この記事は2022/10/8に内容更新しました。
キューピーです。
アナフィラキシーは緊急性の高い病態です。
また若年者でも死亡し得る病態で、確実に対応できなくてはなりません。
今回、アナフィラキシーガイドライン2022が発行されたので、まとめなおしてみました。
※この記事の内容が原因で生じたいかなる不利益にも責任は負いかねます。
↓1日1クリックお願いしますm(__)m
目次
【参考文献】
【基本事項】
・定義:重篤な全身性の過敏反応で、通常は急速(多くは曝露後30分以内)に出現します。
→重症のアナフィラキシーは致死的になり得る気道/呼吸/循環器症状により特徴づけられますが、典型的な皮膚症状やショックを伴わないこともあります。
・生涯有病率:全世界で0.3-5.1%と推定されています。
・死亡率:100万人あたり薬剤で0.05-0.51、食物で0.03-0.32、昆虫毒で0.09-0.13と推定されます。
・診断基準:以下のいずれかを満たす場合、アナフィラキシーの可能性が非常に高いです。
・二相性反応
-急性期症状の治癒後、遅延性(多くは24時間以内)に症状が再燃することです。
-約半数が最初の反応後6-12時間以内に出現するとされます。
-成人の最大23%、小児の最大11%に発生し得るとされます。
-アドレナリン投与を要したのが9.2%とする報告があり、重篤な反応になり得ます。
-重症例やアドレナリン投与の遅れ(発症から30分以上)はリスク因子とされます。
【誘因と危険因子】
⓪基本事項
・誘因として頻度が高いのは食物、薬剤、昆虫毒です。
・また、国内の思春期以後の症例の約15%で誘因がアニサキスとする報告があります。
→特に消化器症状を伴うアナフィラキシー症例では、必ず鑑別に挙げます。
※自験例でもアドレナリン筋注+上部消化管内視鏡で治療した症例があります。
・問診では、発症数時間以内の食物/薬剤摂取や昆虫への曝露、運動の有無などを確認します。
・重篤化の危険因子として、喘息(特にコントロール不良例)が特に重要です。
①誘因
・医薬品:診断用薬(特に造影剤)、生物学的製剤、抗腫瘍薬、抗菌薬が多いです。
→あらゆる医薬品が原因になり得て、複数回安全に投与できた医薬品でも発症し得ます。
→周術期においては、抗菌薬やラテックスの他に筋弛緩薬も原因として多いので注意します。
・食物:乳製品、鶏卵、小麦、落花生、木の実類が多いです。
→特に木の実類(クルミやカシューナッツなど)は増加傾向とされます。
→除去解除が進み少量ならば摂取可能になっても感冒、入浴、運動などで誘発し得るため注意が必要です。
・昆虫:ハチ(アシナガバチ/スズメバチ/ミツバチの順に多い)、アリ(オオハリアリ/ヒアリ)などによります。
→特に短期間に2回刺傷されるとアナフィラキシーを生じやすいとされます。
●コラム:食物依存性運動誘発アナフィラキシー(FDEIA)
・FDEIA:Food-Dependent Exercise-Induced Anaphylaxisです。
・特定の食物摂取後、運動負荷によりアナフィラキシーが誘発される病態です。
・原因食物摂取から2時間以内の運動での発症が多いですが、最大4時間でも発症したとする報告があります。
・機序:IgE依存性の即時型アレルギーで、運動により腸管透過性が亢進してアレルゲンの吸収が促進されることによります。
・原因:小麦、甲殻類、果物が多いとされます。
・運動以外の誘因:NSAIDs内服、疲労、アルコール飲料、入浴など。
・生活指導:運動2-4時間前の原因食物の摂取禁止、その他の誘因に関しても注意を促します。
※原因食物の完全除去や過剰な運動制限は必要ありません。
②危険因子
・危険因子については上図の通りになります。
・前述のように喘息(特にコントロール不良例)の有無が最も重要です。
【症状】
・皮膚/粘膜症状:蕁麻疹、紅潮、掻痒感、口唇/眼瞼浮腫、結膜充血など。
・呼吸器症状:吸気性喘鳴、呼吸困難、チアノーゼ、咳嗽、鼻汁/鼻閉、くしゃみなど。
・循環器症状:頻脈(稀に徐脈)、血圧低下、胸痛など。
・消化器症状:腹痛、悪心/嘔吐、下痢、口腔内/咽頭掻痒感、嚥下障害など。
・神経症状:頭痛、不安、不穏、浮動性めまい、トンネル状視野など。
・特に皮膚/粘膜症状は80-90%に認められ、頻度としては最多になります。
・逆に、皮膚/粘膜症状のないアナフィラキシーが10-20%存在します。
・症状のパターンは患者ごと、同一患者でも毎回差異を認めます。
→疑う場合は、可及的速やかにアドレナリン筋注の判断を行うことが重要です。
【初期対応】
⓪基本事項
・上記は大まかな対応手順(上)および準備物品(下)になります。
・基本的にはこの対応手順に沿って、初期対応を行っていくことになります。
①原因の除去+体位
・被疑薬が投与中であれば速やかに停止します。
→この時可能であれば投与中ルートとは別の場所にルート確保を行います。
※新たな点滴投与に伴い、ルート内の被疑薬を血管内に押し込んでしまうためです。
・昆虫刺傷で針などが残っている場合、可能であればすぐに除去します。
・体位は原則として仰臥位、血圧低下が著明な場合は下肢挙上も行います。
→また呼吸困難が主な症状であれば座位、妊婦は左側を下にした半仰臥位とします。
・急に立位や座位にすると心拍出量低下や心室細動などの不整脈を誘発し得ます。
→これを"empty vena cava/empty ventricle syndrome"と呼びます。
②アドレナリン(ボスミン®)筋注
・アナフィラキシーと診断、または強く疑われる場合は直ちにアドレナリン筋注を行います。
・効果:血圧上昇によるショックの緩和、上/下気道閉塞の軽減、蕁麻疹/血管性浮腫の軽減。
・投与量:上図右側の通りです。成人は0.5mg、小児(6-12歳)は0.3mgと簡素化してもOKです。
→治療抵抗性の場合、5-15分ごとに繰り返し投与することができます。
※アドレナリン血中濃度は投与後10分で最大、40分で半減します。
・投与部位:大腿部中央前外側(上図左側)に筋注します。
・有害事象:蒼白、振戦、不安、動悸、浮動性めまい、頭痛など。
・妊婦、心疾患、大動脈瘤なども含めて、アナフィラキシーにおけるアドレナリン筋注に絶対禁忌は存在しません。
※発症初期には進行速度や最終的な予後の予測が困難です。
→また、投与の遅れは二相性反応に、不使用は死亡リスク上昇に関与するとされます。
→加えて、アナフィラキシーガイドライン 2022では絶対禁忌なしと明記されました。
→そのため、強く疑った段階で直ちにアドレナリン筋注を行うことが重要なのです。
●コラム:グルカゴン静注
・アドレナリン不応例、特にβ遮断薬投与中の場合、グルカゴン静注が有効な可能性があります。
・投与例:グルカゴン1-5mg(小児は0.02-0.03mg/kg,MAX1mg)+生食20ml 5分かけて。
→効果が乏しければ5-10分ごとに1mgずつ反復投与可能です。
・例えば、アドレナリン筋注を2回繰り返しても効果が乏しい場合などに考慮します。
※β遮断薬投与中の患者でも、基本的にはアドレナリン筋注を優先します。
・副作用:悪心/嘔吐、高血糖など。
→特に嘔吐による窒息に注意します。急速静注は嘔吐を引き起こしやすく、緩徐静注とします。
③ABC異常への対応
(0)基本事項
・本来、急変時には対症療法的なABCの安定化は最優先されます。
・例えば後述する気管挿管/切開や急速補液などが該当します。
・アナフィラキシー診療でも優先されますが、何よりアドレナリン筋注が最優先となります。
→アドレナリン筋注は根治的かつABC異常全ての解決策となるためです。
・基本的にはアドレナリン筋注と並行して下記の対応を準備/施行していく方針がよいと思います。
⑴Airway
・アドレナリン筋注でも気道狭窄が改善しない場合は、気管挿管を行います。
・アナフィラキシー患者では、舌/咽頭浮腫および多量の粘液分泌のため難しいです。
→必ず、現場の中で最も慣れた医師が施行するようにします。
・気管挿管困難時は輪状甲状靱帯穿刺/切開を行います。
※気管確保についてはリンク先記事も参照ください。
⑵Breathing
-呼吸促迫を呈し、アドレナリンを複数回投与した全患者に対し、低酸素血症が認められなくてもフェイスマスクまたは経口エアウェイによる流量6-8L/分の酸素投与を行うことが望ましい。
-喘息、喘息以外の慢性呼吸器疾患、または血管疾患を合併しているアナフィラキシー患者に対しても、酸素投与を検討する。
・上記についてがガイドライン記載事項になります。
・当たり前ではありますが、SpO2モニターを装着し経時的にモニタリングします。
⑶Circulation
・前述のように、まずはアドレナリン筋注が根治的であり重要です。
・また、初期対応として下肢挙上も重要な対応になります。
・アドレナリン筋注後も血圧低値の場合、細胞外液を10分間で10mL/kg投与します。
→その後は血圧/心拍数/心機能/尿量などから適宜調整します。
・アドレナリン持続静注
-上記でも難治性の血圧低下の場合、アドレナリンの持続静注を検討します。
-ただし致死的不整脈、心筋虚血、急激な血圧上昇などに注意を要します。
※基本的には投与に慣れた医師の存在下で行うべき治療とされます。
-投与例:アドレナリン1mg/ml(1000倍希釈製剤)+生食100mL 0.5-1.0mL/kg/hrで開始。
→その後は血圧/心拍数/SpO2などをもとに適宜調整します。
-アドレナリン持続静注も無効の場合、ノルアドレナリンやバソプレシンなどを検討します。
-なお、投与例については様々な意見があり、上記はEmerg Med J. 2004;21:149-154を参考にしています。
※EMA症例133:5月症例 解説 | EM Allianceにも言及があります。
④その他の薬剤
⑴抗ヒスタミン薬
・投与例:クロルフェラミン(H1,ポララミン®)5mg+ファモチジン(H2,ガスター®)20mg+生食50ml 15分かけて。
・H1/H2抗ヒスタミン薬は、いずれも皮膚症状を緩和しますがその他の効果はありません。
・H1抗ヒスタミン薬を急速静注すると、血圧低下を起こし得るため注意します。
・投与例:mPSL(ソル・メドロール®)80-125mg+生食100ml 60分かけて。
・作用発現に数時間要し、急性期治療としての効果は期待できません。
・二相性反応予防が目的とされますが、その効果について立証されていません。
・上記より、積極的に投与する意義はあまりないものと考えます。
⑤初期対応後の方針
・前述のように二相性反応は重篤な症状にもなり得るため、経過観察が望ましいと考えます。
・具体的に確立されたエビデンスはなく、施設ごとの方針などもあるものと考えます。
※e.g.:全例1泊入院、数時間ERで経過観察、重症度に応じて決定するなど。
・また、帰宅とする場合も経過観察可能な家族等がいることが最低条件となります。
・帰宅時には抗ヒスタミン薬やPSL 0.5-1mg/kgを3-5日分処方することも多いです。
→加えて、アレルギー専門医の受診や原因回避を指導します。
【エピペン®】
・アドレナリン薬効量を速やかに筋注できる注入器との組み合わせ製剤です。
・アナフィラキシー再発時の治療に重要で、特に抗原回避困難※であれば処方を検討します。
※原因が食物/ラテックス/吸入アレルゲン/昆虫毒など、原因不明、FDEIAの場合など。
・使用方法や使用場面について、事前に十分な教育を行っておくことが重要です。