キューピーです。
頭部MR angiography(MRA)はよく撮像されるシーケンスです。
造影剤を用いずに脳動脈を評価できる利便性の高さが特徴です。
今回はそんな頭部MRAの読影について考えます。
※この記事の内容が原因で生じたいかなる不利益にも責任は負いかねます。
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目次
【参考文献・サイト】
【基本事項】
・径の細い後交通動脈、前脈絡叢動脈、外側線条体動脈などは描出されないことが多いです。
・MRAにもいくつか撮像法がありますが、通常はtime of flight(TOF)法です。
・TOF法は流速の速い部分を高信号で描出する性質があります。
→高度狭窄で血流が非常に遅い場合は全く描出されず、閉塞と区別できません。
→従ってTOF法では狭窄病変の過大評価に注意する必要があります。
・T1WIで強い高信号を示す出血や濃縮蛋白が描出されることがあります。
→MIP像では動脈瘤に見えることもあるため、元画像を参照するようにします。
・MRAでは撮像面に平行(水平方向)に走行する血管を描出しにくい性質があります。
→内頚動脈サイフォン部などの屈曲が強い場所の狭窄評価には注意が必要です。
篠原 広行ら, 頭部MRAの基礎ーTime-of-flight(TOF)法を中心にー
【基本解剖】
頭部MRA(脳の血管)の解剖の基本!ポイントを動画付きで解説!
①内頚動脈(ICA:Internal Carotid Artery)
・頭側から尾側にかけてC1-C5に分類されます。
・C1:ACA/MCA分岐部~後交通動脈分岐部。
・C2:後交通動脈分岐部~眼動脈分岐部。
・C3:眼動脈分岐部~サイフォン部膝部。
・C4:海綿静脈洞部。
・C5:海綿静脈洞部近位~頚動脈管入り口。
・穿通枝の前脈絡叢動脈は内包後脚、外側膝状体、扁桃体などを支配します。
※穿通枝は径が細いため通常は描出されません。
②中大脳動脈(MCA:Middle Cerebral Artery)
前方循環系 Anterior circulation - ppt download
・M1-M4に分類され、屈曲する場所で数字が変わります。
※血管内治療はM1梗塞が良い適応となります。
・M1:水平部(horizontal segment)。
・M2:島部(insular segment)。
・M3:弁蓋部(opercular segment)。
・M4:終末部(terminal segment)。
・後頭葉以外の大脳半球外側面を支配します。
・M1の穿通枝であるレンズ核線条体動脈はレンズ核、内包膝/前脚などを支配します。
※穿通枝は径が細いため通常は描出されません。
③前大脳動脈(ACA:Anterior Cerebral Artery)
コツさえわかればあなたも読める リハに役立つ脳画像−改訂第2版(改変引用)
・A1-A5に分類されますが、臨床上はA1とA2以降くらいの認識でよいです。
・A1:内頚動脈~前交通動脈分岐部。
・A2:前交通動脈分岐部~脳梁吻部と膝部の接合部。
・A3:脳梁吻部。
・A4:脳梁前部。
・A5:脳梁後部。
・後頭葉以外の大脳半球内側面を支配します。
④後大脳動脈(PCA:Posterior Cerebral Artery)
コツさえわかればあなたも読める リハに役立つ脳画像−改訂第2版
・P1-P4に分類されますが、臨床上はP1とP2以降くらいの認識でよいです。
・P1:後交通動脈分岐部まで。交通前部。
・P2:迂回槽部。
・P3:四丘体部。
・P4:皮質部。
・大脳半球下面(後頭葉や側頭葉の一部)を支配します。
※穿通枝は径が細いため通常は描出されません。
⑤椎骨脳底動脈(VA:Vertebral Artery/BA:Basilar Artery)
・椎骨動脈はV1-V4に分類されますが、MRAではV4のみ確認できます。
※椎骨動脈解離もV4に好発します。
・V1:鎖骨下動脈~C6横突起(=骨外)。
・V2:C6~C1(=横突起内)。
・V3:C1~硬膜外。
・V4:硬膜内。
・後下小脳動脈(PICA):延髄外側や小脳後下面を支配します。
・前下小脳動脈(AICA):橋・延髄外側や小脳前下面を支配します。
・上小脳動脈(SCA):中脳・橋や小脳上部を支配します。
・脳底動脈の梗塞は脳底動脈閉塞や脳底動脈先端症候群などをきたします。
●コラム:脳底動脈閉塞
・脳梗塞の1%と比較的稀ですが、脳幹梗塞をきたし脳梗塞で最も重症です。
・無治療の場合、死亡率は85-95%で突然死例や若年例もあります。
・動脈硬化や血栓閉塞が多いですが、脳底動脈解離によるものもあります。
・動脈硬化では前駆症状として一過性めまい、意識障害、頭痛、構音障害、四肢筋力低下などを認めます。
・血栓閉塞では前駆症状なく突然の意識障害や麻痺で発症します。
→特に血栓閉塞では症状の程度に動揺(一過性改善含む)を認めながら悪化します。
・意識障害は必発で縮瞳(pinpoint pupil)が特徴的です。頭痛も認め得ます。
・治療:rt-PA投与を行い、奏功しなければ血管内治療を行います。
→予後を考慮し、適応外でも治療に踏み切ることも多いです。
※CT:脳底動脈のhyperdense sign/MRI:hyperintense sign
→いずれも脳底動脈の血栓を反映しています。
※血管造影:脳底動脈の閉塞を認めます。
●コラム:脳底動脈先端症候群
・top of basilar syndromeとも呼ばれます。
・脳底動脈遠位端の閉塞により後大脳動脈や後交通動脈の灌流域に梗塞を生じます。
→多彩な神経症状を呈しますが、明らかな四肢麻痺を認めないのが特徴です。
Intern Med. 2011;50(13):1425-8
【正常変異(破格)】
・脳動脈には多数の正常変異(破格)が知られています。
・すなわちnormal variantが多数あり、異常所見と捉えないように注意を要します。
・全て覚えるのは非現実的であり、狭窄と鑑別を要する低形成を中心に押さえます。
・重複:同じ血管を複数本認める破格です。
・窓形成:1本の動脈が2本に分岐して、再び1本に合流する破格です。
・低形成:以下の好発部位を押さえます。
-前交通動脈
-後交通動脈
-ACAのA1
-PCAのP1
-椎骨動脈(【異常所見】②で後述)
A1の低形成
頭部MRA(脳の血管)の解剖の基本!ポイントを動画付きで解説!
MCAの重複
ACAの窓形成とVA低形成(PICA end)
【異常所見】
①狭窄/閉塞
・撮像面に平行(水平方向)な血管の狭窄はアーチファクトの可能性があります。
※アーチファクトは左右対称で同じ撮像平面に起こりやすいです。
・また、閉塞と高度狭窄は区別が難しく過大評価に注意が必要です。
・真の狭窄であれば動脈硬化、塞栓、動脈解離などの原因を評価します。
→MRA単独では難しく、病歴、CT、他のMRIシーケンスを総合して考えます。
・また、側副血行路の穿通枝(もやもや血管)が発達しているかも評価します。
→狭窄が急性なのか慢性なのか判断する材料になります。
・可逆性血管攣縮症候群(RCVS)では一過性に血管が不均一に狭窄します。
※疾患概念は片頭痛の記事で述べています。
左MCAの狭窄
左MCAの狭窄
頭蓋内動脈狭窄症 | 対応疾患 | 流山中央病院 脳神経外科
右MCAの閉塞
脳血管障害 閉塞性脳血管障害 | 東京女子医科大学脳神経外科
RCVS
見逃してはならない怖い頭痛:RCVSと椎骨動脈解離 | ブログ
もやもや病(Willis動脈輪閉塞症,moyamoya disease)の画像診断【画像診断チャンネル】
②拡張
・脳動脈瘤(大半が嚢状)と動脈解離を考慮します。
・脳動脈瘤はIC-PC分岐部、MCA M1末梢分岐部、A-comに好発します。
・動脈解離は狭窄(狭窄型)と拡張(動脈瘤型)の両者を呈し得ます。
→動脈瘤型はV4に限局するとされます。
※なおMRA MIP像で描出される椎骨動脈はV4のみです。
・動脈解離のMRA/MRI所見
-シーケンスはMRA、脂肪抑制T1WI、T2WIや造影MRA(特に元画像)が重要です。
-短期間での所見の変化は本症を示唆する重要な所見です。
-血管の拡張や狭窄が唯一の画像所見であることも少なくありません。
-動脈拡張:本症に特異的な所見です。
-動脈狭窄:非特異的で前項の動脈硬化やRCVSなどとの鑑別を要します。
→元からの低形成との鑑別にはBPAS像が有用です(下画像参照)。
-pearl and string sign:拡張と前後の狭窄で、特異的です。頻度は高くありません。
-内膜フラップ(intimal flap):造影MRA元画像(次点でT2WI)で確認し得ます。
-二重腔(double lumen):造影MRA元画像(次点でT2WI)で確認し得ます。
→偽腔関連の所見は造影MRA元画像のみで描出可能な場合も多いです。
-壁内血腫:三日月あるいは半月状で脂肪抑制T1WIでの高信号が最も重要です。
【MRI/MRA画像あり】脳動脈瘤の種類、頻度、好発部位、画像所見まとめ!
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