内科医キューピーのつぶやき

医学部首席になれた勉強法や医学情報を発信したりします。

めまいの診療

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キューピーです。

 

めまい診療はとても難しく、奥深いものです。

 

あらゆる主訴の中で最も難しいものの1つだと思います。

 

僕自身も何となくの診療を行い、避けてきた分野です。

 

今回はそんなめまい診療について、まとめることに挑戦してみました。

 

※この記事の内容が原因で生じたいかなる不利益にも責任は負いかねます。

 

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目次

 

 

【参考文献】

 

【基本事項】

・"めまい"は主観的な感覚であり、古典的には以下の3つに分類されます。

-回転性めまい(vertigo)

-前失神(presyncope)

-動揺性めまい(diziness 平衡障害とふらつき)

・めまい患者の50%は末梢性10%は中枢性10%は前失神30%はその他や原因不明です。

・特に中枢性めまいと前失神は死亡リスクに直結するため、見逃さないようにします。

・また、症状の強さと原疾患の重篤さは必ずしも一致しないことにも注意が必要です。

※頻回の嘔吐→BPPV、重症感のないめまい→小脳梗塞ということもあります。

・これから示すようにめまい診療は、

中枢性めまいと前失神の除外→BPPV診断→末梢性めまい鑑別→マネジメント方針決定

という手順で行うことが最も良いのではないかと考えます。

 

●コラム:めまい診療が難しい理由

・めまいが強いと病歴聴取や身体診察がままなりません

→いわゆる"教科書の型"通りに鑑別を進めていくことが難しくなります。

眼振などの"めまい特有の所見"は敷居が高く敬遠されがちです。

・頭部CTも以下の理由から、中枢性めまいに対する検査として弱いとされます。

-脳梗塞における頭部CTの感度は16%で、小脳梗塞ではさらに低い。

-500人のめまい患者に頭部CTを撮影し、異常が見つかるのは1人という試算がある。

頭部CTで所見なし≠脳卒中なし、ということになります。

・そして頭部MRIですら以下の理由から、脳卒中の除外を行うことができません。

-めまいを来す後方循環(椎骨脳底動脈系)の梗塞は19%で見逃されている。

-MRI所見出現までタイムラグがあり、急性期では偽陰性となるためである。

-更に10mm未満の小脳梗塞は発症2日目でもMRIの感度が47%である。

※10mm以上でも92%であり、100%ではない。

頭部MRIで所見なし≠脳卒中なし、ということになります。

・めまい診療では集められる所見を総合して、診断に至らなくても帰宅か入院かの方針決定を行うことを最終目標とします。

 

【中枢性めまいと前失神の除外】

①基本事項

・まずは中枢性めまいと前失神の除外を行います。

病歴とvital signが重要ですが、前述のごとく症状が強いと病歴聴取が難しい場合もあります。

・前失神とは、脳全体の一過性の低灌流を病態とするものの失神を呈さない状態です。

→失神の一歩手前という意味で前失神と呼ばれます。

・前失神を考える場合は"失神"に準じたアプローチを行います。

 

②中枢性めまい

病歴

突然発症(ただし前失神やBPPVも突然発症が多い)

何もしていない(頭を動かしていない)時の発症

安静時も持続

一定の方向を向いても症状改善が乏しい

脳卒中リスク因子の既往

-高血圧 -糖尿病 -脂質異常症 -喫煙

-心房細動 -多量飲酒 -CKD -肥満

随伴症状や神経所見

-頭痛(頚部痛) -嚥下障害 -複視 -眼球運動障害 -歩行障害(体幹失調)

-運動失調(指鼻指試験/膝踵試験/回内回外試験) -構音障害

-上下肢/顔面運動障害 -上下肢/顔面感覚障害(特に痛覚) -しびれ感

※特に歩行障害は見逃しやすく、必ずtamdem gait(継ぎ足歩行)を確認します。


3-1a. 小脳障害 失調 鼻指鼻試験


Heel-knee-shin ataxia

 

vital sign

・特に脈拍と血圧に注目します。

・脳血管障害では一般的に血圧は高くなります

・頭蓋内圧亢進を伴うと"血圧高値+徐脈(Cushing現象)"を呈します。

 

主な鑑別疾患

・小脳梗塞/出血

・Wallenberg症候群

・椎骨脳底動脈循環不全(TIA含む)

多発性硬化症

・脳腫瘍

 

③前失神

pkun.hatenablog.com

・失神に準じた対応となるため、詳細は上記記事に譲ります。

・典型的には"立ち上がった際に血の気が引く感じがした"のような病歴ですが、原因によっては異なる病歴もあります。

・vital signも原因により異なります。大動脈解離を考慮し、血圧の左右差を確認します。

・主な鑑別疾患も上記記事に譲りますが、"HEARTS+循環血液量減少"は見逃さないようにします。

※患者の"めまい"という主訴が"前失神"であるか自信が持てない場合は、前失神である可能性を考慮し、"HEARTS+循環血液量減少"は除外するように診療を進めていくとよいのではないかと考えます。

 

【BPPVであるか判断】

①基本事項

BPPVはめまい疾患で最も頻度が高く、40%程度を占めるというデータもあります。

50-60歳の女性に好発し、骨粗鬆症はリスク因子と考えられています。

・大きく"半規管結石症"と"クプラ結石症"に分類されます。

-半規管結石症:半規管に卵形嚢由来の小耳石が迷入し、体位変換に伴いリンパ流動を生じさせ、めまいと眼振が生じます。

-クプラ結石症:クプラに卵形嚢由来の小耳石が付着し、体位変換に伴いクプラが偏倚することで、めまいと眼振が生じます。

→両者では頭位変換時に誘発される眼振の方向が逆になります。

※クプラ:半規管膨大部の感覚細胞の感覚毛を包み込むゼラチン質からなる構造。

・また、障害部位で"後半規管型(70%)" "外側半規管型(30%)" "前半規管型(稀)"に分類されます。

クプラ結石症の大半は外側半規管型であり、その他の部位は考慮しなくてよいと考えます。

 

②病歴

・古典的な分類では"回転性めまい(vertigo)"になります。

特定の頭位(寝返り、洗濯物を取り込む、靴ひもを結ぶ等)で誘発されます。

・頭位変換から数秒の潜時で生じ、次第に増強→減弱し1分以内に消失します。

・"臥位でめまいが増悪する"場合、後半規管型BPPVの可能性が有意に高くなります。

難聴、耳鳴り、耳閉感を伴いません。他の末梢性めまいとの鑑別に重要です。

中枢神経症状(麻痺や感覚障害など)を伴いません。中枢性めまいとの鑑別に重要です。

 

③Dix-Hallpike test

後半規管型BPPV(70%)の診断に有用です。

座位で頭を45°右or左側に回旋し、介助しながら20°懸垂位とします。

→これを両側で行います。一度座位に戻してから反対方向を行います。

患側での検査で、患側方向の回旋を伴う上向き眼振が誘発されます。

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第1回 「めまい」 より


Left Posterior Canal BPPV | BalanceMD - www.BalanceMD.net

※動画では左向き回旋を伴う上向き眼振を認め、左側後半規管型BPPVです。

 

④Epley法

・Dix-Hallpike testで後半規管型BPPVの診断に至ったら、そのままEpley法に移ります。

・Epley法は後半規管型BPPVに対してNNT 2というデータもあり、非常に有用です。

・まず、Dix-Hallpike testと同じ要領で患側下懸垂頭位とします。

→頭を90°回旋し健側下懸垂頭位→体幹を健側下側頭位→座位と体位変換をします。

各体位は30秒-2分程度保持します(眼振の停止を目安とします)。

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第1回 「めまい」 より


Epley Maneuver to Treat BPPV Vertigo

 

⑤Supine-Roll test

外側半規管型BPPV(30%)の診断に有用です。

仰臥位の状態から頭を90°右側→仰臥位→90°左側に動かし、眼振を観察します。

通常のBPPVならば向地性眼振となり、眼振やめまいの強い側が患側となります。

クプラ結石症だと背地性眼振となり、眼振やめまいの弱い側が患側となります。

眼振の減衰を認めない場合にクプラ結石症と捉えるという記載の文献もありました。

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第1回 「めまい」 より

youtu.be

※動画(3:46-)は向地性眼振で、左側が患側と考えられる外側半規管型BPPVです。

 

⑥予後

・"良性"発作性頭位めまい症の名前通り、良性疾患であり自然軽快します。

・概ね後半規管型は3-4週間外側半規管型は1-2週間で自然軽快します。

※ただし、報告により差があります。

・上記期間を過ぎても症状改善が得られないものを、難治性BPPVと考えます。

・なお、後半規管型のEpley法のような治療法は外側半規管型にはありません

※Lempert法がありますが、めまいを誘発する上に十分なエビデンスがないそうです。

 

【その他の末梢性めまいの鑑別】

①基本事項

・まず大前提として、難聴や耳鳴りといった蝸牛症状を伴う場合は必ず耳鼻科へ紹介します。

→聴力検査など、耳鼻科でのみ行える検査が必須となるためです。

・従って非専門医がその場で診断できる末梢性めまい疾患は限られてきます。

・多くの書物では、前庭神経炎を学ぶことが推奨されているため、これについてまとめます。

・また、名前だけが独り歩きしている印象のあるメニエール病についてもまとめます。

※言及していませんが、当然BPPVも末梢性めまいの1つです。

 

②前庭神経炎

BPPVが否定的な末梢性めまいで蝸牛症状(難聴、耳鳴り、耳閉感)がなければ疑います

・突発性に生じる一側性の末梢前庭障害です。

発症7-10日前に感冒症状がなかったか確認します。50%程度で認めるとされます。

※主にウイルス感染(特にHSV-1)が原因と考えられているためです。

強い回転性めまいが、1-3日程度持続し、反復しないことが特徴です。

眼振健側へ"方向固定性眼振"というどの方向を見ても同じ向きの眼振が出現します。

健側を向くとより強い眼振となります(アレキサンダーの法則)。

方向固定性眼振≒前庭神経炎ですが、3%は中枢性(脳梗塞)です。

ステロイドが有効な可能性が示唆されていますが、特異的な治療はありません。

投与例プレドニン®錠 30-40mg/日 7日間で漸減-中止。


Left Vestibular Neuritis

※動画は左前庭神経炎で、右向きの方向固定性眼振およびアレキサンダーの法則を認めます。

 

メニエール病

蝸牛症状(難聴、耳鳴り、耳閉感)を伴う回転性めまいを繰り返している場合に疑います。

めまいは数分-数時間持続し、難聴は低音部の感音性難聴が多いとされています。

神経質な人に多く、ストレスが発症に大きく関与する可能性が考えられています。

・初回発作で確定診断はできず、基本的には除外診断となる点にも注意します。

急性期に行う特異的治療はありません。長期的にはストレスへの対応が重要になります。

私見ですが、ストレスのある人のめまい→メニエール病という投げやりな診断が為されているため、既往歴にメニエール病のある患者が異様に多いのだと思われます。本来はめまいの原因としては、稀であることに注意します。

 

●コラム:眼振のみで鑑別を進める場面

めまいが強すぎると病歴や身体診察がまともに行えないこともしばしばあります。

・そういった場面ではフレンツェル眼鏡を装着させ、眼振のみで鑑別を進めます。

・以下の3つに大別できます。

⑶でBPPVが否定的なら、前失神など"回転性めまい以外"の症候であると考えます。

 

注視方向性眼振/垂直性眼振

-注視方向性眼振:右を向くと右向き、左を向くと左向きの眼振が出現します。正面視時はどちらでも構いません。

-垂直性眼振:上下方向の固定ができずに眼振が出現します。非常に稀とされます。

-いずれも中枢性めまいを示唆する眼振で、特異度が高いです(感度は高くありません)。

認めた場合はCT/MRI撮影し、異常がなくても入院、経過観察とします。

※動画はいずれも垂直性眼振です。


Vertical Nystagmus


Vertical Nystagmus

 

方向固定性眼振

-どの方向を見ても同じ向きの眼振のことで、前述のように前庭神経炎に特異的です。

-3%で中枢性めまいの可能性があるため、鑑別には挙げます。

→原則として対症療法を行いながら、症状が落ち着くまで経過観察を行います。

 

安静時眼振なし

-この場合、BPPVが最も考えられます。

→簡単に施行できるsupine roll testを行い、落ち着いたらDix-Hallpike testを行います。

※前述のごとくBPPVが否定的なら、前失神など"回転性めまい以外"の症候であると考えます。

 

【その他の確認事項】

①検査

・頭部CTやMRIについては"コラム:めまい診療が難しい理由"に記載の通りです。

いずれでも中枢性めまいを完全に否定はできないことに注意します。

・また、めまいという症候自体は非常に多くの疾患に付随して生じ得ます。

採血血液ガス分析(血糖/貧血/電解質等)心電図(前失神)はルーチンの検査と考えます。

 

②内服薬

・ルーチンで確認する内容ですが、多くの内服薬にめまいの副作用があります。

・除外診断ではありますが、常に原因の1つとして鑑別に挙げることが重要です。

代表例は降圧薬/利尿薬/抗痙攣薬/向精神薬などですが、その他の薬剤も原因となり得ます。

 

③抗めまい薬

確固たるエビデンスはないため、投与に疑問を投げかける意見も散見されます。

・BPPVのEpley法や前庭神経炎のステロイドなど、疾患特異的な治療の方が重要と考えます。

私見ですが、上記を説明しても患者が強く希望する場合に使用を考慮します。

投与例1:メイロン®注7% 40mL(2A) 静注。

心不全/腎不全、低K/Ca血症患者は慎重投与です。

投与例2メリスロン®錠 6mg 3錠分3。

制吐薬例プリンペラン®注 10mg 静注。

※腸閉塞、消化管出血、消化管穿孔では禁忌なので必ず除外して使用します。

 

【帰宅or入院の判断】

帰宅可能であるのは、以下の条件を全て満たす場合と考えます。

-中枢性めまいが否定的である。

-自力歩行(tandem gait)が可能である。

-経口摂取が可能である。

眼振などから中枢性めまいが疑わしい症例では、頭部CT/MRIのみで否定できません。

→こういった症例では入院を推奨し、時間を置いてMRI再検を検討します。

 

●コラム:HINTSとめまいの新分類

・勉強をしている方だと"HINTS"や"めまいの新分類"がない!と思われるかしれません。

・まず、HINTSについて記載しなかった理由(言い訳?)を述べます。

-HINTSとは注視方向性眼振とhead impulse test、skew deviationを加えたルールです。

→いずれの所見も認めない場合、中枢性めまいを感度100%で除外できるとされます。

-しかし、これらは診察に慣れた神経内科医が行うことが推奨されています。

※救急医には施行困難、というコメントすらあるようです。

-特にskew deviationは難しく、head impulse testは症状が強いと施行困難です。

※head impulse testは徐脈を惹起するという報告もあるようです。

-更にHINTSの追試では感度95.6%と100%ではない数値となっています。

-診察能力により差が出る、感度は100%と言い切れないなどの観点から僕はあえて施行する意義は乏しいと感じました。

-つまり、HINTS全てが陰性でも中枢性めまいは絶対に考えなくてよい、と言い切れないと感じました。

-検査方針等を変えないのに患者に苦痛を与え得る診察は不要だと思います。

※HINTS診察に絶対的な自信があれば、施行意義は当然あると思います。

・次に、めまいの新分類について記載しなかった理由(言い訳?)を述べます。

-これ自体は学んで損はないと思うので、概要を最後に示しておきます。

-めまいの古典的分類では、必ずしも正確に診断できないという背景から台頭しているようです。

-ただし、前述のようにめまい診療の第一目標はマネジメント方針を決定することです。

-マネジメント方針決定は、古典的分類の方がやりやすいと感じました。

-また、新分類ならば正確に診断できるのか、やや疑問に思います。

※これについては私見が大きく、新分類は学ぶ価値があると思われます。

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第1回 「めまい」 より