キューピーです。
細菌性と無菌性はしばしば鑑別疾患ともなりますが、全く治療スピードが異なります。
細菌性髄膜炎は"内科的エマージェンシー"です。
今回は髄膜炎の診療を細菌性と無菌性に分けて考えてみます。
※この記事の内容が原因で生じたいかなる不利益にも責任は負いかねます。
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目次
【参考文献・サイト】
【細菌性髄膜炎】
①基本事項
・”細菌性”髄膜炎は内科エマージェンシーであり、迅速な治療介入が必要です。
・疑う場合は、血液培養を採取後に速やかに抗菌薬の投与を開始します。
・項部硬直は有名ですが、感度が低いため、認めなくても髄膜炎は否定できません。
・起炎菌:肺炎球菌、インフルエンザ桿菌、髄膜炎菌(日本は少ない)が大半を占めます。
※3か月未満ではB群連鎖球菌の頻度が高いとされます。
・Hibワクチンと肺炎球菌ワクチンの普及により、減少傾向になっています。
・しばしば臨床的にウイルス性髄膜炎との鑑別が困難な症例があります。
②症状と診察所見
・症状は急性(時間-日単位)に進行することが一般的です。
・発熱:重篤感のある急性の発熱では常に疑います。
・頭痛:頻度は高く、体動で増強する特徴があります。
・意識障害/痙攣:これらが主訴の場合に鑑別に挙げることが重要です。
・聴覚障害:5-40%の頻度で生じ、蝸牛障害によるとされます。
・神経巣症状:失語、片麻痺、脳神経障害などです。
※病態として脳浮腫、脳梗塞、痙攣後のTodd麻痺などが想定されます。
・髄膜刺激徴候:()内は感度を示しています。
-項部硬直(13-43%):頚部を他動的に前屈すると後頚部筋の筋緊張が増大し、下顎を前胸部につけられない所見です。
-Kernig徴候(2-25%):仰臥位で股関節と膝関節を90度に屈曲させ、膝を伸展させると大腿屈筋の緊張が強まり、それ以上下腿を伸展できない徴候です。
-Brudzinski徴候(2-11%):仰臥位で頭部を他動的に前屈させると、股関節と膝関節の自動的な屈曲が起こる徴候です。
-jolt accentuation(80-97%):1秒間に2-3回の速さで頭部を水平方向に回旋させたときに頭痛が増悪する徴候です。
→jolt accentuation陰性でも、原則として除外はできません。
・なお95%の患者で発熱、項部硬直、意識障害、頭痛のうち2つ以上を認めたという報告があります。
→2/4症状以上を認める患者では積極的に本症を疑います。
③既往歴
・以下を確認します。
-中耳炎や副鼻腔炎
-ステロイド使用 -免疫不全
-脳外科手術 -脳室シャント
-髄液漏 -脾臓摘出術
・その他にシックコンタクト(髄膜炎菌)やワクチン接種歴(肺炎球菌やHib)も確認します。
④検査
⑴髄液検査
・外観:混濁することが一般的です。
・細胞数:1000-5000/mm3と増加し、ほとんどが多形核球(好中球)優位です。
※ただし、10%程度でリンパ球優位の増加をする症例があり注意が必要です。
・糖:≦40mg/dLまたは血糖比<0.4と低値を示すことが特徴です。
・蛋白:100-500mg/dLと増加します。
・グラム染色:極めて特異度が高いです。遠心後の髄液で行うことが推奨されます。
・髄液培養:確定診断に有用ですが、抗菌薬開始後だと陰性になることがあります。
・髄液PCR:髄液培養陰性でも起炎菌を特定できることがあり、検討の余地があります。
・なお、治療効果判定目的の髄液再検は推奨されていません。
→治療開始48時間以上経過しても、臨床所見の改善に乏しい場合は検討し得ます。
⑵血液培養
・必ず抗菌薬開始前に採取します。
・髄液検査よりも優先されます(詳細は後述します)。
・本症において、50-90%で陽性になるという研究結果があります。
⑶頭部CT
・腰椎穿刺前のスクリーニングまたはその他の鑑別疾患確認目的に施行し得ます。
・しかし本症は治療開始まで急ぐ必要があり、頭部CTはタイムロスになりかねません。
→欧米や日本のガイドラインでもルーチンの頭部CTは推奨されていません。
・詳細は後述の"細菌性髄膜炎疑いの診療の流れ"を参照ください。
⑷頭部造影MRI
・診断には髄液検査が最も重要であり、ルーチンで行う検査ではありません。
・脳炎の合併を疑う症例やその除外を目的とする場合に施行し得ます。
・また、診断に難渋する場合に以下のような髄膜炎所見を確認することもあります。
-FLAIR sulcal hyperintensity:FLAIRのくも膜下腔の高信号で滲出物を反映しています。
-軟膜優位のびまん性髄膜増強効果:重要な所見で、軟膜側優位であることもおさえます。
※造影脂肪抑制T1WI>造影FLAIR>造影T1WIの順に検出率が高いです。
-SubCortical Low Intensity(SCLI):T2WIやFLAIRの炎症髄膜に隣接する脳回の腫脹や皮質下白質の低信号です。
-DWIの脳表に沿う高信号
-ウイルス性では所見が乏しい傾向があります。
-結核性では脳底槽の軟膜優位の髄膜増強効果の頻度が高いとされます。
※髄膜炎の画像診断(MRI、CT所見)まとめを参考にしました。
ウイルス性髄膜炎
髄膜の異常増強効果とは?DA pattern/PS patternとは?
癌性髄膜炎
髄膜の異常増強効果とは?DA pattern/PS patternとは?
⑤治療
※原則として成人症例について述べます。
(0)ステロイドについて
・投与例:デキサメタゾン(デカドロン®) 10mg 6時間ごと 4日間。
※原則として初回投与は抗菌薬開始前に行います。
・機能予後の改善が期待でき、生命予後の改善の可能性も示唆されています。
・免疫不全者でない市中発症例で、起炎菌が肺炎球菌のものが良い適応です。
→肺炎球菌以外が起炎菌であると判明したら、投与を中止します。
⑴50歳未満の市中発症
・投与例:VCM 25mg/kg + CTRX 2g 各12時間ごと。
・2-50歳の市中発症ではVCMとCTRXの併用が推奨されます。
・起炎菌として肺炎球菌と髄膜炎菌を想定します。
・PRSPもカバーするため、VCMを併用します。
⑵50歳以上または(細胞)免疫不全者の市中発症
・投与例:⑴に加えて、ABPC(ビクシリン®) 2g 4時間ごと。
・⑴の起炎菌に加えてリステリアも考慮し、ABPCを併用します。
・リステリアは、50歳以上で頻度が増加するとされる細胞内寄生菌です。
⑶院内発症
・投与例:VCM 1-1.5g 12時間ごと + CFPM 2g 8時間ごと。
・院内発症例、特に脳外科手術後などでは上記治療を検討します。
・起炎菌としてCNS、黄ブ菌、腸内細菌、緑膿菌などを想定します。
⑷脳炎を疑う症例
・投与例:上記に加えて、ACV 10mg/kg 8時間ごと 1-2時間以上かけて。
※ウイルス性脳炎を疑う場合、HSV脳炎として経験的治療を開始します。
※副作用に腎障害があり、250mg/100mL以上で溶解かつ投与に2時間以上かけると予防になります。
・症状:頭痛、発熱、意識障害、幻視、異常行動、人格変化、神経巣症状。
・髄液検査
-細胞数増加:リンパ球優位で95%で認めます。1000/μLを超えるものは稀です。
※初回検査で増加を認めないこともあります。赤血球はHSV脳炎を疑う所見です。
-糖正常-低下:低下も認め得ますが、多くの場合が正常とされます。
-蛋白増加:多くの症例で認め、平均80mg/dL程度です。
-HSV PCR:感度96%、特異度99%ですが初期には偽陰性になり得ます。
→陰性でも強く疑う場合は3日以内に再検します。
・頭部MRI
-T2WIやFLAIRの高信号が最も代表的な所見です。
-DWIの高信号(ADC低下)は最も早期から認め得ます。
-やや経過した亜急性期には脳回や髄膜に沿った造影効果を認めます。
-大部分が側頭葉内側に所見を呈し、しばしば両側性(左右差はあり)です。
-次いで前頭葉に好発します。
⑸起炎菌判明後の抗菌薬と治療期間
(ⅰ)抗菌薬
・PSSP:PCG 400万IU 4時間ごと。
・PISP:CTRX 2g 12時間ごと。
・PRSP:初期治療内容継続に加えて、RFP 300mg 12時間ごと。
・インフルエンザ桿菌(BLNARを除く):ABPC 2g 4時間ごと。
・BLNAR:CTRX 2g 12時間ごと。
・髄膜炎菌:PCG 400万IU 4時間ごと or CTRX 2g 12時間ごと。
・リステリア:ABPC 2g 4時間ごと+GM 1.7mg/kg 8時間ごと。
・腸内細菌:CTRX 2g 12時間ごと or MEPM(CFPM) 2g 8時間ごと。
・緑膿菌:CAZ 2g 8時間ごと or MEPM(CFPM) 2g 8時間ごと。
(ⅱ)治療期間
・肺炎球菌(PSSP/SISP/PRSP):14日間。
・インフルエンザ桿菌:7日間。
・髄膜炎菌:7日間
・リステリア:21日間以上。
・腸内細菌や緑膿菌:21日間。
・溶連菌:14-21日間。
・黄色ブドウ球菌:21日間以上。
・HSV:14日間。
・抗酸菌:9-12か月。
・クリプトコッカス:3-6か月。
【細菌性髄膜炎疑いの診療の流れ】
⓪確認事項
・Clin Infect Dis. 2004 Nov 1;39(9):1267-84より診療フローチャートを引用します。
※比較的教科書などで用いられることの多いものです。
・細菌性髄膜炎を疑った場合、まずは以下の事項を確認します。
-免疫不全
-中枢神経疾患の既往
-1週間以内の新規発症の痙攣
-乳頭浮腫(頭蓋内圧亢進所見)
-意識変容
-神経巣症状
-腰椎穿刺遅延の可能性
※"60歳以上"を加えてもよいと考えます(日本のガイドライン参照)。
→いずれもなければ①へ、いずれかがあれば②へ進みます。
※判断に迷う場合は、②に沿った診療が望ましいと思います。
①腰椎穿刺を先行する流れ
血液培養(2セット以上)と腰椎穿刺
↓
デキサメタゾン+経験的抗菌薬
↓
髄液検査結果に応じて診療継続
・上記のように、この流れでは頭部CTが必須ではありません。
→すなわち前述の確認事項では、頭蓋内病変存在の確率を評価しています。
・欧米と日本の髄膜炎ガイドラインでも、ルーチンの頭部CTは推奨されていません。
→これは頭部CTの撮影により治療開始が遅延してしまうためです。
・なお髄液初圧≧200mmH2Oの場合は、髄液圧測定を中止し速やかに採取を行います。
→その後に(脳圧亢進に対して)グリセオール投与を検討します。
※髄膜炎に対するグリセオール投与は、神経症状軽減の効果も期待できます。
(Cochrane Database Syst Rev. 2018 Feb 6;2(2))
②治療を先行する流れ
血液培養(2セット以上)
↓
デキサメタゾン+経験的抗菌薬
↓
頭部CT
↓
腰椎穿刺
・治療を優先する場合でも血液培養は必ず事前に採取しましょう。
→血液培養で高率に検出できることも考慮すると、腰椎穿刺のために抗菌薬投与が遅れることは絶対に避けるべきです。
・抗菌薬投与を先行した場合、髄液の細菌関連検査の検出感度は以下のようです。
-髄液グラム染色:(未治療)75-90%→(抗菌薬投与後)40-60%。
-髄液培養:(未治療)70-80%→(抗菌薬投与後)50%以下。
【無菌性髄膜炎】
①基本事項
・広義には"細菌性以外"を指しますが、一般的には"ウイルス性髄膜炎"と同義です。
→今回は"ウイルス性髄膜炎"として内容を記載していきます。
・少しでも細菌性の可能性があれば、抗菌薬投与は躊躇なく行います。
→この場合、数日後に髄液所見を確認して、無菌性との鑑別を行います。
・原因ウイルスはエンテロウイルス属(エンテロ/コクサッキーなど)が最多です。
・その他にムンプスウイルスやヘルペスウイルス属、HIVなどがあります。
・ウイルスの先行感染は本症を疑う重要な病歴です。
・ウイルス性以外の無菌性髄膜炎
抗酸菌 |
結核菌 |
その他の細菌 |
|
真菌 |
クリプトコッカス、カンジダ、アスペルギルスなど |
自己免疫 |
SLE、サルコイドーシス、ベーチェット病、原田病など |
悪性腫瘍 |
癌性髄膜炎 |
薬剤 |
NSAIDs、抗菌薬など |
②細菌性との鑑別
・ウイルス性髄膜炎において、細菌性との鑑別は重要ですがしばしば困難です。
→特に症状だけでの鑑別は、原則として難しいとされます。
・症状:痙攣や意識障害を認めることは稀で、認める場合は細菌性を疑います。
・PCT:カットオフ値は0.2-0.5ng/mLです。感度や特異度は比較的高いです。
※ただし、PCTが低値だからといって細菌性を除外することは危険です。
・髄液検査:鑑別に最も有用です。次項で詳細を述べます。
③髄液検査
・初圧:上昇しますが、一般的に細菌性より軽度です。
・細胞数:増加しますが、一般的に細菌性より軽度です。リンパ球優位となります。
・蛋白:増加しますが、一般的に細菌性より軽度です。
・糖:正常であり、細菌性との重要な鑑別点です。軽度低下は示し得ます。
・グラム染色/髄液培養:陰性となり、細菌性の否定のため最も重要です。
・抗酸菌染色/PCR/ADA:結核性髄膜炎を疑う症例で確認します。
・墨汁染色/クリプトコッカス抗原:クリプトコッカス髄膜炎を疑う症例で確認します。
・FTA-ABS/TPHA:神経梅毒を疑う症例で確認します。
・RNA-PCR(保険適用外):エンテロウイルス属やムンプスなどで施行できます。
・細胞診:癌性髄膜炎を疑う症例で確認します。
④血液検査
・血液培養(2セット):原則として必ず行います。
・ACE/sIL-2R:サルコイドーシスに関連する採血項目はルーチンで確認します。
・梅毒関連検査(TPHA/FTA-ABS/RPRなど):ルーチンで確認します。
・各種自己抗体:SLEなどの自己免疫疾患を疑う症例で確認します。
⑤頭部造影MRI
・細菌性髄膜炎の項で述べたように、ウイルス性はMRI所見が出現しにくいとされます。
・撮影の主な目的は、MRI所見を認めやすい脳炎や結核性髄膜炎の除外になります。
⑥治療
・処方例:カロナール®500mg 4錠4×。
・HSVやVZVの関与を疑う場合:ACV 10mg/kg 8時間ごと 14日間。
・細菌性が否定できない場合:細菌性髄膜炎の初期治療に準じます。
・基本的には対症療法を行い、概ね2-3週間以内に軽快することが多いです。
・NSAIDsも使用は可能ですが、無菌性髄膜炎の原因にもなるため避けた方が無難です。
・HSV脳炎や細菌性髄膜炎は致命的になり得るので、少しでも疑えば治療を行います。
・なお治療開始48時間以上経過し、臨床所見の改善に乏しい場合は髄液再検を考慮します。
●コラム:髄膜炎の後遺症
・特に細菌性では10-30%で認めるとされます。
・感音性難聴が多く、認知機能障害、麻痺、脳神経障害、水頭症などがあります。
・ウイルス性でも特に小児に筋力低下や成長発達遅滞などを生じ得ます。