内科医キューピーのつぶやき

医学部首席になれた勉強法や医学情報を発信したりします。

高感度トロポニンの臨床的意義

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キューピーです。

 

心筋梗塞と言えば、とてつもなく有名な疾患です。

 

しかし意外にも診断が簡単でない症例もあり、勉強のし甲斐のある病気です。

 

今回は心筋梗塞の診断で重要な役割を持つ"高感度トロポニン"について学びます。

 

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目次

 

 

【参考文献・サイト】

www.crc-group.co.jp

 

【基本事項】

・"トロポニン"は筋肉を構成する蛋白質の1つで、"トロポニンT"、"トロポニンI"、"トロポニンC"で複合体を形成し、心筋や骨格筋の収縮調節を担っています

・"トロポニンC"は心筋と骨格筋の立体構造(アイソフォーム)が同じであるのに対し、"トロポニンT"と"トロポニンI"は異なるため、これらは心筋特異性が高く心筋壊死を伴う心筋障害を反映するマーカーになります。

・なお、虚血性心筋障害では以下の蛋白の遊出が見られます。

-心筋細胞膜傷害:CK/CK-MB、ミオグロビン、H-FABPなど。

-(虚血が進行すると)筋原線維分解ミオシン軽鎖、トロポニンなど。

・従来は胸痛後3時間以内ではミオグロビンやH-FABPが上昇し、トロポニンはCK上昇とほぼ同時期の3-4時間後から異常値を示していました。

・しかし"高感度定量測定"が可能となり、発症3時間以内の超急性期においても、トロポニンによる高い診断精度が示され、重要視されています。

・まとめると"高感度トロポニン"は心筋特異性が高く発症3時間以内の超急性期から上昇し約2週間は検出可能であるという特徴があります。

 

【トロポニンTとトロポニンIの違い】

・トロポニンTの方がより遷延し、発症1週間ほどの心筋梗塞ではトロポニンTの方が高感度と言われています。

・逆に、超急性期ではトロポニンIの方が高感度という報告があります。

・また、トロポニンTは溶血で低値傾向になりますが、トロポニンIは溶血の影響を受けにくいという違いもあります。

・両者の共通点として、ともに腎排泄であることから腎不全患者で高値となることや、心筋特異的であるため筋肉注射や運動後でも上昇しないことが挙げられます。

 

●コラム:臨床現場で初めて知った"トロポニンI"

・僕の記憶では国家試験では専ら"トロポニンT"が登場していました。

・しかし現場に出てからは専ら"トロポニンI"を測定しています。

・それぞれの比較を見ると超急性期ではトロポニンIの方が感度が高いようです。

・後述するように高感度トロポニンは、特にACSの除外に威力を発揮するので超急性期ACSを除外するためにはトロポニンIの方が適しています

・以上より、トロポニンTよりトロポニンIを測定することは、理に適っていると思います(個人の感想です)。

 

【臨床的意義】

①どちらかと言うと除外診断向き

・"高感度"というくらいで、感度は高く除外診断に向きます

・高値の場合でも、すぐにACSと判断できません。

・例えば以下のような病態でも高感度トロポニンが高値を示します

-心不全 -頻脈 -慢性腎臓病(CKD)

-心筋炎 -たこつぼ型心筋症 -肥大型心筋症

-敗血症 -肺塞栓症 -大動脈解離

・これらの病態では、心筋の酸素需給バランスが崩れたため心筋壊死が生じ、その結果として高感度トロポニンが上昇すると考えられています。

・当然これらの病態では、冠動脈カテーテル検査よりも原病態の改善が優先されます。

・例えば消化管出血→頻脈→心筋の酸素需給アンバランスによる心筋壊死→高感度トロポニン高値、という病態では、カテーテルより内視鏡が優先されますよね。

 

②ESCガイドラインアルゴリズム

・ESC(欧州心臓病学会)の2015年発表のNSTE-ACSに関するアルゴリズムは有名かつ重要で、高感度トロポニンをいかに使用すべきか示唆に富むものとなっています。

・0h/3h rule-out アルゴリズムや0h/1h rule-in and rule-out アルゴリズムがあります。

 

0h/3h rule-out アルゴリズム

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※hs-cTn=高感度トロポニン

2015 ESC Guidelines for the management of acute coronary syndromes in patients presenting without persistent ST-segment elevation | European Heart Journal | Oxford Academic より画像引用

 

・簡単に言うと、"急性発症の胸痛(NSTE-ACS疑い)にhs-cTn測定したら次にどうするか"ということを示したアルゴリズムです。

hs-cTn高値:臨床的にACSを疑わなければ3時間後に再検、臨床的に疑えば循環器内科医コールで緊急対応とします。

→再検値が上昇していれば緊急対応、上昇がなければhs-cTn高値を示す他の鑑別疾患を考慮します。

hs-cTn正常:胸痛から6時間以内なら3時間後に再検、6時間以上なら胸痛消失+GRACEスコア(ACSのリスクスコアの1つ)<140をもってACSを除外とします。

→再検値が上昇していれば緊急対応、上昇がなければ胸痛消失+GRACEスコア(ACSのリスクスコアの1つ)<140をもってACSを除外とします。

 

GRACEスコア

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https://www.j-circ.or.jp/old/guideline/pdf/JCS2018_kimura.pdf より画像改変引用

 

0h/1h rule-in and rule-out アルゴリズム

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2015 ESC Guidelines for the management of acute coronary syndromes in patients presenting without persistent ST-segment elevation | European Heart Journal | Oxford Academic より画像引用

 

・NSTEMI疑いにhs-cTn測定しMIたら、1時間後に再検してその変化(Δ)により除外or診断を行おうというアルゴリズムです。

・1時間後の再検で済むというメリットがあり、日本の救急外来の実情に合ったアルゴリズムと言えます。

・ただし、本当に発症直後(例えば30分以内)である場合は1時間後でもhs-cTnの上昇が始まっていないこともあり、ガイドライン上は3時間後測定のアルゴリズムの使用が勧められています。

 

ESCガイドラインアルゴリズム小括

・結局のところ、NSTE-ACSを疑った場合はhs-cTnを1-3時間後に再検することはほぼ必須であると考えます。

・さらに否定のためには、hs-cTn値だけでなく症状、リスク因子(GRACEスコア等)、心電図なども総合的に考える必要があります。

 

③結論:高感度トロポニン(hs-cTn)の臨床的使用法(私見)

・ESCガイドラインアルゴリズムエビデンスも蓄積されており、知識としては重要だと思います。

・ただ(個人的意見ですが)2種類示されていたり、知識としてインプットするにはやや煩雑な感もあり、もっと簡単だとよいなと思いました。

・そこで日本のACSガイドラインです。僕はこの指針が落としどころだと思います

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https://www.j-circ.or.jp/old/guideline/pdf/JCS2018_kimura.pdf より画像引用

 

・まずSTEMIだと心電図から明らかであれば、hs-cTnの値に関わらず緊急で循環器内科医コールです。

・hs-cTnはNSTE-ACS疑いで、これを否定したいときに活用します。

hs-cTnの上昇を認めたり上昇がなくても発症6時間以内の場合は1-3時間後に再検して値の変化を評価します。

・値の変化の評価については、前述の0h/1h rule-in and rule-out アルゴリズムで大雑把な感覚をつかみ、最終的には臨床所見を総合した評価になると思います。

アルゴリズムを再掲しておきます(値の変化については"C"と"E"です)。

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・なお、NSTE-ACSの"診断"についてはhs-cTnで確定診断とせず心電図所見、臨床所見、リスク因子などを重要視して確定していきます

・これまでの内容から、"NSTE-ACS診療において、特に否定目的にhs-cTnはほぼ必ず1-3時間後に再検すべきである"ということは確実に言えるのではないでしょうか。

※hs-cTnでNSTEMIは除外できてもUA(不安定狭心症)は除外しきれないことにも注意します。