キューピーです。
電解質異常の診療は非専門医にとって難しいものです。
その中でも特に緊急性を要するのが高K血症です。
今回はその診療や対応について、再度見直してみました。
※この記事の内容が原因で生じたいかなる不利益にも責任は負いかねます。
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目次
【参考文献】
【高K血症を疑う場面】
・多くの場合、血清K濃度≧5.5mEq/Lを高K血症と定義します。
・症状は脱力、感覚障害(しびれ感)、悪心/嘔吐などの記載がありますが、必ずしもこれらが主訴とはなり得ません。
・また、無症状でも検査値から判明することもしばしばあります。
・以下のような場面では積極的に本症を疑うようにします。
-腎機能障害患者のあらゆる愁訴
-頻呼吸
-ショック+徐脈
-意識障害
-心電図異常(VTと誤診しアミオダロンを使用すると、心静止リスクになります)
【原因】
・初期対応中にもできる限り原因を推測します。
・速やかに治療を開始する場合が多いですが、原因によって治療方針が変わる可能性があるためです。
①偽性高K血症
・採血時の陰圧の影響や検体の長時間放置
→再検します。速やかに結果の判明する動脈血液ガス分析が推奨されます。
・白血球増加(>50000)や血小板増加(>100万)
→凝固時に細胞内Kが放出されることが原因で、血清ではなく血漿で再検します。
※この場合も血ガスで再検すると、すぐに測定できるためK値が影響を受けにくいとされます。
②K過剰摂取
・大量輸血や大量消化管出血
・CKD患者がK含有量の高いものを摂取
・腎機能正常者だが大量のK(≧160mEq)を摂取
③Kの細胞内→外移動
・外傷
・横紋筋融解症
・大量の溶血
・高浸透圧血症(造影剤使用や高血糖など)
・代謝性アシドーシス
・インスリン欠乏状態
④腎臓でのK排泄障害(★最多原因)
・高度腎不全(GFR<5mL/分が目安)
・皮質集合管の機能障害
・低アルドステロン症
⑤薬剤
・RAA系阻害薬(ACE阻害薬、ARB、アルドステロン拮抗薬、レニン拮抗薬など)
・K製剤
●コラム:K含有量の高い食品
・野菜(特に青菜類、レンコン、かぼちゃ、ブロッコリーなど)
・野菜ジュース
・果物(特にバナナ、メロン、キウイフルーツなど)
・干した食品(干芋、ドライフルーツ、切干大根など)
・その他:いも類、海藻類、豆類、インスタントコーヒー、抹茶、減塩醤油、青汁など
※日本腎臓学会編:CKD診療ガイド2012 より
●コラム:FeKについて
・実際に腎臓でのK排泄が低下しているか評価する際に用いられます。
・FeK=(尿中K/血清K)/(尿中Cr/血清Cr) ×100(%)
・正常値は約10%で、低値であれば腎性排泄の低下、高値であればその他の原因を考慮します。
・TTKGが有名ですが、現在は有効性が疑問視されており、議論の余地があります。
【緊急対応を要する場面】
・K≧6.5mEq/L
・心電図変化あり
・vital sign変化あり(徐脈や低血圧)
・緊急透析の適応あり(AIUEO 後述)
・CKD/透析患者
→上記の患者群では、【初期対応】に先行-並行して【治療】①②を開始します。
【初期対応】
⓪原因の鑑別
・⓪としたのは、同時並行で進めていくという意味です。
・前項を参考に鑑別を考えます。
・原因により治療方針が変わることがあるため、重要な作業です。
・問診(AMPLE)では特にM(薬剤)が重要で、新規のRAA系阻害薬やジギタリス製剤を確認します。
※ジギタリス製剤内服下では、カルチコール®が禁忌とされています。
①ABC+vital sign確認
・特に"Cの異常"が重要と考えます。
・vital signとしては"徐脈+ショック"に注意が必要です。
・徐脈に伴い循環不全に陥りやすく、ペーシングを要することもあります。
②モニター装着+12誘導心電図
・高K血症を見たら、すぐに心電図所見を確認します。以前の心電図との比較が重要です。
・なお、K値と心電図変化は必ずしも一致しないため、K上昇が軽度でも必ず確認します。
・"テント状T波"や"サインカーブ"が有名ですが、"P波の消失"も重要です。
・心電図変化を認める場合は、すぐに初期治療を開始します。
●コラム:高K血症の心電図変化
①初期変化
・テント状T波:幅が狭く、左右対称で尖鋭化し増高したT波です。
※T波増高の明確な定義はありませんが、概ねQRS高の1/2以上が目安です。
波形の特徴を覚えよう!高カリウム血症①テント状T波 : 心電図の部屋 より
②高度変化
・P波消失:心房筋伝導速度低下→心房筋興奮の消失を意味します。
・QRS時間延長:心室筋伝導速度低下を意味します。
波形の特徴を覚えよう!高カリウム血症②QRS波延長 : 心電図の部屋 より
波形の特徴を覚えよう!高カリウム血症③洞室調律 : 心電図の部屋 より
③末期的変化
・サインカーブ:QRS時間延長が更に高度になり、T波増高が消失して、このような波形になります。
・心室細動/心停止:最終的には致命的な心電図変化を生じます。
波形の特徴を覚えよう!高カリウム血症④サインカーブ : 心電図の部屋 より
④注意点
・テント状T波は急性心筋梗塞超急性期のhyper acute T波と鑑別を要します。
・徐脈傾向となります。P波消失も認めるため、SSSとの鑑別も問題になります。
※いずれもK値を測定することで簡単に鑑別をすることができます。
・徐脈→Adams-Stokes発作→失神という受診パターンがあります。
高カリウム血症‐見て!わかる!病態生理と看護【花子のまとめノート】 より
③動脈血液ガス分析+ルート採血
・ABG:代謝性アシドーシスを確認します。乳酸値高値では循環不全(腎前性AKI)を考慮します。
※偽性高K血症疑いの再検時も、前述のとおりABGが有用です。
・採血:腎機能の確認および高K血症の原因推定のため重要です。
④エコーで腎障害鑑別
・腎機能障害を認める場合は、腎後性→腎前性→腎性の順に検討を行います。
-腎後性:膀胱と腎臓をエコーで確認し、尿閉や水腎症所見を探します。
-腎前性:IVC径等で脱水の評価をします。EFも評価できると遠慮なく補液ができます。
→腎前性を疑う場合は、細胞外液投与を行います。
-腎性:上記が否定的な場合に考慮します。特に薬剤の確認が重要です。
・また、腎萎縮(長径≦9cm)を確認することで、腎障害が慢性であるかどうか推定できます。
●コラム:尿閉と水腎症のエコー所見
・尿閉:エコーで膀胱を描出し、残尿量を測定します。300ml以上で疑います。
排尿機能に関する情報を収集しよう|病棟看護師に求められる排尿の管理とケア①|ナース専科 より
・水腎症:中心部に腎杯に沿う無エコー領域を認めます。重度になると腎実質が伸展、菲薄化します。
Chapter-1 腎臓 水腎症|Hitachi-Aloka Medical 超音波検査法セミナー より
【治療】
⓪治療戦略
・緊急対応の際はジギタリス製剤内服を確認した上で①と②を速やかに行います。
・原因がある程度特定されていれば原因治療を行います。
→特に腎前性AKIでは補液、腎後性AKIでは尿道カテーテル留置を優先します。
・緊急でなくても治療を行う場合は、ジギタリス製剤内服を確認したうえで①と②を開始します。
・それだけでは根本的な治療にはならないため、③と④を症例ごとに検討します。
・⑤については緊急時に使用することは少なく、長期的な治療戦略として考慮します。
・1時間ごとにK値の推移と低血糖を確認します。
※1時間ごとが困難なら、最低でも1時間後と4時間後は確認します。GI療法の効果が切れ始めるのが約4時間後のためです。
※施設の都合等でAライン留置が困難な場合は行う必要はありません(頻回の採血が主目的のため)。
①グルコン酸Ca(カルチコール®注8.5%)
・投与例:グルコン酸Ca(カルチコール®注8.5%) 10mL 3-5分かけて緩徐静注。
・禁忌:ジギタリス製剤内服中。
・必ず”緩徐”静注とします。急速静注は循環動態に影響し、心停止のリスクもあります。
・あくまでも致死的不整脈の予防目的であり、K低下作用はありません。
・明らかな心電図変化を認めている場合は、投与5分後に再検し、改善を認めない場合は再投与を検討します。
・数分で効果が発現し、約1時間持続します。
②GI療法
・投与例:50%ブドウ糖液40mL+ヒューマリン®R 5単位(4:1) 2分かけて緩徐静注。
※浸透圧が高く血管痛を来すため、できる限り急速静注は避けます。
・緩徐投与例:10%ブドウ糖液500mL+ヒューマリン®R 10単位(5:1) 10時間かけて。
・細胞内へKを移動させK低下作用を示します。一時的な効果であることに注意が必要です。
・具体的には20分程度で効果が発現し、4-6時間持続します。
→4-6時間でKが細胞外へ移動し始めるため、再度K値が上昇します。
・1時間ごとに採血でK値の推移と低血糖の有無を確認します。
※高血糖(≧300mg/dL)症例ではインスリン単独投与を考慮します。
●コラム:ブドウ糖-インスリン比について
・参考文献により記載にばらつきがあります。
・基本的にはブドウ糖:インスリン=5:1以下とすることが多いと考えます。
※ブドウ糖5gの代謝に概ねインスリン1単位とK 1mEqが必要という事実を背景としています。
・2.5:1の記載も多く、確実な効果が見込めますが低血糖が75%で起こるとも言われています。
(PLoS One. 2016 May 5;11(5):e0154963.)
・今回は4:1での記載となりましたが、これは尊敬する先輩医師(腎臓内科)に教わったもので、特に何かの文献を参照したわけではないのでご注意ください。
※緩徐投与例についても同様で、参考文献は特にありません。
③利尿薬(ラシックス®注)
・投与例:ラシックス®注 20-40mg 静注 必要に応じて繰り返します。
・K排泄を促進するため、根本的な治療法になります。
・数分で効果が発現し、約3時間持続します。
・腎前性AKIでは病態を考慮すると、推奨されません。
・尿量を得られない症例(末期CKDや透析症例)では、基本的には透析を行います。
④血液透析
・速やかな治療効果が得られ、最も有効な治療法です。
・基本的には腎不全症例(特に尿量が得られない症例)では行わなければなりません。
・ただし緊急透析のできる施設は限られるため、事前に確認が必要です。
※準備に時間もかかるため、早めに専門医へコンサルトすることも重要です。
・なお、緊急透析の適応は"AIUEO"であり、他項目も満たすと緊急性がより高まります。
-Acidosis:血清pH≦7.15、HCO3-≦16mEq/L
-Intoxication:薬物中毒
-Uremia:BUN≧100mg/dL、脳症(意識障害/痙攣)、心膜炎、出血
-Electrolyte:K≧6mEq/L、Mg≧8mEq/L
-Overload:利尿薬抵抗性うっ血性心不全
⑤陽イオン交換樹脂
・投与例:カリメート® or ケイキサレート® 15-30g 分3。
・腸管からのK排泄を促進するため、根本的な治療法になります。
・ただし効果発現が1-2時間後とやや遅く、救急外来での使用頻度は高くありません。
・根本治療ではあるため、長期的な治療戦略に組み込むとよいと考えます。
※他の薬剤と併用して緊急時に使用されることもあります。