●この記事は2021/7/24に内容更新しました。
キューピーです。
脳梗塞というと動脈硬化や心房細動のある高齢者の疾患というイメージがあります。
しかし、意外と若年での発症例も存在します。
その場合、背景に特殊な病態も考慮しながらの診療となります。
今回は、若年者の脳梗塞の診療と原因として多い脳動脈解離を考えたいと思います。
※この記事の内容が原因で生じたいかなる不利益にも責任は負いかねます。
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目次
【参考文献】
※脳卒中治療ガイドライン2021は、以下、2021GLと略します。
【基本事項】
・若年性脳梗塞の"若年"は一般的には"50歳以下"と定義されます。
・動脈硬化、心房細動など高齢者の脳梗塞で頻度の高いもの以外の原因も考慮します。
・原因で頻度が高いのは動脈解離、もやもや病、抗リン脂質抗体症候群などです。
・その他にも以下のような多くの原因を考慮しながら診療を行います。
・非炎症性血管病変
-動脈解離 -もやもや病
-線維筋形成不全 -Marfan症候群
-外傷 -放射線治療後
-CADASIL -CARASIL
-Fabry病 -ホモシスチン尿/血症
・炎症性血管病変
-種々の血管炎 -ベーチェット病
-サルコイドーシス
・奇異性脳塞栓症
-卵円孔開存 -心房中隔欠損症
-肺静脈血栓症 -肺動静脈奇形
・心原性脳塞栓症
-心房細動 -感染性心内膜炎
-左房粘液腫 -僧帽弁逸脱症
-拡張型心筋症 -人工弁置換術
・赤血球/血小板/血液粘度異常
-多血症 -鎌状赤血球症 -サラセミア
-血小板増多症 -血小板機能亢進
-血栓性血小板減少性紫斑病
-骨髄腫 -マクログロブリン血症
-クリオグロブリン血症
・凝固/線溶系異常
-抗リン脂質抗体症候群 -DIC
-プロテインC/S欠乏症
-アンチトロンビンⅢ欠乏症
・悪性腫瘍
-トルソー症候群
-非細菌性血栓性心内膜炎(NBTE)
-血管内悪性リンパ腫(IML(IVL))
・血管攣縮
-薬剤(エルゴタミン/トリプタン製剤など)
-子癇 -ポルフィリア
・その他
-経口避妊薬(ピル) -妊娠
-脳静脈洞血栓症
【問診】
・頭痛(特に後頚部痛):脳動脈解離を疑う重要な症状です。
・動脈硬化リスク:高血圧、脂質異常症、糖尿病、喫煙などを確認します。
・妊娠
・既往歴:()内は疑うべき疾患です。
-片頭痛(CADASIL/Fabry病など) -悪性腫瘍
-腹部手術歴(ポルフィリア)
-流産(抗リン脂質抗体症候群)
-四肢しびれや疼痛(Fabry病)
・家族歴:以下があればCADASILやFabry病を疑います。
【検査】
①採血
⑴生化学
・ルーチン項目(肝腎機能、電解質など)
・中性脂肪/LDLコレステロール/HDLコレステロール
・総ホモシステイン
・TSH/freeT3/freeT4
⑵免疫
・抗核抗体
・抗SS-A/B抗体
・抗Sm抗体
・MPO-ANCA/PR3-ANCA
・抗カルジオリピン抗体/抗β2GP1抗体/ループスアンチコアグラント
⑶凝固
・PT/APTT/Dダイマー
・AT-Ⅲ活性
・フィブリンモノマー複合体
・プロテインC/S
⑷感染
・抗HIV抗体
・RPR/TPHA
⑸尿沈渣
・マルベリー小体
・マルベリー細胞
②頭部MRI
・臨床的に脳動脈解離を疑うならば、必ずBPAS像を追加します。
→BPAS像は椎骨動脈解離の診断の際に有用です。
【脳動脈解離】
①基本事項
・脳動脈の解離により頭痛、出血(SAH)や虚血(脳梗塞/TIA)をきたすものです。
・脳卒中の1%ですが、50歳以下に限れば4-5%を占めます。
→若年性脳卒中の原因で多く、若年者の脳梗塞やSAHでは必ず疑います。
※”若年者の頚部-頭部の急性発症の頭痛”のみでも鑑別に挙げます。
②分類
⑴成因による分類
・外傷性:頚部回旋(美容院/整体/ゴルフや水泳など)によります。
・特発性
⑵発症様式による分類
・虚血性発症:日本では70%を占めます。一般に予後良好です。
・出血性発症:一般に予後不良です。
・無症候性
⑶罹患動脈による分類
・内頚動脈系と椎骨動脈系に分類されます。
・更に頭蓋内と頭蓋外に分類します。
・日本では頭蓋内椎骨動脈解離が最多で約60%を占めます。
・内頚動脈系では前大脳動脈解離が比較的多い傾向があります。
・頭蓋外は虚血性発症ですが、頭蓋内では虚血性/出血性のいずれの発症もあり得ます。
③症状
・頭痛:重要な症状で以下の特徴があります。
-“突然”かつ”激しい”頭痛である傾向があります。
-裂けるような痛みで、解離の進展に伴い頚部から頭部へ移動します。
-SAH発症の場合、激しい頭痛の前に頚部-頭部の疼痛を認めることがあります。
※SAHによる頭痛の前に解離による疼痛を認めるということです。
・Horner症候群:特に内頚動脈解離で認める傾向にあります。
-交感神経遠心路の障害により生じます。
-縮瞳、眼瞼下垂、眼球陥凹を3徴とします。
-その他に顔面の発汗低下や紅潮も認めます。
・虚血症状:通常の脳梗塞に準じます。椎骨動脈系ではめまいをきたし得ます。
・出血症状:通常のSAHに準じ、頭痛や意識障害などを認めます。
●コラム:Wallenberg症候群
・椎骨動脈やその枝である後下小脳動脈(PICA)閉塞により生じます。
・頭蓋内椎骨動脈解離に伴い出現することが多いとされます。
・延髄外側の障害であり、この部位に準じた症状をきたします。
-舌咽/迷走神経運動核(疑核):球麻痺症状(構音/嚥下障害、嗄声など)。
-舌咽/迷走神経感覚核(孤束核):障害側の味覚障害。
-下小脳脚:障害側の上下肢失調。
-三叉神経脊髄路核:障害側の顔面温痛覚障害。
-交感神経下行路:障害側のHorner症候群。
-外側脊髄視床路:健側の頚部以下の温痛覚障害。
④診断(画像所見)
・侵襲の少ない検査としてMRI/A(造影含む)やCTアンギオ(CTA)が有用です。
・CTAは特に椎骨動脈解離についてMRI/Aより感度が高いとされます。
・CTAでは動脈狭窄や拡張、動脈瘤の合併などを確認します。
【脳卒中】脳動脈解離|脳の病気 | 福岡脳神経外科病院|医療法人 光川会
椎骨動脈解離とは?症状・原因は?CT、MRI画像診断まとめ!
・動脈解離のMRA/MRI所見
-シーケンスはMRA、脂肪抑制T1WI、T2WIや造影MRA(特に元画像)が重要です。
-短期間での所見の変化は本症を示唆する重要な所見です。
-血管の拡張や狭窄が唯一の画像所見であることも少なくありません。
-動脈拡張:本症に特異的な所見です。
-動脈狭窄:非特異的で動脈硬化やRCVSなどとの鑑別を要します。
→元からの低形成との鑑別にはBPAS像が有用です(下画像参照)。
-pearl and string sign:拡張と前後の狭窄で、特異的です。頻度は高くありません。
-内膜フラップ(intimal flap):造影MRA元画像(次点でT2WI)で確認し得ます。
-二重腔(double lumen):造影MRA元画像(次点でT2WI)で確認し得ます。
→偽腔関連の所見は造影MRA元画像のみで描出可能な場合も多いです。
-壁内血腫:三日月あるいは半月状で脂肪抑制T1WIでの高信号が最も重要です。
椎骨動脈解離とは?症状・原因は?CT、MRI画像診断まとめ!
⑤治療
⑴安静・血圧コントロール
・虚血性/出血性発症とも安静および血圧コントロールを行うことが多いです。
※虚血性発症でも、動脈瘤形成予防の目的などがあるとされます。
・目標例:収縮期血圧≧160mmHgの時、前値の80%を目標に降圧。
・具体的な降圧目標についてのエビデンスは探した範囲では見つかりませんでした。
⑵抗血栓療法
・虚血症状のない偶発的に発見された症例では推奨されません(推奨度D)。
・また解離部に瘤形成を認める場合もSAHのリスクがあり、禁忌です(推奨度E)。
・虚血発症例の急性期における抗血栓療法は推奨度Cです。
→特に頭蓋外では抗凝固と抗血小板療法で差はありません(推奨度B)。
※頭蓋内では血行力学的機序が主因と考え、抗凝固療法に疑問を呈する意見もあります。
・なおrt-PA静注療法は推奨度Cです。特に頭蓋内ではエビデンスが乏しいとされます。
・投与例1:プレタール®OD錠 100mg 2錠2×。
・投与例2:プラビックス®錠 75mg 1錠1×。
・投与例3:バイアスピリン®錠 100mg 1錠1×。
・投与例4:ヘパリン10000U/10mL+生食 38mL 2mL/hr(=10000U/日)。
・投与例5:ワーファリン®錠 1mg 3錠/日。
※抗血小板薬では出血頻度の高いアスピリンは避けた方が良いという意見もあります。
⑶血管内治療
・適応1:虚血発症で内科治療に抵抗性のもの。
→推奨度Cとなります。
・適応2:SAH発症の椎骨動脈解離でBA/PICAの血流が担保できるもの。
→推奨度Bで延髄梗塞に注意しながら手技を行います。
⑷外科的治療
・特にSAH発症の頭蓋内動脈解離で適応となり得ます。
・その他に動脈瘤合併例や内科治療に抵抗性の頭蓋内動脈解離でも検討し得ます。
・血管内治療が選択されることもあり、症例ごとの検討を要します。
⑥フォローアップ
・急性期に抗血栓療法を開始している場合、3か月後にMRI/Aで評価します。
→画像所見が正常化していれば、治療終了を検討します。
→画像所見が残存していれば、3か月後に再度MRI/Aで評価します。
・なお、急性期にも動脈瘤形成確認のため画像検査を反復した方が良いと考えます。