キューピーです。
今回は失神の初期対応を学んでいきます。
まずは、そもそも失神とは何なのかを正確に理解することから始めます。
※この記事の内容が原因で生じたいかなる不利益にも責任は負いかねます。
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目次
【参考文献】
【本当に失神か?】
・失神の定義:一過性の意識消失の結果、姿勢が保持できなくなり、かつ自然に、また完全に意識の回復がみられること。
・ポイントは以下の4点に集約されます。
①突然発症である。
②立位困難となる(姿勢緊張を失う)。
③数秒-分で意識が回復する。
④回復後の意識レベルは元通りである(後遺症等を伴っていない)。
・従って回復後の意識レベルが普段と異なる場合は、たとえJCSⅠ-2でも"意識障害"としてアプローチします。
・また、失神後に無理に座位や立位で保持された場合、脳虚血が進行し痙攣をきたすことがあります(convulsive syncope)。
・しばしば痙攣との鑑別に難渋しますが、postictal confusion(痙攣後意識障害)や舌咬傷や尿失禁などは手掛かりとなります。
・なお、複数回の失神を経験している患者は、有意に再発のリスクが高いことが知られており、より綿密なフォローアップを要します。
●コラム:一過性意識消失(T-LOC)と失神
・一過性意識消失(または一過性意識障害)(T-LOC:Transient loss of consciousness)は正確には上記で述べてきた失神の特徴を有する症候を言います。
・T-LOCの中でも、"脳全体の一過性の低灌流"を病態とするものを失神と呼びます。
・従って"失神"と断定するためにはT-LOCの原因を特定しなくてはならないため、初期対応の時点では"T-LOC"と言えても"失神"と断定することは難しいと考えます。
・ただしこれらの用語は混同も多く、しばしばT-LOC=失神として扱われているのも事実だと思われます。
・用語の使い方は人それぞれですが、いずれにしてもT-LOCには"失神"と"非失神"があることを知っておくべきと考えます。
・"非失神"の病態としてはてんかん、低血糖、低酸素血症、CO2ナルコーシス、椎骨脳底動脈の解離や梗塞などがあります。
・いずれも"脳全体の一過性の低灌流"とは異なる病態であることが分かります。
【見逃してはならない原因疾患】
・まず失神は、その原因から以下のように分類されます。
分類 |
鑑別疾患 |
|
心血管性失神 |
||
器質的心疾患 |
AS HOCM AMI PE 大動脈解離 など |
|
起立性低血圧 |
一次性自律神経障害 |
自律神経障害 Parkinson病 など |
二次性自律神経障害 |
糖尿病 尿毒症 アルコール性 など |
|
薬剤性起立性低血圧 |
アルコール 降圧薬 利尿薬 など |
|
循環血液量低下 |
出血 嘔吐/下痢 など |
|
神経調節性失神 |
血管迷走神経反射 |
精神的ストレス(恐怖,疼痛など) |
状況失神 |
排尿/排便 咳嗽 食後 |
|
頸動脈洞症候群 |
髭剃り きつめの襟元 など |
・神経調整性失神が4-6割程度と最多の原因です。
・特に見逃せないのが心血管性失神および循環血液量低下による起立性低血圧です。
・心血管性失神については1-2割程度を占めるというデータもあります。
・心血管性失神の原因は"HEARTS"というゴロが重要です。
-Heart attack(AMI):胸痛や呼吸困難がなくても失神患者では必ず疑います。
-Embolism(PE):説明のつかない低酸素血症や頻脈で想起します。
-Aortic dissection:突然and/or強い疼痛や胸部XPでの縦隔拡大で疑います。
-Aortic stenosis:聴診で収縮期雑音を認める場合に疑います。
-Rhythm(徐脈性不整脈):心電図や既往歴で疑います。
-Tachycardia(頻脈性不整脈(VTなど)):心電図や既往歴で疑います。
-SAH:発症時の頭痛などで疑います。
【目撃者への確認事項】
・目撃者への問診は後述する初期対応と並行、もしくは手分けして行います。
・失神した本人にも前駆症状や既往歴、家族歴を聴取するようにします。
①発症様式
・発症時の状況を聴取します。
・臥位:心血管性失神を疑います。
・長時間の立位や座位:神経調節性失神を疑います。
・臥位から立位/座位への姿勢変換時:起立性低血圧を疑います。
・運動時:心血管性失神(特にAS,HOCM,不整脈)を疑います。
・排尿/排便/咳嗽/食事(嚥下)/食後:状況失神を疑います。
②意識レベル
・数秒-分で意識が回復し、回復後に意識障害を伴わないことが重要です。
・現在の意識レベルが普段と同様であるか確認します。
③時間
・意識消失時間が数秒-分であることを確認します。
・長時間である場合には、意識障害として対応します。
④前駆症状の有無
・前駆症状なし:心血管性失神(特に不整脈)を疑います。
・頭から血の気が引いた(立ちくらみ):神経調節性失神や起立性低血圧を疑います。
・目の前が真っ暗になった(眼前暗黒):神経調節性失神や起立性低血圧を疑います。
・悪心、発汗:神経調節性失神や起立性低血圧を疑います。
・動悸:心血管性失神(特に頻脈性不整脈)を疑います。
・胸痛:心血管性失神(特にAMI,PE,大動脈解離)を疑います。
・頭痛:SAH(または大動脈解離)を疑います。
⑤外傷の有無
・頭部打撲などの外傷を伴うことがしばしばあります。
・問診だけでなく、身体診察を行い外傷の検索を行います。
⑥痙攣の有無
・痙攣と失神の鑑別には難渋しますが、目撃者証言が最も重要です。
・postictal confusion(痙攣後意識障害)や舌咬傷や尿失禁がある場合、痙攣の可能性が高くなります。
・また、不整脈が原因の失神では脳虚血時間が長くなり、そのまま痙攣へ至る症例もみられるので、注意が必要です。
⑦失神後の対応
・失神後に座位や立位の状態を保持すると、脳虚血が進行し痙攣に至ります。
・これを"syncopal seizure"と呼び、"痙攣"としてアプローチします。
・"倒れそうだったので支えた""肩に寄りかかって動かなかった"などのエピソードがある場合は、これを考えます。
⑧心疾患の既往/家族歴
・これを認める場合は、高リスク症例と考えて対応します。
・不整脈や突然死の家族歴の有無も同じように重要です。
・また既往歴では以下の"coronary risk factor"も意識して聴取します。
-冠動脈の家族歴 -高血圧症 -糖尿病
【初期対応】
⓪問診
・これは最初に行うのではなく並行、もしくは手分けして行います。
・前項の"目撃者への問診"の事項に加えてAMPLE聴取します。
・特にM(薬剤)とP(妊娠)が重要です。
→薬剤性失神や異所性妊娠に伴う出血等を鑑別します。
①ABCの評価+vital sign確認
・A(嗄声/会話困難)、B(頻呼吸/呼吸様式の異常)、C(脈触知)が最優先です。
・失神の場合は、特に出血によるCの異常の有無に注意をします。
②12誘導心電図+血液ガス分析+ルート採血±妊娠反応
・失神患者をみたら、まず12誘導心電図を確認します。
・血液ガス分析:貧血、血糖値、電解質など速やかに多くに情報が得られ有用です。
・採血:一般的な血算、生化学、凝固をみます。AMIが否定できなければ高感度トロポニン等の心筋逸脱酵素を測定します。PEや大動脈解離の否定には凝固(Dダイマー)が重要です。
・妊娠反応:異所性妊娠の出血の可能性もあり、妊娠が否定できない女性では必須の検査です。
●コラム:失神をきたす心電図所見
・頻脈性不整脈:VT、PSVT、AF。
・徐脈性不整脈:Wenckebach型2度房室ブロック/2:1ブロック/MobitzⅡ型2度AVブロック/3:1ブロック(高度房室ブロック)/3度房室ブロック、洞不全症候群。
・脚ブロック:2束ブロック、3束ブロック。
・その他:Brugada症候群、ARVC、QT延長症候群、早期再分極。
※頻脈性不整脈は以下を参照、他に分かりにくいものをまとめていきます。
⑴2:1房室ブロックと高度房室ブロック
・2:1房室ブロックは2回に1回P波に続いてQRS波が出現します。
・Wenckebach型かMobitzⅡ型の判断は困難ですが、失神を伴っていれば治療介入を要するため、循環器内科コンサルトとなります。
2:1房室ブロック | ECG-Cafe より画像引用
・高度房室ブロックは3:1以上のP波-QRS波を認める房室ブロックです。
・すなわち3回以上に1回の頻度でQRS波が出現します。
・2度房室ブロックの中では最重症で、MobitzⅡ型と同じく症状がなくても循環器内科コンサルトが必要な所見です。
房室ブロックの心電図と看護とは:Ⅰ度房室ブロック・ウェンケバッハ型・モビッツⅡ型・完全房室ブロック | 看護師学習ノート より画像引用
⑵2束ブロックと3束ブロック
・2束ブロックとは右脚ブロック(RBBB)に左脚前肢ブロック(AHB)または左脚後枝ブロック(PHB)を伴うものを言います。
・実際にはRBBB+AHBがほとんどでRBBB+PHBは極めて稀であるため、前者のみを考慮することにします。
※興味のある方はPHBの心電図所見も勉強してみてください。
・AHBの心電図は(ⅰ)左軸偏位 -30°~-90°、(ⅱ)V1~3でrSパターンを特徴とします。
脚ブロックの心電図 : 今日なに読もう〜病院総合診療医の論文ブログ〜
より画像引用
・RBBB+AHBの2束ブロックになるとRBBBの特徴に加えて、左軸偏位(特にⅢ・aVF誘導のrSパターン)が加わった波形となります。
・3束ブロックはこれに1度房室ブロック(PR間隔>0.20秒)が加わったもので、病態としてはRBBB+AHBにPHBが起こりかけている状態となります。
※PHBが起こってしまうと完全房室ブロックということになります。
・なお2束ブロックの場合は失神(症状)があれば治療介入、3束ブロックの場合は無症状でも治療介入の方針となります。
・3束ブロックの心電図を示します。
Cardio2012のECGブログ: 2016年4月24日 (日) より画像引用
※A:AHB、B:RBBB、C:1°AVB
波形の特徴を覚えよう!ヘミブロック : 心電図の部屋 より画像引用
⑶Brugada症候群
・概要:30-40歳代の男性に多く発症する心室細動を来し得る疾患です。家族歴を有することもありますが、原因はまだよく分かっていません。
・心電図所見:V1-3でcoved型またはsaddle back型のST上昇を認めます。
Brugada症候群 | 循環器内科.com より画像引用
・対応:coved型は緊急で循環器内科コンサルトとします。saddele back型ではV1-3誘導を1肋間上で記録します。
→これでcoved型になれば緊急でコンサルト、変わらない場合は本物かどうか慎重に判断します。
⑷不整脈原性右室心筋症(ARVC)
・概要:数十年かけて形態を変えた右室壁の一部が発火点となり心室性不整脈を起こし、時に突然死をきたします。
・病因:40%が遺伝性で、原因となる遺伝子も多数見つかっています。
・症状:心原性失神、不整脈、突然死が初発となることが多いです。右室不全症状は、これらに遅れる形で出現することが多いとされます。
・診断(非専門医が知っておくべき情報に限定)
⑴心電図
・主にV1-3でε波(QRS波の最後のノッチ)を認めます。
・また、V1-3における陰性T波も特徴的です。
循環器用語ハンドブック(WEB版) イプシロン(ε)波 | 医療関係者向け情報 トーアエイヨー より画像引用
⑵心エコー
・限局性の右室壁運動消失や右室流出路の拡大などが特徴的です。
・基本的には検査技師さんに評価してもらうレベルの所見だと思います。
⑶家族歴
・ARVCの家族歴は診断にも重要な情報とされています。
※その他にも病理所見も診断に寄与するそうですが、詳細は割愛します。
⑸QT延長症候群
・概要:(正確な診断基準は成書参照)大雑把にQTc>460msと捉えます。Torsades de pointes(TdP)という多形性心室頻拍を引き起こし、致命的となり得ます。
・病因:以下の4つを必ず確認します。本疾患は病因の究明が重要です。
⑴家族歴:遺伝性があることが分かっています。突然死の家族歴も聴取します。
⑵薬剤性:種々の薬剤が原因となります。代表的なものを示します。
-抗不整脈薬:Ⅰ群(プロカインアミド、ジソプラミドなど)やⅢ群(アミオダロン)。
-抗菌薬・抗ウイルス薬:エリスロマイシン、アマンタジンなど。
-抗潰瘍薬:H2受容体拮抗薬(シメチジンなど)。
-消化管運動促進薬:シサプリドなど。
-抗アレルギー薬:テルフェナジンなど。
-脂質異常症治療薬:プロブコールなど。
⑶電解質異常:低K、低Ca、低Mg血症。
⑷陳旧性心筋梗塞:徐脈となった際にQTcが延長します。
・対応:心電図自動解析のQTc時間をチェックして、以下の対応とします。
-QTc>475ms:要注意。モニタリングを考慮します。
-QTc>500ms:危険。モニタリングは必須です。
-QTc>525ms:超危険。近くに除細動器を準備します。
・TdPの治療:原因への治療を並行しつつ、下記対応を急ぎます。
-硫酸Mg静注:30-40mg/kgを5-10分で静注。効果があれば、以下の維持用量を投与。
→成人:3-20mg/分、小児:1-5mg/分。
※腎機能障害者や高齢者では低用量とします。高Mg血症が出現した場合は減量、中止を考慮します。
-電気的除細動:VFへ移行したり血行動態の不安定性が強い場合に行います。非同期で2相性なら150J以上から開始します。
③身体診察+外傷検索
・心音聴取と直腸診はできる限り全例で行うようにします。
※直腸診が困難な場合でも、黒色便や血便の有無くらいは聴取します。
・頭部外傷をはじめ、失神に伴う外傷の有無を検索します。
・余裕があれば神経診察も行います。
④起立試験
・臥位→立位となり3分以内に収縮期血圧が20mmHg以上、または拡張期血圧が10mmHg以上低下する場合、陽性となり起立性低血圧と診断されます。
※1分ごとに血圧測定を行います。偽陰性を疑う場合は5分に延長して行います。
・起立試験陽性でも、安静時のvital signは正常な例もあります。
・従って、全例で施行することが望ましいと考えます。
(手間がかかるのでサボってしまいがちですが・・・)
⑤心エコー/FAST
・エコーは上記診療である程度見たい所見を絞った上で行います。
・FASTについては、以下の記事にまとめています。
・心エコーでは、以下の所見が重要となります。
⑴壁運動障害(AMI)
Abnormal 4 ★中隔-心尖部梗塞
Abnormal 5 ★下壁梗塞
⑵心嚢液貯留(大動脈解離)
⑶大動脈flap(大動脈解離)
Case 79 ★大動脈解離(大動脈弁直上のflap)
⑷右心負荷所見(PE)
Case 53 ★肺塞栓症(右室心尖部過収縮(McConnell's sign))
⑸大動脈弁狭窄
⑹IVC虚脱(脱水,5-10mm以下で呼吸性変動>50%)
⑥頭部CTの検討
・ルーチンでは必要ありません。ただし必要な場合もあります。
・適応:SAHを疑う場合、神経所見に異常を認める場合、頭部外傷が否定できない場合(目撃者がいないなど)、失神か分からない場合。
・失神→頭部CTという診療の流れを見かけますが、基本的には誤りです。
【リスク評価】
・上記の初期対応を終えたら、リスク評価を行い入院適応を判断します。
・CHESSなどが有名ですが、いずれも十分な感度ではなく有効なスコアリングがないということが大方の共通見解となっているようです。
・ESCガイドライン等も参考にしつつ、感度が高くなるようにすると、以下のような所見を認める場合に入院適応とする必要がありそうです。
※ただし、個人の見解です。
-65歳以上 -単回でない失神(再発例含む) -心疾患の既往/家族歴あり
-労作時/仰臥位での失神 -動悸/胸痛を伴う失神 -前駆症状のない失神
-心不全を疑う所見あり -心電図異常あり -SpO2<94%
-出血を示唆する所見あり -Hb<9g/dL -直腸診陽性