キューピーです。
咳嗽を主訴に小児科外来を受診するケースは多いです。
いわゆる気道症状としてまとめられる鼻汁や喘鳴などとともに勉強します。
※この記事の内容が原因で生じたいかなる不利益にも責任は負いかねます。
↓1日1クリックお願いしますm(__)m
目次
【参考文献】
【発熱を伴わない咳嗽】
①基本事項
・咳嗽のみを主訴とするケースは意外と多く、保護者は子供の咳嗽に敏感です。
・基本的に咳嗽の持続期間によって鑑別疾患を考えます。
-急性咳嗽:3週間未満の咳嗽。
-遷延性咳嗽:3-8週間持続する咳嗽。
-慢性咳嗽:8週間以上持続する咳嗽。
・また、症状や病歴のみで診断が可能な疾患は別記してまとめます。
②急性咳嗽(≒ウイルス性上気道炎)
・発熱の伴わない急性咳嗽の多くはウイルス性上気道炎です。
・原因:ライノ,RS,ヒトメタニューモ,パラインフルエンザウイルスのいずれかです。
※特にライノウイルスが発熱の頻度が少ないです。
・検査:基本的には必要ありません。
・治療:鼻吸引やL-カルボシステイン 1日30mg/kg 分3 7日分。
※保育園で分3が難しければ分2でも可能です。
・その他:1週間おきに外来フォローとします。咳嗽は1週間で半数、2週間で90%以上が改善します。
③遷延性咳嗽
⑴感染後咳嗽
・概念:呼吸器感染症に続く、胸部XPで異常を示さず、自然に軽快する咳嗽。
・症状:就寝前-夜間、朝に多い乾性咳嗽が特徴的です。
・検査:軽症ならば必要ありません。
・治療:乾性咳嗽に麦門冬湯、湿性咳嗽にL-カルボシステインが推奨されます。
※ただし有効性は証明されておらず、無治療経過観察も選択肢です。
・その他:子供のQOLが大きく損なわれている場合や保護者の心配が強い場合は、慢性咳嗽の鑑別疾患を挙げて小児科コンサルトとします。
●コラム:感染後咳嗽の原因微生物
・小児では百日咳菌、マイコプラズマ、クラミドフィラ・ニューモニエ、ライノウイルス、RSウイルスが多いとされます。
・遷延性咳嗽の段階では、原因微生物の菌量は少なくなっています。
・従って例えばマイコプラズマ LAMP法、百日咳 LAMP法、RSウイルス迅速検査での診断は困難となります。
・百日咳、マイコプラズマ、クラミドフィラ・ニューモニエは抗体検査で診断できる場合もあります。
※ペア血清でなく、単血清でも診断できる可能性があります。
⑵繰り返すウイルス性上気道炎
・症状の強さに複数のピークを持つことや、症状の質が変化することが特徴です。
・例えば、乾性咳嗽→2-3日後に強い湿性咳嗽→1-2週間で改善→乾性咳嗽→2-3日後に湿性咳嗽→1-2週間で改善、といった具合です。
・保育園などで集団生活を経験していたり、兄弟が多い児に多い傾向があるようです。
・検査/治療/フォロー:急性咳嗽に準じます。
④慢性咳嗽(→小児科コンサルト)
・鑑別疾患:後鼻漏症候群(アレルギー性鼻炎または副鼻腔炎)、遷延性細菌性気管支炎、気管支喘息、咳喘息、胃食道逆流症、心因性咳嗽など。
・基本的に感染後咳嗽が慢性咳嗽まで続くことは珍しく、小児科へのコンサルトがほぼ必須となります。
⑤症状や病歴から鑑別できる疾患
⑴気道異物
・口の中に物を入れた後での突然の咳嗽や喘鳴といった病歴で考えます。
・症例の73%は3歳未満です。
・検査:胸部XP(15-30%で異常なし)、魚の骨の検出にはCTが有用です。
・対応:小児科コンサルトとします。
※気道異物による窒息の一般的対応法のポスターを示します。
⑵百日咳
・特徴的な咳嗽から疑います。意外にも発熱は伴わないことが多いです。
・病期:以下です。潜伏期とカタル期には百日咳と気付くことができません。
-潜伏期:7-10日
-カタル期(風邪症状):2週間
-痙咳期:2-3週間
-回復期:2-3週間
→合計60-90日間
・症状
-乳幼児:息つぐ間もない連続的な咳嗽→笛が鳴るように息を吸う(whoop)といった特徴的な咳嗽や頻回の咳き込み嘔吐を特徴とします。
※特に四種混合ワクチンを接種していない場合は重症化に注意します。
-学童期以降:特徴的な咳嗽は目立ちません。「夜中に咳き込んで起きる。起きた回数を覚えている。」という訴えがあれば疑います。
※四種混合ワクチンは12年で効果が消失します。これが成人の百日咳が増えている要因でもあります。
・検査:以下で臨床診断となれば、百日咳 LAMP法で確定診断できます。
(ⅰ)咳がある:1歳以上では1週間以上、1歳未満では期間関係なし
(ⅱ)吸気性笛声:whoopのこと
(ⅲ)発作性の連続性の咳き込み:スタッカート様咳嗽と表現される
(ⅳ)咳き込み後の嘔吐
(ⅴ)無呼吸発作:チアノーゼの有無は問わない
→(ⅰ)+(ⅱ)~(ⅴ)の1つで臨床診断例となります。
・治療:アジスロマイシン(ジスロマック®)細粒 1日10mg/kg 分1 5日間。
またはクラリスロマイシン 1日10-15mg/kg 分2 7日間。
※痙咳期の症状は毒素によるもので、抗菌薬は感染拡大予防の意義しかありません。
・その他:幼児以降ならば帰宅可能で、乳児(特に6か月未満)ならば無呼吸発作の可能性があるため入院とします。
・その他2:特有の咳が消失or抗菌薬5日間投与まで出席停止となります。
⑶気管支喘息発作/喘息性気管支炎
・生後6か月以降で肺野に広くwheezesやrhonchiを認めた場合は上記いずれかです。
・なお、5歳以下で呼気性喘鳴を3回起こせば乳幼児喘息と診断します。
※呼気性喘鳴はwheezes、rhonchi、cracklesを問いません。
・鑑別:発熱を伴わない場合は気管支喘息発作が典型的ですが、5歳以下では両者を厳密に区別できません(ピークフロー検査などの呼吸機能検査が行えないため)。両者とも行う処置は同じであるため、区別する意義も乏しいです。
※気管支喘息発作/喘息性気管支炎は、気管支炎/肺炎と併存し得ます。
-例1:発熱あり+局所的なcrackles+肺野に広くwheezes+胸部XPで肺炎像
→肺炎+喘息性気管支炎。
-例2:喘息の児の発熱+局所的なcrackles+肺野に広くwheezes+胸部XPで肺炎像なし
→気管支炎+気管支喘息発作。
・重症度
-小発作:歩行時苦しい・臥位可能。SpO2≧96%。
-中発作:何とか歩行可・臥位不可。SpO2 91−95%。
-大発作:歩行不可・会話困難。SpO2≦90%。
※小児の場合、陥没呼吸を認めたら中発作以上となります。
・検査
-採血(血算,CRP,電解質,肝/腎機能,LDH):中発作以上で行います。
-血液ガス:原則静脈血です。中発作以上で行い、PvCO2>41mmHgは大発作です。
-胸部XP:中発作以上で行います。
-RSウイルス迅速検査:1歳未満ならば行います。
-ヒトメタニューモウイルス迅速検査:6歳未満ならば行います。
・処置:ベネトリン®0.3mL+インタール®2mL 吸入
・処方
(ⅰ)ツロブテロール(ホクナリン®)テープ
-β2刺激薬の貼付剤です。効果発現に4-6時間かかります。
-生後6か月以上:0.5mg、3歳以上:1mg、9歳以上:2mgを1日1回貼付します。
(ⅱ)ステロイド
-中発作以上ならばステロイドの適応となります。効果発現に4時間かかります。
-経口:プレドニゾロン 1日1-2mg/kg 分3。
-静注:ヒドロコルチゾン 1回5mg/kg 1日4回。
またはプレドニゾロン 1回0.5-1mg/kg 1日3回。
※ヒドロコルチゾンはミネラルコルチコイド作用が強いので、数日使う場合は他のステロイドへの変更を考慮します。
-内服の方が安全性が高いため、可能ならば内服を優先します。
-3-5日で終了します。漸減は不要です。
⑷副鼻腔炎
・軽快傾向にない湿性咳嗽が10日以上続く場合に考えます。
・発熱を伴わないことの方が多いとされます。
・診断基準:以下の3つのいずれかで診断されます。(ⅰ)は軽症です。
(ⅰ)上気道炎に引き続き10日以上遷延し、改善傾向のない鼻漏や日中の咳嗽を認める。
※咳嗽は夜間に悪化することがあってもよいとされます。
(ⅱ)上気道炎がいったん軽快した後に発熱、日中の咳嗽、鼻漏が増悪する。
(ⅲ)39℃以上の発熱と膿性鼻漏が3日以上持続する。
・治療:診断基準に対応する形で治療を行います。
(ⅰ)L-カルボシステイン 1日30mg/kg 分3と鼻吸引指導で3日間経過観察。
→改善なければアモキシシリン 1日40mg/kg 分3とします。
(ⅱ)(ⅲ)アモキシシリン 1日80mg/kg 分3をはじめから投与します。
【発熱を伴う咳嗽】
①基本事項
・発熱+咳嗽は基本的に感染症です。
・下記記事も参考になります。周囲の流行状況は必ず聴取します。
②胸部聴診で異常がない場合
⑴ウイルス性上気道炎
・発熱の伴わない急性咳嗽の多くはウイルス性上気道炎でした。
・発熱+咳嗽+胸部聴診正常でも疑います。ただし以下に注意します。
-特に3か月未満では肺炎、尿路感染症、細菌性髄膜炎を否定する。
※採血、採尿、胸部XPは必須、状況に応じて髄液検査も考慮します。
-鼓膜所見は経過中に繰り返し確認する。
・原因:溶連菌、アデノ,インフルエンザ,ライノ,RS,ヒトメタニューモ,パラインルエンザ,エンテロ(手足口病やヘルパンギーナ)ウイルス、伝染性単核球症(EB,サイトメガロウイルス)、突発性発疹のいずれかです。
※咳がなければ溶連菌、流行期ならインフルエンザの可能性が上昇します。
・検査
-インフルエンザ迅速検査:インフルエンザ流行期なら行います。
-溶連菌/アデノウイルス迅速検査:扁桃に白苔があれば行います。
→陰性ならばEBV/CMV抗体、血算、CRP、AST/ALTを測定します。
-採血/血ガス/血液培養/胸部XP:発熱が72時間以上続く場合に行います。
※ヒトメタニューモ迅速検査は、聴診などで肺炎を疑わなければ適用がありません。
※RSウイルス迅速検査は、生後3か月以上の上気道炎に行う意義がありません。
・治療:アセトアミノフェン、鼻吸引やL-カルボシステイン 1日30mg/kg 分3 7日分。
※保育園で分3が難しければ分2でも可能です。
・その他:生後3か月未満は最低でも翌日再診です。72時間解熱しなければ必ず再診とします。
●コラム:インフルエンザ迅速検査
・感度:発症12時間後で35%、12-24時間後で66%、24-48時間後で92%です。
・発症から24時間以内で陰性だったら、翌日再検査を試みてもよいとされます。
・咳嗽が強く、4歳以上ならば疑います。しかし上気道炎と誤診しやすいです。
・発熱が72時間以上続く場合、重症の発熱(特にSpO2≦91%)の場合などに胸部XPを行うようにしておけば、見逃しが少なくなります。
・疫学:4-15歳の市中肺炎の7-40%が本症とされます。家庭内感染の頻度も高く、感染した児の家族の40%がマイコプラズマ感染症を発症します。
・検査:4歳以上で咳嗽が強く、胸部XPで肺炎像を認めればマイコプラズマ LAMP法を行います。
※症状の1つに多形滲出性紅斑があることも覚えておくと便利かもしれません。
・治療
-L-カルボシステイン 1日30mg/kg 分3 7日分。
-アジスロマイシン(ジスロマック®)細粒 1日10mg/kg 分1 5日間。
またはクラリスロマイシン 1日10-15mg/kg 分2 10日間。
→48時間以内に解熱が得られない場合は以下処方に変更します。
-8歳以上:ミノサイクリン(ミノマイシン®) 1日4mg/kg 分2 7日間。
-8歳未満:トスフロキサシン(オゼックス®)1日12mg/kg 分2 7日間。
→変更後48時間経過しても解熱が得られない場合は高サイトカイン血症を疑います。
※ステロイド治療なども考慮するため、入院や小児科医への相談は必須です。
・その他:SpO2≧94%なら帰宅可能です。経過中に川崎病の合併も多く、結膜充血や発疹などにも注意します。
※また、5歳以上でマイコプラズマ LAMP法陰性ならばクラミドフィラ・ニューモニエ抗体を検査するべきです。
③吸気性喘鳴を伴う場合(=クループ)
・発熱+咳嗽+吸気性喘鳴はクループです。特徴的な咳嗽で一発診断可能です。
・クループは児が泣くと悪化します。診察には技術を要するため、鑑別に加わった段階で小児科医に応援を依頼することが推奨されます。
・症状:「クォッ、クォッ」というオットセイの鳴き声に似ている咳嗽が特徴です。
意識レベル |
0点 |
|
不穏・不安・興奮 |
2点 |
|
喪失 |
5点 |
|
チアノーゼ(SpO2≦91%) |
なし |
0点 |
興奮時に認める |
4点 |
|
安静時にも認める |
5点 |
|
吸気性喘鳴 |
なし |
0点 |
興奮時に認める |
1点 |
|
安静時聴診器で認める |
2点 |
|
安静時聴診器なしでも認める |
4点 |
|
呼吸音 |
正常 |
0点 |
減弱 |
1点 |
|
ほとんど聞こえない |
2点 |
|
陥没呼吸(胸骨上窩) |
なし |
0点 |
軽度 |
1点 |
|
中等度 |
2点 |
|
高度 |
3点 |
→アドレナリン吸入後に2点以下なら帰宅可能、3点以上なら入院です。
・検査:できるだけ咳嗽のみで診断します。自信がない場合は喉頭XP(2方向)や採血(血算,CRP)を行ってもよいですが、児を泣かさないような配慮を要します。
※喉頭XPでは正面像でpencil sign(気道陰影が左右対称性に細くなる)があることと、側面像でthumb sign(喉頭蓋が親指のように腫大する喉頭蓋炎の所見)がないことを確認します。
クループ - Wikipedia より画像引用(pencil sign)
https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/nejmicm1009990 より画像引用(thumb sign)
・治療
-アドレナリン(ボスミン®)外用液 0.3mL(0.3mg)+生食2mL 吸入 30分間隔で使用可。
→2時間もたない例は重症と判断し、小児科医にコンサルトします。
-デキサメタゾン(デカドロン®) 0.15mg/kg 分1 1日分。
-L-カルボシステイン 1日30mg/kg 分3 7日分。
-生後3か月以上ならばアセトアミノフェン 1回10-15mg/kgも使用可能です。
・その他:翌日必ず受診させます。1歳未満なら必ず入院させます。重症度が高い場合は、常に喉頭蓋炎を考慮し早めに専門医へコンサルトします。
④局所的なcracklesを伴う場合(=気管支炎・肺炎/細気管支炎)
・cracklesは一般に吸気時に聴取されますが、小児では呼気時にも聴取されます。
・なお肺野に広くwheezesやrhonchiを聴取する場合は、気管支喘息発作や喘息性気管支炎を考え、合併の可能性も考慮します。
・6か月未満でのcrackles、wheezesやrhonchiは細気管支炎を考えます。
→細気管支炎は必ず入院となるので、疑った時点で小児科コンサルト必須です。
※現実には6か月未満の気管支炎、細気管支炎、喘息性気管支炎の困難であり、まとめて細気管支炎と捉えて、早々に小児科コンサルトとするのが無難そうです。
・検査
-胸部XP:浸潤影があれば肺炎、なければ気管支炎を考えます。
-RSウイルス迅速検査:1歳未満ならば行います。
-ヒトメタニューモ迅速検査:6歳未満で聴診所見や胸部XP所見があれば行います。
-採血(血算,CRP,電解質,肝/腎機能,LDH):胸部XPで肺炎像があり、迅速検査でウイルスが特定できない場合は追加します。
-血ガス:胸部XPで肺炎像があれば追加します。
-血液培養:胸部XPで肺炎像があれば追加します。
※胸部XPで浸潤影を認め、迅速検査陰性、採血で細菌性は否定的(=CRP<4mg/dL)ならば、ライノウイルス肺炎を疑います。
※気管支炎や肺炎の場合、啼泣により呼吸不全に至ることがあります。
→まずβ2刺激薬吸入や必要に応じて酸素投与も行い、バッグバルブマスクを準備したうえで採血を行います。
※4歳以上ならばマイコプラズマ肺炎も考慮します(前述)。
・処置:鼻吸引やβ2刺激薬吸入(wheezesやrhonchiを認める場合)を考慮します。
・治療
-L-カルボシステイン 1日30mg/kg 分3 7日分。
-アモキシシリン 1日40mg/kg 分3 5日分(細菌性肺炎に対して)。
-ツロブテロール(ホクナリン®)テープ(wheezesやrhonchiを認める場合)。
→生後6か月以上:0.5mg、3歳以上:1mg、9歳以上:2mgを1日1回貼付します。
・その他:2日後も解熱していない場合は再診させ、胸部XPと採血の再評価を行います。全身状態不良を疑えば入院とします。