●この記事は2021/7/22に内容更新しました。
キューピーです。
脳出血において、脳神経外科に引き継ぐまでの初期治療をまとめてみました。
なお、高血圧性脳出血を想定した記載になります。
※この記事の内容が原因で生じたいかなる不利益にも責任は負いかねます。
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目次
【参考文献】
→以下、2021GLと略します。
【初期治療】
①体位
・体位は頭蓋内圧亢進に効果のある頭部30°挙上を考慮します。
→2021GLでは推奨度Cとなっています。
・またfull stomachの場合、麻痺側を上にした昏睡(回復)体位を考慮します。
→嘔吐による誤嚥を防ぐ目的があります。2021GLには推奨の記載はありません。
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②所見フォロー
・初期治療段階でフォローする所見は血圧と神経学的所見です。
・特に神経学的所見では意識レベルに注意します。
→基本的には外科的治療の適応を見逃さないことが主な目的となります。
③呼吸管理
・挿管/人工呼吸管理の目安:JCSⅢ-200以上で舌根沈下や酸素化不良があるとき。
・脳血流維持+脳浮腫予防のため、PaCO2 35-40mmHgはひとつの管理目標になります。
④血圧管理
・2021GLで降圧目標の推奨度がB(前回C1)となりました。
・降圧目標:できるだけ早期に収縮期血圧<140mmHgで7日間維持(推奨度B)。
・下限目安:下限を110mmHgとすることを考慮しても良い(推奨度C)。
→上記より降圧目標範囲例は収縮期血圧 110-140mmHgとなります。
→加えてAKI回避のため降下幅は90mmHg以内に収めることが推奨されています。
・また、降圧開始24時間以内の血圧変動と転帰不良の関連を示すデータもあります。
→できる限り安定した降圧を維持するように努めます。
・オーダー例:ニカルジピン 10mg(/10mL) 5A
※2mL/hrで24時間投与されたら48mg(48mL)消費されるためキリがよいです。
・二カルジピン指示例
-収縮期血圧≧140mmHgの時、2mL早送り後に2mL/hrで開始。
-投与開始または速度変更時は30分後に血圧再検。
-収縮期血圧≧140mmHgで1mL/hrずつup、≦110mmHgで1mL/hrずつdown。
-最大15mL/hrまで、off可能。
※早送りは、刺入部までのライン内をニカルジピンで満たす目的があります。
・なお、可能であれば早期に経口薬への切り替えを考慮します(推奨度C)。
→Ca拮抗薬、ACE阻害薬、ARB、利尿薬が推奨されています。
⑤止血薬
・オーダー例:アドナ注100mg+トランサミン注1g(1000mg)+生食100ml 10分かけて。
→その後トランサミン注1g(1000mg)をメインに混注することも考慮します。
・トラネキサム酸(トランサミン)のみ2021GLに言及があり、推奨度Cです。
→血腫増大や転帰不良を優位に減少させる結果が示されています。
・ なお抗血栓療法中の症例では原則として中止とします。
●コラム:抗血栓療法中患者に対する血液製剤や中和薬投与
⑴ワルファリン
・一般的にPT-INR≧2.0の症例が介入対象となります。
・PT-INR<2.0の症例では用量明示がなく、保険適用外使用となります。
・プロトロンビン複合体製剤(ケイセントラ®)
-抗凝固作用是正を目的とした、推奨度Bの血漿分画製剤です。
-投与例:以下の用量を<3IU/kg/分(210IU/分)の速度で投与します。
-目標の目安はPT-INR<1.3になります。-禁忌:DIC。
-副作用:血栓塞栓症、DIC、頭痛など。
・ビタミンK製剤(ケイツー®)
-ケイセントラ®投与の約半日~1日後に半減期に応じたPT-INR再上昇を認め得ます。
→この予防のために投与を行う、推奨度Bの治療になります。
-投与例:ケイツー® 10mg ケイセントラ®投与と同時に静注。
→PT-INR再上昇を認めた場合に再投与も可能です。
-禁忌:過敏症既往。
-副作用:過敏症。
⑵ダビガトラン
・ダビガトラン(プラザキサ®)の拮抗薬にイダルシズマブ(プリズバインド®)があります。
→2021GLでは推奨度Bとなっています。
・適応:最終内服から24時間以内、腎機能障害orP糖蛋白阻害薬内服者かつ48時間以内。
※P糖蛋白阻害薬:イトラコナゾール、ベラパミル、アミオダロン、キニジン、タクロリムス、シクロスポリン、リトナビル、ネルフィナビル、サキナビル、クラリスロマイシンなど。
※特にイトラコナゾールはダビガトランの併用禁忌薬です。
・投与例:プリズバインド®2.5g/50mL 2V 1Vにつき5-10分かけて点滴静注。
・禁忌:過敏症既往。
⑶未分画ヘパリン
・硫酸プロタミンが推奨度C(有効性は確立していない)とされています。
・投与例1:プロタミン10mg/1mL+生食9mL 2分かけて静注 APTT正常化まで投与。
→これがヘパリン1回につきヘパリン1000単位分の拮抗となります。
・投与例2:プロタミン50mg+5%ブドウ糖100mL 10分かけて点滴 APTT正常化まで投与。
・禁忌:過敏症既往。
・副作用:肺高血圧症、呼吸困難、血圧低下、徐脈など。
⑥抗脳浮腫薬
・いずれも2021GLでは推奨度Cとなっています。
・投与の目安:脳浮腫や脳ヘルニアが意識障害を引き起こしていると推測されるとき。
・CT所見の例:正中偏位≧1cm、脳幹の偏倚、第4脳室の偏倚/狭細化など。
・投与例1:グリセオール®200mL 1日2-3回 2時間かけて 7-10日間。
・投与例2:マンニットール®300mL 1日4回 30分かけて。
・脳浮腫が出現する発症8-12時間以降から開始すべきという意見もあります。
→超急性期に投与を避けるべき理由は、頭蓋内圧亢進が止血に寄与し得るためです。
・水/Na負荷によるうっ血性心不全、HHS、高Na血症の悪化に注意します。
⑦抗潰瘍薬
・投与例1:オメプラゾール20mg+生食50mL 1日2回。
・投与例2:ランソプラゾール15mg 1錠/日。
・2021GLでは高齢/重症例で誤嚥のリスクを検討した上での投与が推奨度Bです。
・軽症/改善例、血腫吸収期では必ずしも投与しなくてもよいという意見もあります。
⑧DVT/PE予防
・まず可能な限り早期離床を目指します(推奨度A)。
→困難な場合は理学療法(下肢挙上、マッサージ、足関節運動)を行います(推奨度A)。
・体動困難例では間欠的空気圧迫法(フットポンプ装着)を行います(推奨度A)。
※弾性ストッキングによるDVT予防効果は証明されていないので行いません(推奨度E)。
・フットポンプはDVT症例ではPE発症の引き金となり得るため注意します。
・加えて、うっ血性心不全やASOの場合に病態を悪化させ得ることにも注意します。
【手術適応】
・手術適応外基準:血腫量<10mL、神経学的所見が軽度。
→いずれかに当てはまる場合は手術適応となりません(推奨度E)。
・血腫除去術適応外基準:深昏睡(JCSⅢ-300)、視床or脳幹出血。
→いずれかに当てはまる場合は血腫除去術の適応となりません(推奨度D)。
・脳室ドレナージ術:脳室内出血や閉塞性水頭症が疑われる場合に推奨されます(推奨度B)。
・大まかには以下の場合に手術を検討します。
・被殻出血:血腫量≧31mLで血腫による高度圧迫所見ありorJCS20-30程度。
・小脳出血:最大径≧3cmで神経学的症候が増悪、脳幹圧迫で閉塞性水頭症あり。
・皮質下出血:脳表からの深さが≦1cm。
※血腫量の算出方法:長径(cm)×短径(cm)×高さ(cm)÷2で求めます。