キューピーです。
ESUS:Embolic Stroke of Undetermined Sourseは、塞栓源不明の脳塞栓症です。
2014年に提唱された新しい概念ですが、ガイドラインにも記載があります。
一方で診療方針を決定する際にはあまり役に立たない概念にもなりつつあります。
実際にESUS不要論も出てきてるようです。
今回はそんなESUSについて勉強し、まとめてみました。
※この記事の内容が原因で生じたいかなる不利益にも責任は負いかねます。
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目次
【参考文献】
Embolic Stroke of Undetermined Sourse(ESUS)の病態
Embolic strokes of undetermined source: the case for a new clinical construct
Cryptogenic strokeとESUS: Embolic stroke of undetermined source│医學事始
【基本事項】
・一般論として、脳梗塞は以下の3病型が多くを占めると考えられています。
-アテローム血栓性脳梗塞:主幹動脈の50%以上のアテローム硬化性狭窄によるもの。
-心原性脳塞栓症:心房細動など明らかな心塞栓源が存在するもの。
-ラクナ梗塞:穿通枝領域の小梗塞。
・この他に脳動脈解離や血管炎などの特定の原因による脳梗塞も知られています。
・一方で原因不明の脳梗塞が約20%存在するとされ、"潜因性脳卒中"と呼ばれてきました。
→この大部分が塞栓症とされ、2014年にHartらがESUSを提唱しました。
→すなわち潜因性脳卒中(Cryptogenic Stroke)の中にESUSが含まれます。
・ESUS不要論については以下のサイトで詳しく確認できます。
→Cryptogenic strokeとESUS: Embolic stroke of undetermined source│医學事始
→ESUSに対してDOACが有効であった場合、その概念は大いに価値があります。
→しかし後述のようにDOACの有効性は証明されませんでした。
→この事実がある以上、わざわざESUSという概念を用いる意義が乏しくなります。
→実臨床では、ESUSの診断より原因不明の脳梗塞としてのアプローチが重要になります。
【診断基準】
・以下にHartらにより提唱された診断基準を示します。
以下を全て満たす場合にESUSと診断する。
-虚血部位へ灌流する頭蓋外/内主幹動脈に50%以上の狭窄がない。
-主要な心塞栓源※を認めない。
-動脈炎、解離、片頭痛/血管攣縮、薬剤など他の特定の原因を認めない。
※心房細動/粗動、心臓内血栓、人工弁、左房粘液腫等の心臓腫瘍、僧帽弁狭窄、4週間以内の心筋梗塞、左室のEF低下(<30%)、弁疣贅/感染性心内膜炎。
・上記のように基本的には除外診断であることが分かります。
→検査として長期の心電図モニター、心エコー(特に経食道)、血液検査(e.g.高リン脂質抗体症候群関連項目、Dダイマーなど)などが必要になります。
→一般的には、初診時にESUSの確定診断はつかないものと考えます。
【想定される塞栓源】
⓪基本事項
・ESUSにも何らかの病態があるはずです。
・Hartらは以下の病態をESUSの塞栓源と考えました。
(Lancet Neurol 2014; 13: 429–38)
①塞栓源として確立していない心疾患
・僧帽弁逸脱症
・僧房弁輪石灰化
・大動脈弁狭窄症
・大動脈弁石灰化
・洞不全症候群
・心房性頻拍などの心房性不整脈
・心房中隔瘤
・キアリネットワーク
・中等度の左室収縮or拡張障害
・左室緻密化障害
・心内膜線維弾性症
②潜在性の発作性心房細動
・特に頻度の高いものと考えられます。
・心電図モニターが24時間で3.2%、30日間で16.1%の発見率との報告があります。
(N Engl J Med 2014; 370:2467-2477)
→特に原因不明の脳梗塞では、長期間の心電図モニター装着が望ましいと考えます。
・また植込み型ループレコーダー(ILR)も有用で、約3年間のモニターが可能です。
→1cm程度の切開で皮下に挿入します。合併症は稀で、血腫や感染などです。
③悪性腫瘍関連(Trousseau症候群)
・担癌患者の過凝固状態が引き起こす血栓/塞栓症をTrousseau症候群と呼びます。
・脳梗塞を引き起こす機序として、以下などが想定されます。
-非細菌性心内膜炎(NBTE)
-深部静脈血栓症(DVT)(右左シャントを介する)
-播種性血管内凝固症候群(DIC)
-悪性腫瘍の左室/左房内転移(きわめて稀)
・原因不明の脳梗塞で多発病変やDダイマー上昇を認める場合に疑います。
→肺癌や婦人科腫瘍が多いとされますが、基本的には幅広く癌検索を行います。
・治療
-2021GLでは原疾患治療に加えて抗凝固療法を考慮しても良い(推奨度C)です。
-抗凝固療法の第一選択はヘパリンになります。
-ワルファリンは有効性が劣り、DOACについてはまだエビデンスが乏しいとされます。
-自宅退院時などはヘパリンCa 皮下注への切り替えも選択肢になります。
→実際に長期間の管理が可能であったとの報告もあります。
④動脈原性塞栓
・脳動脈や大動脈のプラークが塞栓源となる機序です。
・なお脳に灌流する主幹動脈に50%以上の狭窄があるとATBIになります。
・大動脈では可動性や潰瘍を伴うプラークは塞栓源になり得るとされます。
→検査として経食道心エコーが有用です。
・”大動脈原性脳塞栓症”の診断には以下の基準も有用です。
以下を全て満たす場合に診断する。
-塞栓源となる心疾患がない。
-梗塞の責任脳動脈や上流動脈に不安定プラークや狭窄性病変を認めない。
-頭部MRIにて異なる血管領域に散在する小さい皮質梗塞がある。
-経食道心エコーにて上行大動脈から左鎖骨下動脈分岐近傍の下行大動脈に厚さ4mm以上のプラーク、もしくは可動性プラーク、もしくは2mm以上の潰瘍がある。
※経食道心エコーができない場合、大動脈弓部のCTAも有用とされます。
⑤奇異性脳塞栓症
・静脈系の血栓が右左シャント疾患を介して脳動脈に流入する機序です。
・右左シャント疾患では卵円孔開存症(PFO)が頻度からも重要です。
→有病率は平均26%と報告されています。
→その他にも心房中隔欠損症や肺動静脈瘻なども知られています。
・なおPFOの存在のみでは奇異性脳塞栓症と診断できないことに注意します。
→他の塞栓源の否定や静脈血栓症の存在(DVT/PE)が診断上重要です。
・右左シャントの確認のため経食道心エコー(マイクロバブルテスト)が有用です。
・また腹圧上昇時に右左シャントを認めやすいため、病歴の確認も重要です。
・PFOの関与が疑われる場合の治療(2021GL)
-再発予防のため抗血小板or抗凝固療法のいずれかを検討する(推奨度B)。
-静脈血栓塞栓症を認める場合は抗凝固療法を選択する(推奨度A)。
-静脈血栓塞栓症を認めない場合も抗凝固療法を優先的に検討し得る(推奨度C)。
-60歳未満の場合、経皮的卵円孔開存閉鎖術を検討する(推奨度B)。
→特に再発リスクが高い(シャント量が多い、心房中隔瘤合併など)と推奨度A。
-60歳以上の場合、経皮的卵円孔開存閉鎖術の有効性は確立していない(推奨度C)。
-経皮的卵円孔開存閉鎖術施行後も抗血栓療法を継続する※(推奨度B)。
-肺動静脈瘻による奇異性脳塞栓症の再発予防に経皮的カテーテル塞栓術を検討する(推奨度B)。
※原則としてDAPTを1か月以上継続し、以降はSAPTを継続します。
→閉鎖機器による血栓形成の予防が主な目的となります。
【治療】
⓪基本事項
・ESUSやCryptogenic strokeの治療法について2021GLにも記載があります。
→本項では2021GLに沿った記載とします。
・原則として前述のような塞栓源が明らかとなれば、各病態に沿う治療を行います。
①抗血小板薬
・アスピリンが推奨度Bとなっており、原則としてESUSの第一選択になるとは思います。
・同側50%未満狭窄や大動脈弓部粥腫病変を有する例ではチカグレロルも考慮されます。
→全脳卒中、死亡、致命的な出血がアスピリンより少ないというデータがあります。
→ただし、チカグレロルは本邦で保険適用がありません。
②抗凝固薬
・潜因性脳梗塞で高血圧治療歴がなく、脳幹を含まない後方循環系梗塞にワルファリンが推奨度Cです。
→この条件でワルファリン(INR 1.4-2.8)がアスピリン325mgより優れたという報告があります。
・大動脈粥腫病変がある場合、ワルファリン(INR≧1.5)が推奨度Cです。
→アスピリン325mgとの比較で脳梗塞再発および死亡に差がなかったという報告があります。
・重要なことはDOAC(ダビガトラン、リバーロキサバン)が推奨されない点です(推奨度D)。
※なお大動脈粥腫病変がある場合、リバーロキサバンは考慮されます。
→潰瘍、可動性、内中膜厚≧4mmのいずれかを認める場合、アスピリンとの間で虚血性脳卒中再発に差がないという報告があります。
→ただし本邦では保険適用がありません。
●コラム:DOACに関する臨床試験
・前述のように抗凝固薬、特にDOACが推奨されないとESUSの存在意義が危うくなります。
・実際にDOACに関する臨床試験では2021GLにも言及のある以下が有名です。
・NAVIGATE ESUS:アスピリン100mgとリバーロキサバン15mgの比較です。
→全脳卒中や全身塞栓症の発症率に差はなく、大出血はリバーロキサバンで多いという結果でした。
・RE-SPECT ESUS:アスピリン100mgとダビガトラン220mg or 300mgの比較です。
→全脳卒中/虚血性脳卒中の再発、非致死性脳卒中、非致死性心筋梗塞、心血管死、出血性脳卒中いずれも差がないという結果でした。
・これらの結果を受けて2021GLではDOACの推奨度がDとなっています。