●この記事は2021/1/24に内容更新しました。
キューピーです。
脳卒中を疑う主訴は半身麻痺や構音障害などがあります。
こういった場合でも3割近くは脳卒中以外であったという報告もあり、注意が必要です。
また、意識障害も主訴になり得ますが、脳卒中以外に沢山の鑑別があります。
というわけで今回は、脳卒中疑いが来院した際の初期対応を考えます。
実際には病院ごとにプロトコルが作成されているところも多いと思われます。
※この記事の内容が原因で生じたいかなる不利益にも責任は負いかねます。
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目次
【参考文献】
【Stroke mimics】
-肝性脳症 -精神疾患
-てんかん -失神
-脳腫瘍 -硬膜下血腫
-片頭痛 -薬物
-前庭障害 -末梢神経/脊髄障害
-感染症
・脳卒中疑いで搬送されたものの、脳卒中でなかったという症例はしばしば経験します。
・このStroke mimicsの中では低血糖、精神疾患、症候性てんかんなどの頻度が高いとされます。
・また、大動脈解離による脳梗塞もrt-PA慎重投与事項であるため重要です。
→特に重要な疾患のポイントについて簡潔に後述します。
・なおStroke mimicsの鑑別因子に以下がありますが、あくまで参考所見です。
-収縮期血圧≦130mmHg
-NIHSS≦5点
-糖尿病の既往あり
-不整脈(特に心房細動)の既往なし
①低血糖
・頭部画像検査の前までに血糖値の測定を行います。
・ヒント:血圧高値を伴わない、冷汗、糖尿病の既往など。
※対応法などの詳細はリンク先記事を参照ください。
②大動脈解離
・大動脈解離の3-7%が脳虚血を合併します。
・上行大動脈から末梢側に進展することが多く、右脳の症状の頻度が高いです。
→左片麻痺や右上肢の収縮期血圧が低い(<130mmHg)などを呈します。
※当然ですが、左脳症状を呈する場合もありあくまで頻度の問題です。
・脳卒中を疑ったら必ず胸背部痛の有無や血圧の左右差を確認します。
・ヒント:血圧高値を伴わない、両上肢血圧の左右差(≧20mmHg)、胸背部痛、左片麻痺、胸部XPでの縦隔拡大など。
→少しでも疑う場合は、必ず頚動脈エコーや胸部造影CTを確認します。
※大動脈解離はrt-PA療法の慎重投与事項に該当します。
③症候性てんかん(痙攣後)
・特に巣症状を反映した焦点発作や痙攣後意識障害などが鑑別対象となり得ます。
・rt-PA療法で"痙攣"は慎重投与項目に該当し、"てんかん"は禁忌です。
・目撃者から痙攣の有無を聴取することが望ましいです。
・ただし痙攣があったとしても脳卒中に伴う症候性発作の可能性もあります。
→早期痙攣(early seizure)とも呼ばれ、脳卒中後24-48時間後に好発します。
・鑑別に重要なのは頭部MRI所見で、血管支配域や症状と一致するかがポイントです。
→痙攣重積後にもDWIで高信号を呈し得るため、注意が必要です(痙攣後脳症)。
●コラム:痙攣後脳症の頭部MRI所見
・病態:痙攣重積に伴うグルタミン酸放出およびCaイオンの細胞内流入による酸化ストレスと、脳のグルコース/酸素代謝増大による相対的な低酸素状態が機序と考えられています。
・DWI(やT2WI,FLAIR)で高信号を示します。ADCは低-高信号と様々です。
・MRAでは発作側の大脳半球で主幹動脈径の拡張を認めます。
・分布は血管支配に一致せず皮質-皮質下にかけて認めます。
・大脳皮質、視床、脳梁、小脳などに認めますが、特に海馬と視床枕が特徴的です。
・これらの所見は通常一過性ですが、長期残存し萎縮をきたすこともあります。
→DWIが高信号という点で、脳梗塞との鑑別が重要かつ困難な病態と言えます。
大江 康子ら, けいれん発作にともなう急性期MRI異常信号, 脳卒中36:247–254, 2014
【初期対応】
⓪救急隊への確認事項
・脳梗塞に対する治療介入は、早ければ早いほど予後が良いとされます。
・従って、救急車到着前から診療の準備を開始します。
・その際に救急隊からの情報収集は、病態推測の重要な手掛かりになります。
①発症時刻または最終未発症時刻と発見時刻
②vital signsと脈の不整
③顔面を含む片麻痺の有無と程度
④眼球共同偏倚の有無
⑤物品呼称(ペンや腕時計)
⑥目の前に指4本を提示して何本見えるか
⑦家族の同乗の有無
⑧病院到着までの時間
→特に④-⑥はELVO screen(後述)の項目です。
●コラム:ELVO screen
・"血管内治療の適応となる主幹動脈閉塞を予測するスコアリング"です。
・日本医科大学のグループにより報告されたものです。
・救急隊への質問から以下の1項目でも当てはまれば陽性と判断します。
-眼球共同偏倚がある
-物品呼称(ペンや腕時計)障害がある
-目の前に指4本を提示して正確な本数が答えられない
・感度86%、特異度72%で、特筆すべきは偽陰性が7%ということです。
→見逃しが少なく、スクリーニングには有用性が高いと考えられます。
①-1 ABC確認+vital signs確認+モニター装着
※①-②まではほぼ並行して行う形となります。
・やはりまずはABCの安定を確認するべきと考えます。
→脳卒中単独でC異常(ショック)になることは稀です。主にA,B異常を考慮します。
-A:舌根沈下などによる上気道閉塞など。
-B:誤嚥性肺炎併発による酸素化不良など。
※参考:気管挿管を検討する場面
⑴GCS≦8点またはJCS≧Ⅱ-30で気道確保困難
⑵酸素≧10L/分投与下でSpO2≦90%(PaO2≦60Torr)
⑶PaCO2≧60Torr
・vital signsでは血圧が最重要です。
→脳卒中では一般的に血圧高値を示します。その他に以下を意識します。
-血圧:sBP≦130mmHgでは低血糖や大動脈解離なども考慮します。
※必ず両側上肢の血圧を測定します(大動脈解離鑑別のため)。
-脈拍:不整脈(特にAF)の有無を推測できます。
-体温:発熱はIEのヒントになります。IE→脳塞栓の病歴もあり得ます。
※IEはrt-PA慎重投与事項に該当するため、常に鑑別します。
-SpO2:上記のA,B評価の参考所見にもなります。
①-2 病歴聴取+NIHSS評価
※特に①-1に並行する形で、主にリーダー医師が行います。
・病歴聴取は、まず救急隊から聴取します。以下を確認します。
(1)発症時刻または最終未発症時刻と発見時刻
(2)発症時状況と症状(神経症状/頭痛/胸背部痛/めまい/嘔吐など)
(3)既往歴
-非外傷性頭蓋内出血
-3か月以内の重篤な頭部脊髄外傷or手術
-21日以内の消化管or尿路出血
-14日以内の大手術or頭部以外の重篤な外傷
(4)内服薬(特に抗血栓薬(最終内服時刻も))
(5)アレルギー歴
(6)家族の同乗や連絡の有無(ICのため)
・NIHSSについてはリンク先記事を参照ください。移動時間も利用します。
→項目外の神経所見では眼球(特に瞳孔/対光反射)は確認するべきと考えます。
②ルート確保+採血+簡易血糖測定+12誘導心電図+身体診察±頚動脈エコー
・採血:血算、生化学(肝/腎/膵は必須)、凝固(APTT/PT-INRは必須)、血糖値など。
・簡易血糖測定:特に低血糖の否定が重要です。
・12誘導心電図:AFなどの不整脈を確認します。
・身体診察
-頚部血管雑音:頚動脈狭窄を示唆する所見です。
-心音:心雑音に発熱や皮疹を伴えばIEの可能性も疑います。
-皮膚:出血斑(出血傾向を示唆)やIEを示唆する皮疹の有無を確認します。
-下腿浮腫:片側性ならDVT→奇異性脳塞栓も鑑別に挙げます。
・頚動脈エコー:大動脈解離や総頚動脈/内頚動脈狭窄を確認します。
※あくまでスクリーニング検査なので、時間が許容しない場合は行いません。
Chapter-3 観察のポイントと異常像(上:プラーク 下:解離)
③画像検査
・MRI firstの診療体制ならばCTを飛ばしてMRIを撮影します。
・頭部CT:出血性病変に加えてearly CT sign(後述)を確認します。
・胸部XP:縦隔拡大(大動脈解離)を必ず確認します。
・胸部造影CT:大動脈解離による脳虚血を疑う場合に必須の検査です。
・頭部MRI:DWI/ADC→MRA→FLAIR→T2*(→その他)の順が推奨されます。
※必ずMRIの禁忌事項がないか確認してから撮影します。
●コラム:early CT sign
⑴early CT signとは
・頭部CTにおいて、脳梗塞巣は発症6時間以降に低吸収域として認められるようになり、発症24時間以降に鮮明に認めるようになります。
・この脳梗塞発症6時間以内に認める頭部CT所見をearly CT signと呼びます。
・early CT signは基本的にMCA領域の脳梗塞(特に心原性脳梗塞)で同定できます。
→その理由として、以下のようなことが挙げられます。
-心原性脳梗塞の好発部位で、梗塞範囲が広範になりやすい。
-レンズ核(被殻+淡蒼球)や島皮質の支配血管で、所見が分かりやすい部位である。
-MCA領域は骨のアーチファクトが少なく読影しやすい。
・early CT signの中心病態は、虚血による細胞性浮腫に伴う灰白質の低吸収化です。
・レンズ核や(島)皮質は白質よりも常に高吸収に描出されるため、early CT signの検出が行いやすいのです。
early CT signの画像診断は?CTで脳梗塞を診断する!
⑵hyper dense MCA sign
・MCAの塞栓性血栓が高吸収域として描出されます。
・動脈硬化による血管壁石灰化と鑑別は難しいです。
⑶レンズ核の不明瞭化
・発症後1-2時間で見られます。
⑷島皮質の不明瞭化や皮髄境界の不明瞭化
・発症後2-3時間で見られます。
※島皮質はinsular ribbonとも呼ばれます。
⑸脳溝の消失・脳実質腫脹
・発症後3時間で見られます。
⑹脳梗塞のCT所見の経時的変化
・超急性期(-24時間):early CT sign、(6時間-)低吸収+腫脹
・急性期(1-7日):低吸収+腫脹
・亜急性期(1-4週間):低吸収~等吸収(fogging effect)
・慢性期(1か月-):低吸収+萎縮
※fogging effect:亜急性期に一度低吸収化していた梗塞巣の濃度が上昇し、周囲の脳実質と区別がつきにくくなります。これをfogging effectと呼びます。
【頭部MRI所見】
|
MRA |
DWI |
ADC |
FLAIR |
1時間未満 |
途絶 |
異常なし |
異常なし |
異常なし |
1-6時間 |
途絶 |
high |
low |
異常なし-high |
6-24時間 |
途絶 |
High |
low |
high |
急性期(1-7日) |
途絶 |
high |
low |
high |
亜急性期(1-4週間) |
- |
様々 |
様々 |
high |
慢性期(1か月-) |
- |
low |
high |
high |
・まず超急性期脳梗塞(1-24時間)はDWIでhigh、ADCでlowと覚えます。
・DWIで異常所見が出現するのは最短でも20-30分と言われています。
・従って、超急性期でも本当の初期だとDWIに異常所見が現れません。
→MRAは発症時から異常所見が出現するため、最も早期から異常所見を認めます。
→DWIで異常がない場合でもMRAを確認するようにします。
・一方でFLAIRは数時間-6時間でhighになり、DWIより変化が遅いです。
・DWI/FLAIRミスマッチ:DWI highでFLAIRで異常を認めないことです。
→この場合、発症から3-4.5時間以内の可能性が高いという報告があります。
→最終未発症時刻から4.5時間以上経過していても、発見時刻から4.5時間以内かつDWI/FLAIRミスマッチを認める場合は、血栓溶解療法を考慮し得ます。
・T2*:出血性梗塞や血栓の検出に有用で、いずれもlowを示します。
・BPAS:椎骨脳底動脈解離を疑う場合に追加します。血管の外観を観察できます。
→血流を反映するMRAと比較することで解離の診断ができます。
椎骨動脈解離とは?症状・原因は?CT、MRI画像診断まとめ!
●コラム:T2 shine-through
・T2WIでhighを示す病変が、DWIでもhighとなる現象のことです。
・"なんちゃって脳梗塞"とも言われますが、常にADCも同時に評価するようにします。
→T2 shine-throughを示す病変はADCもhighになるため、脳梗塞との鑑別が可能です。
・なお、DWIでhigh/ADCでlowの病変は脳梗塞以外にも複数あるため注意が必要です。