSの病原性自己抗体として、P/Q型VGCC抗体が挙げられます。

SCLCに合併したLEMSでは、ほぼ100%検出されると考えられています。

・一方でP/Q型VGCC抗体陽性でも、臨床的にLEMSに合致しない病態も存在します。

・また、抗VGCC抗体陽性患者の腫瘍随伴神経症状として、脳症小脳失調脊髄症ミオパチーなども認めたとする報告もあります(Muscle Nerve 2016;54:220-227)。

・上記のため、診断基準ではあくまで補助的所見の立ち位置となっています。

→繰り返しになりますが、診断のためには電気生理学的検査が重要です。

・なお、P/Q型VGCCは運動神経終末の他に自律神経小脳など神経系に広く分布します。

 

【治療】

⓪治療アルゴリズム

重症筋無力症/ランバート・イートン筋無力症候群診療ガイドライン2022

(原著はBRAIN and NERVE 2018;70:341-355)

 

①悪性腫瘍の検索

悪性腫瘍を合併する場合、その治療が最も重要になります。

・スクリーニング方法としては胸部(造影)CTPET検査が推奨されています。

悪性腫瘍を認めない場合でも、3~6か月毎に画像/腫瘍マーカー検査を、LEMS診断後2年間継続することが推奨されます。

 

②3,4-ジアミノピリジン(3,4-DAP)

機序:電位依存性カリウムチャネルを阻害し、神経終末の脱分極時間を延長させてアセチルコリンの分泌を促進します。

・複数のRCTやメタアナリシスで、LEMS患者の筋力低下を改善することが証明されています。

・また唾液分泌排尿障害発汗/ED/口渇などの自律神経症状の改善についての報告もあります。

欧州では第一選択薬として使用されていますが、本邦ではまだ保険収載されていません。

→投与する場合、各施設で倫理委員会の承認を受ける必要があります。

投与例:15mg/日(3×)から開始し、症状を観察しながら60~100mg/日(3,4×)まで増量可。

食前に服用した方が吸収率が良いとする報告があります(Clin Ther 2015;3:1555-1563)。

LEMS症状の改善に伴い、減量/中止が可能です。

→投与量は文献で異なり、有効量/中毒量とも個人差が大きいため、症例毎に検討を要します。

※3,4-DAPの代謝に関わるNATS2が、遺伝子多型により活性が異なることが一因とされます。

ピリドスチグミン併用効果が増強されるとする報告があり、3,4-DAPの効果が乏しい場合は併用を検討します。

有害事象:手指/口唇のしびれ、喘息発作誘発、QT延長、痙攣(100mg/日程度の投与時)など。

てんかんQT延長/TdPの既往のある患者への投与は禁忌とされます。

QT延長作用を有する薬剤の併用禁忌です。その他にベクロニウムに対する過敏性を誘発することも知られています。

・一次的な休薬による脱力増強などはなく、内服再開後は速やかに休薬前と同等の状況に回復します。

 

③免疫治療

3,4-DAPや腫瘍の治療でLEMS症状が改善しない場合に検討します。

・まずは経口ステロイドを開始し、効果不十分の場合は免疫抑制薬を併用します。

→第一選択はアザチオプリン(AZA)ですが、効果発現に月~年単位の時間を要します。

→このため、予後規定因子の悪性腫瘍を合併している場合は使用しない傾向にあります。

ステロイド投与例:PSL 1~1.5mg/kg 隔日投与で開始し、効果を確認したら漸減。

上記治療で効果不十分の場合呼吸不全などの症状増悪時には、PPIVIgが適応になります。

→いずれも短期的な症状改善目的であり、長期的な効果は望めません。

PP改善ピークは10~20日で、効果は約6週間持続するとされます。

・また、PPはいずれの種類(PE/DFPP/IAPP)でも効果を認めたと報告されています。

IVIg改善ピークは2~4週で、8週までに効果は低下したとされます。

・また、IVIgLEMSの免疫治療としては唯一RCTで有効性が確認されています。

・いずれの治療でも効果不十分の場合、リツキシマブを検討します。症例報告で有効性の報告があります。

 

PCD-LEMS

PCDとは何か

PCD:Paraneoplastic Cerebellar Degeneration、傍腫瘍性小脳変性症です。

亜急性に小脳失調を呈する免疫介在性疾患で、傍腫瘍性自己免疫機序で発症します。

肺癌(特にSCLC)卵巣癌乳癌悪性リンパ腫との関連が知られています。

・悪性腫瘍との共通抗原に対する抗神経抗体(Hu抗体/Yo抗体/Ri抗体など)が陽性になり得ます。

PCD約半数はHu抗体陽性で最終的に広汎性/多巣性に神経障害を呈します。

・一方、Hu抗体陰性例は中枢神経系障害が小脳にとどまり、LEMSを合併しやすいことが知られていました。

 

PCD-LEMSとは何か

・前述のようにLEMSの5~10%で小脳失調を合併するという報告があります。

・この場合、ほぼ全例でSCLCを合併するという報告も多くあります。

SCLCPCDLEMS三者が合併する病態PCD with LEMS(PCD-LEMS)と呼びます。

・病態としてP/Q型VGCC抗体が、小脳にも病因的に作用する可能性が示唆されています。

→また、GRP78抗体が血管内皮細胞に作用してBBB透過性を亢進させて、P/Q型VGCC抗体の中枢移行性を高めているとする仮説も提唱されています。

診療上のポイント

筋力低下を認めないなど診察でLEMS合併に気付きにくい症例もある。

→SCLC+PCD患者では、必ず電気生理学的検査を検討します。

LEMS同様、ほとんどでP/Q型VGCC抗体が陽性になる。

LEMS同様、P/Q型VGCC抗体陽性PCD without LEMSの病態が極まれに存在する。

※P/Q型VGCC抗体陽性のPCDであるものの、LEMSを合併しない病態です。

 

PCD-LEMSの治療

LEMSに対しては前述の【治療】と考え方は大きく変わらないと思います。

PCDに対しては抗腫瘍/免疫治療を行います。3,4-DAPは無効と考えられています。

PCDは従来、上記治療に抵抗性と考えられてきましたが、近年有効であったとする報告もあります。

プルキンエ細胞に不可逆的障害をきたす前、発症早期の治療は有効なのかもしれません。