キューピーです。
今回は、高血圧性脳症の診療についてまとめてみました。
PRESやRCVSといった病態も絡めてまとめています。
※この記事の内容が原因で生じたいかなる不利益にも責任は負いかねます。
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目次
【参考文献】
【基本事項】
・概念:急激な血圧上昇や持続的な高度の高血圧で神経症状をきたすものです。
・長期の高血圧患者では220/110mmHg以上での発症が多いとされます。
→しかし、元々高血圧がない症例では160/100mmHgでも発症し得ます。
・病態仮説:高血圧による"脳血管攣縮"とこれに続く"血管原性浮腫"が注目されています。
-高血圧により脳血管が攣縮します。
→これにより脳虚血が生じ、最終的に細胞毒性浮腫をきたします。
※脳梗塞と類似した流れであると考えると分かりやすいです。
-攣縮血管の中枢側では静水圧上昇を認め、血管透過性が亢進します。
→これにより血管原性浮腫をきたします。
-前者はRCVS、後者はPRESとの関わりが考えられます。詳細は後述します。
【原因】
・本態性高血圧:降圧薬中断や尿閉などが誘因になります。
・腎疾患:各種腎炎、腎不全、腎血管性高血圧など。
・内分泌疾患:褐色細胞腫、PA、Cushing症候群、甲状腺機能亢進症など。
・循環器疾患:急性大動脈解離、急性心不全など。
・血管炎:結節性多発動脈炎、大動脈炎症候群など。
・頭蓋内疾患:脳卒中、脳腫瘍、頭部外傷など。
・交感神経障害:脊髄損傷、ギランバレー症候群など。
・薬剤:MAO-B阻害薬、アンフェタミン、コカイン、ESAなど。
【症状】
・激しい頭痛
・悪心/嘔吐
・不穏/意識障害
・視力障害
・錐体路症状
・血管攣縮による脳虚血(特に後方循環):視野障害、痙攣など。
→症状は原則として降圧治療で改善しますが、脳虚血症状は残存し得ます。
【頭部MRI/MRA】
⓪基本事項
・高血圧性脳症の病態はPRESやRCVSを内包し得ます。
・PRES:Posterior Reversible Encephalopathy Syndromeです。
→病態仮説のうち、特に血管原性浮腫による可逆性の脳症です。
・RCVS:Reversible Cerebral Vasoconstriction Syndromeです。
→病態仮説のうち、特に血管攣縮に伴い認め得る疾患です。
・これらが生じた場合は頭部MRI/Aで所見を拾うことができます。
→本症における頭部MRI/A撮影の主目的は、これらの所見を確認することになります。
・その他に、鑑別疾患になり合併もし得る脳卒中の所見確認も重要です。
①PRES
・T2WI/FLAIR:白質を中心とする高信号域を認め、両側性であることが多いです。
・DWI:原則として等信号です。ただし高信号を呈することがあります。
・ADC:原則として上昇します。ただし10-20%程度で低下することが知られます。
→脳梗塞との鑑別を要することもあり、自覚症状などの確認が重要です。
・なおCT PerfusionやSPECTなどでは、後方循環優位の血流低下を認めます。
・Bartynskiらは以下の3つの分布パターンを提唱しています。
-Holohemispheric watershed pattern:前頭葉、頭頂葉、後頭葉の血管支配の分水嶺域に広く分布します。
※この場合、半球内側(ACAやPCA領域)と半球外側(MCA領域)の間に好発します。
-Superior frontal sulcus pattern:上前頭溝の中部から後部に沿って分布します。
※Holohemisphericに似ますが、前頭極に病変を認めないことが鑑別点です。
-Dominant parietal-occipital pattern:頭頂後頭葉の皮質/皮質下に分布します。
→いずれも25%程度で頻度に大差はなく、残りはこれら以外のパターンでした。
→すなわち、必ずしも典型的な頭頂後頭葉の分布とはならないことに注意します。
Holohemispheric watershed pattern
Superior frontal sulcus pattern
Dominant parietal-occipital pattern
拡散制限(DWIで高信号)を認めた症例
THE LANCET Neurology 14, 9, September 2015, 914-925
②RCVS
・MRAで脳動脈の広狭不整や狭窄を散在性に認めます。
・原則として、RCVS単体ではMRIに異常を認めません。
・しかしPRES、脳梗塞、脳出血、SAHを合併し、これらの所見を認め得ます。
・SAHは円蓋部に好発することが特徴です。
Pediatr Neurol 2017; 71: 73-76
※Bは発症2日後に所見が改善している様子です(可逆性)。
【治療】
・脳血流の自動調節能が障害しているため、急激な降圧で脳虚血となりやすいです。
→用量調節が容易な持続静注薬で治療を開始します。
・脳組織酸素供給を減少させないニカルジピンが好まれます。
・なお急性期脳梗塞を認める場合は、そちらの治療に順じます。
・投与例:ニカルジピン注 0.03-0.36 mg/kg/hr。
→体重60kgならば、1.8-21.6mg/hrとなります。基本的に1mg/mLの製剤です。
→開始速度は1.5-2.0mL/hrであれば、大きくは間違えないと思います。
・降圧目標
-最初の2~3時間まで:25%の降圧を目標とします。
-6時間まで:160/100mmHgを目安とします。
-24~48時間まで:140/90mmHgを目安とします。
→脳虚血に注意し、神経症状を監視しながら緩徐に降圧を行います。
※"2~3時間まで"以外の目標値は高血圧緊急症の目標値を記載しています。
【RCVS】
・RCVS:Reversible Cerebral Vasoconstriction Syndromeです。
・好発:若年-中年の女性に好発します。男女比は1:2-3と言われています。
・病態:可逆的な脳血管の攣縮に伴って、激しい雷鳴頭痛をきたす疾患です。
・リスク因子:妊娠/出産、薬剤(免疫抑制薬など)、血液製剤など。
・誘因:性行為、排便、運動、咳など。
・頭痛:雷鳴頭痛で両側後頚部が多く、1-3時間かけて軽減します。
→典型的には1-4週の間に反復し、間欠期にも軽度の頭痛が存在します。
→"反復する強い頭痛"はRCVSを疑うキーワードでもあります。
・その他の症状:悪心、光過敏、音過敏など。
※脳梗塞以外は発症から1週間以内の早期合併症とされます。
・画像所見(前述):MRAでの多発する血管攣縮が特徴です。
→20%が初回評価で所見を呈さないとされ、期間をあけた再評価が必要です。
・治療:確立されていませんが、高血圧に対してCa拮抗薬を用いたりします。
・経過:一般的に予後良好で、(画像所見は)3か月以内に自然に改善します。
●コラム:PRESのリスク因子
・PRESは高血圧性脳症とセットで語られることの多い印象です。
・しかし、高血圧以外にも発症のリスク因子が存在します。
※PRESの15-20%は血圧が正常というデータもあります。
・PRESを疑った場合、リスク因子の有無を確認して排除することが重要です。
・リスク因子
-腎不全
-子癇/妊娠高血圧症候群
-自己免疫疾患
-HUS/TTP
-免疫抑制剤(FK506、CyAなど)
-抗癌剤/抗ウイルス薬/抗体製剤
など