キューピーです。
重症筋無力症は神経筋接合部障害による重要な疾患の1つです。
特にクリーゼは時に致命的になるため、知識を持っておくことが重要です。
今回は、先日改訂されたガイドラインをもとに重症筋無力症の診療をまとめてみました。
※この記事の内容が原因で生じたいかなる不利益にも責任は負いかねます。
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目次
- 【参考文献】
- 【基本事項】
- 【重症筋無力症診断基準 2022】
- 【症状と合併症】
- 【神経筋接合部障害の評価法】
- 【重症度とQOLの評価法】
- 【O/g-ELTMuN分類】
- 【治療】
- 【病態ごとの治療】
- 【クリーゼ】
- 【生活指導】
【参考文献】
神経治療 2019;36:384-386
・今回の記事内容は(クリーゼの気道管理を除き)GL記載内容と矛盾ないものとなっています。
・全ての内容に原著論文を記載するとかなり煩雑になるため、記載していない部分もあります。
→こういった内容については、GLそのものを確認して頂ければと思います。
【基本事項】
・MG:Myasthenia Gravisです。
・主病態:神経筋接合部のシナプス後膜上の標的抗原に対する自己抗体が、神経筋接合部の伝達を障害します。
・自己抗体:アセチルコリン受容体(AchR)抗体、筋特異的受容体型チロシンキナーゼ(MuSK)抗体。
→これら2つが、現時点で病原性の認められている抗体です。
→一方でLDL受容体関連蛋白質4(LRP4)抗体も、3つ目の抗体として有力視されています。
→しかし、ALS患者の23.4%で陽性となった報告などの理由から、GLでは3つ目の病原性自己抗体とは断定できないと結論付けられています。
・本邦では2017年時点で患者数29210人、有病率23.1/10万人と推定されています。
→同じ方法で行った2005年の患者数は15100人であり、約10年で2倍に増加しています。
→この増加の要因については、現在のところ分かっていないようです。
・本邦における男女比は1:1.15、発症年齢中央値は59歳です。
・経過と予後
-MGに関連する死亡はほぼなく、クリーゼによる死亡が減少した影響が大きいとされます。
-寛解率は20%未満、特に長期的な寛解は稀で、症状が生涯持続することが多いとされます。
-生活/仕事に支障がない軽微症状(MM)以上になる頻度は50%前後とされます。
※MM:Minimal Manifestationsで、後述するMGFA Postintervention Statusの1つです。
【重症筋無力症診断基準 2022】
A. 症状 |
⑴ 眼瞼下垂 ⑵ 眼球運動障害 ⑶ 顔面筋力低下 ⑷ 構音障害 ⑸ 嚥下障害 ⑹ 咀嚼障害 ⑺ 頸部筋力低下 ⑻ 四肢筋力低下 ⑼ 呼吸障害 <捕捉> 上記症状は易疲労性や日内変動を呈する. |
B. 病原性自己抗体 |
⑴ 抗アセチルコリン受容体(AchR)抗体陽性 ⑵ 抗筋特異的受容体型チロシンキナーゼ(MuSK)抗体陽性 |
C. 神経筋接合部障害 |
⑴ 眼瞼の易疲労性試験陽性 ⑵ アイスパック試験陽性 ⑶ エドロホニウム(テンシロン)試験陽性 ⑷ 反復刺激試験陽性 ⑸ 単線維筋電図でジッターの増大 |
D. 支持的診断所見 |
血漿浄化療法によって改善を示した病歴がある. |
E. 判定 |
Definite:以下のいずれかの場合,重症筋無力症と診断する. ⑴ Aの1つ以上,Bのいずれかが認められる. ⑵ Aの1つ以上,Cのいずれかが認められ,他の疾患が鑑別できる. Probable:Aの1つ以上,Dを認め,血漿浄化療法が有効な他疾患を除外できる. |
重症筋無力症/ランバート・イートン筋無力症候群診療ガイドライン2022
・以前の診断基準 2013と比較して、"D"と"Probable"が追加された項目になります。
・背景には抗体陰性のMGで、神経筋接合部障害が証明されていない症例が一定数いるものと想定されている事情があります。
→この診断のついていない抗体陰性のMGを拾い上げるために、Dが追加されました。
・各項目の詳細については、次項以降で述べていきます。
【症状と合併症】
①筋無力症状
症状|(疾患・用語編) 重症筋無力症|神経内科の主な病気|日本神経学会
-眼瞼下垂(71.9%) -複視(47.3%)
-頸部四肢筋力低下(23.1%)
-球症状(構音/嚥下/咀嚼障害など)(14.9%)
-顔面筋力低下(5.3%) -呼吸困難(2.3%)
※()内は"初発時"に症状を認める割合です。
→いずれも経過中に呈する割合はこれよりも高くなります。
J Neurol Sci 2011;305:97-102
・MGの臨床症状の最大の特徴は、易疲労性および日内/日差変動です。
・易疲労性:運動の反復/持続により骨格筋筋力が低下し、休息により回復します。
・日内/日差変動:夕方に症状が悪化し、日によって症状の変動も認め得ます。
・初発症状:上記の通りで、眼瞼下垂や複視などの眼症状が多いとされます。
・また、症状が温熱により増悪、寒冷により改善することがあります。
・MuSK抗体陽性例:球症状、頸部筋力低下、呼吸筋麻痺を呈しやすく、クリーゼの頻度も高いです。
→その他に顔面/舌筋の萎縮や線維束性収縮を認めたり、胸腺腫を合併しにくいという報告があります。
②合併症
⑴胸腺異常
・特にAchR抗体陽性例で、その約75%に胸腺異常(胸腺過形成/胸腺腫)を認めます。
・胸腺腫を有するMGはTAMG(Thymoma-Associated MG)と呼ばれます。
・TAMGに合併する非運動症状
-胸腺腫由来のT細胞機能異常が原因とされます。
-赤芽球癆:貧血症状としての易疲労感などをMGの症状と誤らないようにします。
-円形脱毛:赤芽球癆とともに、MG自体の病勢とは一致しないことがある病態です。
-味覚障害:特に甘味が選択的に障害され、MGの免疫療法に反応し得ます。
-低γグロブリン血症:Good症候群と呼ばれ、免疫療法を要するMGで特に注意しなければなりません。
-心筋炎:TAMGの1-2%に重篤な心筋炎を合併し、横紋筋抗体の関連が示唆されています。
⑵自己免疫疾患
・自己免疫疾患の合併はMG全体の8-15%程度にみられます。
・甲状腺疾患(Basedow病/橋本病など)や膠原病(SLE/RAなど)を合併し得ます。
→MGと診断したら甲状腺ホルモン、ANA、RF、各種自己抗体測定を検討します。
・一般的にはAchR抗体陽性例の方が、MuSK抗体陽性例より合併しやすいとされます。
・MGの眼球運動障害が治療抵抗性の場合、甲状腺眼症の可能性を考えます。
【神経筋接合部障害の評価法】
①眼瞼の易疲労性試験
・患者に上方視を約1分程度続けさせます。
・これにより眼瞼下垂が出現または増悪すれば、陽性ととります。
②アイスパック試験
・"冷凍"したアイスパックを約2分間、患者の眼球に押し当てます。
・これにより眼瞼下垂が改善すれば、陽性ととります。
※MG以外の疾患では陽性になりにくいとされます。
・前後で眼裂を定規で測り、写真を撮っておくと比較が容易になります。
・安静や加温の効果と比較すると感度が上がるという報告があります。
③エドロホニウム(テンシロン)試験
・抗コリンエステラーゼ薬であるアンチレクス®を使用した試験です。
→神経筋接合部におけるAchの作用を増強し、MGの治療にも用いられる機序です。
・方法:アンチレクス®10mgを原液or生食で希釈して2.5mgずつ静注します。
→その都度MG症状の改善の有無を確認し、明らかに改善した時点で終了とします。
→終了後は、循環動態等に異常がないことを確認し、点滴ルートを抜去します。
・偽陽性を除外するため、プラセボ(生食)投与も行うことが多いです。
・前後で眼裂を定規で測り、写真を撮っておくと比較が容易になります。
・副作用:徐脈性不整脈、悪心・嘔吐など。
→副作用が強い場合、アトロピン投与も行い得るため、事前に準備をしておきます。
④反復刺激試験
※被検筋に肘筋を加えると、感度が上がったとする報告もあります。
・3Hzで10回刺激を行うのが一般的で、減衰率が10%以上で異常(waning)と考えます。
※顔面筋では、7-8%をcut off値とすると、特異度を下げずに感度が上がるとする報告もあります。
・減衰率:第1刺激のCMAP振幅に対する、後続の最小のCMAP振幅の比率(%)です。
→3Hzの刺激では4or5発目でAch放出量が最低となるため、この時の比率を減衰率とします。
⑤単線維筋電図(SFEMG:Single Fiber ElectroMyoGram)
右:Clin Neurophysiol 2012;123:613-20(マーカー部分:individual MCDのcut off値)
・神経筋接合部障害の評価法の中で最も感度が高いとされますが、十分に普及していません。
・通常は前頭筋(FRO)、眼輪筋、総指伸筋(EDC)で行います。
・シナプス前膜から放出されたAchがACh 受容体に結合し、筋活動電位が発生するまでの過程には正常状態でも必ず時間的揺らぎが存在します。
→これを"ジッター"と称し、MGでは増大します。
・ジッターはMCD(Mean Consecutive Difference)によって表されます。
→神経筋接合部機能の評価には、individual MCDやmean MCDが用いられます。
・上図左側では、同一運動単位に属するAとBの筋活動電位が記録されています。
→神経末端の長いBがAよりも遅い潜時で記録され、その潜時差は大きく変動しています。
→*ではブロックを生じています。この患者のMCDは極めて大きいと判断されます。
※SFEMGについては、臨床神経 2012;52:1246-1248が分かりやすいと思います。
【重症度とQOLの評価法】
①重症度クラス分類(MGFA分類)
・MG症状の重症度クラス分類として使用されています。
・現在に至るまでの最重症の状態で分類します。
→従って、過去にクリーゼで挿管された場合、現在無症状でもⅤに分類します。
②定量的な重症度評価(MG-ADLスケール/QMGスコア/MG composite)
・定量的に重症度を評価できるツールとして、上記の3種があります。
※体感としては、実臨床ではQMGスコアの使用頻度が高い印象です。
・MG-ADLスケール:簡便ですが、患者申告を重視するためQOLスケールに近いです。
・QMGスコア:客観的で易疲労筋の検出感度は高いですが、自覚的変化は反映されにくいです。
・MG composite scale:上記2種の長所を取り入れるべく考案されたものです。
→煩雑すぎないにも関わらず、QMGスコアや後述のMG-QOL15と相関のバランスが良いとされます。
③治療効果の評価(MGFA Postintervention Status)
・MGの治療効果の評価のために使用されています。
・MM or better status:CSR、PR、MMをまとめた概念です。
→日常生活に支障のない改善レベルを示す評価項目として、臨床研究等で用いられます。
④QOLの評価(MG-QOL15r)
・MG患者の主体的満足度を反映するQOLの評価に使用されています。
→日常診療だけでなく、臨床研究や新薬開発でも役立てられています。
・MG症状は日内/日差変動があり、患者の生活様式によっても異なります。
→外来診療のみの評価では限界があり、こうしたQOLの評価は重要です。
【O/g-ELTMuN分類】
⓪基本事項
・成人MGは過去には、発症年齢と胸腺腫の有無のみで3者に分類されていました。
→EOMG(Early-Onset MG)、LOMG(Late-Onset MG)、TAMG(Thymoma-Associated MG)です。
・しかし近年では、自己抗体と眼筋型/全身型の区別を包含した分類が主流になっています。
・この分類はO/g-ELTMuN分類と呼ばれ、成人MGは6つのサブタイプに分類されます。
→OMG、g-EOMG、g-LOMG、g-TAMG、g-MuSKMG、g-SNMGの6つです。
①眼筋型MG(OMG:Oclar MG)
・眼瞼下垂や複視のみを呈する病型で、MG患者の約半数を占めるとする報告もあります。
・増加傾向であるlate-onset MGにおいても、頻度が高いとされます。
・眼筋型の約50-60%が発症2年以内に全身型に進展すると言われています。
※全身型に進展した症例の85%が2年以内とする報告があり、これ以降の進展は稀です。
②全身型MG(gMG:generalized MG)
⑴AchR抗体陽性の非胸腺腫全身型
-(ⅰ)早期発症MG(g-EOMG)
-(ⅱ)後期発症MG(g-LOMG)
・発症年齢<50歳をg-EOMG、≧50歳をg-LOMGとします。
・胸腺腫を伴わない全身型で、AchR抗体陽性のサブタイプです。
・発病早期のg-EOMGでは、胸腺摘除も検討されます(治療については後述)。
⑵AchR抗体陽性の非胸腺腫全身型→胸腺腫関連MG(g-TAMG)
・発症年齢が50歳前後をピークとする正規分布を示すため、early/late-onsetに分類しません。
・前述した特徴的な非運動症状の合併にも注意します。
⑶MuSK抗体陽性の全身型→MuSK抗体陽性MG(g-MuSKMG)
・MG患者の約5%でMuSK抗体が陽性となり、胸腺腫は原則として合併しにくいです。
・前述のように特徴的な臨床像を呈します。
→球症状、頸部筋力低下、呼吸筋麻痺、クリーゼの頻度が高いとされます。
→その他に、顔面/舌筋の萎縮や線維束性収縮を認めたとする報告もあります。
・上記の特徴から、球麻痺型(bulbar onset)のALSの重要な鑑別疾患になります。
→球麻痺型のALSを疑った場合、必ずMuSK抗体を確認します。
・エドロホニウム(テンシロン)試験は、AchR抗体陽性例に比して感度が低いとされます。
・反復刺激試験や単線維筋電図の異常は、四肢筋より頸部/顔面筋で検出されやすいとされます。
⑷病原性自己抗体非検出の全身型→抗体陰性MG(g-SNMG)
・AchR抗体やMuSK抗体が検出されないサブタイプです。
・前述の診断基準において、抗体が陰性でも神経筋接合部障害を証明できればMGの診断は可能です。
→特にこのサブタイプにおいて、診断基準に追記された血漿浄化療法を検討します。
※therapeutic diagnosisが目的となります。
【治療】
⓪基本事項
(0)基本的な考え方
・MGは自己免疫疾患であるため、免疫療法が基本となります。
・前述のように長期の完全寛解は得難く、QOLも重視しながら治療戦略を立てます。
・治療に際してはMM-5mgやEFTといった概念も重要ですので、以下に述べます。
⑴MM-5mg
・MM:Minimal Manifestationで、前述したMGFA postintervention statusのカテゴリーの1つです。
・MM-5mgは”PSL≦5mg/日で、MM以上(MM or better)が得られている状態”を指します。
・GLでも”MG治療における最初の治療目標”とされており、重要な概念です。
・背景には、減量不十分なPSLの長期投与で、抑うつを含む副作用が問題となる事実があります。
・しかし、達成率は専門外来の多施設調査でも42-50%であり、高くはありません。
⑵EFT
・EFT:Early Fast-acting Treatment (strategy)、早期速効治療(戦略)です。
・全身型MGでは、発症早期から非経口の速効性治療(FT)を積極的に行い、早期改善と経口ステロイド減量を図ります。
→FTは具体的にIVMP、IVIg、血漿浄化療法(PP)が該当します。
→GLでは更に、経口薬としてタクロリムス(TAC)やシクロスポリン(CyA)などのカルシニューリン阻害薬の併用もEFTとして推奨されています。
・EFTにより、少なくとも6か月以上継続するMM-5mgの早期達成率が上昇するとされます。
・なお、PPは効果が短いため、原則として直後にIVMPを行います。
・また、IVMPは初期増悪を伴うため注意が必要です(後述)。
・EFT具体例(2022GL記載事項)
-全身型MGへのIVMPに慣れていない場合のEFTの具体例です。
-経口薬:PSL 10mg/日+カルシニューリン阻害薬で治療を開始します。
-FT:IVIgを行い、効果不十分であれば繰り返します。
-上記治療で高頻度にIVIgを要する場合やコントロール不良の場合に専門医にコンサルトします。
①治療の全体像
重症筋無力症/ランバート・イートン筋無力症候群診療ガイドライン2022を参考に一部改変
②胸腺摘除術
・適応:g-TAMG、g-EOMG(オプション)。
・胸腺腫を伴うg-TAMGに対する胸腺摘除術は、良い適応となります。
・非胸腺腫MGでは、発症早期のg-EOMGで施行を検討します(GL推奨提示2B)。
→実際には胸腺過形成を有する場合に有益ですが、画像検査等で術前に診断するのは困難です。
→現時点では、g-EOMGに対する胸腺摘除術はオプションの1つという認識となっています。
・一方で上記以外のサブタイプ(OMG、g-LOMG、g-MuSKMGなど)では有益性のエビデンスが乏しく、原則として推奨されません。
・胸腺摘除術後クリーゼ
-定義:術後24~48時間以上の挿管人工呼吸管理、または術後1~4週間以内の再挿管人工呼吸管理を必要とするMGの増悪による呼吸不全で、心肺合併症や横隔神経麻痺など他の原因を除くもの。
-発症率は5.6~29.5%と報告されています。
-リスク因子:術前の球麻痺症状、高い重症度、クリーゼの既往、少ない肺活量など。
-また、Kanaiらによる予測スコアが知られています(Ann Neurol 2017;82:841-849)。
→術直前の球症状の存在(1点)、病悩期間3か月未満(2点)、肺活量80%未満(3点)とします。
→この合計点数が3点以上の場合、感度88.2%、特異度83.3%で胸腺摘除術後クリーゼの予測が可能としています。
-予防については様々な報告があり、一定しませんが、術前に病勢をコントロールする必要はあります。
-既報では、術前のステロイド(IVMP含む)やIVIgの有用性が報告されています。
※PPも有用性の報告はありますが、IVIgに劣るとした報告もあります。
-GLでは、特にクリーゼのリスク因子を有する症例では術前に病勢のコントロールを行うことが推奨されています。
-なお一般事項として、周術期のステロイドカバーは忘れないようにします。
③経口ステロイド
・(RCTはないですが)MGの標準治療として、発症早期から一般的に行われています。
・前述のMM-5mgやEFTで示したように"他の免疫治療を積極的に併用し、ステロイド使用量は最小限にとどめる"考え方が重要になります。
→繰り返しになりますが、背景にステロイド長期使用に伴う副作用の問題があります。
・用量の明らかな提示はありませんが、≦10mg/日を目安とし、上限は15-20mg/日程度と考えます。
※用量については、J Neurol Neurosurg Psychiatry 2018;89:513-517が参考になります。
・前述のようにカルシニューリン阻害薬の併用や早期のFTの併用が重要になります。
・なお、ステロイド導入時に一過性の筋無力症状増悪(初期増悪)を認め得るため、注意します。
→少量での導入やIVIgやPPの併用で、初期増悪のリスクを減らすことができます。
・EFT具体例(2022GL記載事項)
-全身型MGへのIVMPに慣れていない場合のEFTの具体例です。
-経口薬:PSL 10mg/日+カルシニューリン阻害薬で治療を開始します。
-FT:IVIgを行い、効果不十分であれば繰り返します。
-上記治療で高頻度にIVIgを要する場合やコントロール不良の場合に専門医にコンサルトします。
④カルシニューリン阻害薬
・本邦で使用可能な非ステロイド性免疫抑制薬は、カルシニューリン阻害薬です。
→具体的には、タクロリムス(TAC)とシクロスポリン(CyA)の2剤になります。
・原則として経口ステロイドと併用し、MG患者の筋力改善やステロイド減量が期待できます。
・なお、早期に使用を開始した方が効果が高いと考えられています。
・投与例(TAC):プログラフ® 3mg1×夕食後。
・投与例(CyA):ネオーラル® 5mg/kg2×で開始。
→効果を認める場合は漸減し、維持量3mg/kg/日とします。
・注意事項
-原則として、副作用発現予防のために血中濃度の測定を要します。
→TACは5~10ng/mL、CyAは100~200ng/mLが目標の目安となります。
-グレープフルーツはカルシニューリン阻害薬の効果を増強するため注意します。
-禁忌(共通):過敏症既往、生ワクチンの接種(特に注意します)。
-禁忌(TACのみ):CyA/ボセンタン/K保持性利尿薬を投与中の患者。
-禁忌(CyAのみ):TAC(外用剤を除く)/ピタバスタチン/ロスバスタチン/ボセンタン/アリスキレン/アスナプレビル/バニプレビル/グラゾプレビル/ペマフィブラートを投与中の患者、肝臓又は腎臓に障害のある患者でコルヒチンを服用中の患者。
-副作用(共通):感染症、耐糖能異常(特にTAC)、高血圧、腎機能障害(特に高頻度)、下痢、肝炎ウイルス再活性化など。
→導入前のT-SPOT/β-Dグルカン/HBV・CMV検査や、導入後の腎機能/血圧/血糖フォローが重要です。
-副作用(TACのみ):筋痙攣、脱毛など。
-副作用(CyAのみ):歯肉肥厚、多毛など。
-禁忌以外の併用注意薬も複数あり、詳細は添付文書を参照ください。
⑤ステロイドパルス療法(IVMP)
・効果発現が早いうえに有効性も高く、EFTの観点からも重要な治療法です。
※ステロイド療法全般で、唯一RCTで有効性が示されている投与法です。
・(GL上も)間欠的なIVMPは、MG症状改善および経口ステロイド減量に寄与するとされます。
・投与後の一過性初期増悪(多くは投与翌日から2~5日後)に注意を要します。
→IVMPを施行する際は入院で、可能な限り経験豊富な医師のもとで行います。
・初期増悪によるクリーゼのリスクがあるため、全身型MGに対する”最初の治療”にはしません。
→PSL 5-10mg/日(+カルシニューリン阻害薬)を投与してから行うことが望まれます。
・投与量:mPSL 1000mg/日×3回(クリーゼのリスクがなければ連日)とします。
→これを1-2週間の投与量の上限とし、実際には後述のようにリスクに応じて減量します。
・クリーゼリスク因子保有患者への対応
-球症状があったり、MGFA≧Ⅲの症例では初期増悪によるクリーゼのリスクがあります。
-そのため、以下(GL記載事項)を参考に治療方針を工夫します。
⑴mPSL投与量を500mg/日とし、単回投与後に2~5日間経過観察する。
※クリーゼを回避できた場合、5~7日間隔で併用療法を繰り返す。
⑵PP直後やIVIgの1~2週間後の併用とする。
⑶PSL<20mg/日ならば、静注で20mg/日まで増量した後に行う。
⑥免疫グロブリン静注療法(IVIg)
・主にMGの急性増悪時に用いられ、RCTでPPと同等の効果を有するとされています。
・その他に胸腺摘除術前、ステロイド導入時の初期増悪軽減目的に用いられ得ます。
・PPと同様に長期効果に関するエビデンスはありません。
・また、前述してきたようにEFTの観点からも重要な治療になります。
・既報(Neurology 2007;68:837-841)では、中等症-重症のMGに有効であったとされます。
→一方で軽症(QMGスコア≦10.5と定義)や眼筋型に対する有効性は明らかではありません。
・投与量:0.4g/kg/日×5日間とします。
・投与速度:最初の1時間は0.01mL/kg/分で、以降は0.06mL/kg/分まで漸増可。
→投与速度は有害事象発症と密接に関連するため、必ず順守するようにします。
・重大な副作用:アナフィラキシー、血栓塞栓症(PEなど)、血小板/白血球減少、肝機能障害、腎機能障害、無菌性髄膜炎、心不全など。
・頻度の高い副作用:頭痛、発熱、軽度高血圧、悪寒、悪心、皮疹など。
・一般的事項として、PPに比して高齢者や循環動態の不安定な患者に使用しやすいです。
・また、GLでは外来でも安全に使用できることが多い(推奨提示1C)とされています。
⑦血漿浄化療法(PP)
⑴単純血漿交換法(PE(PLEX):Plasma Exchange)
・破棄した分を置換する形で、同量の5%アルブミンまたは新鮮凍結血漿(FFP)を補充します。
※多くの場合は凝固因子の補充が不要のため、5%アルブミンが使用されます。
・利点:小-大分子まで全て除去でき、抗体の他にサイトカインも除去できます。
・なお”選択的血漿分離器”を用いると、凝固因子を保持しながら抗体除去が可能になります。
→選択的血漿交換法(SePE:Selective PE)と呼びます。IgMなどの大分子は除去できない欠点があります。
⑵二重膜濾過血漿交換法(DFPP:Double Filtration Plasmapheresis)
・一次膜で分離した血漿を二次膜で分子量の大きさにより処理する方法です。
・PEに比べて煩雑で、アルブミンの喪失も多く補充が欠かせないため、IAPPに移行していきました。
⑶免疫吸着療法(IAPP:ImmunoAdsorption PlasmaPheresis)
・分離した血漿を吸着カラムで濾過し、免疫グロブリンを選択的に減じた血漿を体内に戻す方法です。
・利点:血漿成分の補充が少なくて済む(原則不要)点です。
・ただし、サイトカインなどは除去されないため、注意が必要です。
・MGではトリプトファンをリガンドとした吸着カラムが保険適用です。
・後述するようにIgG1/3に強く吸着するため、IgG4主体のMuSK抗体には無効です。
・主にMGの急性増悪時に用いられ、RCTでIVIgと同等の効果を有するとされています。
・その他に胸腺摘除術前、ステロイド導入時の初期増悪軽減目的に用いられ得ます。
・IVIgと同様に長期効果に関するエビデンスはありません。
※効果発現はIVIgより早く、施行後24時間から数日以内です。
・また、前述してきたようにEFTの観点からも重要な治療になります。
・PE/DFPP/IAPPの効果は同等とされますが、施行回数に関する検討は十分ではありません。
・本邦の保険適用上は”月7回を限度として3月間に限って算定する”とされます。
→ただし、この施行回数に関する明確な医学的根拠はありません。
・またMuSK抗体陽性例では、IAPPではなくPEを選択します。
→MuSK抗体はIgG4主体で、トリプトファン吸着カラムはIgG1/3に強く吸着するためです。
・なお、ACE阻害薬内服中の患者に対するIAPPは禁忌となります。
→カラムに吸着されたブラジキニンが血漿中に遊離し、ショックを引き起こし得るからです。
・頻度の高い合併症:血圧低下、アレルギー、発熱、悪寒、低Ca血症、血小板減少など。
⑧エクリズマブ
・作用機序:補体C5と特異的に結合し、C5aおよびC5bへの開裂を阻害します。
→これによりC5b-9(MAC:Membrane Attack Complex)の形成を阻害し、組織障害を抑制します。
→背景に、IgG1/3であるAChR抗体が補体依存性に後シナプスの膜破壊をきたすという研究があります。
・エクリズマブの有効性は、第Ⅲ相・多施設国際共同RCT(REGAIN試験)で示されました(Lancet Neurol 2017;16:976-986)。
→本試験の組み入れ基準は”1年以上にわたり十分な症状のコントロールが得られず、2種類以上の免疫抑制薬、または1種類以上の免疫抑制薬と年に4回以上のPPまたはIVIgが無効、かつMG-ADL総スコア≧6、MGFAクラスⅡ~Ⅳ”と難治例でした。
・本邦の保険適用:AchR抗体陽性の全身型MG(g-EOMG/g-LOMG/g-TAMG)で、IVIgやPPによる症状の管理が困難な症例。
→高額な薬剤でもあり、症例ごとに適用を十分に検討する姿勢が重要です。
・用量:1回900mgを週1回の間隔で合計4回点滴静注し、その1週間後から1回1200mgを2週に1回の間隔で点滴静注します。
・注意事項
-投与により髄膜炎菌に対する免疫機能が特に低下することが知られています。
→原則として、投与開始2週間前までに髄膜炎菌のワクチンを接種するようにします。
⑨リツキシマブ
・作用機序:抗CD20モノクローナル抗体で、CD20陽性リンパ球(B細胞)を特異的に傷害します。
・基本的には他の免疫治療と併用されるため、その有効性を他の治療法と比較した試験はありません。
→これまでにcase series後ろ向き研究やオープンラベル試験で有効性が報告されています。
→なお、MuSK抗体陽性例についてはプラセボ対照前向き試験で有効性が報告されており、より有効性が高いと考えられます。
→その他にdouble seronegative例でも有効性の報告があります。
・背景にMuSK抗体は主にIgG4で、IgG4産生形質細胞は主に短寿命性であることがあります。
→本剤の早期効果(数週間以内に発現)は、短寿命性形質細胞への効果と考えられています。
・適応:g-MuSKMGやg-SNMGの難治例、エクリズマブ無効のAchR抗体陽性例。
→本邦では保険適用外なので、施設の倫理委員会の承認を得るなどの必要があります。
・用量例:375mg/m²を1週間間隔で4~6回点滴静注(1クール)し、これを数か月から半年ごとに1~5クール行います。
※用量については確立されておらず、上記は悪性リンパ腫に準じたものとなります。
・注意事項
-副作用:infusion reaction、心障害、感染症、血球減少、肝機能障害など。
-特にinfusion reactionは最多の副作用とされます。
→予防のため、投与30分前に抗ヒスタミン薬と鎮痛薬(または静注ステロイド)を投与します。
-また、意外と心障害(不整脈や心筋梗塞など)の頻度が高い(添付文書上は14.5%)です。
→自験例では、投与前に心エコーなどで心機能を確認しました。
→ただし、現在までのところMGに対する使用でPML発症の報告はありません。
⑩抗コリンエステラーゼ薬
・ほとんどの症例に有効であり、病型を問わずMG治療の第一選択薬として使用されます。
・これまで述べてきた治療法と異なり、あくまで”対症療法”である点に注意します。
→基本的には前述してきた免疫治療と組み合わせて使用されることが多いです。
・過量投与によりコリン作動性クリーゼをきたし得るため、最低量での使用を心がけます。
→コリン作動性クリーゼをきたすと、硫酸アトロピン静注(0.5-2mg)や気道確保を要し得ます。
・また、疾患の改善が得られた場合は減量/中止し、長期の漫然とした投与を避けます。
・なお、大量長期投与で効果が減弱し、薬剤中止で改善することが知られています。
→必要に応じて、drug holidayを交えながら使用することがGLでも提案されています。
・投与例:メスチノン®60mg 1錠/日で開始し、症状に応じて3錠/日まで増量。
・禁忌:過敏症既往、消化管又は尿路の器質的閉塞、迷走神経緊張症、脱分極性筋弛緩薬投与中。
・副作用(ムスカリン作用):徐脈性不整脈、冠動脈疾患増悪、血圧低下、腹痛・下痢、嘔吐、発汗など。
・副作用(ニコチン作用):筋の線維束性収縮、筋痙攣など。
・薬剤ごとの特徴
-ピリドスチグミン(メスチノン®):作用時間が短く、使用頻度も高い印象です。長期罹患例/重症例では効きにくいことがあります。
-アンベノニウム(マイテラーゼ®):30分前後で効果が現れ、持続時間は4~8時間と長いです。長期連用による効果減弱も少ないですが、投与初期に副作用が生じやすいとされます。
-ジスチグミン(ウブレチド®):効果が弱く作用時間が長く、眼筋型などで使用されます。
-ネオスチグミン(ワゴスチグミン®):効果は強いものの作用時間が短く、単独でのMG治療には適しません。しかし、散剤や注射薬があるため内服困難時にも投与可能です。
●コラム:エフガルチギモド アルファ(ウィフガード®)
・抗FcRn抗体フラグメント製剤で、2022年5月に発売となったばかりの新薬です。
・新薬すぎるため、2022GLでの言及等はありませんが、今後使用されていく薬剤と思います。
・詳細は商品ホームぺージに詳しいですが、上図のように有効性が期待されます。
・作用機序:内因性IgGのFcRnへの結合を競合阻害し、IgGのリサイクルを阻害、分解を促進することで、血中IgG濃度を低下させます(上図)。
・適応:ステロイドや免疫抑制薬が奏功しない全身型MG。
※副次評価項目で全体集団のMG-ADLレスポンダーも有意に多かったですが、臨床試験のMuSK抗体陽性者のn=6と少なく、g-MuSKMGへの効果はまだ検討の余地があるものと考えます。
・用量:1回10mg/kgを1週間間隔で4回1時間かけて点滴静注し、これを1サイクルとして、投与を繰り返します。
→次サイクルの投与は、臨床症状等で判断します。以下に臨床試験での基準を例示します。
以下の基準のいずれも合致した場合に次サイクルも投与
-MG-ADL総スコアが合計5点以上であり、眼症状以外の項目でのスコアが50%を超えている患者
-MG-ADL総スコアが先行のサイクル投与のベースラインに対して2点以上の減少が認められない患者
・禁忌:過敏症既往。
・副作用:感染症(帯状疱疹など)、頭痛、めまい、悪心/嘔吐など。
・作用機序からも想定できますが、IVIgやエクリズマブの効果を減弱し得ます。
→また、PPにより血中濃度が低下し、効果が減弱し得ます。
【病態ごとの治療】
①眼筋型MG(OMG)
⑴基本的な考え方
・OMGは眼瞼下垂や複視のみを呈する病型で、MG患者の約半数とされます。
・増加傾向であるlate-onset MGでは、OMGの頻度が高いとされます。
・一般的には抗コリンエステラーゼ薬で治療を開始し、一定量で症状の寛解が得られない場合は免疫治療を追加します。
・抗コリンエステラーゼ薬と比較したときに、ステロイドの有効性が高く、複視に関しては6.9%vs74%と差が顕著です(Br J Ophthalmol 2005;89:1330-1334)。
→特に複視を認める症例は、非可逆的な眼球運動障害を残さないためにもステロイドは必ず検討します。
・前述のように50~60%の患者が、発症2年以内に全身型に進展し得ます。
→GLでは進展予防のための過度の免疫治療は、エビデンス不十分として推奨されていません。
⑵免疫療法
・一定量の抗コリンエステラーゼ薬で症状の寛解が得られない場合に追加します。
・基本的には経口ステロイドを用いますが、IVMPも有効で、より早期の寛解も可能です。
→抗コリンエステラーゼ薬や経口ステロイドに抵抗性を示す症例などでも検討します。
・IVMP例:mPSL 500-1000mg/日の連日3日間の静注を1クールとし、4~7日間隔で3~5クール行います。
→施行回数は症状経過で決定し、MM達成後に経口ステロイドに切り替えます。
・前述のように、OMGにおいてもステロイド導入による初期増悪に注意を要します。
・また、免疫抑制薬(特にTAC)も有効で、中等量以上の経口ステロイドを要する場合に併用を検討します。
※TACは単剤でもOMGに有効であったとする報告もあります。
・経口ステロイドの使用法
-用量:PSL 5~10mg/隔日で開始し、最大40~60mg/隔日として症状改善まで増量します。
-減量:MM達成時の用量を1~3か月程度維持してから漸減します。
-維持量:目標は長期的に副作用が少ないPSL 5mg/日になります。
-特に中等量(PSL 15~20mg/日)以上用する場合や目標維持量が達成できない場合は、免疫抑制薬の併用も検討します。
⑶対症療法
・抗コリンエステラーゼ薬が選択されることが多いです。
→しかし、満足のいく効果が得られるのはOMGの20~50%程度にとどまります。
・α2受容体刺激薬であるナファゾリン点眼は、Müller筋の収縮を増強し、眼瞼下垂を改善します。
→MGの眼瞼下垂に対して、71.7%で有用であったとする多施設共同研究があります。
→ただし重症例に対する効果は大きく低下します。また、閉塞隅角緑内障に禁忌です。
・治療に反応せず、既に固定している眼瞼下垂/複視に対しては外科的治療も選択肢です。
→エビデンス等は強くなく、症例ごとに形成外科医や眼科医と検討することが重要です。
②MuSK抗体陽性MG(MuSKMG)
⑴基本的な考え方
・臨床像の特徴については、O/g-ELTMuN分類の項目を参照ください。
・原則として、診断早期からステロイドと免疫抑制薬を併用し、増悪時はIVIgやPPを積極的に行います。
・胸腺腫の合併は極めて稀であり、胸腺摘除術は推奨されません。
・抗コリンエステラーゼ薬についても、有効性がやや低く、増悪例もあるため注意が必要です。
・前述のように(本邦では保険適用外ですが)リツキシマブが有効とされます。
・全体的な予後は、AchR抗体陽性MGに比して悪くはありません。
⑵胸腺摘除術
・MuSKMGでは、ほぼ全例で胸腺腫の合併を認めず、胸腺病理像もほぼ正常とする報告があります。
・また、MuSK抗体価は胸腺摘除術後に下がらなかったとする報告もあります。
・現時点でMuSKMGに対する胸腺摘除術は有効性のエビデンスに乏しく、推奨されません。
⑶抗コリンエステラーゼ薬
・MuSKMGでは抗コリンエステラーゼ薬の有効性は13-57%と報告されています。
→AchR抗体陽性MGに比して、有効性が低いと考えられます。
・また、副作用の頻度も比較的高く、コリン作動性クリーゼをきたした報告もあります。
・上記より、MuSKMGに対する抗コリンエステラーゼ薬は、慎重に適応を検討します。
⑷ステロイド/免疫抑制薬
・MuSKMGに対する経口ステロイドは有効であり、第一選択薬となります。
・また、維持ステロイド量が多くなる傾向があり、早期から免疫抑制薬が併用されます。
→本邦の検討ではTACやCyAが有効とされ、IVMPも有効な治療手段とされます。
⑸PP/IVIg
・嚥下障害やクリーゼなどの症状増悪時には、PPが最も効果が期待できる治療法です。
・MuSKMGでは、原則としてIAPPではなくPEを選択します。
→MuSK抗体はIgG4主体で、トリプトファン吸着カラムはIgG1/3に強く吸着するためです。
・IVIgはPPに比べて、有効性に劣るという報告があります。
→一方で他の治療の効果が乏しかった症例に長期間の報告をもたらしたという報告もあります。
⑹リツキシマブ
・MuSKMGについて、プラセボ対照前向き試験で有効性が報告されています。
・原則として、難治例に使用を検討します。
・ただし、本邦では保険適用外となります。
【クリーゼ】
①基本事項
・MG患者が呼吸筋筋力低下により、急激に呼吸不全に陥り、気管挿管を要する状態です。
・多くの場合、呼吸困難だけでなく構音/嚥下障害などの球麻痺も伴います。
・MGの経過中にクリーゼを経験する症例は9.1-14.8%とされます。
・急速に症状が増悪し得るため、気道確保の判断を誤らないことが重要です。
・抗コリンエステラーゼ薬の過量投与によるコリン作動性クリーゼは、極めて稀とされます。
→コリン作動性の症状(流涎/嘔吐/下痢/縮瞳など)も見られ得ますが、通常のクリーゼとの鑑別はしばしば困難です。
→後述のように、どちらのクリーゼだとしても抗コリンエステラーゼ薬は中止します。
②リスク因子と誘因
・リスク因子:発症1年以内、球症状、胸腺腫合併、併存疾患(DM/DL/IHDなど)、MuSK抗体陽性など。
・誘因:気道感染症(最多)、手術、過労/ストレス、出産、薬剤、免疫抑制薬減量、ヨード造影剤など。
・術後クリーゼについては”【治療】②胸腺摘除術”も参照ください。
③治療
・まず、クリーゼの誘因はできるだけ除去します。
・抗コリンエステラーゼ薬:原則中止します。クリーゼ下でメリットはなく、気道分泌液増加や不整脈等のリスクになるためです。
・短期的治療:病原性自己抗体の除去/中和目的にPPまたはIVIgを行います。
→治療効果発現が早い(数日程度)PPが選択されることが多いです。
→高齢者や小児、重症感染症合併例などでは身体的負担の少ないIVIgも選択し得ます。
・中長期的治療:PPやIVIgの効果は一時的であり、中長期的にはステロイドや免疫抑制薬による治療を再検討する必要があります。
④気道管理
※本項については、GL記載を逸脱した私見も含まれますのでご注意ください。
・GL上ではNPPVか気管挿管/人工呼吸器管理の時期を逸さないことについての記載があります。
・2型呼吸不全となり得るため、ABGによる頻回のPaCO2の確認が重要です。
・気管挿管の目安は肺活量≦15mL/kgとされますが、実臨床での判断は容易ではありません。
・特に症状が急速に進行し得るため、(やや大げさに言えば)”クリーゼを疑ったら挿管の準備をする”くらいでもよいと思います。
・NPPVは、GLに高CO2血症増悪前や抜管後の使用の有益性についての記載があります。
→唾液を押し込むリスクを考えると、基本的には気管挿管/人工呼吸器管理を優先する姿勢でよいと考えます。
→また、抜管後に再挿管回避のためにNPPVを使用することはreasonableと考えます。
・抜管の目安は肺活量≧800-1000mLとする意見もありますが、やはり判断は容易ではありません。
→上記も目安にしつつ、基本的には集中治療医等も含む複数人の議論で決定していくべきだと考えます。
【生活指導】
①安静度
・症状がコントロールされている場合、日常生活の制限は必要ありません。
・運動も可能です。体温上昇は増悪因子のため、炎天下での外出(や入浴)には注意が必要です。
・就労も可能です。過労は増悪因子のため、適宜休息をとることが重要です。
・感染は増悪因子であるため、手洗い等の基本的な感染症対策は行うようにします。
②増悪因子
・MG増悪は眼瞼下垂/複視の増悪、頸部筋力低下、四肢筋力低下など様々な形であらわれます。
・当初は夕方や労作時などに自覚され、次第に終日みられるようになるといった経過をたどる傾向があります。
・重度の場合、前述のクリーゼをきたし得ます。
・増悪因子:(気道)感染症、手術、過労/ストレス、妊娠、薬剤、外傷、ヨード造影剤など。
・増悪因子となり得る薬剤
-抗コリン薬
-ベンゾジアゼピン系
-向精神薬:フェノチアジン系、スルピリド、クロルプロマジン、リチウム、フェニトイン、カルバマゼピン、トリヘキシフェニジルなど。
-筋弛緩薬:サクシニルコリン、ベクロニウム。
-心血管系薬:シベンゾリン、リドカイン、プロカインアミド、β遮断薬、キニジン、ベラパミル、スタチンなど。
-抗菌薬:アミノグリコシド系、シプロフロキサシン、マクロライド系、ペニシリン系(高用量)、テトラサイクリン、ポリミキシンなど。
・抗コリン薬や筋弛緩作用のある薬剤は、禁忌とされていることが多いです。
※基本的には新規薬剤を追加する前に、添付文書で禁忌の確認が望ましいと思います。
・一方で全体として、薬剤のみでクリーゼにまで至ることは多くはないとされます。
→しかし薬剤を含む増悪因子が複合的に関与する中で、クリーゼを引き起こし得ます。
→例:過労の中で細菌性肺炎を発症し、増悪因子となり得る抗菌薬を使用した。
・増悪因子を患者とも共有し、できる限り避けられるようにすることが重要です。
③飲酒/喫煙
・原則として禁煙、(コントロール不良患者では)禁酒を指導します。
・飲酒:アルコールが薬物代謝に影響を与える可能性があります。
・喫煙:呼吸器感染のリスク上昇や、経皮的ニコチン吸収製剤で症状増悪の報告があります。
④ワクチン接種
・不活化ワクチン:免疫療法中でも、原則として接種可能です。
・生ワクチン:ステロイド/免疫抑制薬投与中は禁忌、IVIg後は6か月以上あけてから可能です。
・SARS-CoV-2ワクチン:十分なエビデンスはありませんが、最近重症度の悪化と関係しないとする報告があります(Muscle Nerve. 2022 Jun 8)。
⑤妊娠/出産
(0)基本事項
・MGは妊娠可能年齢の女性発症者も少なくなく、妊娠/出産に関する情報は重要です。
・妊娠/出産によるMG症状の増悪、改善、不変はそれぞれ約1/3とされます。
・増悪は妊娠初期と出産後3か月に多く、妊娠中期~後期は安定していることが多いとされます。
・妊娠前、妊娠時、出産/産褥期/出産後、新生児の注意点に分けて考えます。
⑴妊娠前の注意点
・後述する注意点も含めて、妊娠/出産の影響を患者と共有します。
・妊娠までにできる限り、症状の安定化させます。
・また、甲状腺機能異常を合併している場合、こちらも安定させておくことが重要です。
⑵妊娠時の注意点
・MG症状の増悪がみられる場合、妊娠初期に多いとされます。
・基本的に、本記事での述べた薬剤で妊娠中に禁忌となるものはありません。
→MGが安定している場合、妊娠中から授乳期においても同じ治療を継続します。
・ただし、カルシニューリン阻害薬(やアザチオプリン)は妊娠中の新規の開始は控えます。
→未熟児、流産等の報告があります。詳細はGLも参照ください。
※(海外で用いられる)メトトレキサートやミコフェノール酸モフェチルは中止するべきです。
・症状増悪など、緊急の対応を要する場合はPPやIVIgが有効な治療法となります。
⑶出産/産褥期/出産後の注意点
・MGが安定している場合、経膣分娩が推奨されます。
※ただし、腹圧減弱により分娩第2期が遷延化する可能性はあります。
・硬膜外麻酔は安全に施行可能です。硫酸MgはMG症状を悪化し得るため、控えます。
・母乳での育児は問題なく可能で、治療薬も問題とはなりにくいです。
・出産後1か月以内の産褥期にMG症状が増悪することがあります。
⑷新生児の注意点
・MGは遺伝性疾患ではないため、子供には遺伝しません。
・しかし、新生児の10~20%に”新生児一過性筋無力症”が出現します。
→出生後数時間~数日後に一過性の全身の筋力低下、哺乳困難、呼吸困難等を呈します。
→必要に応じ抗コリンエステラーゼ薬や呼吸管理を行い、重症例ではIVIgを考慮します。
・母体が胎児型AchR抗体を有する場合、先天性多発関節拘縮症や持続性ミオパチー、口蓋帆咽頭閉鎖不全症を呈することがあります。
⑥社会制度
・指定難病であり、医療費助成制度が利用できます。