●この記事は2022/2/5に内容更新しました。
キューピーです。
医師である限り、何科に進んでも頻脈性不整脈には遭遇してしまいます。
種類によっては緊急対応しなければならず、その場で調べる時間がないこともあります。
従って、事前に知識を身につけなくてはならない領域でもあります。
しかし、その"知識"もかなり広範かつ深くて難しい領域でもあります。
今回は、頻脈性不整脈に遭遇した場合に非循環器医である自分が行う初期対応を考えてみました。
※この記事の内容が原因で生じたいかなる不利益にも責任は負いかねます。
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目次
【参考文献】
・上記文献はいずれも素晴らしいですが、特に心電図ハンターはかなりの名著です。
・この記事の大きな診療の流れも参考にした部分がかなり多いです。
・自分が初期研修医の時、この本のおかげで急変に対応できたこともありました。
・特に初期研修医の先生方は、絶対に持っておくべき1冊だと思います。
【基本事項】
・まず最初に"不安定な頻脈"か判断します。
-vital signs:特に血圧と意識レベル。
-自覚症状:胸痛や呼吸困難など。
-身体所見:頚静脈怒張や下腿浮腫など。
→これらに異常がある場合、循環器内科コールを念頭に心電図をとります。
・narrow QRS:基本的には上室性と考えます。
・wide QRS:多くが心室性ですが、一部(20%程度)は上室性と言われます。
・これらとRR間隔(整/不整)で分類して、初期対応を考えます。
【narrow QRS・整】
①洞性頻脈の判断
・narrow QRS・整の鑑別:洞性頻脈、PSVT、心房頻拍、心房粗動など。
→洞性頻脈だとrate controlは時に逆効果なので、まずは洞性頻脈か判断します。
・洞性頻脈と判断できた場合、原因の精査と介入を行います。
・洞性頻脈の原因(HIGE ED)
-Hyperthyroidism(甲状腺機能亢進症)、Heart failure(心不全)
-Infarction(心筋梗塞)、Infection(感染)、Inflammation(発熱や炎症)
-Gas(低酸素血症)
-Embolism(肺塞栓)
-Electrolytes(電解質異常)、Endocrine(内分泌疾患(褐色細胞腫など))
-Dehydration(脱水・貧血)、Delirium(せん妄)
※その他:疼痛、不安、緊張など。
洞性頻脈|洞性P波から読み解く不整脈(2) | 看護roo![カンゴルー]
②修正バルサルバ法
・洞性頻脈が除外されたらPSVT、心房頻拍、心房粗動などが鑑別となります。
・鑑別の一助となるのが迷走神経刺激で、最も簡便なのが修正バルサルバ法です。
※PSVTの治療法として有名ですが、上記の鑑別の一助にもなるということです。
・以下の手順で行います。
-モニターを装着します。
-45度座位で10mlの空シリンジに15秒間息を吹き込みます。
※シリンジの黒い部分が移動するくらいの強さで、圧は約40mmHgです。
-終了したら速やかに仰臥位とし、下肢を45度挙上します。15秒間保持します。
-座位に戻し、心電図の波形を確認します。
-1分後の洞調律復帰率は43%です(従来法は17%)。
③ATP test
・修正バルサルバ法で十分な房室伝導抑制が得られない場合はATPを用います。
・禁忌:脳出血直後(添付文書)、喘息。
→喘息の既往を必ず確認してから使用します。
※添付文書の禁忌に"喘息"の記載がない理由は、急速静注は適応外使用のためです。
・使用後に顔面紅潮、胸部不快感、頭痛などが生じ得る点も説明します。
・以下の手順で行います。
-モニター装着を装着し、急変に備えて除細動器も準備します。
-できるだけ太い血管にルートを確保します。
-ルートの途中に三方活栓(三活)を2つ連続でつなぎます。
-患者側の三活からアデホス®10mg(原液)を速やかに静注します。
-直後にもう1つの三活から後押しの生食20mLを速やかに静注します。
※この間は3秒程度で行うくらいの気持ちで急いで行います。
-効果が不十分の場合はアデホス®20mgを2回程度まで追加投与できます。
-高用量になると頻拍停止後の徐脈が強く出るときがあり注意が必要です。
④ATP testや修正バルサルバ法の結果で鑑別
・上記の方法で房室伝導を抑制すると、モニター心電図波形に変化を認めます。
→この波形変化を確認して、鑑別の一助とします。
・PSVT:間欠的なP波とQRS波が残ります。頻回のP波でないことが重要です。
→また、約85%で頻拍が停止して洞調律に復帰するというデータがあります。
※洞調律に復帰しない場合のP-QRS波は、それぞれ洞性のP波と補充調律のQRS波です。
・PSVT以外:頻回のP波が残ります。P波でも以下の違いがあります。
-心房頻拍:心房頻拍波。
-心房粗動:粗動波。
→PSVT以外では基本的に頻拍の停止は得られません(房室結節を頻拍回路に含まないため)。
ECG-083:answer - Cardio2012のECGブログ
※2:1伝導の心房粗動(元の心電図(左)だとかなり分かりにくい)に対してATP testを施行した際の心電図(右)が示されています。房室伝導が阻害されたため、心房由来の粗動波が分かりやすくなっており、これなら容易に心房粗動と判断することができます。
●コラム:AVNRTとAVRT
・PSVTのほとんどがAVNRTかAVRTとされます。
・AVNRTは房室結節内でリエントリーを形成します。
・AVRTは側副路経由でリエントリーを形成しますが、これも2つに分けられます。
-orthodromic AVRT:房室結節→心室→側副路。narrow QRSとなります。
-antidromic AVRT:側副路→心室→房室結節。wide QRSとなり得ます。
・従ってnarrow QRSのPSVTはAVNRTとorthodromic AVRTとなります。
→初期対応は同じであり、narrow QRSのPSVTを無理に鑑別する必要はありません。
不整脈:上室性頻脈(SVT) AVRT(房室回帰性頻拍)について 〜基本45〜 - 誰でもわかる先天性心疾患
⑤Ca拮抗薬投与
循環器用語ハンドブック(WEB版) WPW症候群 | トーアエイヨー
・洞性頻脈以外で頻拍の停止が得られていない場合、Ca拮抗薬の投与を考慮します。
・なお洞調律時に顕性WPW症候群が疑われる場合、推奨度が下がります(Ⅱb)。
→WPW症候群を疑う症例では、循環器内科へのコンサルトが必要と考えます。
・投与例1:ベラパミル5mg+生食20ml 5分かけて静注。
・投与例2:ジルチアゼム10mg+生食20ml 5分かけて静注。
→ジルチアゼムの方が陰性変力作用が弱く、血圧低下等が起こりにくい傾向があります。
・禁忌:重篤な低血圧/心原性ショック/心不全、高度の徐脈性不整脈、急性心筋梗塞、重篤な心筋症、β遮断薬静注との併用、過敏症既往。
→特に血圧低下や心不全を伴う場合は循環器内科へのコンサルトが必要と考えます。
⑥循環器内科コンサルト
・初期対応としてはここまでで十分だと考えます。
・この時点で問題が解決していない場合や以下に該当する場合はコンサルトを行います。
⑴vital signs異常(血圧低下)や心不全徴候があるとき
・最初の【基本事項】に示した大原則で、心電図をとる前に方針が決まります。
・この場合は安易に投薬せず、専門医の指示を仰ぐのが無難だと思います。
・例えば血行動態の破綻したPSVTはカルディオバージョンが第一選択となります。
⑵心房粗動が疑われるとき
・2:1伝導では他の上室性頻拍との鑑別に難渋しますが、疑うならコンサルトします。
・心房粗動は治療が難しく、血行動態も増悪しやすいとされるためです。
・また心房細動と同じく、48時間以上持続する場合は抗凝固療法が推奨されます。
・なお、禁忌に該当しなければCa拮抗薬投与まで行っても良いと考えます。
→ERでrate controlが得られれば、帰宅は可能とされます(翌日循環器内科へ)。
※ただし、高齢者や心疾患が併存する患者は入院とします。
・しかし投薬前にコンサルトの上で指示を仰ぐのが最も安全だと思います。
⑶Ca拮抗薬が無効の心房頻拍・PSVT
・(ERでは)いずれもCa拮抗薬でrate controlが得られれば帰宅も可能と考えます。
※ただし、高齢者や心疾患が併存する患者は入院を推奨します。
・rate controlがつかない場合はコンサルトします。
⑷全例で待機的なコンサルト
・PSVT、心房頻拍、心房粗動ともRFCA(カテーテルアブレーション)の適応となり得ます。
→これらの不整脈患者を診療したら待機的に循環器内科コンサルトとします。
・つまりnarrow QRS/整の頻脈は、洞性頻脈以外はコンサルトを考慮します。
※緊急コンサルトか待機的コンサルトかの違いには十分に注意します。
(夜中に"RFCA依頼のコンサルトです!"と言ったら多分怒られます(笑))
【narrow QRS・不整(心房細動)】
①不安定なAFか確認
・大原則通り"不安定な頻脈"の確認を行います。
-vital signs:特に血圧と意識レベル。
-自覚症状:胸痛や呼吸困難など。
-身体所見:頚静脈怒張や下腿浮腫など。
→異常(血圧低下や心不全疑いなど)があれば、ここで循環器内科にコンサルトします。
・なお、AFでは脈拍が変動するため血圧変動が起こります。
→3回程度は血圧測定を行い血圧低値に再現性があれば、真の血圧低下と考えます。
※自身で対応する場合は是非心房細動の記事も参照ください。
②<110bpmを目標にrate control
・上記がなければ基本的にはrate controlで初期対応は終了してよいと考えます。
・投与例1:ビソプロロール(メインテート®︎)錠 2.5mg 1日1回
・投与例2:ビソプロロール(ビソノテープ®︎)4mg 1日1回貼り替え
・ガイドライン通り、心機能低下例にも適応のあるβ遮断薬が良いと思います。
※急性心不全に禁忌であり、前述のように心不全疑いは必ず循環器内科にコンサルトします。
●コラム:脱水は心房細動の引き金か
・心電図ハンター 心電図×非循環器医 2失神・動悸/不整脈編に興味深い特集がありました。
・脱水が心房細動の原因になるかは議論が分かれるようです。
※洞性頻脈の原因となることは、議論の余地はないと思います。
・従って体液量評価が不十分なAFに対する安易な輸液負荷は危険かもしれません。
→うっ血性心不全のリスクが高まる可能性があるのです。
・AFへの輸液負荷の判断は、思ったよりもハードルが高いと言えるかもしれません。
※ショックと判断したら輸液負荷は必須です。ショックの記事も参照ください。
●コラム:多源性心房頻拍(MAT)
・心房内の複数起源による心房頻拍です。
→多くの場合にnarrow QRS・不整となります。
→AFとはP波の有無で鑑別が可能です。
・なお、多源性であり原則としてP波の波形は3種類以上認めます。
・頻度は稀であり、新生児や乳児に比較的多いようです。
※小児科領域の不整脈として語られていることも多い印象です。
・成人例ではCOPDや心疾患などの原疾患を伴うことも多いようです。
・稀であるため、疑ったら循環器内科コンサルトでもトラブルにならないと考えます。
※心房粗動でも時々RR間隔不整となり得ますが、粗動波の存在で鑑別します(図)。
春の研修医応援企画「ドリル祭り2020」|レジデントノート - 羊土社
【wide QRS・整】
①ABC・vital signs確認
・wide QRSの場合、多くは心室性(VT)ですので原則として緊急対応です。
・ABCに異常がある場合、まずはその対応を最優先で行います。
・またpulseless VTならば電気的除細動からALS対応へ移行します。
※ALS対応はリンク先記事も参照ください。
②循環器内科コール
・ABCの異常やpulseless VTでないことを確認したら、循環器内科をコールします。
・約20%の上室性(SVT)を鑑別するのは後にしてオーバートリアージを行います。
→この時点では脈ありVTと推測しておくことが無難だと思います。
③モニター装着+除細動器準備
・脈ありVTはpulseless VTに移行し得るため、モニター装着と除細動器の準備は必須です。
・脈ありVTでも血行動態が不安定な場合は、電気的除細動を試みます。
-意識が保たれている場合は以下を用いて鎮静を行います。
投与例1:プロポフォール 4-5mL(40−50mg) 静注。
※ミダゾラムは1A(10mg/2mL)を生食8mLで希釈して1mg/mLで使用します。
-同期モードで、2相性なら100J→150-200Jと無効の場合は出力を上げます。
※なおpulseless VTや多源性VT(QRS波が一定の波形でない。Torsades de Pointesなど)は非同期で行います。その場合は、2相性なら150-200Jから開始します。
※リンク先のチャンネルでは、実際の除細動器の使用方法が確認できます。
④前回心電図+電解質異常+内服薬の確認
⑴前回心電図
・以前から脚ブロックがあるか(wide QRSか)を確認します。
→以前から脚ブロックがあれば、上室性頻拍+脚ブロックの可能性が高まります。
※可能性が高まるだけで、心室性である可能性は否定できません。
⑵電解質異常
・高K血症などの電解質異常が原因の可能性もあります。
・その場合は電解質補正を行わないと治療抵抗性となってしまいます。
・基本的には迅速に結果が出る動脈血液ガス分析も確認します。
⑶内服薬
・種々の薬剤が関連し得ますが、特に以下の3剤を確認するようにします。
・アミオダロン(アンカロン®):VT既往の可能性が非常に高くなります。
・ベラパミル(ワソラン®):上室性頻拍既往の可能性が高くなります。
・三環系抗うつ薬:三環系中毒によるVTの可能性があります。
⑤アミオダロンの準備
・"器質的心疾患に合併するVT"にはアミオダロンがよく用いられます。
・そうではない"特発性VT"かの判断は難しく、専門医による判断が望ましいと思います。
→この判断の前にアミオダロンの準備を行うことは理にかなっています。
※循環器内科医へバトンタッチするまでのお膳立てというイメージです。
・アミオダロンは特殊な投与法であるため、事前に理解しておく必要があります。
・初期投与:アンカロン®125mg(2.5mL)+5%ブドウ糖液100mLを10分かけて投与。
・負荷投与:アンカロン®750mg(15mL)+5%ブドウ糖液500mlを33mL/hrで6時間投与。
・維持投与:負荷投与組成の溶液を17mL/hrで42時間投与。
※負荷-維持投与は実務的には以下のように行うと良いと思います。
-負荷投与6時間終了時点の残液は515-(33×6)=317mLです。
-この時点で維持投与に切り替わり、17mL/hrの速度で18時間投与します。
-17×18=306mLですので、この時点で11mlの残液は破棄します。
-維持投与は全部で42時間行いますので、この時点で残り24時間です。
-これまでと同組成の溶液を作成し、17mL/hrで24時間投与して終了です。
-この方法だと、最初に作った溶液も次の溶液も24時間回しです。
→看護師にとって輸液管理が分かりやすくなるメリットがあります。
⑥心エコー
・"器質的心疾患に合併するVT"の"器質的心疾患"の例を挙げます。
-心筋梗塞 -拡張型心筋症
-肥大型心筋症 -不整脈原性右室心筋症
-心筋炎後 -先天性心疾患 など
・これらの評価のためには心エコーが重要です。
・敷居の高い手技ではありますが、循環器内科医到着まで少しでも情報を集めます。
⑦循環器内科医と協力して診療継続
・心エコーまで正確に施行するのは難しいですが、出来る限りの初期対応を行います。
→循環器内科医が到着したら上記の内容を報告し、判断を仰ぎます。
・wide QRSの初期対応は、このようにお膳立てに徹することが重要だとされます。
・その理由は、後述のように心電図波形の鑑別が容易ではないからです。
●コラム:不整脈原性右室心筋症(ARVC)
・概要:数十年かけて形態を変えた右室壁の一部が発火点となり心室性不整脈を起こし、時に突然死をきたします。
・病因:約40%が遺伝性で、細胞接着に関わるデスモゾーム機能不全が想定されています。
・症状:心原性失神、不整脈、突然死が初発となることが多いです。右心不全症状は、これらに遅れて出現することが多いとされます。
・診断(要点のみ)
⑴心電図
右:循環器用語ハンドブック(WEB版)イプシロン(ε)波|トーアエイヨー
・V1-3でε波(QRS波-T波間の再現性のある低電位波形)を認めます。
・また、V1-3における陰性T波も特徴的です。
⑵心エコー
・限局性の右室壁運動消失や右室流出路の拡大などが特徴的です。
・基本的には検査技師や専門医に評価してもらうレベルの所見だと思います。
⑶家族歴
・ARVCの家族歴は診断にも重要な情報とされています。
※その他に病理所見も診断に寄与しますが、詳細は割愛します。
●コラム:QT延長症候群
・概要:大雑把にQTc>460msと考えます。Torsades de pointes(TdP)という多形性心室頻拍を引き起こし、致命的となり得ます。
・病因:以下の4項目を必ず確認します。本疾患は病因の把握が重要です。
⑴家族歴:遺伝性があることが分かっています。突然死の家族歴も聴取します。
⑵薬剤性:種々の薬剤が原因となります。代表的なものを示します。
-抗不整脈薬:Ⅰ群(プロカインアミド、ジソプラミドなど)やⅢ群(アミオダロン)。
-抗菌薬・抗ウイルス薬:エリスロマイシン、アマンタジンなど。
-抗潰瘍薬:H2受容体拮抗薬(シメチジンなど)。
-消化管運動促進薬:シサプリドなど。
-抗アレルギー薬:テルフェナジンなど。
-脂質異常症治療薬:プロブコールなど。
⑶電解質異常:低K、低Ca、低Mg血症。
⑷陳旧性心筋梗塞:徐脈となった際にQTcが延長します。
・対応:心電図自動解析のQTc時間をチェックして、以下の対応とします。
-QTc>475ms:要注意。モニタリングを考慮します。
-QTc>500ms:危険。モニタリングは必須です。
-QTc>525ms:超危険。近くに除細動器を準備します。
・TdPの治療:原因への治療を並行しつつ、下記対応を急ぎます。
-硫酸Mg静注:マグネゾール® 2g/20mLを5分で静注。
※ガイドラインでは30-40mg/kgを5-10分かけて静注との記載です。
→効果があれば、以下の維持用量を投与します。
→成人:3-20mg/分、小児:1-5mg/分。
※腎機能障害者や高齢者では低用量とします。高Mg血症に注意します。
-電気的除細動:VFに移行したり血行動態の不安定性が強い場合に行います。
→非同期で2相性なら150-200Jから開始します。
●コラム:非持続性心室頻拍(NSVT)
循環器用語ハンドブック(WEB版) 心室頻拍 | トーアエイヨー
・概要:3連以上のwide QRSを認め、30秒以内に停止する頻拍です。
・病因:心筋虚血、心筋症、低酸素血症、電解質異常、薬物中毒、遺伝性心疾患など。
→家族歴、採血(電解質やBNPなど)、心エコーを確認します。
・重症因子:心筋梗塞、心機能低下、多形性、持続時間が長い、頻回の出現など。
・治療
-器質的心疾患(心筋梗塞や心筋症など)を背景とする場合は、その治療を優先します。
-それがなければ経過観察となることが多いです。
-ただし重症度が高い場合や自覚症状を認める場合などは治療対象となり得ます。
-治療はβ遮断薬などの抗不整脈薬やICD植え込みですが、専門医レベルと考えます。
→採血や心エコーを施行した上で循環器内科コンサルトがよいと思います。
【wide QRS・整の鑑別】
①基本事項
・wide QRSでも全てがVTというわけではなく、約20%は上室性(SVT)と言われます。
・ただし一般的にその鑑別はとても難しいとされています。
※専門医でも自信を持てないことがあると聞いたことがあります。
・非専門医がwide QRSを見て"SVTだし1人で対応しよう"というのは危険だと思います。
→従って前述の如く、wide QRSは全例ですぐに循環器内科コールが良いと考えます。
・ただし、知識を持っていて損はないと思うので、鑑別のポイントを考えてみます。
②wide QRSを示すSVTの例
⑴SVT+脚ブロック
・以前から脚ブロックがあるか前回心電図で確認する作業は必須です。
・元からwide QRSなので、SVTの際もおのずとwide QRSとなることが分かります。
・ただし脚ブロックを示すVTもあり、脚ブロックがあってもVTは否定できません。
※最終的な判断には、高度な専門的知識を必要とするように思います。
⑵SVT+変行伝導(一過性脚ブロック)
・心室における不応期は右脚の方が左脚よりも長いとされています。
→この特徴からSVTが生じた際に一過性の右脚ブロックとなることがあります。
※個人差があり、左脚ブロックとなる場合もあります。
・この場合、心室内興奮は通常とは異なる経路を通ります。
→これを変行伝導と呼び、wide QRSを示します。
・変行伝導はその特性から心拍数が上昇した際に生じることが多いです。
※"心拍数依存性"の変行伝導と呼ばれます。
日臨麻会誌 Vol.32 No.3, 419-427, 2012
※Aでは128bpmのwide QRSを認め、VTか?と思います。しかしこの患者の平時の心電図を見ると、60bpmではnarrow QRSですが93bpmではwideとなり左脚ブロック波形を呈しています。このことからAは、"心拍数依存性の変行伝導により左脚ブロック波形を呈する患者に生じたSVT"の可能性が鑑別に挙がるというわけです。しかし、これだけではこの心電図がVTである可能性を除外できないことに注意します。
⑶SVT+側副路
・側副路→心室→房室結節のように伝導するAVRTは、wide QRSとなります。
・すなわち、前述したantidromic AVRTに該当します。
●コラム:pseudo VT
日臨麻会誌 Vol.32 No.3, 419-427, 2012
・側副路を有する患者の頻拍ではpseudo VTが有名です。
・一般的にこれは心房細動を合併した際の名称です。
→pseudo VTはwide QRSですが、原則として不整であるため鑑別が可能です。
・従ってpseudo VTという名前の割には鑑別はそこまで難しくない印象があります。
②SVTとVTの鑑別法
⑴基本事項
・繰り返しになりますが、SVTとVTの鑑別は難しいです。
・専門医でも難しいのに、非専門医が中途半端に知識を持つことは危険とすら思えます。
・従って常にVTの可能性を排除せず、鑑別の助けとなる情報を集める姿勢が重要だと思います。
⑵Brugadaのアルゴリズム
N. Tsukishima 心電図検定試験対策 始めました on Twitterより引用
・wide QRSを示すSVTとVTの鑑別で有名なアルゴリズムです。
・このBrugadaのアルゴリズムは1991年にBrugadaらから報告されました。
→この時報告された感度は98.7%、特異度は96.5%と非常に有効かに思えました。
(Circulation. 1991 May;83(5):1649-59.)
・しかし2000年に循環器専門医や救急専門医による追試が行われました。
-循環器専門医1:感度85% 特異度60%
-循環器専門医2:感度91% 特異度55%
-救急専門医1:感度83% 特異度43%
-救急専門医2:感度79% 特異度70%
(Acad Emerg Med. 2000 Jul;7(7):769-73.)
→この結果から、このアルゴリズムの有用性は低いと考えます。
・専門医でこれなら、非専門医の自分に使いこなせるわけがないと思ってしまいました。
・アルゴリズムの存在は知っておくべきですが、詳細を学ぶ意義は乏しいと思います。
⑶precordial concordance
【コラム-101:私嫌いなんです、心室頻拍(VT)が。(その5 : concordanceという考え方のお話しです】: Cardio2012のECGブログ
・胸部誘導(precordial)でQRS波が全て同じ向き(concordance)の所見です。
・precordial concordanceはVTを強く疑う所見です。
・上向き(positive)、下向き(negative)どちらでも構いません。
・四肢誘導は異なる向きであっても関係ありません。
⑷房室解離
左:JPN. J. ELECTROCARDIOLOGY Vol. 22 SUPPL. 2 2002
右:日臨麻会誌 Vol.32 No.3, 419-427, 2012
・P波とQRS波が互いに関係なく出現している状態です。
・VTの病態通り、心室が勝手に暴走している状態を考えると分かりやすいです。
・特異度はほぼ100%と言われており、見つけることができればVTと確定できます。
・"見つけることができれば"です。実臨床では非専門医にはハードルが高く感じます。
⑸VTや心筋梗塞の既往
・心電図所見ではないですが、VTの既往は非常に有用な手掛かりです。
・VTの既往ほどではありませんが、心筋梗塞の既往もVTの可能性を高めます。