キューピーです。
頭部外傷はERを受診する理由としてはかなり多いものです。
従って、その診療については十分に知識を持たなくてはなりません。
今回は頭部外傷の診療について考えます。
※この記事の内容が原因で生じたいかなる不利益にも責任は負いかねます。
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目次
【参考文献】
【基本事項】
・頭部外傷によるER受診はかなり多く、common diseaseと言えます。
・ガイドラインによるとGCS13-15(またはJCS1桁まで)が軽症とされます。
・一方でGCS≦8が重症とされます。
・軽症が80%と大部分を占め、重症は10%程度とされます。
※なお65歳以上の高齢者ではGCSが高くても硬膜下/外血腫などを認め得ます。
→高齢者の頭部外傷では、意識レベルのみで重症度を判断するのは危険です。
【問診/診察】
①ABC評価
・外傷初期診療の大原則に従い、primary surveyを行います。
・特に重症例ではAとBの異常を認めやすく、躊躇せずに気管挿管を行います。
・AやBに関連する指標の目標例を示します。
-SpO2≧98%(SpO2<90%を避ける)
-PaO2>80mmHg(PaO2<60mmHgを避ける)
-PaCO2(またはEtCO2):35-45mmHg(頭蓋内圧亢進時は30-35mmHg)
・また、Cの異常についても以下のように重要なポイントがあります。
-血圧下限値は定められていますが、上限値は特に決まっていません。
-血圧管理目標は収縮期血圧>110mmHg(50-69歳は>100mmHg)です。
-上記を目標に輸液や輸血(Hb>10g/dLが目標)を行います。
-これにより死亡率や神経学的予後を改善できる可能性が示唆されています。
-なお、収縮期血圧>160mmHgでは死亡率増加の可能性があります。
→この場合は経験的に降圧を考慮し得ます。
-ちなみに頭部外傷単独では血圧低下はきたしにくいです。
→他の部位の外傷に起因することが多く、見逃さないように注意します。
・頭蓋内圧亢進を防ぐため、原則として頭部を30°挙上します。
②切迫するD
-GCS≦8
-GCS 2点以上の低下
-脳ヘルニア徴候(瞳孔左右差/片麻痺/高血圧と徐脈)
・上記を切迫するDと呼び、いずれかを認める場合は以下を行います。
-気管挿管
-脳神経外科医コール
-secondary surveyの最初に頭部CT撮影
・primary surveyでvital signsを安定させたらsecondary surveyに移ります。
・secondary surveyでは全身観察と処置を行います。
※詳細はJATECなどの成書を参照ください。
③問診
・外傷ですので"AMPLE"に沿った問診が行われているはずです。
・以下に具体的なポイントを示します。
・内服薬:抗血栓薬の有無を必ず確認します。
・既往歴:出血傾向をきたす疾患の有無を必ず確認します。
・受傷状況:受傷時に意識消失や痙攣があったか必ず確認します。
→これらがある場合、失神や痙攣の原因についての内科的検索も行います。
④診察
・primary/secondary surveyは当然行いますが、頭部外傷で特に重要な点を記載します。
・GCS評価:一時点だけでなく”経時的に”行うことが重要です。
→切迫するDの評価につながるだけでなく、各種外傷の手術適応にも関わります。
・神経診察:意識障害があっても可能な限り評価を行います。
→手術適応に関わります。評価が難しい場合は瞳孔や四肢の左右差に注目します。
【頭部CT】
①頭部CT撮影の適応
・軽症例も全例で頭部CTを撮影することは、放射線曝露などの点からも望ましくありません。
・従って、どのような症例に撮影を行うべきか様々な基準が考案されています。
→今回はその1つである"カナディアン頭部CTルール(CHCR)"を示します。
・脳外科的手術の必要な外傷を感度100%で同定できるという研究結果が出ています。
・また重要な脳損傷も感度87-100%で同定できるとされています。
※重要でない脳損傷には5mm以下の脳挫傷や厚さ4mm以内の硬膜下出血なども含まれます。
→ルールに沿いCT撮影を見送った場合、これらを含む一部の脳損傷を否定できないことに注意が必要です。
・CHCR:以下の1つでも該当すれば頭部CTを撮影します(一部改変・解釈あり)。
受傷2時間(または受診後1時間)以内でGCS<15 |
開放または陥没性頭蓋骨骨折の疑い |
頭蓋底骨折の所見 |
2回以上の嘔吐 |
65歳以上 |
受傷から30分以前に及ぶ逆行性健忘 |
高メカニズム(車にひかれた歩行者、車外放出、階段6段以上の転倒など) |
神経巣所見や痙攣発作 |
vital signs不安定 |
抗凝固薬内服中 |
凝固能異常 |
・抗血小板薬内服中は除外対象となっていますが、原則としてCT適応と考えます。
→実際に頭蓋内出血のリスクが上昇するという研究結果も存在するためです。
・16歳未満の小児例はルールの適応対象外です。
→小児ではPECARNルールなどが有名です。成書等をご確認ください。
・なお頭部外傷診療における頭部MRIの有用性は不明です。
→外傷の原因として、脳梗塞の存在を疑う場合には必ず撮影します。
②各論
⑴急性硬膜外血腫
・頭蓋骨直下に両凸レンズ状の高吸収として認められます。
※硬膜下血腫でも凸レンズ状のことがあり、形のみで確定診断はできません。
・縫合線を超えないことがほとんどです。
・基本的に骨折に伴い生じるので、骨折線の有無を確認します。
※副鼻腔/乳突蜂巣に近いと空気の迷入を認めることがあり、骨折の補助所見となります。
・受傷直後(1時間以内)のCTでは見過ごされやすいとされます。
・意識障害→意識清明期(数分-数時間 lucid interval)→意識障害の経過が多いです。
→従って、厳密な頭部CTフォローが重要で、適切に治療できれば予後良好です。
杏林大学医学部脳神経外科 | 急性硬膜下血腫・急性硬膜外血腫
⑵硬膜下血腫
・頭蓋骨直下に三日月状の高吸収として認められます。
・縫合線を無視して進展します。
・contrecoup(受傷対側)に認めることもあり、回転運動でも生じることがあります。
・意識清明期(lucid interval)は20%のみに認め、重症例は初めから意識障害を認めます。
・慢性硬膜下血腫のポイント
-血腫の吸収と再出血で高-低吸収のグラデーションが見られます。
-上記も含めて内部濃度が不均一であることが多いです。
-被膜の石灰化を認めることもあります。
●コラム:subdural window
・薄く広がる硬膜下/硬膜外血腫は、頭蓋骨の高吸収のために通常の頭部CTのウインドウ(レベル40/幅80)では指摘が難しい場合があります。
・そのようなときはウインドウ幅を広げると確認しやすくなります。
→subdural window:レベル70-80/幅150-300。
・また、随伴所見である圧排による脳溝や脳槽の狭小化にも注目します。
●コラム:硬膜下液体貯留(硬膜下水腫)
・硬膜下に脳脊髄液と等濃度の低吸収域を認め、硬膜下水腫と呼ばれます。
・原因:外傷(くも膜断裂)、慢性硬膜下血腫の吸収や希釈、髄膜炎後変化。
・経過不明の場合は、基本的には異常と考えて経過観察を行います。
・高齢者の高度脳萎縮とは、低吸収の中の皮質静脈描出の有無で鑑別します。
→くも膜下腔開大では皮質静脈を確認できますが、硬膜下水腫では認めません。
慢性硬膜下血腫と硬膜下水腫の関係は?|Web医事新報|日本医事新報社
⑶脳挫傷
・好発部位:前頭葉や側頭葉の底部など。
※陥没骨折では骨折直下に脳挫傷を生じます。
・所見:皮質/皮質下の低吸収(血管性浮腫)と皮質優位の高吸収(出血)を認めます。
→これらの混在はsalt and pepper appearanceと呼ばれます。
・時間経過で脳浮腫や出血が増大することがあり、経過観察が重要です。
【保存版】脳挫傷とは?症状やCT画像、治療方法をわかりやすく解説!
⑷外傷性くも膜下出血
・脳動脈瘤破裂によるSAHと異なり、架橋静脈の破綻によることが多いです。
→これらの重症度は大きく異なり、外傷性SAHは一般的に予後良好です。
・ 架橋静脈破綻以外に、硬膜下血腫や脳挫傷がくも膜下腔に穿破する機序もあります。
・しかし稀ながら外傷による脳動脈瘤破裂に伴う外傷性SAHがあります。
→外傷性SAHを見たら、3D-CTAや頭部MRI/Aの撮影も考慮します。
※自分の勤務先の脳外科医からは、全例でCTAを撮影し動脈瘤評価を行うように依頼されています。
・以下に一般的なSAH(非外傷性も含む)の読影のポイントを示します。
-脳槽や脳溝の左右差に注目して読影する。
-髄液(0-5HU)と脳実質(20-40HU)のコントラストに着目する。
→脳実質とのコントラストが不明瞭な場合、髄液吸収値上昇=SAHが存在と考える。
-上記のようにSAHを吸収値(高吸収)で評価しない。
-特に出血後3日以降では高吸収→等吸収に変化する。
-また貧血(Hb≦10g/dL)でも高吸収を呈さない。
→貧血の判断は静脈洞の吸収値(正常なら高吸収)が参考になる。
-付随所見:水頭症、脳梗塞(血管攣縮)、脳室内血腫、脳内血腫など。
→これらを認める場合は常にSAHの存在も疑いながら読影する。
-慢性期のSAHで血腫が吸収されると水頭症所見が唯一の所見となり得る。
→niko-niko sign:側脳室下角の開大。水頭症合併例で早期から認め得る。
-後方循環系の動脈瘤破裂では後頭蓋窩のみに所見を認めることもある。
-中脳周囲SAH:脳幹周囲の静脈破綻による予後良好のタイプ。
→全SAHの10%と言われ、血腫は脳幹腹側に限局する傾向がある。
脳疾患あれこれ-症状や原因-予防などについて | 一ノ宮脳神経外科病院
※恐らく外傷性ではありませんが、3D-CTA例示のための画像です。
③経時的な評価
・頭部CTで異常を認めるものの、保存的治療を行う場合も多々あります。
※後述の"手術適応"を参照ください。
・その場合、経時的な頭部CTの評価が重要になります。
・撮影のタイミングは6時間以内という記載もありますが、特に明記されていない印象です。
→(個人的には)2-3時間後の撮影を行っています。
・増悪している場合や手術適応に該当する場合は、速やかに脳外科コンサルトとします。
・なお経時的な評価を行わずに帰宅させる場合は、注意点を伝えましょう。
・以下のような用紙が、各施設で存在していることが多いと思われます。
●コラム:びまん性軸索損傷
・局所性脳損傷に対して、回転加速度による剪断力により脳の広範囲に損傷が及ぶものを”びまん性脳損傷”と言います。
・びまん性脳損傷の病態:脳震盪、びまん性軸索損傷、びまん性脳腫脹。
|
軽症脳震盪 |
脳震盪 |
びまん性軸索損傷 |
||
軽症 |
中等症 |
重症 |
|||
意識消失 |
(-) |
直後より |
直後より |
直後より |
直後より |
意識消失時間 |
(-) |
6時間以内 |
6-24時間 |
≧24時間 |
≧24時間 |
除脳硬直 |
(-) |
(-) |
稀に(+) |
時に(+) |
(+) |
自律神経障害※ |
(-) |
(-) |
(-) |
(-) |
(+) |
覚醒後における |
|
||||
外傷後健忘 |
分単位 |
分-時間単位 |
時間単位 |
日単位 |
週単位 |
記憶障害 |
(-) |
最小 |
軽度-中等度 |
軽度-中等度 |
重度 |
運動障害 |
(-) |
(-) |
(-) |
軽度 |
重度 |
※自律神経障害:高血圧、発汗過多など。
→今回は主にびまん性軸索損傷についてまとめます。
・概要:受傷直後より意識障害が持続し、CTでそれを説明する病変を認めない頭部外傷です。
・病態:強い回転が生じた際に脳深部が脳表部より遅れて回転することで、軸索に断裂が生じます。
・症状:受傷直後から6時間以上持続する意識障害が主です。
・原則として頭部CTでは外傷性の異常所見を認めず、頭部MRIが有用です。
・頭部MRI:T2WI/FLAIRで脳梁に好発する(楕)円形の長軸が軸索路に沿う高信号を認めます。
→出血を伴う場合はT2*で低信号、急性期はDWIで高信号を呈し得ます。
→なお、数日後に所見が明瞭化することが多く、MRIが正常でも本症は否定できません。
・治療:原則として手術適応はなく、保存的に全身管理を行います。
左(T2WI):交通事故110番_交通事故外傷と後遺障害
右(T2*):びまん性軸索損傷|NPO法人交通事故110番
【手術適応】
⓪手術適応の重要性
・初療医は頭部外傷の手術適応を知ることが重要だと考えます。
・集中治療を要するレベルの重症例では、脳外科コンサルトの判断は迷いません。
・一方で頭部CTの所見のみで、臨床的には非重症例の場合は迷います。
・この時、手術適応を認識しておくことで、適切な治療方針決定ができます。
・今回は頭部外傷治療・管理のガイドライン 第4版を中心とした適応を記載します。
・ポイントは"血腫の厚さ"、"意識障害"、"神経症状"です。
①急性硬膜下血腫
・以下のいずれかの場合は手術を考慮します。
-血腫の厚さ≧1cm
-意識障害あり(特に頭部CTで正中偏位≧5mm)
-血腫による神経症状あり
※脳幹機能が停止し、長時間経過している場合には手術適応はありません。
②急性硬膜外血腫
・以下のいずれかの場合は手術を考慮します。
※適切な治療ができれば予後良好であり、特に急ぐ必要があります。
-血腫の厚さ≧1cm
-血腫量≧20mL(後頭蓋窩は≧15mL)
-合併血腫あり
-意識障害あり
-血腫による神経症状あり
③脳内出血/脳挫傷
・以下のいずれかの場合は手術を考慮します。
-頭部CTでmass effectを呈し、神経症状の進行あり
-頭部CTで第4脳室や脳底槽の圧排/偏位や閉塞性水頭症を呈し、神経症状あり
-保存的治療で頭蓋内圧亢進の制御困難
→覚えにくいですが、とにかく神経症状の経時的な評価を行うことが重要です。
④外傷性くも膜下出血
・原則として手術適応とならず、保存的加療を行います。
・しかし脳動脈瘤破裂によるSAHであった場合は緊急手術が必要です。
→前述のように3D-CTAなどの閾値を低くすることも重要です。
・また合併する血腫や脳挫傷が手術適応となるかの評価も重要です。
⑤閉鎖性頭蓋骨陥没骨折
・以下のいずれかの場合は、手術を考慮します。
-1cm以上の陥没
-高度の脳挫傷あり
-審美的に容認しがたい変形あり
-静脈洞の圧迫あり
【全身管理】
⓪基本事項
・主に重症例(GCS≦8)を対象とした全身管理を考えます。
・頭部外傷の全身管理については、まだ十分確立されたエビデンスがありません。
・各国の各種ガイドラインでも推奨度が大きく異なる内容もあります。
・従って一部私見も含む記載となるため、参考程度にとどめて頂ければと思います。
※各施設での方針をよく確認することが重要だと考えます。
①ABCの管理
・まず体位ですが、頭蓋内圧亢進を防ぐため頭部を30°挙上します。
・低酸素血症を認める重症頭部外傷は、原則として気管挿管の適応となります。
・それ以外にもショックや切迫するDを認める症例も適応になります。
・A/Bの管理目標として、以下が1つの指標になります。
-SpO2≧98%(SpO2<90%を避ける)
-PaO2>80mmHg(PaO2<60mmHgを避ける)
-PaCO2(EtCO2):35-45mmHg(頭蓋内圧亢進時は30-35mmHg)
・また、血圧管理目標は以下を1つの指標とします。
-収縮期血圧>110mmHg(50-69歳は>100mmHg)を第一目標とする。
-なお、収縮期血圧>160mmHgでは死亡率増加の可能性がある。
→この場合は経験的にはニカルジピンなどによる降圧を考慮し得る。
※ただし上限については明確なエビデンスはない。
②頭蓋内圧(ICP)のモニタリングとコントロール
・ICP:IntraCranial Pressureです。
・重症頭部外傷では予後改善と関連するため、ICPのコントロールが推奨されます。
・ICPモニタリングの適応
-重症頭部外傷(GCS≦8)で以下のいずれかの場合
⑴頭部CTに異常所見を認める場合
※異常所見:血腫、脳挫傷、脳浮腫、正中偏位、脳槽の消失など。
⑵除皮質または除脳硬直を認める
⑶収縮期血圧<90mmHg
-バルビツレート療法や低体温療法を行う場合
-鎮静下で意識レベルの確認が困難な場合
・ICPモニタリングの方法
-脳室カテーテルからの測定やICPセンサー留置によります。
-留置先は脳実質内や硬膜下腔があります。
-米国では髄液ドレナージも行える脳室内カテーテルからの測定が多いとされます。
-脳浮腫や血腫で脳室が圧迫されている場合、脳室内カテーテル挿入が困難なこともあります。
→日本においては脳室内カテーテルよりもICPセンサー留置の頻度が多いとされます。
・ICPの目標値
-ICP≦20-22mmHgを目標とします。
※ただしテントヘルニアなど、ICP亢進を伴わない増悪例もあるため注意します。
-CPP(脳灌流圧):50-70mmHgを目標とします。
※CPP:平均動脈血圧-頭蓋内圧(ICP)で計算されます。
→≦50mmHgで脳虚血進行、≧70mmHgで呼吸器合併症リスク上昇が報告されています。
・ICP亢進時の治療(専門領域であり詳細はガイドライン等確認ください)
-鎮静や鎮痛:後述します。鎮静はプロポフォールが推奨されます。
-呼吸管理:PaCO2 30-35mmHgが1つの指標とされます。
-循環管理:収縮期血圧>110mmHg(50-69歳は>100mmHg)を指標とします。
-頭部挙上:30°の頭部挙上が推奨されます。
-高浸透圧利尿薬:マンニトール等を考慮しますが、収縮期血圧低下に注意します。
→これらで管理に難渋する場合、以下も考慮されます。
-髄液ドレナージ
-バルビツレート療法
-低体温療法
-外/内減圧
※繰り返しですが専門領域であり、ガイドラインや各施設の方針をよく確認ください。
③トラネキサム酸
・GCS>8の軽-中等症の頭部外傷への3時間以内の投与で、有意に死亡率が改善します。
・一方でGCS≦8の重症頭部外傷では有効性は証明されていません。
→しかしながらルーチンで投与されることが多いです。
・投与例:トラネキサム酸1000mg+生食50ml 10分で投与(loading)。
→続けて、トラネキサム酸1000mgをメインに混注し、8時間程度で投与。
・なお、カルバゾクロムスルホン酸(アドナ®)の有効性は不明です。
④鎮静・鎮痛
・頭蓋内圧亢進を避けるため、疼痛や興奮状態を避けることが望まれます。
→鎮静や鎮痛による適切な管理の必要性があります。
・近年”浅い鎮静”や”鎮痛優先の鎮静”が主流ですが、頭部外傷は"十分な鎮静"とします。
→浅い鎮静だと頭蓋内圧亢進を引き起こしかねないためです。
・鎮静例:プロポフォール 0.05mL/kg静注後、0.1-0.4mL/hr。RASS-3~-4を目標。
-具体例:60kgならば3mL静注後、6-24mL/hrで持続静注とします。
※μg表記が多いですが、実務的にmL表記としています。10mg/mLを想定しています。
-鎮静薬として、神経学的評価のために短時間で覚醒の得られるプロポフォールが推奨されます。
-頭蓋内圧低下作用があります。脳血流量および脳酸素消費量も低下させます。
-血圧低下作用(および心拍数減少作用)に注意します。
-48時間以上の投与や0.4mL/hr以上の投与がなされた場合はプロポフォール注入症候群に注意します。
→代謝性アシドーシス、不整脈、横紋筋融解、腎不全、カテコラミン抵抗性低血圧などをきたします。
→この場合は投与中止及び対症療法を行います。
・鎮痛例:フェンタニル 0.04mL/kg静注後、0.04-0.1mL/kg/hr。
-具体例:60kgならば2.4mL静注後、2.4-6mL/hrで持続静注とします。
※μg表記が多いですが、実務的にmL表記としています。50μg/mLを想定しています。
-鎮痛薬としてフェンタニルが広く用いられています。
-咳嗽反射抑制により気管挿管時の頭蓋内圧亢進抑制と人工呼吸器への同調性を改善します。
-頭蓋内圧亢進作用がある点に注意します。脳血流量と脳酸素消費量には影響しません。
-血圧低下作用(および心拍数減少作用)に注意します。
⑤外傷性痙攣発作の予防
・外傷性痙攣発作(PTS:PostTraumatic Seizures)は以下に分類されます。
-直後発作(immediate seizures):受傷後24時間以内の発生。
-早期発作(early seizures):受傷後7日以内の発生。
-晩期発作(late seizures):受傷後8日以内の発生。
→晩期発作の再発があった場合、外傷性てんかん(PTE:PostTraumatic Epilepsy)とされます。
・これらに対する抗てんかん薬投与について、原則としてエビデンスは不十分です。
・基本的には早期発作の予防目的に抗てんかん薬を投与します。
・使用薬剤としてはホスフェニトインかレベチラセタムが推奨されます。
→施設差もありますが、使用頻度としてはレベチラセタムが多い印象です。
・投与例1:イーケプラ®500mg+生食50mL 15分かけて 1日2回。
・投与例2:ホストイン® 22.5mg/kg+生食(5%Glu)100ml 20分かけて投与。
→ホストイン®投与速度:3mg/kg/分か150mg/分の遅い方を超えない速さとします。
→ホストイン®維持投与(翌日以降)
-投与量:5-7.5mg/kg/日
-投与速度:1mg/kg/分か75mg/分の遅い方を超えない速さ
・いつまで投与を行うかは、重症度や医師によって異なると思われます。
・晩期発作の予防は推奨されていないため、早期発作を認めなければ投与を終了して良いのではないかと、個人的には思います。
⑥栄養・血糖管理
・受傷後7日までに、必要カロリー量を経静脈/経腸栄養で投与します。
→転帰改善のエビデンスもあり、可能な限り達成すべき目標です。
・必要カロリー量:25kcal/kg/日と考えます。
・経腸栄養で目標カロリー到達が難しければ、完全静脈栄養も考慮します。
・目標血糖値:100-200mg/dL。140-180mg/dLとしても良いと思います。
※前者はガイドライン、後者はnice-sugar studyで示された目標値です。