キューピーです。
パーキンソン病は頻度の高い神経疾患です。
また、高齢化社会の現代において患者数も増加傾向にあります。
併存症としても多く、あらゆる科で診療の機会があると思います。
今回はとっつきにくいパーキンソン病の薬物治療について勉強してみました。
※この記事の内容が原因で生じたいかなる不利益にも責任は負いかねます。
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目次
【参考文献】
・今回のパーキンソン病診療の参考文献は、非常に分かりやすくてオススメです。
・基本的にはガイドラインを軸としつつ、実臨床で役立つ内容となっています。
・ガイドラインのみでは具体的な処方などが分かりにくいと思います。
→この参考文献を併用すれば、EBMに沿った診療が可能になると思います。
・少しでもパーキンソン病診療に関わる方は、是非購入してみてください。
【診断基準】
※(MDS診断基準の)パーキンソニズム:運動緩慢+静止時振戦か筋強剛を認めるもの。
・左:MDS診断基準で、2015年に提唱された世界的な診断基準です。
→established:特異度90%以上を目標とした基準です。
→probable:感度/特異度80%以上を目標とした基準です。
・右:本邦の指定難病に対する医療費助成制度で推奨される診断基準です。
【抗パーキンソン病薬】
⓪基本事項
・運動症状(無動/振戦/筋強剛/姿勢保持障害など)に対する治療が主体になります。
・早期PDにはレボドパ、ドパミンアゴニスト(DA)、MAO-B阻害薬を検討します。
→これらとその他の非ドパミン系薬剤に大別して考えると分かりやすいです。
・なお未治療期間が長くなると障害が固定する可能性が示唆されています。
→特別な理由がなければ、診断後早期の治療開始が推奨されます。
①レボドパ/DCI配合剤
・レボドパは運動症状改善につき、最も効果が高い薬剤です。
・しかし末梢でも代謝され、悪心/嘔吐などの原因にもなります。
→末梢での代謝を防ぐのがDCI(ドパ脱炭酸酵素阻害薬)の役割です。
→そのため、現在では原則としてDCIとの合剤を用いることになっています。
・初期治療例:レボドパ/カルビドパ 1回50mg 1日2-3回。
※商品名例:メネシット®、ネオドパストン®、レプリントン®、ドパコール®など。
→初期治療開始後は週単位で内服を継続した後に、効果を評価します。
・維持治療例(2-4週間後):レボドパ/カルビドパ 1回100mg 1日3回。
※100-100-50mgの1日250mgも選択肢となります。
※65歳未満では増量せずにMAOB阻害薬やドパミンアゴニストを併用します。
・進行期治療例:レボドパ/カルビドパ 1回100-150mg 1日6-9回。
→これでも添付文書の最大用量である1500mg/日以下での使用となります。
→ただし過剰なオン状態やその他の副作用に注意することも重要です。
・禁忌:閉塞隅角緑内障、過敏症。
・副作用:悪心/嘔吐、ジスキネジア、眠気、起立性低血圧、衝動制御障害など。
・若年発症例ではジストニアが誘発されて内反尖足や斜頸が出現することがあります。
→ジストニアが許容できる程度になるまで減量し、トリヘキシフェニジルを併用します。
●レボドパ/ベンセラジドについて
・DCIはカルビドパの他にベンセラジドがあります。
・臨床的には両者の効果に大きな差はないことが多いとされます。
・本邦ではカルビドパとベンセラジドでレボドパとの配合比率が異なります。
→レボドパ/カルビドパは100:10、レボドパ/ベンセラジドは100:25です。
・ベンセラジドは配合比率が高いため、末梢でのドパミン生成抑制作用が高い傾向があります。
→カルビドパに比べて、悪心/嘔吐や動悸などの副作用が出にくいとされます。
→レボドパ/カルビドパで末梢性副作用が出現した場合に変更を考慮します。
・商品名例:イーシー・ドパール®、ネオドパゾール®、マドパー®。
②ドパミンアゴニスト(DA)
(0)基本事項
・DAはレボドパより血中半減期が長く、持続的にドパミン受容体を刺激できます。
→いわゆる”持続的ドパミン刺激(CDS)”という概念とも関連してきます。
→これは、”運動合併症は間欠的なドパミン刺激などが原因である”と考える概念です。
→従って、DAはレボドパに比べてジスキネジアやウェアリングオフが生じにくいとされます。
・一方でDAは運動症状への効果においてレボドパに劣ります。
→GLでは”精神症状発現低リスク”、”65歳未満”、”症状改善を優先させる事情なし”を満たす場合に第一選択となり得ます。
→ただし、10年以上の治療例では運動合併症リスクに差がないことも示唆されています。
→また、DA単剤での治療の有効期間は3年程度とされます。
→従って、QOL低下に対して積極的にレボドパの併用を検討することが重要です。
・DAは化学的な構造から大きく”麦角系”と”非麦角系”に分類されます。
・麦角系:ブロモクリプチン、ペルゴリド、カベルゴリン。
・非麦角系:プラミペキソール、ロピニロール、ロチゴチン、アポモルヒネ、タリペキソール。
→麦角系では心臓弁膜症や胸膜線維症などの副作用に注意が必要です。
→特に前者が問題となり得ることからGLでも非麦角系が第一選択とされます。
・DAの導入:副作用の評価のため、添付文書に従い緩徐に漸増していきます。
→消化器症状にはドンペリドンを検討し、その他の副作用は減量や薬剤変更を検討します。
・DAの減量:急な減量によりDA離脱症候群(DAWS)を起こし得るため、緩徐に減量します。
・用いられる頻度の高いプラミペキソール、ロピニロール、ロチゴチンを記載します。
⑴3剤の共通事項
・3剤とも心臓弁膜症のリスクの少ない”非麦角系”に該当します。
・いずれも有効性については大きな差異はないものと考えられています。
・共通の副作用:消化器症状、睡眠障害(過眠や突発性睡眠など)、幻覚/妄想、起立性低血圧、末梢性浮腫、衝動制御障害など。
→特に麦角系に比して日中過眠や突発性睡眠などの睡眠障害の頻度が高いとされます。
→高所や危険な作業を要したり、自動車運転が必要な場合は麦角系を検討します。
※交通事故にも繋がりかねないため、特に注意するべきポイントだと思います。
⑵プラミペキソール
・振戦やうつ/不安に対して有効であるとのエビデンスがあります。
→これらの症状が目立つ患者には積極的に使用を検討します。
・速放剤と徐放剤があり、両者とも効果は同等で即日切り替えも問題ないと考えられます。
→CDSの観点から、特別な理由がなければ徐放剤を選択します。
・徐放剤処方例:ミラペックス®LA錠 0.375mg 1回1錠 1日1回で開始。
→1週間後に0.75mg/日に増量し、その後1週間ごとに0.75mg/日ずつ増量します。
→維持量は1.5-4.5mg/日とし、原則として1日1回投与です。
→禁忌:妊婦、CCr<30の高度腎機能障害、過敏症。
→30≦CCr<50の場合、開始1週間は隔日投与、最大維持量は2.25mg/日とします。
・速放剤処方例:ビ・シフロール® 0.125mg 1回1錠 1日2回で開始。
→1週間後に0.5mg/日に増量し、その後1週間ごとに0.5mg/日ずつ増量します。
→維持量は1.5-4.5mg/日とし、1.5mg以上になったら投与回数を1日3回に分割します。
→禁忌:妊婦、過敏症。
⑶ロピニロール
・速放剤と徐放剤があり、両者とも効果は同等と考えられます。
→CDSの観点から、特別な理由がなければ徐放剤を選択します。
・徐放剤処方例:レキップ®CR錠 2mg 1回1錠 1日1回で開始。
→1週間後に4mg/日に増量し、その後必要に応じて1週間以上あけて2mg/日ずつ増量します。
→最大量は16mg/日とし、いずれの用量でも1日1回投与とします。
→禁忌:妊婦、過敏症。
・貼付剤処方例:ハルロピ®テープ 8mg 1日1回 24時間ごとに貼り替え。
→必要に応じて1週間以上あけて8mg/日ずつ増量します。
→最大量は64mg/日とし、いずれの用量でも1日1回貼り替えとします。
→禁忌:妊婦、過敏症。
⑷ロチゴチン
・他の非麦角系に比して、有意に衝動制御障害が少ない可能性があります。
→すくみ足、睡眠障害、アパシー、排尿機能障害への有用性も報告されています。
・上記に加えて貼付剤であることからも、比較的使用頻度が高いように感じます。
・処方例:ニュープロ®パッチ 4.5mg 1日1回 24時間ごとに貼り替え。
→必要に応じて1週間ごとに4.5mg/日ずつ増量します。
→維持量は9-36mg/日とし、いずれの用量でも1日1回貼り替えとします。
・禁忌:妊婦、過敏症。
⑸DA離脱症候群(DAWS)
・DAWS:Dopamine Agonist Withdrawal Syndromeです。
・DAを急激に減量した場合に生じることがある離脱症候群とされます。
・症状:無感情、不安、うつ、疲労感、発汗、疼痛など。
・特に衝動制御障害が生じている症例はリスクとなる可能性があります。
→衝動制御障害を認識した場合、早期にDAを減量/中止します。
③MAO-B阻害薬
(0)基本事項
・MAO-Bはモノアミン酸化酵素で、脳内ドパミンの約80%の代謝に関与します。
→これを阻害することで、脳内ドパミン濃度を上昇させます。
・GLではDAと同じく”精神症状発現低リスク”、”65歳未満”、”症状改善を優先させる事情なし”を満たす場合に第一選択となり得ます。
→参考文献ではキレが良いという経験的感覚から、DAを優先するとのことでした。
→単独使用例として、DA使用時に眠気等の副作用が問題となった場合があります。
→進行期にはしばしばレボドパと併用され、効果延長やオフ時の底上げ効果が期待できます。
→更に進行すると、ジスキネジアや起立性低血圧などの副作用で、減量傾向となります。
⑴セレギリン
・処方例:エフピー®OD錠 2.5mg 1回1錠 1日1回 朝食後で開始。
→必要に応じて2週間ごとに2.5mg/日ずつ増量します。
→維持量は7.5(単独療法では10)mg/日とします。
→5.0mg/日以上では朝/昼食後に分服し、特に7.5mg/日では5.0-2.5mgとします。
・禁忌:統合失調症既往、覚醒剤/コカイン異常症既往、過敏症。
・併用禁忌:ペチジン、トラマドール、タペンタドール、サフラジン、三環系抗うつ薬、SSRI、SNRIなど多数。
※詳細は添付文書を参照ください。三環系抗うつ薬は中止後14日以内でも禁忌です。
・副作用:ジスキネジア、幻覚、ジストニア、構音障害、不安、消化器症状、起立性低血圧など。
⑵ラサギリン
・1mg/日でうつや不安などの症状悪化を優位に抑制し得るとされます。
→このような症状が目立つ症例では、積極的に使用を考慮します。
・処方例:アジレクト®錠 1mg 1回1錠 1日1回。
※軽度肝機能障害、低体重、高齢者では低用量からの投与も検討します。
・禁忌:中等度(Child-Pugh B)以上の肝機能障害、過敏症。
・併用禁忌:他のMAO阻害薬、トラマドール、三環系抗うつ薬、SSRI、SNRIなど多数。
※詳細は添付文書を参照ください。
・副作用:ジスキネジア、幻覚、ジストニア、消化器症状、起立性低血圧など。
⑶サフィナミド
・ドパミン作動性作用以外にNaチャネル阻害やグルタミン酸放出抑制作用もあります。
・100mg/日でうつや不安、疼痛や感覚障害に対する有効性も示唆されています。
・また、レボドパ誘発性のジスキネジアを抑制し得ることが示唆されています。
→上記のような付加効果もあるため、今後使用頻度が増えるかもしれません。
・処方例:エクフィナ®錠 50mg 1回1錠 1日1回。
→前述の非運動症状への効果を期待する場合、早期に100mg/日に増量します。
・禁忌:重度(Child-Pugh C)の肝機能障害、過敏症。
・併用禁忌:他のMAO阻害薬、トラマドール、三環系抗うつ薬、SSRI、SNRIなど多数。
※詳細は添付文書を参照ください。
・副作用:ジスキネジア、幻覚、傾眠、消化器症状、起立性低血圧など。
④COMT阻害薬
・COMTはDCI投与下で末梢におけるレボドパの代謝の主役になります。
→これを阻害することでレボドパの脳内移行に促進的に働きます。
・進行期のウェアリングオフに対してオン時間の延長効果が確認されています。
→原則としてウェアリングオフを認める症例にレボドパ/DCI配合剤と併用します。
・投与例:オンジェンティス®錠 25mg 1回1錠 1日1回。
※図のごとく、レボドパ/DCI配合剤及び食事の前後1時間以上あけて投与します。
・禁忌:褐色細胞腫などのカテコールアミン分泌腫瘍、重度肝機能障害(Child-Pugh分類C)、悪性症候群又は非外傷性横紋筋融解症の既往、過敏症。
・副作用:ジスキネジア、幻覚、起立性低血圧、傾眠/突発性睡眠、衝動制御障害など。
⑤抗コリン薬
・早期PDの全般的症状を改善し得ます。
・特に振戦についてはレボドパ不応性でも改善し得ます。
・GL上は進行期PDへの有効性はエビデンスが乏しく、判定不能とされています。
・なお、6か月以上の投与で認知症のリスクが上昇することが分かってきました。
→高齢または認知機能低下がある場合は使用を控えます。
→上記に当てはまり、特に振戦への効果を期待する場合はゾニサミドを選択します。
・処方例:トリヘキシフェニジル 1mg/日で開始。
→2日目に2mg/日に増量し、以降は1日につき2mgずつ増量します。
→維持量は6-10mgとし、1日3-4回に分割して投与します。
※商品名例:アーテン®、パーキネス®、セドリーナ®。
・禁忌:閉塞隅角緑内障、重症筋無力症、過敏症。
・副作用:認知機能障害、せん妄、幻覚、口渇、排尿障害、便秘など。
⑥ゾニサミド
・レボドパ併用下で効果を発揮します。詳細な作用機序は不明です。
・25-50mg/日で運動症状(特に振戦)の改善効果があるとされます。
・また、50mg/日でオフ時間の短縮が期待できます。
・近年、レビー小体型認知症のパーキンソニズムに対しても有用性が報告されました。
・原則として進行期で、レボドパを含む複数の薬剤投与下での併用を検討します。
→特に振戦が目立ち、高齢または認知機能低下がある場合に検討します。
・処方例:トレリーフ®錠 25mg 1回1(-2)錠 1日1回。
→前述のごとく、オフ時間の短縮を狙う場合は50mg(2錠)/日とします。
・禁忌:妊婦、過敏症。
・副作用:傾眠、ジスキネジア、抑うつ、めまい、食思不振、浮腫、薬疹など。
⑦アマンタジン
・早期PDに有効とされますが、症状改善率は高くありません。
・レボドパ誘発性ジスキネジアに対して有効で、平均3年以上は効果が持続します。
→抗パーキンソン病薬の調整で改善しないレボドパ誘発性ジスキネジアに投与を検討します。
・処方例:シンメトレル®錠 100mg/日 1日1-2回で(分割)投与。
→1週間後に維持量として200mg/日 1日2回で分割投与とします。
→最大量は300mg/日とします。
※レボドパ誘発性ジスキネジアへの効果を期待する場合は、原則として300mg/日とします。
・禁忌:(透析を要するような)重篤な腎機能障害、妊婦、過敏症。
・副作用:ミオクローヌス、せん妄、(投与中止後の)高体温症、消化器症状など。
⑧ドロキシドパ
・すくみ足(や無動)に有効とされ、起立性低血圧にも短期的には有効とされます。
→すくみ足や起立性低血圧を認める場合に投与を検討します。
・処方例:ドプス®OD錠 100mg 1回1錠 1日1回で開始。
→隔日に100mgずつ増量し、維持量を決定します。
→標準維持量は600mg/日(1日3回分割投与)で、最大量は900mg/日とします。
※DCIは中枢神経外でのノルアドレナリンへの変化を阻害します。
→レボドパ/DCI合剤を併用する場合は、多めの投与量(600-900mg/日)を考慮します。
・禁忌:閉塞隅角緑内障、重篤な末梢血管病変のある血液透析患者、妊婦、過敏症。
・併用禁忌:ハロゲン含有吸入麻酔剤(ハロタン等)、カテコールアミン製剤(イソプレナリン等)。
・原則禁忌:コカイン中毒、心室頻拍。
・副作用:消化器症状、血圧上昇、頭痛、幻覚、動悸など。
⑨イストラデフィリン
・アデノシンA2A受容体拮抗薬で、神経の興奮を抑えて効果を発揮するとされます。
・20-40mg/日でオフ時間の短縮およびオン時の運動症状改善が認められています。
→原則として進行期のオフ時間短縮を狙う場合にレボドパとの併用を検討します。
→特に罹病期間が短く、運動合併症の出現期間が短い症例で有効とされます。
・処方例:ノウリアスト®錠 20mg 1回1(-2)錠 1日1回。
→40mg/日とする場合は、特にオン時の運動症状改善を期待する場合です。
・禁忌:重度の肝障害、妊婦、過敏症。
・副作用:ジスキネジア、便秘、傾眠、幻視、胸部不快感など。
※虚血性心疾患患者では不整脈が悪化する可能性があり、慎重投与です。
●薬剤間の換算
・上記の表が参照になります。
・レボドパ/DCI配合剤の内服ができない場合、点滴静注とすることがあります。
→この場合、しばしばドパストン®静注を用います。
→換算量はレボドパ/DCI配合剤 100mgに対して50(-100)mgです。
→1日2-3回程度に分けて、1回1-2時間かけて投与します。
※添付文書の用量だと、しばしば大幅に用量不足となることがあります。
【運動合併症の薬物治療】
⓪基本事項
右:運動合併症(ウェアリングオフ、ジスキネジア)| PDネット
・運動合併症はウェアリングオフやジスキネジアなどが該当します。
・基本的には”進行期”PDで問題になるとされます。
・進行期の定義:5回/日以上のレボドパ内服+2時間以上のオフ時間or1時間以上のトラブルサムジスキネジア。
※"トラブルサム"とは日常生活を阻害する程度を指します。
・上記のように十分なレボドパ使用下での運動合併症の出現は進行期PDを意味します。
①ウェアリングオフの治療
・基本的には⓪で示したGLの図に沿って治療を進めていきます。
・レボドパはGLでは1日5回までの投与が推奨されています。
→6回以上とする際はアドヒアランス低下や副作用に特に注意が必要です。
・DAはCDSの概念からも推奨され、レボドパ増量よりも優先し得ます。
→ただし高齢、認知機能低下、精神症状がある場合は開始/増量に注意が必要です。
→この場合はレボドパ増量を優先し得ます。
・またドパミン附随薬の併用も選択肢となります。
→エンタカポン、MAO-B阻害薬、イストラデフィリン、ゾニサミドなどです。
②ジスキネジアの治療
・peak dose dyskinesia:血中濃度が高いときに生じるジスキネジアです。
→ピーク時のレボドパの濃度を下げることが治療となります。
→従ってレボドパの減量+投与回数増加またはDA併用により対応します。
・diphasic dyskinesia:血中濃度の上昇期または下降期に生じるジスキネジアです。
→急激な血中濃度の変動を防ぐことが治療となります。
→従ってDAやドパミン附随薬の併用/増量により対応します。
・いずれの場合でも、薬剤調整で改善しない場合はアマンタジンが検討できます。
【非運動症状の薬物治療】
①便秘
・腸閉塞や麻痺性イレウスの原因にもなり、消化管穿孔なども引き起こし得ます。
・頻度は高いですが、GL上は高いエビデンスのある治療法はないものとされています。
→食物繊維や水分の摂取および適度に身体を動かすことと薬物療法の記載があります。
→薬物療法:酸化Mg、センノシド、モサプリド、ルビプロストンなどが記載されています。
・便秘をきたす抗パ薬(DA/抗コリン薬/アマンタジンなど)の減量や中止も検討します。
②下部尿路症状
・夜間頻尿、尿意切迫感、切迫性尿失禁などの蓄尿障害が多いとされます。
→GLでは膀胱選択性の高い抗コリン薬(e.g.ソリフェナシン)やミラベグロンが記載されています。
→ミラベグロンはアドレナリンβ3刺激作用を持ち、血圧上昇に注意を要します。
・排尿障害にはウラピジル、タムスロシン、ナフトピジルが選択肢となります。
③睡眠障害
⑴日中過眠/突発性睡眠
・日中過眠は夜間睡眠障害に起因して生じ、頻度は15-50%とも言われています。
→夜間睡眠障害は不眠、レム睡眠行動異常症、夜間頻尿などが関連しています。
→対応策は夜間睡眠障害の改善とDA減量の検討となります。
→また、特に強い日中過眠を訴える患者ではモダフェニルが有用である可能性があります。
※ただし本邦では保険適用外です。
・突発性睡眠は予兆なく寝入り、数分で目覚める発作です。
→対応策はDA減量の検討ですが、十分なエビデンスのある治療がないのが現状です。
→また、突発性睡眠が出現している患者では危険を伴う作業を控えてもらいます。
⑵夜間不眠
・特に入眠障害や中途覚醒などは60%以上で認めるとされます。
・原因:寝返り困難、下肢ジストニア、下肢静止不能症候群、夜間頻尿など。
・十分なエビデンスのある治療がないのが現状です。
※GLではエスゾピクロン、ロチゴチンなどの記載があります。
⑶レム睡眠行動異常症
・簡易的な確認に”睡眠中に夢の中の行動を実演していると言われたり、感じたりしたことがあるか”という質問が役に立ちます。
→レム睡眠行動異常症の診断につき感度94%、特異度87%という報告があります。
・確定診断には以下の”睡眠障害国際分類 第3版(ICSD-3)”の診断基準を使用します。
下記のA-Dを満たす場合、レム睡眠行動異常症と診断する。
A:睡眠と関連した発声や複雑な運動行動のエピソードが繰り返される。
B:これらの行動は、睡眠ポリグラフ検査によりレム睡眠中に生じていると記録され、あるいは夢内容の行動化の病歴によって、レム睡眠中に生じていると推定される。
C:睡眠ポリグラフ検査により、筋緊張消失を伴わないレム睡眠(RWA)が記録される。
D:この障害は、その他の睡眠障害、精神疾患、薬物や物質使用ではよく説明できない。
※1.この基準は一晩のビデオ睡眠ポリグラフ検査中に繰り返すエピソードを確認して診断する。
※2. 夢の行動化という典型的な病歴を持ち、ビデオ睡眠ポリグラフ検査中に典型的な症状があってもRWAが十分に証明されない場合があるが、この場合は暫定的に診断しても良い。
・十分なエビデンスのある治療がないのが現状です。
→GLでは”経験的にクロナゼパム(0.5-2.0mg)の投与が有効”と記載されています。
→ただし、レム睡眠行動異常症は自然経過で改善し得るため、漫然とした投与は控えます。
④幻覚/妄想
・PDそのものに加えて、薬剤や促進因子の影響で出現します。
・促進因子:発熱、脱水、入院、転居など。
・治療
-まずは身体疾患などの促進因子の是正を試みます。
-薬物追加後の発症/増悪の場合は、追加薬を中止します。
-上記で対応困難の場合は、レボドパ以外の抗パーキンソン病薬を減量/中止します。
-またChE阻害薬(ドネペジルやリバスチグミンなど)も有効性が示されています。
-緊急時には抗精神病薬の投与を検討します。
→この場合、クエチアピンは運動症状を悪化させにくく推奨されます。
⑤衝動制御障害(ICD)
・ICD:Impulse Control Disorderです。
・ドパミン補充療法や前頭葉/扁桃核などの機能障害と関連して生じます。
・特に若年発症や男性患者ではICDが生じやすいとされます。
・種類:病的賭博、性欲亢進、買いあさり、過食、punding。
・punding:機械分解や掃除など、無目的な動作を反復する行為です。
・ドパミン調節障害(DDS):必要量を超えたドパミン補充療法薬への渇望を主徴とし、社会生活に支障を生じるようなICD症状をきたす状態です。
・治療:ドパミン補充療法薬(特にDA)の減量/変更/中止です。
→ただしDA減量につき、ICD(DDS)は前述のDAWSのリスク因子となります。
→実際にはDAWSのためDA減量が難しく、慢性的なICD状態となることもあります。
→case reportでクロザピンの有用性が示唆されていますが、確立された治療がないのが現状です。
⑥起立性低血圧
・臥位から立位への体位変換時にsBP≧20またはdBP≧10の低下を認めるものとされます。
・心疾患などその他の原因でも生じ得るため、必ず原因の鑑別を行います。
→HR≧15の増加を伴わない場合は神経疾患によるものである可能性が高いとされます。
・また、PDでは一般に進行例に認めます。
→発症早期から認める場合は、多系統萎縮症やレビー小体型認知症などを鑑別します。
※以下、参考文献の内容を中心とした記載になります。
・治療適応例:sBP≦80または失神などの臨床症状を伴う場合。
・治療例
-薬物治療の前に塩分負荷(3g/日程度)や弾性ストッキング着用を検討します。
-処方例1:ミトドリン(メトリジン®) 4mg/日 1日2回(朝昼食後)分割投与。
→8mg/日まで増量可能で、夜間の臥位高血圧予防のため朝昼食後の投与とします。
→また、sBP≧160などではスキップも可能とします。
-処方例2:ドロキシドパ(ドプス®) 300mg/日 1日3回分割投与。
→900mg/日まで増量可能です。
-処方例3:フルドロコルチゾン(フロリネフ®) 0.1mg/日 1日1回朝食後。
→心負荷に注意を要し、積極的な増量は推奨されません。
※一般的に処方例1→2→3の順に追加していきます。
⑦認知症
・James Parkinsonの原典ではPDに認知症は伴わないとされていました。
・しかし、認知症を伴うパーキンソン病(PDD)は高頻度で認めます。
※PDD:Parkinson`s Disease Dementiaです。
・一般的にPD後期の合併症であり、10年以上の累積有病率として75-90%とされます。
・症状:記憶/注意/視覚認知の障害、遂行機能障害、幻視、認知機能の動揺性など。
・レビー小体型認知症との異同が問題となりますが、本質的な違いはありません。
→例えばパーキンソニズムが認知症発症の1年以上前からある場合はPDDとします。
・治療
-抗コリン薬の中止を検討します。
-ChE阻害薬やNMDA受容体拮抗薬といった抗認知症薬の使用を考慮します。
→PDDに十分なエビデンスを持つのはリバスチグミンのみとされます。
【DAT】
⓪基本事項
・DAT:Device Aided Therapyです。
・デバイスによる治療のことで、日本ではDBSとLCIGが承認されています。
→薬物療法ではないですが、適応を知ることは薬物療法の限界に関連してきます。
・一般的には、進行期の薬物療法でコントロール困難な症例に適応を検討します。
①脳深部刺激療法(DBS)
・DBS:Deep Brain Stimulationです。
・脳深部に高頻度で電気刺激を行うことで、症状を抑える治療法です。
・24時間持続的な効果を発揮するため、症状の日内変動が生じにくいとされます。
・また、振戦に対する効果も高く、薬物療法に耐性のある振戦も適応となり得ます。
・一方、術後に認知機能増悪をきたす可能性があり、高齢者は適応となりにくいです。
・視床下核(STN)や淡蒼球内節(GPi)がターゲットとなり、以下の特徴があります。
・STN:オフ時の運動症状改善やドパミン作動性薬剤の減量効果で優れます。
→薬物を多数併用している症例や薬物の副作用が問題となっている症例に適します。
・GPi:ジスキネジア抑制効果や認知機能/精神的合併症の少なさで優れます。
→ジスキネジアやジストニアが目立つ症例や認知機能低下例に適します。
・適応例(参考文献参照)
-パーキンソン病である。
-適切な内服治療でも著明な運動合併症を認める。
または副作用により十分な薬物治療ができない。
-75歳未満である。
※内服治療で改善困難な振戦に対しても適応を検討する。
②L-dopa持続経腸療法(LCIG)
・LCIG:Levodopa/Carbidopa Intestinal Gelです。
・胃瘻から空腸までチューブを挿入し、体外式ポンプでレボドパ/カルビドパを持続投与します。
→薬物血中濃度を一定に保てるので、オフ時間短縮やジスキネジア減少が期待できます。
・DBSに比べるとジスキネジアに対する効果は大きくないものとされます。
→ジスキネジアの強い症例にSTN-DBS、幻覚/精神症状/認知機能低下の強い症例にLCIGを推奨するエキスパートオピニオンもあるようです。