キューピーです。
徒手筋力テスト(Manual Muscle Testing;MMT)は医学生のOSCEでも登場します。
基本的な身体診察だと思われがちですが、実は非常に奥深く難しく感じます。
また、カルテを見るとよく分からない筋肉の略語などでハードルが高くも感じます。
今回はMMTの評価法をできる限り簡潔にまとめてみました。
※この記事の内容が原因で生じたいかなる不利益にも責任は負いかねます。
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目次
- 【参考文献】
- 【総論】
- 【各論-体幹】
- 【各論-上肢】
- ①三角筋(Deltoid)
- ②上腕二頭筋(Biceps Brachii)
- ③上腕三頭筋(Triceps Brachii)
- ④手関節伸展(背屈)(wrist extensors;we)
- ⑤手関節屈曲(掌屈)(wrist flexors;wf)
- ⑥指伸筋(Extensor Digitorum;ED ≒指伸展(finger extensor;fe))
- ⑦浅指屈筋(Flexor Digitorum Superficialis;FDS)
- ⑧深指屈筋(Flexor Digitorum Profundus;FDP)
- ⑨短母指外転筋(Abductor Pollicis Brevis;APB)
- ⑩第一背側骨間筋(First Dorsal Interossei;FDI)
- ⑪小指外転筋(Abductor Digiti Minimi;ADM)
- 【各論-下肢】
- ●下垂足の鑑別のために確認すべき筋
【参考文献】
・今回参考文献の1つとした園生先生のMMTの教科書は必携です。
・少しでも神経診察をする機会のある先生は是非購入してみてください。
・正確なMMTの評価法を記した日本語の教科書があまりない気がするので、貴重な1冊と思います。
※特に非専門医であれば、針筋電図(nEMG)の部分は読まなくても良いと思います。
・もう1つの参考文献である神経診察の教科書もオススメです。
・MMTだけでなく神経診察全般について、"ここまで知っておくべき"という知識が凝縮されています。
【総論】
①grading(MRCスケール)
徒手筋力テスト(Manual Muscle Test;MMT)| 看護roo![カンゴルー]
・現在広く使用されているgradingは0-5の6段階で評価するMRCスケールです。
・このMRCスケールは分かりやすく、世界でも広く使用されています。
・一方でMMT4の範囲が広すぎるという指摘もあります。
・これを受けて上記の表に3-/3+/4-/4+/5-を加えた"modified MRCスケール"が提案されました。
・ただし、どういう場合に-や+を付けるか客観的な基準は定まっていない印象があります。
・更に問題となるのが、重力の影響を受けない(と思われる)遠位筋についてです。
→例えば手指や足趾は軽く、重力の影響はほとんどないものと考えられます。
→この場合、園生先生は3(3-,3+含む)なしでのgradingを推奨されています。
・私自身は園生先生の考え方を参考にgradingを行っています。
→0/1/1+/2-/2/2+/3-/3/3+/4-/4/4+/5-/5で筋によって3なしとしています。
②固定(fixation)
・MMTにおいて、近位の身体部分を固定(fixation)することがとても重要です。
→これにより1関節のみを調べるという最重要事項を達成できます。
・しばしば固定が正しくできておらず、医師間でMMTが異なるということが起きます。
※固定は必須の知識ですが、医学部の学習であまり強調されなかった印象があります。
・参考文献では前鋸筋筋力低下がある患者で、三角筋のMMTを評価する例が挙げられています。
→肩関節を外転させ、固定せずに上腕を上から押すと、三角筋筋力が正常でも外転肢位がbreakされます。
→これは前鋸筋筋力低下を反映しており、三角筋の筋力低下を必ずしも意味しません。
③適切な検査肢位(test position)
・適切な肢位は、筋が最大力を発揮できる肢位であるとされます。
・肢位を誤ると、健常者なのにbreakされるようなことが生じ得ます。
・1関節筋では、筋が最も収縮した(筋長が最短となる)肢位が多いです。
・上腕二頭筋などの2関節(以上)筋では、筋長中間位となることもあります。
④力の加え方
・検者がいきなり強い力を加えると、そのスピードについていけずにbreakが生じ得ます。
・この場合、本当は筋力低下がないにもかかわらず、筋力低下と判定されかねません。
・力を加える際は、徐々に強めるようにします。
【各論-体幹】
①頸部前屈(neck flexor;nf)
・胸鎖乳突筋、頸長筋、頭長筋、前斜角筋などが協働します。
・筋節:C1-5。
・肢位:仰臥位、頸部を最大前屈位に保持します(臍を見てもらう)。
・固定:被検者の体重が固定の役割を果たします。
・手技:前額部に示指を当てて、頸部後屈の方向に力を加えます。
・Grading:3-5が正確に評価できます。2以下の評価は座位(や側臥位)で行い得ます。
・臨床的にはPM/DMで早期に筋力低下を示しやすく、ミオパチーの鑑別上重要です。
→ただし、筋強直性ジストロフィーや縁取り空胞を伴う遠位型ミオパチー(DMRV)でも早期に障害されます。
※PM/DMで早期に筋力低下を示す筋として、腸腰筋も重要です。
・ALSでも障害され得て、障害の有無が予後にも関係することが示唆されているようです。
②頸部後屈(neck extensor;ne)
・頭板状筋、頸板状筋、頭(頸)半棘筋、頭最長筋、頸最長胸筋など傍脊柱筋群が協働します。
・筋節:C1-8。
・肢位:座位、頭部前後屈中間位で頸部後屈を指示します。
・固定:肩を保持します。
・手技:後頭部に手を当てて、頸部前屈の方向に力を加えます。
・Grading:2,4,5の評価ができます。前屈位から中間位まで戻せれば3とすることも提案されています。
※頸部への負担があるため、頸椎症疑いなどでは急速な運動とならないように注意します。
・いわゆるdropped head(首下がり)の原因となり得る筋群です。
→neのMMT低下がなければ、ジストニアなどを鑑別の上位とします。
・dropped headの鑑別疾患
Pract Neurol 2016;16:445–451,J Neurol Neurosurg Psychiatry 2002;73:1-7から作成
【各論-上肢】
①三角筋(Deltoid)
・筋節/末梢神経:C5(6)/腋窩神経。
・作用:肩関節の外転。
・肢位:両上肢を水平まで外転挙上して保持します。
・固定:両側同時の場合、両側の手の力が拮抗し、自動的に適切な体幹の固定が得られます。
・手技:両上腕遠位部に手を当てて、下方向に力を加えます。
・Grading:2以下の正確な評価は仰臥位で行います。水平位まで挙上できれば3です。
・C5筋節の示準筋です。
・C5障害による近位型頚椎症性筋萎縮症(proximal CSA)でしばしば障害されます。
・その他にも神経痛性筋萎縮症、ALS、PM/DM、MGなどで障害されやすいとされます。
・MGでは、MMTを繰り返すことで易疲労性を確認できることがあります。
②上腕二頭筋(Biceps Brachii)
・筋節/末梢神経:C5,6/筋皮神経。
・作用:肘関節の屈曲。
・肢位:座位、肩関節内転で上腕を体幹に付け、前腕は最大回外位で肘関節を90度屈曲します。
・固定:上腕遠位部、肘関節のすぐ近位を持って固定します。
・手技:前腕遠位部屈側に手を当てて、肘関節を伸ばす力を加えます。
・Grading:3-5が正確に評価できます。
・ALSや筋炎など多くの神経筋疾患において、nEMGにおける異常所見を検出しやすい筋です。
③上腕三頭筋(Triceps Brachii)
・筋節/末梢神経:C7,8(6)/橈骨神経。
・作用:肘関節の伸展。
・肢位:座位、肩関節軽度外転屈曲位、前腕回外位で肘関節を軽度(15-60度)屈曲します。
・固定:上腕遠位部-肘部を持って固定します。
・手技:前腕遠位伸側に検者の手-前腕屈側を当てて、肘関節を曲げる力を加えます。
・Grading:1,2,4,5が評価できます。
※肩関節90度外転位で、肘関節屈曲位からROM全域で伸展できれば2ととります。
・C7筋節の示準筋です。
④手関節伸展(背屈)(wrist extensors;we)
・長/短橈側手根伸筋(ECRL/ECRB)、尺側手根伸筋(ECU)、指伸筋(ED)などが協働します。
・肢位:座位、前腕回内位で手掌面を下に向け、指を握ったまま手関節を上に反らせます。
・固定:前腕遠位部を持って固定します。
・手技:手背に手を当てて、手関節屈曲の方向に力を加えます。
・Grading:1,2,4,5が評価できます。手関節以遠の重さはわずかで、2と3の区別は困難です。
・主にECRL/ECRBの評価となり、C6筋節の障害の指標になります。
⑤手関節屈曲(掌屈)(wrist flexors;wf)
・橈/尺側手根屈筋(FCR/FCU)、長掌筋、浅指屈筋(FDS)、深指屈筋(FDP)などが協働します。
・肢位:座位、前腕回外位で手掌面を上に向け、指を握ったまま手関節を屈曲します。
・固定:前腕遠位部を持って固定します。
・手技:手屈側に手を当てて、手関節伸展の方向に力を加えます。
・Grading:1,2,4,5が評価できます。手関節以遠の重さはわずかで、2と3の区別は困難です。
・C7-T1(特にC8)障害で筋力低下をきたし得ます。
⑥指伸筋(Extensor Digitorum;ED ≒指伸展(finger extensor;fe))
・筋節/末梢神経:C7,8/後骨間神経。
・作用:2-5指のMP関節の伸展。
・肢位:肘を曲げ、前腕回内、手関節中間位でMP関節以遠の最大伸展位を保持します。
・固定:中手骨をつかんで固定します。
・手技:2-5指のPIP関節に検者の示指を当てて、指の屈曲方向に力を加えます。
・Grading:0,1,2,4,5が評価できます。
・指ごとに障害の程度が異なる場合、ED1(示指)-ED4(小指)を分けて記載します。
・遠位型CSA(C8神経根症)でしばしば障害され、下垂指を呈し得ます。
⑦浅指屈筋(Flexor Digitorum Superficialis;FDS)
※深指屈筋(FDP)と合わせて”finger flexor(ff)”として評価を行うこともあります。
→特に機能性運動障害においてgive way weaknessを確認しやすいとされます。
・筋節/末梢神経:T1/正中神経。
・作用:2-5指のPIP関節の屈曲。
・肢位:肘を曲げ、前腕回外位で2-5指のMP/PIP/DIP関節を握り込み、PIP関節の最大屈曲位を保持します。
・固定:調べる指の基節をつかんで固定します。
・手技:調べる指の中節屈側に検者の示指を当てて、PIP関節の伸展方向に力を加えます。
・Grading:0,1,2,4,5が評価できます。2より弱い場合、基節を保持した状態でPIP関節を伸展位から曲げられるか確認します。
・FDPもPIP関節の屈曲作用があり、FDPのMMTより弱いことは評価できません。
→ただし、FDPよりFDSが弱いことを知ることは臨床上重要性が低いとされます。
→一方で、FDSよりFDPが弱い場合、種々の鑑別疾患があり重要です(後述)。
→このためFDPより弱いFDSのMMTが評価できないことは、大きな問題にならないとされます。
・指ごとにFDS1(示指)-FDS4(小指)を分けて評価することが推奨されます。
・T1筋節の示準筋です。T1支配筋として、他に短母指外転筋(APB)が重要です。
⑧深指屈筋(Flexor Digitorum Profundus;FDP)
※浅指屈筋(FDS)と合わせて”finger flexor(ff)”として評価を行うこともあります。
→特に機能性運動障害においてgive way weaknessを確認しやすいとされます。
・筋節/末梢神経:示指(FDP1)=T1,小指(FDP4)=C8/示指-中指=正中神経,環指-小指=尺骨神経。
・作用:2-5指のDIP関節の屈曲。
・肢位:肘を曲げ、前腕回外位で2-5指のMP/PIP/DIP関節を握り込み、DIP関節の最大屈曲位を保持します。
・固定:調べる指の中節(よりやや近位)をつかんで固定します。
・手技:調べる指の末節屈側に検者の示指を当てて、DIP関節の伸展方向に力を加えます。
・Grading:0,1,2,4,5が評価できます。2より弱い場合、中節を保持した状態でDIP関節を伸展位から曲げられるか確認します。
・指ごとにFDP1(示指)-FDP4(小指)を分けて評価することが推奨されます。
・特にFDP1が正中(-前骨間)神経/T1支配、FDP4が尺骨神経/C8支配であることは極めて重要です。
※FDP2/3は変異が大きく、個人差があるとされるため評価に適さないとも考えられます。
・ミオパチーでも障害されやすく、特に封入体筋炎(IBM)が有名です。
⑨短母指外転筋(Abductor Pollicis Brevis;APB)
・筋節/末梢神経:T1/正中神経(特に純粋支配で臨床的にも重要)。
・作用:母指の垂直外転。
・肢位:手掌は天井向き、母指を手掌に垂直にした外転位で保持します。
・固定:非検査手で被検者の手掌(特に示指MP関節)をつかんで保持します。
・手技:示指を被検者の母指MP関節に当てて、母指を手掌面に戻す方向に力を加えます。
・純粋な正中神経支配であり、手根管症候群の診断等で重要です。
・T1支配筋としても重要です。
・ALSでも筋力低下や筋萎縮が見られやすい筋として重要です。
⑩第一背側骨間筋(First Dorsal Interossei;FDI)
・筋節/末梢神経:C8,T1/尺骨神経。
・作用:示指の外転。
・肢位:手掌面を下にして指をパーに開き、示指の母指側への最大外転位を保持します。
・固定:示指の中手骨-MP関節部をつかんで固定します。
・手技:示指のPIP関節に検者の示指を当てて、内転方向に力を加えます。
・Grading:0,1,2,4,5が評価できます。2より弱い場合、示指を自然な位置から外転方向に動かせるか確認します。
・C8および尺骨神経支配の代表筋です。
・ALSで最も早く障害される筋の1つで、split hand(FDI,APBの萎縮が目立ち、ADMは保たれる)が有名です。
・錐体路障害でもADMと並び障害されやすいですが、APBや指屈筋は保たれます。
→C8が障害されてT1が保たれるパターンと酷似するため、鑑別を要します。
⑪小指外転筋(Abductor Digiti Minimi;ADM)
・筋節/末梢神経:C8,T1/尺骨神経。
・作用:小指の外転。
・肢位:手掌面を下にして指をパーに開き、小指の尺側への最大外転位を保持します。
・固定:小指の中手骨-MP関節部をつかんで固定します。
・手技:小指のPIP関節に検者の示指を当てて、内転方向に力を加えます。
・Grading:0,1,2,4,5が評価できます。2より弱い場合、小指を自然な位置から外転方向に動かせるか確認します。
・C8および尺骨神経支配の代表筋です。
・錐体路障害ではFDIと並び(それ以上に)障害されやすい筋です。
※ただし健常者でもbreakされることがあり、評価の際は左右差に注意します。
【各論-下肢】
①腸腰筋(Iliopsoas)
・筋節/末梢神経:L3,4/大腿神経,腰神経根。
・作用:股関節の屈曲。
・肢位:仰臥位、股関節・膝関節とも90度屈曲位で、股関節屈曲方向に力を入れてもらいます。
・固定:被検者の体重が固定の役割を果たします。
・手技:大腿遠位部伸側に検者の手か前腕屈側を当てて、股関節伸展の方向に力を加えます。
・Grading:2-5の評価ができます。3は端坐位で大腿を持ち上げられるか、2は側臥位で評価します。
※筋腹は触れにくく、0と1の区別は困難とされます。
・(頸部前屈と同じく)PM/DMで早期より筋力低下を示します。
→参考文献によると園生先生は、疑い例でのnEMGで上腕二頭筋にFib/PSWを認めない場合に次に選択する被検筋としているようです。
・錐体路障害で(母趾背屈と並び)最も早期に筋力低下を示します。
②大殿筋(Gluteus Maximus;GMax)
・末梢神経:下殿神経。
・作用:股関節の伸展。
・肢位:仰臥位、股関節と膝関節を伸ばした状態で、足をベッドに押し付けます。
・固定:非検査手で被検者の骨盤の上前腸骨棘部を強く押さえます。
・手技:前腕屈側を被検者の膝後面に当てて、天井方向に力を加えます。
・Grading:4,5の評価はできますが、それ以外は正確な評価ができないとされます。
・軽度の筋力低下は検出しにくいです。
・錐体路障害や筋炎において、かなり筋力低下をきたしにくい筋とされます。
→筋力低下が明らかな場合、機能性運動障害も鑑別になります。
③大腿四頭筋(Quadriceps Femoris;QF)
・筋節/末梢神経:L3,4/大腿神経。
・作用:膝関節の伸展。
・肢位:仰臥位、膝関節30-45度で膝から下を持ち上げ、膝関節完全伸展位よりわずかに屈曲位で保持します。
※完全伸展位にするとロックがかかるためとされます。
・固定:膝の後面に検者の前腕屈側を当てて、空中で保持します。
・手技:下腿遠位部前面に手を当てて、押し下げる力を加えます。
・Grading:0-5の評価ができます。2の正確な評価は側臥位で行います。
・封入体筋炎やジストロフィノパチー(Duchenne型/Becker型)では早期から低下します。
→一方で空胞を伴う遠位型ミオパチー(DMRV)では保たれることが有名です。
・錐体路障害では筋力低下をきたしにくいとされます。
④大腿屈筋群(hamstrings)
・半腱様筋、半膜様筋、大腿二頭筋長(短)頭の総称です。
・筋節/末梢神経:L5,S1/脛骨神経(大腿二頭筋短頭は総腓骨神経)。
・作用:膝関節の屈曲。
・肢位:仰臥位、股関節・膝関節とも90度屈曲位で保持します。
・固定:膝を持って固定します。
・手技:下腿遠位部後面に検者の前腕遠位屈側を当てて、押し上げる力を加えます。
・Grading:1,2,4,5の評価ができ、2の評価は側臥位で行います。
※3の評価のために腹臥位で膝関節屈曲させる場合、1関節筋である大腿二頭筋短頭のみの評価となることに注意します。
・腸腰筋や母趾背屈ほどではないものの、錐体路障害で比較的障害されやすい筋群です。
⑤前脛骨筋(Tibialis Anterior;TA)
・筋節/末梢神経:L4,5(L5が中心)/深腓骨神経。
・作用:足関節の背屈、背屈位での内反。
・肢位:仰臥位、股関節と膝関節を伸ばした状態で、足関節の最大背屈位をとります。
・固定:非検査手で被検者の下腿部を握ります。
・手技:被検者の足背に手を当てて、足関節を底屈させる方向に力を加えます。
・Grading:1,2,4,5の評価ができます。
・障害で下垂足をきたします。(総)腓骨神経障害の他にL5神経根症などが有名です。
→両者の鑑別については、しびれの診療のコラムにも言及があります。
・その他に遠位型ミオパチーやALSなどが下垂足を生じ得る重要疾患です。
⑥腓腹筋(Gastrocnemius;GC)
※GCとしがちですが、参考文献ではヒラメ筋も含む下腿三頭筋として記載があります。
・筋節/末梢神経:L5,S1(S1が特に重要)/脛骨神経。
・作用:足関節の底屈。
・肢位:仰臥位、股関節と膝関節を伸ばした状態で、足関節の最大底屈位をとります。
・固定:非検査手で被検者の下腿遠位部を握ります。
・手技:被検者の足底に手を当てて、足関節を背屈させる方向に力を加えます。
・錐体路障害では高度の麻痺となるまで筋力が保たれます。
・S1障害で筋力低下を呈する筋として重要です。
※片足立ちで踵を上げる"Danielsの方法"は参考文献は否定的で、実臨床でも最近は見かけない印象です。
⑦母趾背屈(≒長母趾伸筋(extensor hallucis longus;EHL))
・母趾背屈はEHLと短母趾伸筋(EHB)の作用で、主に前者によるとされます。
※経験的にはEHLとして記載してしまうことも多いと思います。
・筋節/末梢神経:L5/深腓骨神経。
・肢位:仰臥位、股関節・膝関節伸展位、足関節は軽度背屈位で、母趾の最大背屈位を保持します。
・固定:足部をつかんで固定します。
・手技:母趾IP関節に検者の示指を当てて、底屈方向に力を加えて、MP関節の最大背屈位をbreakできるか見ます。
・Grading:2,4,5が評価できます。筋腹は触れないため、0と1の区別は困難です。
・TA同様にL5障害でも総・深腓骨神経麻痺でも障害されます。
・錐体路障害では腸腰筋と並んで最も早期に筋力低下を呈し得る重要な筋です。
・また、距離依存性障害の多発性ニューロパチーなどでも早期に筋力低下をきたし得ます。
●下垂足の鑑別のために確認すべき筋
⓪基本事項
・下垂足の重要な鑑別疾患に腓骨神経障害とL5神経根症があります。
・この鑑別には、L5支配であるものの腓骨神経支配でない筋のMMTが有用です。
・検査をせずにMMTだけで鑑別を考えることができるため、面白いと思います。
・具体的に確認するべきと考えられる筋のMMTの評価法をまとめます。
①後脛骨筋(Tibialis Posterior;TP)
・筋節/末梢神経:L5/脛骨神経。
・作用:足関節底屈位での足関節の内反。
・肢位:仰臥位、股関節・膝関節伸展、足関節底屈位で、最大背内反位を保持します。
・固定:下腿遠位をつかんで固定します。
・手技:足内側の足底寄りに手を当てて、足関節を外反・やや背屈方向に力を加えます。
・Grading:0,1,2,4,5が評価できます。
②長母趾屈筋(Flexor Hallucis Longus;FHL)
・筋節/末梢神経:L5,S1/脛骨神経。
・作用:母趾IP関節の屈曲。
・肢位:仰臥位、股関節・膝関節伸展位、足関節は背屈位で、母趾の最大屈曲位を保持します。
・固定:足関節を背屈させ、母趾基節を検者の母指と示指以下ではさんで固定します。
・手技:母趾末節に検者の示指を当てて、IP関節の伸展方向に力を加えます。
・Grading:2,4,5が評価できます。筋腹は触れないため、0と1の区別は困難です。
※長趾屈筋(FDL)も同じ理由で下垂足の鑑別に有用ですが、生理的にbreakされやすい欠点があります。