内科医キューピーのつぶやき

医学部首席になれた勉強法や医学情報を発信したりします。

BAD(Branch atheromatous disease)の診療

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キューピーです。

 

BADという脳梗塞の一分類があります。

 

遭遇頻度も高く、全ての医師が知識を持つべき概念だと思います。

 

今回はそんなBADの診療を考えてみます。

 

※この記事の内容が原因で生じたいかなる不利益にも責任は負いかねます。

 

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目次

 

 

【参考文献】

文献1:星野 晴彦ら, Branch atheromatous disease における進行性脳梗塞の頻度と急性期転帰, 脳卒中 33:37–44, 2011

文献2:山本 康正, Branch atheromatous diseaseおよび線条体内包梗塞の病態と治療. 京二赤医誌・Vol. 34:2-15, 2013

文献3:Striatocapsular infarct | Radiology Reference Article | Radiopaedia.org

 

【基本事項】

概念:比較的大径の穿通枝が主幹動脈から分岐する近傍でアテローム性病変により狭窄または閉塞し、穿通枝全域の梗塞を示すもの。

・該当する日本語がありませんが、"分枝粥腫型梗塞"と呼ばれたりもします。

・日本の急性期脳梗塞の8.9%というデータがあります。(脳卒中 33:37–44, 2011)

アジア人に多く、急性期の増悪が多く、転帰不良例が多いとされます。

・提唱者のCaplanはアテローム性病変として以下の3つを提示しています。

A:主幹動脈の壁在プラーク

B:主幹動脈から穿通枝に入り込む合流部プラーク

C:穿通枝近位部のプラーク

※Cはラクナ梗塞との線引きが問題となります。

 

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Penetrating arteries - Vertebrobasilar Ischemia and Hemorrhage

・有名な脳梗塞分類の"TOAST分類"では"原因の特定できないもの"に分類されます。

→"主幹動脈に50%以上の狭窄なし"、"心房細動なし"がBADの診断の条件です。

前者はアテローム血栓脳梗塞後者は心原性脳塞栓症を示唆します。

 

参考:TOAST分類(一部意訳)

⑴アテローム血栓脳梗塞

⑵心原性脳塞栓症

ラクナ梗塞

⑷その他の原因によるもの

⑸原因の特定できないもの

→この中で特にラクナ梗塞との比較が問題となります。

→特に"大きさ"は例外もありますが、概ね以下のような比較がなされます。

 

BAD

ラクナ梗塞

大きさ

15mm以上

15mm以下

症状の変化

動揺, 増悪しやすい

BADより増悪は少ない

症状増悪のタイミング

2-5日に増悪, 梗塞拡大

2-5日に増悪することがある

閉塞血管

穿通枝起始部

穿通枝末梢部

治療

抗血小板薬

抗血小板薬

機能予後

不良が多い

良好

日本医大式 脳卒中ポケットマニュアル

 

【好発部位とMRI所見】

⓪基本事項

・BADは慢性期になると多くは15mm未満のサイズになります。

→剖検を主体とした従来の分類では、BADを見出すことが困難でした。

・BADが近年注目されるようになった背景には、画像診断学の進歩が関係します。

→DWIで発症早期の大きな病巣が確認できるようになったのです。

・これらの背景から、BADは臨床的にはMRI所見で定義されます

・従って、その所見を知ることはBADそのものを知ることに他なりません。

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脳卒中 33:37–44, 2011

 

レンズ核線条体動脈(LSA)

・LSA:LenticuloStriate Arteryの、特に外側枝が好発部位の1つです。

※外側線条体動脈(LSA:Lateral Striate Artery)という表現も、同義だと思います。

※以降はLSA=レンズ核線条体動脈として記述します。

・LSAはMCAのM1から分岐する2-12本(平均7.1本)の穿通枝です。

・複数本あることから、走行により内/外側枝などと分類されたりします。

支配領域被殻淡蒼球尾状核、内包など。

LSA領域のBADでは、基底核-放線冠に横断像で3スライス以上の梗塞巣を認めます。

→スライス厚を5-7mmとし、3スライスなので15mm以上のサイズとなります。

※しばしば、後述する線条体内包梗塞(SCI)との鑑別を要します

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分枝粥腫型梗塞(BAD)とは?画像診断のポイントは?

 

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脳梗塞のBADタイプとは?症状・治療・画像診断まとめ!

 


外側線条体動脈領域の分枝粥腫型梗塞のMRI画像診断【画像診断チャンネル】

 

②傍正中橋動脈(PPA)

・PPA:Pontine Paramedian Arteryです。

脳底動脈から分岐する穿通枝で、主に橋底部内側を支配します。

PPA領域のBADでは、橋底部腹側から被蓋方向(背側)へ進展する梗塞巣を認めます。

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脳梗塞のBADタイプとは?症状・治療・画像診断まとめ!

 


橋の分枝粥腫型梗塞(傍正中動脈領域)【画像診断チャンネル】

 

【臨床的特徴】

①症状

ラクナ梗塞で認めるラクナ症候群(後述)の症状を示します。

→特にpure motor/ataxic hemiparesis/dysarthria clumsy hand syndromeです。

・また進行性運動麻痺(PMD)をきたすことが大きな特徴です。

・PMDを呈する場合、DWIでの梗塞巣の拡大を伴います(図)。

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京二赤医誌・Vol. 34:2-15, 2013

 

TIAとの関連

capsular warning syndrome:内包領域の虚血で片麻痺などを繰り返すTIAの特殊型です。

→LSA領域の虚血が繰り返され、半数弱が早期に梗塞に移行します。

→このような機序でBADにTIAが先行する症例が経験されます。

・特にLSA領域のBADでは、TIAがPMDの有意なリスク因子と考えられています。

・PPA 領域の同機序を"pontine warning syndrome"と呼びます。

 

③背景因子

・基本的に動脈硬化のリスク因子とoverlapします。

高血圧糖尿病脂質異常症肥満喫煙などです。

・非BAD型梗塞に比し、有意に多いリスク因子はありません。(脳卒中 33:37–44, 2011)

・前述のように、主幹動脈の50%以上の狭窄や心房細動を認めないことも重要です。

 

●コラム:ラクナ症候群

Pure motor stroke

-症状:半身麻痺、構音障害、患側への舌偏位、錐体路徴候など。

-病巣:内包や放線冠(レンズ核線状体動脈)、橋底部(橋傍正中枝)など。

 

Pure sensory stroke

-症状:半身のしびれ/他覚的感覚障害。

※運動麻痺や失調症を伴わないことが特徴です。

-病巣視床後腹側核(視床膝状体動脈)など。

 

Ataxic hemiparesis

-症状:一側上下肢の軽度の麻痺、同側の運動失調。

※麻痺は下肢遠位部に強く、運動失調の程度は麻痺より強い傾向があります。

-病巣:内包や放線冠(レンズ核線状体動脈)、橋底部(橋傍正中枝)など。

 

Dysarthria clumsy hand syndrome

-症状:一側の手の脱力と巧緻運動障害、構音嚥下障害。

※構音嚥下障害は強い傾向にあります。上半身の症状が中心のtypeです。

-病巣:内包や放線冠(レンズ核線状体動脈)、橋底部(橋傍正中枝)など。

 

Sensorimotor stroke

-症状:半身麻痺と半身の感覚障害。

※⑴+⑵のイメージです。

-病巣視床+内包、橋外側(まれ)、被殻(まれ)など。

視床と内包の血管支配は異なりますが、MCAやPCAの灌流域境界の多様性が影響していると考えられています。

 

手掌口症候群(COS:Cheiro Oral Syndrome)

-症状:同側の口周囲と手指のしびれ。

-病巣視床後腹側核(視床膝状体動脈)、中心後回、橋など。

-症状にはバリエーションがあり、両側性片側口周囲と対側の手指に生じるものもあります。

→特に後者は"交差性手掌口症候群"と呼ばれ、延髄病変が示唆されます。

※Wallenberg症候群の軽症型の可能性が指摘されています。

 

【治療】

①基本事項

・BADはPMDなどにより、機能障害を残す症例が多いとされます。

・従って超急性期からの積極的な治療介入が推奨されます。

・基本的にはアテローム血栓脳梗塞に準じた抗血小板薬の使用を考慮します。

rt-PA静注療法は有効な場合もありますが、再増悪する症例も少なくないようです。

→慎重投与項目の"軽症"例も多く、あまり適応とならない印象です。

・穿通枝領域であり、原則として血栓回収療法の適応にはなりません

・以降は血行再建療法を除くアテローム血栓脳梗塞の治療を示します。

※参考記事:脳梗塞の急性期治療

 

②抗血栓

DAPT(Dual AntiPlatelet Therapy)

投与例:プラビックス®75mg 1錠/日+バイアスピリン®100mg 1錠/日。

※発症日のみプラビックス®300mg/日、バイアスピリン®200mg/日も可能です。

発症48時間以内に開始し、21日目まで継続します。

21日目以降はいずれか1剤のみを継続します。

アスピリン単剤よりDAPTの方が脳梗塞再発予防効果が高いという研究があります。

・また、中等度-重度の出血合併症を増加させなかったというデータもあります。

※いずれも"CHANCE試験"と呼ばれる試験の結果を述べています。

・なお、長期間のDAPTは単剤より出血合併症を増加させることが知られています。

DAPTは長期間行いません。過去の研究から"21日間"は比較的エビデンスがあります。

・使用薬剤のアレルギー等がある場合はプレタール®200mg/日も選択肢です。

 

オザグレルNa

投与例:キサンボン®注80mg+生食100mL 2時間かけて 1日2回。

発症日(遅くても発症5日以内)に開始し、7-14日間継続します。

内服困難のためDAPTが施行できない症例で投与を考慮します。

・他の抗血栓療法との併用のエビデンスは乏しく、僕は併用を控えたいと思います。

・トロンボキサンA2合成阻害により抗血小板作用を示します。

禁忌:出血(出血性脳梗塞脳出血など)、脳塞栓症、重篤意識障害を伴う脳梗塞、過敏症既往など。

 

アルガトロバン

投与例:スロンノン®HI注60mg/12mL+生食36mL 2mL/hrで2日間持続静注。

→続けて、スロンノン®HI注10mg/2mL+生食100mL 3時間かけて 1日2回 5日間。

医師により使用法や頻度が大きく異なる印象のある薬剤です。

(使用法を決定付けるだけの強固なエビデンスがありません。)

・原則として発症48時間以内の病変最大径が1.5cmを超える症例に用います。

→一般的なラクナ梗塞では適応がないということになります。

・また、実臨床では以下のような使用法を経験します。

-DAPTに加える3剤目の抗血栓薬としての使用。

-内服困難症例での使用。

-DAPTやバイアスピリン®治療時に増悪した症例での使用。

→僕はDAPTで増悪した症例に対する3剤目の抗血栓薬として使用を検討します。

・抗トロンビン作用による抗凝固作用を示します。

禁忌:出血、脳塞栓症、重篤意識障害を伴う脳梗塞、過敏症既往など。

 

③脳保護薬

投与例:エダラボン(ラジカット®)30mg/100mL 1日2回 30分かけて。1-2週間。

※発症後24時間以内の投与開始が推奨されています。

禁忌:高度腎機能障害(CCr(eGFR)<15)、過敏症既往。

副作用:肝/腎機能障害、心不全、DICなど。

フリーラジカルを除去することで脳保護作用を示すとされています。

エビデンスは強くありませんが、適応例なら使用すべきと考えます。

・ただし腎機能障害例には注意が必要で、禁忌でなくても慎重に投与を検討します。

※腎機能が増悪し得ます。特にBUN/Cr比が高い症例で致命的になり得ます。

 

④スタチン

投与例1:アトルバスタチン(リピトール®)10mg 1錠1×。

投与例2:ロスバスタチン(クレストール®)5mg 1錠1×。

投与例3:ピタバスタチン(リバロ®)2mg 1錠1×。

※クレストール®は腎機能障害患者において減量が必要です。

・発症早期からのスタチン投与は機能予後改善を示す研究データなどが多くあります。

→ただし上記よりも高用量(e.g.アトルバスタチン80mg)での使用も多いです。

・また日本で発症早期のスタチン投与を調査したASSORT試験ではその有効性を示せませんでした。

※ただしASSORT試験は40%がラクナ梗塞で、軽症例が多かった影響も否定できません。

上記の通常用量を発症早期に開始する必要性は強くないかもしれませんが、デメリットも少ないと思われます。

・実臨床では高用量スタチンの投与はあまり見ない印象ですが、投与量については今後のエビデンスの蓄積を待ちたいと思います。

参考:脂質異常症における脳梗塞既往者の慢性期の脂質管理目標

-LDLコレステロール<120mg/dL

(冠動脈疾患既往者では<100, さらに高リスクでは<70)

-HDLコレステロール≧40mg/dL

-中性脂肪<150mg/dL

※高リスク:FH, ACS, DMに特定病態を伴うもの(非心原性脳梗塞含む)。

 

プロトンポンプ阻害薬

投与例:オメプラゾール20mg+生食50mL 1日2回。

・特にアスピリンを使用する場合はPPIを必ず併用します。

・そうでなくてもCushing潰瘍のリスクが高いと考えられる症例で投与します。

可能であれば内服薬へ移行します。

 

線条体内包梗塞(SCI)】

①基本事項

・SCI:StriatoCapsular Infarctionです。

・LSA領域の梗塞であり、しばしば画像所見からLSA領域のBADと鑑別を要します。

→SCIはLSAの全領域(場合によりACA領域等も含む)の梗塞です。

被殻内包尾状核最大径20-30mm以上の大径の梗塞巣を呈します。

LSA領域のBADとは画像所見や後述の臨床像から鑑別を試みます。

・BADとの鑑別が重要なのは、治療方針が変わり得るためです。

 

②病態

・特にBADとの違いを考える上で、病態の理解は重要と思います。

・SCIの主病態は"MCA近位部の閉塞"と考えられています。

→その原因として主に"心原性塞栓"や"内頚動脈からの動脈原性塞栓"が知られます。

→これに伴いLSAの全領域の梗塞が生じます。

・なお、周囲の皮質/皮質下領域が梗塞に陥らないのは以下の機序が想定されています。

-脳軟膜動脈吻合が側副血行路として機能する。

-早期に塞栓再開通が生じる。

→後者からrt-PA血栓回収療法による内頚動脈-M1再開通例でも、SCIを認め得ます。

※また、頻度は低いですがMCAのアテローム血栓性機序によるSCIも知られています。

 

参考:各病態の頻度の報告例

・心原性塞栓:39.5%

・内頚動脈からの動脈原性塞栓:27.9%

・MCAのアテローム血栓:7.0%

(Brain 1991 ; 114 : 51−70)

→BADと異なる"抗凝固療法"が必要な心原性塞栓の機序が多いことが分かります。

→このため、"BAD"と"心原性塞栓によるSCI"の鑑別が重要となるのです。

 

③症状

半身麻痺/感覚障害構音障害などを認めます。

→"ラクナ症候群"の症状を呈するのは35%にとどまります

・また失語半側空間無視片側身体失認などの"皮質症状"を60%で認めます。

→この点はLSA領域のBADとの鑑別に有用です。

→なお、皮質領域が梗塞とならずに皮質症状を認める場合の機序はまだ不明です。

※側副血行路や塞栓後再開通の程度や時間などが関連している可能性があります。

(症状の頻度:Neurology 34 : 1423−1430, 1984)

 

MRI所見

被殻内包(前脚)尾状核最大径20-30mm以上の大径の梗塞巣を認めます。

・LSA領域のBADとの鑑別の要点は、より大径であることです。

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京二赤医誌・Vol. 34:2-15, 2013

 

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Basal ganglionic infarction | Radiology Case | Radiopaedia.org

 

⑤治療

通常の脳梗塞治療に準じます。

→すなわち、その機序に合わせた抗血栓を使用します。

※塞栓性機序が多いため、抗凝固薬の適応となることが多いです。

・また適応であればrt-PA静注療法血栓回収療法を行います。

・SCIは進行性経過をとり重症化する場合が多く早期治療介入が重要です。