内科医キューピーのつぶやき

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抗NMDA受容体脳炎の診療

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キューピーです。

 

抗NMDA受容体脳炎は特徴的な臨床経過を呈します。

 

そのためメディア等で取り上げられやすく、題材とした映画もあります。

 

今回は抗NMDA受容体脳炎についてまとめてみました。

 

※この記事の内容が原因で生じたいかなる不利益にも責任は負いかねます。

 

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目次

 

 

【参考文献】

Lancet Neurol 2008; 7: 1091–98

Lancet Neurol 2019;18: 1045–57

Neurology 2012;79, 1094-1100

 

【基本事項】

・NMDA受容体はグルタミン酸受容体の1つです。

→これを構成するNR1 subunit(GluN1)に対する自己抗体による脳炎です。

・このような抗神経表面(NS)抗体による自己免疫性脳炎(AE)で最も頻度が高いとされます。

※NS:Neuronal Surface、AE:Autoimmune Encephalitis。

・米国の2016年の研究で有病率は0.6/10万人と報告されています。

・女性に多く(8:2)、発症年齢中央値は21歳と、若年女性に好発する傾向があります。

女性患者では半数程度に腫瘍(特に卵巣奇形腫)を合併するとされます。

・一方で12歳以下の女児や男性患者では腫瘍合併率は低いとされます。

 

【臨床経過】

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Lancet Neurol 2019;18: 1045–57

⓪基本事項

・上記のような特徴的な臨床経過をたどる例が多いとされます。

・なお痙攣発作または精神症状のみを呈する不全型も存在するものとされます。

→痙攣発作や精神症状のみでも本症を鑑別に挙げる必要があります。

頭部MRIや脳波で異常を認めないこともあり、臨床経過の理解が重要となります。

 

①(感冒様)前駆症状

・典型例では頭痛、発熱、上気道/腹部症状などの感冒様の前駆症状数日間認めます。

・基本的には発症から1-2週間以内に認めるものとされます。

・なお、発症後に頭痛は自然軽快することが多いとされます。

→抗GluN1抗体による解離性麻酔作用の影響が考えられています。

 

②精神症状

妄想幻覚思考力低下言語障害不眠痙攣などです。

1-2週間程度の経過で出現し、しばしば統合失調症です。

 

③神経学的症状

意識障害不随意運動自律神経障害中枢性低換気痙攣などです。

週-月単位の経過で出現します。

・しばしば痙攣に続き重度の意識障害が出現します。

→多くの場合、気管内挿管と長期間の人工呼吸器管理を要します。

不随意運動:口部、顔面、四肢、体幹に様々な組み合わせで出現し、薬剤抵抗性です。

→例えば舞踏病様運動、アテトーゼ、ジストニア、振戦、ミオクローヌス等が混在します。

→その他に後弓反張等も認め得、oro-facial limb dyskinesiaと呼ばれます。

自律神経障害:高体温、唾液分泌亢進、頻(or徐)脈、血圧上昇などです。

痙攣:しばしばプロポフォール等も用いられますが、薬剤抵抗性です。

 

④慢性期の症状

高次脳機能障害衝動脱抑制睡眠障害などです。

月-年単位で③の意識障害が改善する過程で顕在化します。

 

【検査所見】

①髄液検査

髄液(CBA法)でIgG型抗GluN1抗体を認めることが重要です。

※血清のみの場合、生きた海馬培養細胞や脳凍結切片の免染などが推奨されてしまいます。

→また血清で陽性、髄液で陰性の場合は偽陽性と考えます。

細胞数は単核球優位に軽度増加蛋白も軽度上昇する傾向があります。

OCBsは66%で陽性であったという報告があります。

・抗体以外は非特異的であり、細胞数や蛋白が正常でも本症を否定できません

 

②頭部MRI

FLAIRで高信号を認めた頻度は55%と報告されています。

-側頭葉:22% -大脳皮質:17%

-小脳:6% -脳幹:6%

-大脳基底核:5% -その他※:8%

脳梁視床下部、脳室周囲や白質。

造影増強効果は14%で認めたと報告されています。

→部位は皮質、髄膜、大脳基底核が挙げられています。

※Dalmauらの報告(Lancet Neurol 2008; 7: 1091–98)を参照しました。

→その後の報告では異常を認める頻度はさらに低いとされる傾向があります。

 

③脳波

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Neurology 2012;79, 1094-1100

・上図のextreme delta brush patternが重要です。

・前頭部優位に両側性高振幅全般性のδ波20-30Hzの律動性β波が重なります。

・筋電図混入と紛らわしいですが、β波はδ波の下降脚に認める点が特徴です。

急性期症例の約30%に認めたと報告されています。

・頻度は低いものの特異度が高く、重要な所見になります。

・この所見を認めた症例では、入院期間が長期化することも報告されています。

 

【Grausの診断基準 2016】

⓪基本事項

Lancet Neurol 2016;15: 391–404にGrausらにより示された診断基準です。

・probable基準の感度87.2%、特異度96.7%という報告があります。

 

①probable

以下の3つの診断基準をすべて満たす。

 

以下の6つの主要症状のうち、少なくとも4症状が3か月以内に急速に出現する

a.精神・行動異常、あるいは認知機能障害

b.言語障害(言語促進、発語量低下、無言)

c.痙攣発作

d.異常運動、ジスキネジア、固縮、姿勢異常

e.意識レベル低下

f.自律神経障害あるいは中枢性低換気

 

少なくとも以下のいずれかの検査所見を認める

a.異常な脳波所見

※局所/びまん性徐波、基礎律動異常、てんかん活動、extreme delta brush。

b.脳脊髄液細胞数増多、あるいはOCBs陽性

 

他の疾患が除外できる

 

※卵巣や縦隔に奇形腫を有する場合、主要症状を3つ以上認めればprobableとする。

 

②definite

他の疾患が除外できる。

6つの主要症状のうち1つ以上を認める。

IgG型抗GluN1抗体(髄液が望ましい、詳細前述)を認める。

→これら全てを満たす場合、definiteとする。

 

●Post-HSEと併存抗体

単純ヘルペス脳炎(HSE)後に自己免疫性脳炎を発症し得ることが知られています。

→Post-HSEと呼ばれ、新規HSEの27%に生じたという報告があります。

・いずれも抗NS抗体を認め、64%が抗GluN1抗体でした。

・HSE後にウイルス再活性化なく、神経症状や精神症状を認めた場合に考えます。

・また、抗NMDA受容体脳炎患者の4-7.5%にグリアや他のNS抗原に対する抗体が検出されたという報告もあります。

グリア抗原ではMOG、GFAP、AQP4の順に多いという結果でした。

NS抗原ではAMPA受容体、GABAA受容体、GABAB受容体の順でした。

 

【治療】

①腫瘍切除

女性の半数程度男性は数%に腫瘍が合併するとされます。

・女性は卵巣(特に卵巣奇形腫)、男性は精巣腫瘍の頻度が多いとされます。

経腟エコー骨盤部CT/MRIが診断に有用な検査となります。

※奇形腫のような良性腫瘍はFDG-PETでは診断できません。

・一般的に腫瘍の大きさに関係なく切除を行うことが推奨されます。

→ただし、腫瘍が確認できない症例で正常卵巣を切除することは推奨されません

 

②1st line

・腫瘍切除とならびステロイドパルス療法IVIg血漿交換(PE)が1st lineです。

約半数の症例は治療抵抗性であり、できる限り早期に2nd lineへ移行します。

※例えば、1st line治療後に10日間-4週間程度効果を認めない場合に移行します。

 

③2nd line

リツキシマブシクロホスファミドが2nd lineです。

約20%の症例はこれらに対しても治療抵抗性であり、3rd lineを検討します。

 

④3rd line

ボルテゾミブトシリズマブなどが3rd lineです。

・case reportやcase seriesで有効性が示唆されています。

 

⑤予後

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Lancet Neurol 2008; 7: 1091–98

追跡期間中央値17か月47%が寛解28%が軽度の後遺症予後良好でした。

・一方で18%が重度の後遺症で、7%が死亡予後不良でした。

・特に早期に腫瘍切除がなされた場合は予後良好である傾向があります。

・一方で腫瘍を認めない場合は予後不良である傾向があります。

・また、約30%(特に重症例)で大脳がびまん性に萎縮するという報告があります。

→しかし(MSと異なり)機能回復とともに萎縮が改善する可能性も示唆されています。

小脳萎縮例では、体幹失調などのため長期予後が不良とされます。