内科医キューピーのつぶやき

医学部首席になれた勉強法や医学情報を発信したりします。

一過性脳虚血発作(TIA)の診療

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キューピーです。

 

TIAは救急外来などで頻繁に遭遇する病態です。

 

判断を誤ると患者さんに大きな後遺症を残してしまうこともあります。

 

従って、その対応を勉強することは非常に重要だと思います。

 

※この記事の内容が原因で生じたいかなる不利益にも責任は負いかねます。

 

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目次

 

 

【参考文献】

 

【基本事項】

TIA:Transient Ischemic Attacksです。

・不可逆的な障害を阻止し得るため、原則入院が必要緊急性の高い疾患です。

定義:脳虚血による一過性の局所神経症候で、症候の持続が24時間以内のもの。

→24時間以上持続する場合は"脳梗塞"になります。

→ただし定義上はTIAでも、DWIで高率に梗塞巣を認めることが明らかになりました。

→近年では"症候の持続が24時間以内かつ画像陰性のもの"が主流の考え方です。

※症候の持続が24時間以内かつ画像陽性のものは"DWI陽性のTIA"などと呼ばれます。

TIAと診断したら速やかに発症機序を評価し、速やかに治療を開始します。

-非心原性TIA:抗血小板療法

-心原性TIA:抗凝固療法

 

【診断】

①症状(最重要)

内頚動脈系(前方循環)

片麻痺:顔面も含まれれば脳由来の可能性が高まります。

巧緻性障害:"ボタンがかけにくい"など。軽症と判断しないように注意します。

感覚障害:"皮が1枚張った感じ"など。顔面も含まれれば脳由来の可能性が高まります。

一過性黒内障:一眼の全部または部分的な視力消失。眼動脈由来の症状です。

視野障害同名半盲や1/4半盲を呈します。

言語障害:構音障害(呂律が回らない)や失語を認めます。

Limb-shaking:(通常片側性の)上下肢の不随意運動です。概ね5分以内です。

→不随意運動は舞踏様運動が多く、バリズムの症例も報告されています。

※Limb-shakingは内頚動脈狭窄/閉塞に由来し、脳卒中再発のリスク因子でもあります。

 

椎骨脳底動脈系(後方循環)

運動障害(脱力/麻痺/巧緻性障害):上下肢/顔面、左/右など様々な組み合わせです。

感覚障害:一側性または両側性に認めます。

視野障害同名半盲など。脳血管のバリエーションによっては生じ得ます。

失調/回転性めまい/複視/構音嚥下障害:これらの複数が生じます。

※いずれかが単独で生じる場合はTIAとは見なしません。

 

TIAらしくない症状

※以下の症状を認める場合、TIA以外の疾患の可能性が高まります。

・椎骨脳底動脈系の症状を伴わない意識障害

・強直性間代性痙攣

・閃輝性暗点

・感覚障害のマーチ(症状出現部位が移動)

・回転性めまいのみ

・浮動性めまいのみ

・嚥下障害のみ

・構音障害のみ

・複視のみ

・便尿失禁

・意識レベルの変化に伴う視力障害

片頭痛に伴う局所神経症

・錯乱のみ

・健忘のみ

・脱力発作のみ

 

②身体診察

血圧や脈拍の左右差

心音:不整であるか、心雑音があるか(IE)を確認します。

神経診察TIAであれば異常を認めません。 

頚部血管雑音:呼吸を停止させて聴取します。

 

③頭部MRI

・前述のように"DWI陽性のTIA"であるか確認が必要です。

・シーケンスではDWIMRAが特に重要です。

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一過性脳虚血発作とは?MRI画像診断のポイントは?

 

④その他の検査

血液検査

-簡易血糖測定:鑑別の1つである低血糖を除外します。

-血算/生化学/凝固:ルーチンのため確認します。

-BNP脳梗塞では心原性の診断補助に有用という報告があります。

※その際のカットオフ値は140 pg/dLが目安です。

-甲状腺ホルモン:二次性高血圧やAFの原因になります。

-脂質/HbA1c動脈硬化リスクの評価を行います。

心電図不整脈(特にAF)や虚血の可能性などを評価します。

※心電図モニターやホルター心電図が特に有用です。

胸部XP:心拡大(AFのリスク)や上縦隔拡大(>8cm)などを評価します。

頚動脈エコー:頚動脈狭窄や解離を評価します。

心エコー:左房内血栓や粘液腫の検出に有用です。

※施行可能であるならば、経食道心エコーの方がより有用です。

 

上縦隔の拡大1

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緊急大動脈疾患の実際|東邦大学医療センター大橋病院 心臓血管外科

 

上縦隔の拡大2

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怖い失神(4):日々是よろずER診療:SSブログ

 

上:プラーク 下:解離

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Chapter-3 観察のポイントと異常像

 

左房内血栓(消失過程)

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European Heart Journal, Volume 34, Issue 35, Page 2745

 

【治療】

①基本戦略

TIAを疑ったらABCD²スコアでリスク評価を行います。

・また、原因(心原性or非心原性)を可能な限り推測します。

入院適応(TIA研究班)

⑴発症48時間以内

⑵発症7日以内で下記のいずれかの場合

-ABCD²スコア≧4点

-1週間以内にTIAを繰り返す

-DWIで新鮮梗塞巣を認める

-塞栓源となる頚動脈/頭蓋内病変やAFを認める

→特に⑴から、ER受診例は基本的には入院適応です。

 

②ABCD²スコア

Age(年齢)

60歳以上 =1点

Blood pressure(血圧)

sBP≧140 or dBP≧90 =1点

Clinical features(臨床症状)

片側の運動麻痺 =2点

麻痺を伴わない言語障害 =1点

Duration(持続時間)

60分以上 =2点

10-59分 =1点

Diabetes(糖尿病)

糖尿病 =1点

→スコア別の2日以内の脳梗塞発症リスクは以下の通りです。

0~3点:1.0%

4~5点:4.1%

6~7点:8.1%

(Lancet 369:283, 2007)

 

③非心原性TIA

急性期治療

・明確な定義はありませんが、概ね1-2週間は急性期治療を行います。

※なお、"脳梗塞"では21日間(3週間)と考える傾向もあります。

・この際に以下の"ハイリスクTIA"か否かで治療内容が変わります。

-ABCD²スコア≧4点

-1週間以内にTIAを繰り返す

-DWIで新鮮梗塞巣を認める

-塞栓源となる頚動脈/頭蓋内病変を認める

※頚動脈病変は"50%狭窄以上"が目安です。

※前述の"入院適応"の項目とほぼ一致します。

通常治療例:バイアスピリン®100mg 1-2錠/日。

ハイリスク治療例:プラビックス®75mg 1錠/日+バイアスピリン®100mg 1-2錠/日。

アスピリンを使用する場合、PPIの併用を忘れないようにします。

 

慢性期治療

・1-2週間以降は以下の治療とします。

投与例1:バイアスピリン®100mg 1錠/日。

投与例2:プラビックス®75mg 1錠/日。

投与例3:プレタール®100mg 2錠/日。

アスピリンを使用する場合、PPIの併用を忘れないようにします。

 

④心原性TIA

急性期治療

・基本的にはDOACによる治療を行います。

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 2020年改訂版 不整脈薬物治療ガイドライン

HAS-BLEDスコア

-Hypertension(収縮期血圧>160mmHg):1点

-Abnormal renal & liver function(肝腎機能障害):各1点

-Stroke(脳卒中):1点

-Bleeding(出血):1点

-Labile INRs(不安定なINR):1点

-Elderly(65歳以上):1点

-Drugs or alcohol(薬剤またはアルコール依存症):各1点

※肝機能障害:慢性肝障害or検査値異常(総Bil>正常上限×2、AST/ALT/ALP>正常上限×3)

※腎機能障害:慢性透析、腎移植、血清Cr≧2.26mg/dL

※出血:出血歴、出血傾向(出血素因・貧血など)

※不安定なINR:INR高値orTTR<60%

※薬剤:NSAIDs、抗血小板薬

→3点以上で出血高リスクと考えます。

重大な出血因子

-年齢≧75歳

-低体重≦50kg

-腎機能障害

-抗血小板薬併用

-管理不能な高血圧

→いずれかを認める場合は、より出血リスクが高いと考えます。

 

●コラム:ワルファリンについて

使用場面

・現在ではDOACの使用頻度が高いですが、以下ではワルファリンを使用します。

-弁膜症性心房細動(リウマチ性僧帽弁疾患or機械弁置換術後)

-CCr<15mL/分の高度腎機能障害時

※ただし、出血リスクが高まるため添付文書上はワルファリンも禁忌です。

-生体弁術後3か月間(DOACのエビデンスが不十分のため)

 

目標PT−INR

<70歳:2.0-3.0

≧70歳:1.6-2.6

 

投与例

ワーファリン® 1-3mg/日とします。

高齢者(特に≧75歳)には1mg/日からの開始が推奨されます。

・投与開始初期は凝固能が亢進してしまうとされています。

→目標INRまではバイアスピリン®100mg 1錠/日の併用を考慮します。

※病態に即してヘパリン併用でも可能です。

 

⑤特殊なTIA

TIA原因に即して治療方針を決定することが重要です。

・例えば以下のような場合は、病態に即した治療を要します。

-感染性心内膜炎:抗菌薬投与。抗血栓薬は不要です。

-Trousseau症候群:原疾患(癌)の治療。ヘパリンやDOAC併用も考慮します。

-大動脈炎症候群ステロイド投与。抗血栓薬や血行再建術も考慮します。

-心臓腫瘍:外科的治療。

 

⑥リスク因子の治療

高血圧症

急性期の血圧コントロールについては明確な指標がありません

・降圧薬による治療介入は、最速でも発症24時間以降に開始します。

高血圧の記事にも記載の通り、慢性期は以下を目標とします。

<140/90mmHg:両側頚動脈狭窄、脳主幹動脈閉塞、血管未評価のいずれか。

<130/80mmHg:上記に当てはまらないとき。

※抗血栓療法の併用を前提とします。

 

脂質異常症

脳梗塞の記事にも記載の通り、急性期からの治療介入のエビデンスはありません。

・しかし、デメリットも少ないため急性期から投与を行うことも多いです。

投与例1:アトルバスタチン(リピトール®)10mg 1錠1×。

投与例2:ロスバスタチン(クレストール®)5mg 1錠1×。

投与例3:ピタバスタチン(リバロ®)2mg 1錠1×。

※クレストール®は腎機能障害患者において減量が必要です。

参考:脳梗塞既往者の慢性期の脂質管理目標

-LDLコレステロール<120mg/dL

(冠動脈疾患既往者では<100, さらに高リスクでは<70)

-HDLコレステロール≧40mg/dL

-中性脂肪<150mg/dL

※高リスク:FH, ACS, DMに特定病態を伴うもの(非心原性脳梗塞含む)。

 

糖尿病

・特に急性期において高血糖のみならず低血糖予後不良因子の可能性があります。

→概ね血糖値140-180mg/dLでコントロールします。

・慢性期においてはガイドライン上はピオグリタゾンがやや推奨されます。

※グレードC1。実臨床ではあまり使用頻度は高くないようにも思います。