内科医キューピーのつぶやき

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急性散在性脳脊髄炎(ADEM)の診療

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キューピーです。

 

急性散在性脳脊髄炎(ADEM:Acute Disseminated EncephaloMyelitis)はCOVID-19感染やワクチン接種後の事象としても認めることがあります。

 

しばしば診断が難しい症例もあり、その特徴について知識を持つことは重要です。

 

今回はADEMの診療についてまとめてみました。

 

※この記事の内容が原因で生じたいかなる不利益にも責任は負いかねます。

 

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目次

 

 

【参考文献】

Multiple Sclerosis Journal.2013;19(10):1261-1267

 

【基本事項】

ADEM多巣性中枢神経系の炎症性脱髄疾患で、”MSやNMOの仲間”でもあります。

・通常は単相性の経過をたどり、予後は比較的良好とされます。

→ただし、稀に再発して多相性の経過をたどり、MSとの鑑別に難渋し得ます(後述)。

・また、近年抗MOG抗体陽性となる症例の報告が多くなっています(小児例の40-70%)。

→特に高い抗体価が持続する症例では、多相性の経過をとりやすい可能性が示唆されています。

・多く(特に小児例)は先行感染やワクチン接種から数日-2,3週間後に発症します。

→このため、(中枢神経髄鞘に対する)自己免疫応答が主病態であると想定されています。

→なお、特徴的な病理所見として小静脈周囲の脱髄やマクロファージ浸潤があります。

成人例では、先行事象が明らかではない特発性も多いとされます。

・COVID-19感染/ワクチン接種いずれでも関与を疑うADEM症例の報告はあります。

好発:乳幼児-成人まで幅広く発症し得ますが、特に幼児期-思春期の小児に好発します。

 

【診断基準】

Multiple Sclerosis Journal.2013;19(10):1261-1267

・IPMSSGによる”小児”ADEMの診断基準です。成人の診断基準はありません

・ただし、成人例でも基本的にこの診断基準を参考にすることができます。

→すなわち、多巣性のCNSイベントを示唆する病歴頭部MRI所見から診断します。

特異的な診断マーカーなどがないことに注意します。

脳症:発熱、全身性疾患、痙攣発作後症状では説明できない意識障害を指します。

 

●多相性散在性脳脊髄炎(MDEM)

3か月以上の間隔でADEMに合致するエピソードを2回認める.

※2回であり,3回以上認めてはならない.

※発症後3か月以内は,臨床所見やMRI所見の変動を認めやすい.

2回目のエピソードは1回目と臨床所見,MRI所見が同じでも異なっていてもよい.

Multiple Sclerosis Journal.2013;19(10):1261-1267

・MDEM:Multiphasic Disseminated EncephaloMyelitisです。

・MDEMの頻度は不明ですが、GLにはADEMの約1割と記載があります。

・また、成人例ではADEMの約3-4割で再発がみられたとする報告もあります。

→いずれにせよ、ADEMの診療に際しては再発も注意しながら経過をみる必要があります。

・また、しばしばMSとの鑑別に難渋するため、次項に鑑別のポイントを記載します。

・MDEMでは、再発予防のためのステロイドの長期投与も考慮されます。

 

ADEMとMSの鑑別

 

ADEM

MS

先行感染/ワクチン

伴いやすい

伴うこともある

発熱,全身の炎症所見

見られやすい

見られにくい

頭痛,髄膜刺激徴候

見られやすい

見られにくい

脳症

見られやすい

見られにくい

痙攣

見られやすい

見られにくい

視神経炎

両側性が多い

片側性が多い

頭部MRI所見の傾向

所見が改善(消失)しやすい

境界不明瞭

皮質下白質/深部白質

深部灰白質(特に視床)

病変が広範囲/両側性

所見が遷延化しやすい

境界明瞭

脳室周囲白質/脳梁

T2WI高信号病変の数が多い

T1 black hole

ovoid lesion

septal-callosal interface lesion

juxtacortical lesion

Neurology.2007;68:7-12/Neurology.2016;87:38-45/画像診断.2019;39(3):313-323

上記を参考に一部改変

ADEMとMSの鑑別はしばしば難しく、特にMDEMのような再発例で顕著です。

ADEMとしての経過観察中にMSと診断される割合は成人で約30%(小児で2-10%)とされます。

・再発予防の考え方が全く異なる疾患のため、上記表などを参考にできる限り正確な鑑別に努めます。

 

【臨床像】

発症:先行事象の数日-2,3週間後に多巣性の中枢神経症候が急性-亜急性に出現します。

前駆症状:発熱、頭痛、嘔吐や項部硬直などの髄膜刺激徴候を認めることが多いとされます。

症状意識障害や中枢神経系(大脳-脳幹-脊髄,視神経など)の障害部位に応じた症状を呈します。

→さらに、小児では痙攣成人では末梢神経障害の頻度が比較的高いとされます。

 

【検査所見】

①血液検査

炎症所見:白血球増多、CRP上昇、赤沈亢進などの非特異的な所見を認めます。

鑑別疾患のための検査項目例

-NMOSD:抗AQP4抗体

-抗MOG抗体関連疾患:抗MOG抗体

ADEM症例でも抗MOG抗体が陽性となる例があり、両者はオーバーラップし得ます。

-NPSLE:抗核抗体、抗ds-DNA抗体、抗Sm抗体、抗リボソームP抗体、抗リン脂質抗体など

-シェーグレン症候群:抗SS-A/B抗体

-血管炎:抗好中球細胞質抗体

-神経サルコイドーシス:ACE、sIL-2Rなど

-橋本脳症:抗NAE抗体、甲状腺自己抗体

-抗NMDA受容体脳炎:抗NMDA受容体抗体

-辺縁系脳炎/傍腫瘍性神経症候群:抗VGKC複合体抗体、抗神経抗体、腫瘍マーカー

-IVLLDH、sIL-2Rなど

-ミトコンドリア病:CK、乳酸など

-副腎白質ジストロフィー:極長鎖脂肪酸分析

 

②髄液検査

細胞数増多:単核球優位の軽度-中等度の細胞数増多を認め得ます。

→100/μL以上の上昇では、感染性疾患などその他の疾患を疑います。

蛋白増加:軽度の蛋白増加を認め得ます。

※細胞数や蛋白については、正常例もあります。

MBP上昇脱髄を反映した所見です。

鑑別疾患のための検査項目例

-MS:OCB(しばしば鑑別が難しく、特に重要な検査項目になります)

-NPSLE:IL-6など

-神経サルコイドーシス:sIL-2Rなど

-抗NMDA受容体脳炎:抗NMDA受容体抗体

-辺縁系脳炎:抗VGKC複合体抗体

-悪性リンパ腫:β2-MG、sIL-2R、細胞診

-原発性脳腫瘍:細胞診

-PML:JCV-DNA

-感染性脳脊髄炎:髄液培養、各種PCRなど

-ミトコンドリア病:乳酸など

 

③脳/脊髄MRI

左上:小児感染免疫.2012;24(3):263-267

左下:UpToDate

右:ResearchGate

・特異的な診断マーカーのないADEMの診断に最も有用な検査です。

→ただし急性期には正常となる例もあり、MRI所見出現まで8週間を要した報告もあります。

→従って診断には有用ですが、MRIが正常でもADEMは否定できないことに注意します。

直径5mm-5cm多巣性不整境界不明瞭T2WI/FLAIR高信号を呈します。

・基本的に左右非対称ですが、灰白質病変は対称性を示す傾向があるとされます。

・MSのようなtumefactive lesionを呈し得ますが、mass effectが乏しいことが特徴とされます。

皮質下白質や深部白質に好発し、小脳脳幹脊髄視神経などにも病変を認め得ます。

視床大脳基底核灰白質にも認め得ますが、病変は主に灰白質-白質接合部に認めます。

・急性期病変の造影増強効果は一定せず全く造影されない症例もしばしば認めます。

・病変部に出血を伴うことがあり、この場合臨床的にも重症で進行も速いです。

急性出血性白質脳症(AHEM:Acute Hemorrhagic EncephaloMyelitis)と呼ばれます。

T1WI:原則として等信号を示し、病変を同定できないことが多いとされます。

DWI:高信号を呈し得ますが、ADCは上昇することが多いとされます。

※稀に拡散制限を示し、予後不良との関連も示唆されているようです。

脊髄病変:T2WIで灰白質-白質にまたがり高信号を呈し、灰白質がより高信号を呈します。

→また病変の広がり/分布として、long cord lesionskip lesionが特徴とされます。

・また、稀な所見ですが末梢神経障害例において神経根に造影増強効果を認めた報告もあります。

 

【治療】

・原則としてステロイドパルス療法+経口PSLによる後療法が行われます。

投与例:mPSL 1000mg 1日1回2時間かけて点滴 3-5日間。

→PSL 0.5-1.0mg/kg/日 1-2か月投与、慎重に漸減中止を検討。

※PSL減量に伴い再燃をきたす症例もあり、慎重に経過をフォローします。

ステロイドパルス療法の効果が不十分な場合、2クール目の追加IVIgが選択されます。

・治療不応例や重症例では血漿浄化療法が選択されることもあります。

麻疹後ADEM以外は予後良好で、成人例の半数、小児例の60-90%は完全回復します。

後遺症では運動障害の頻度が最も高いとされます。