内科医キューピーのつぶやき

医学部首席になれた勉強法や医学情報を発信したりします。

微妙なST−T変化

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●この記事は2020/09/21に内容更新しました。

 

キューピーです。

 

心電図をみると、いつもST−T変化に悩まされます。

 

オーバートリアージはいいと思いますが、これでACSなの!?みたいな心電図変化も時々経験します。

 

そういった微妙な心電図所見に指針を示してくれる、とてもいい本を発見しました。

 

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目次

 

 

【参考文献(おすすめ)】

・今回の参考文献は特におすすめの書籍です。

・是非買って頂いて、その参考資料程度にこの記事を利用して頂けると幸いです。

 

【STEMI関連】

①STEMIの心電図経過

30分−1時間:hyper acute T(K値でテント状T波を鑑別)

1−12時間:ST上昇→Tomb stone(STとQRSがくっつく所見)

12−24時間:異常Q波→ST平定化

24時間−数日:陰性T波

−数か月:ST−Tが正常化し異常Q波のみ残る

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急性冠症候群の診断 | アメリカ心臓協会 BLS,ACLS講習会|ER最前線 より画像引用

 

●コラム:recent MI

・正式な定義はありませんが、概ね"発症24時間以上経った心筋梗塞"を指します。

・その中でも直近のMIといったニュアンスで、所見としては上図の"亜急性期"の波形に近いところを指します。

異常Q波軽度のST上昇陰性T波が心電図所見になります。

・緊急カテか待機的カテか、循環器内科医の意見の分かれる領域だそうです。

・いずれにしてもコンサルトは速やかに行います。

・また、合併症(心不全や心内血栓など)にも注意が必要な時期になります。

 

ガイドラインにおけるSTEMI心電図の定義

ST上昇(連続する2誘導以上) J点で計測

・V2−V3誘導

 -男性>40歳:>2mm

 -男性<40歳:>2.5mm

 -女性:>1.5mm

・その他の誘導:>1mm

・V2-V3は"ガツンと上昇しないとSTEMIではない"ということです。

※少ししか上昇していなくてもnonSTEMIの可能性はありますが・・・。

・連続する誘導

→(V1)2−4:前壁、ⅡⅢaVF:下壁、aVLⅠV5V6:側壁

 

ST低下(2誘導以上(≒V1-3))

・前胸部誘導(V1−V3)→(Isolated) posterior STEMIを疑う所見です。

 

aVR ST上昇+広範囲 ST低下

・左主幹部or3枝病変を疑う所見です。

 

新規LBBBは心筋梗塞を疑わない

・例外:ショックを認める場合、Sgarbossa`s criteriaで虚血を疑う場合。

 

hyper acute T

 

注意:当然ですがSTEMI基準に該当しなくても、nonSTEMIの可能性があります。

 

③ミラーイメージ

下壁梗塞:aVLのST低下や陰性T波。感度が高く、ST上昇に先行します。

前壁梗塞:ⅡⅢaVFのST低下。特異度が高いものの、ST上昇に先行しません。

側壁梗塞:ⅢV1だが、診断にどれだけ寄与するかデータがない。

※aVLのST低下や陰性T波は下壁梗塞の最初期に見られ得るので、特に重要です。

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第19回 循環器看護に必要な国循ミニレクチャー | ミニレクチャー | 国立循環器病研究センター 看護部専用サイト より画像引用

 

④aVRのST上昇(≧0.5mm)+複数の誘導でのST低下

左主幹部or3枝病変を疑う所見です。

・多量の冷汗、ショックバイタルなど重篤感がある場合全般的なST低下を認める場合のみ、aVRに注目するようにします。

※そうでない場合のaVRのST上昇は、病的意義がないことが多いです。

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3枝病変を疑え! | ECG-Cafe より画像引用

 

⑤Wellens症候群

概念:左冠動脈近位部の高度狭窄を示唆し、近い将来心筋梗塞に至るリスクの高い心電図変化を示す疾患です。

症状:胸痛は胸痛でも間欠的であることが特徴とされます。

心電図所見:特に"胸痛の無いときの心電図"で所見が見られる傾向にあります。

-TypeA(75%):V2,V3の深い陰性T波が特徴です。

-TypeB(25%):V2,V3に二相性T波が特徴です。

-より近位部の狭窄の場合は、さらに広範囲に所見が及びます。

注意点:心筋逸脱酵素(トロポニンなど)の上昇はないか、あっても軽度(基準値の2倍まで)とされます。

 

対応:緊急で循環器内科医コール→緊急カテとなります。 

※図は1枚目がTypeA、2-3枚目がTypeBです。

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松下 ER ランチ・カンファレンス: ウェレンス症候群 Wellens' syndrome

より画像引用

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医学書院/週刊医学界新聞(第2870号 2010年03月08日) より画像引用

 

⑥Isolated posterior STEMI(後壁(単独)梗塞)

概念:後壁梗塞は一般に側壁や下壁梗塞に合併しますが、稀に単独で生じます。

心電図:V1−V3のST低下(+R波増高、T波が上向き)が特徴です。

※()内は異常Q波や陰性T波のreciproで、全ての後壁梗塞で認めるわけではありません。

対応:まず、V7-9誘導を確認します。

V7−V9:左肩甲骨のいちばん下にV8(元V2)、V6とV8の間にV7(元V1)、椎体左縁にV9(元V3)を貼ります。いずれもV4(=V6)の高さです。

※V7−V9のST上昇は≧0.5mmでも虚血を示唆し、同誘導にQ波が同定できる場合、虚血の可能性が高まります。

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V7 | 看護師の用語辞典 | 看護roo![カンゴルー] より画像引用

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心筋梗塞の心電図:後壁梗塞 | こっそりEBM勉強会 より画像引用

 

下壁+後壁梗塞

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 波形の特徴を覚えよう!後壁梗塞 : 心電図の部屋 より画像引用

 

側壁+後壁梗塞

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医療関係者の皆さま|持田製薬株式会社 より画像引用

 

【虚血と紛らわしい心電図所見】

①早期再分極

場所:胸部誘導+αで広範囲のST上昇(四肢誘導のみのST上昇はSTEMIを考えます)

:下に凸のST上昇±STの最初のノッチやスラー(J波)

・他にST上昇がⅡ誘導>Ⅲ誘導であることも早期再分極を示唆する所見です。

・上記のタイプの早期再分極は、アスリートに多いと言われています。

・また徐脈傾向の人が多いとも言われています。

※近年、早期再分極と不整脈(VF)の関連が研究されています(良性ではないかも?)。

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波形の特徴を覚えよう!早期再分極症候群 : 心電図の部屋 より画像引用

 

②左脚ブロック

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松下 ER ランチ・カンファレンス: 心電図 右脚ブロック vs 左脚ブロック

より画像引用

 

Sgarbossa criteria

・特異度は高いですが、感度は低く虚血の除外には使えません。

・3つあるルールのうち、実質的に以下の2つが重要です(認めれば虚血あり)。

ルール1:QRSが上向きの誘導でST上昇が1mm以上(up−up)

ルール2:"V1−V3"のQRSが下向きでST低下が1mm以上(down−down)

※通常のLBBBでQRSが上向きなのはaVLⅠV5V6、ⅡaVFです。

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図:aVLでup-up陽性→虚血(側壁梗塞疑い)

Sgarbossa Criteria • LITFL • ECG Library Diagnosis より画像引用

 

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図:V2-3でdown-down陽性→虚血(後壁梗塞)

Sgarbossa Criteria • LITFL • ECG Library Diagnosis より画像引用

 

Smith rule

・感度91%で虚血の除外に有用ですが、100%でないので過信はできません。

Sgarbossaのルール1と2が当てはまらないことが前提となっています。

・その上で、極性が逆向きの誘導でSTの高さ/QRSの高さを算出します。

比率が0.25以下ならば虚血なしと判断します。

※感度が100%でないので、結局のところ除外のためにはリスク評価・心エコー・採血(心筋マーカー)は必須となってしまいます。

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③右脚ブロック

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松下 ER ランチ・カンファレンス: 心電図 右脚ブロック vs 左脚ブロック

より画像引用

 

・左脚ブロックのように難しく考えず、通常通りのST変化の判断で構いません。

V1−V3(V4)の陰性T波は正常所見と考えます。

→the pseudo−normalization of the negative T−wavesと呼びます。

rSR`でなくても、V1の最後がR(r‘またはR’)のwideQRSという法則があります。

(なおLBBBはV6の最後がRのwideQRSという法則です)

 

ストレインパターン

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松下心電塾 Matsushita ECG School より画像引用

 

場所:前壁領域(V1−V3)と側壁領域(aVLⅠV5V6)。

波形:QRSとSTの極性が逆向き。

前壁領域の深いS波+STの軽度上昇側壁領域の高いR波+ST低下と陰性T波

・特にV5V6の最初は緩やかに低下し急峻に上がるSTが重要所見です。

・なお、ストレインパターンの心電図での虚血判断はかなり難しいとされます。

・しかし、ストレインパターンの頻度が高いだけに、全例で循環器内科コンサルトは現実的ではありません。

 

●コラム:ストレインパターンの虚血判断

偽物ストレインパターン

・以下の特徴があった場合、ストレインパターンと誤認しないようにします(虚血と判断します)。

-ST低下や陰性T波の形が違う(左右対称の陰性T波など)。

-側壁(aVLⅠV5V6)以外にもST低下がある。

-aVRやaVL/V1でSTがわずかに上昇している。

 

前壁領域(V1−V3)のST上昇が強い

・軽度のST上昇ならばストレインパターンですが、5mm以上なら虚血を疑います。

※それ以下でも感覚的に目立てば虚血を疑います。

・判断が難しいので、時系列での評価がやはり重要になってきます。

 

病歴とエコーは必ずチェックする

ストレインパターンで虚血を疑う際は、心電図だけで勝負をつけてはなりません。

病歴:高血圧やASなど左室肥大をきたす原疾患があるか。

エコー:左室肥大所見やASはあるか。

・上記を確認、認めなければ虚血をストレインパターンと誤認していると考えます。

 

⑤急性心外膜炎

・心臓の見ている部分ごとにZone1-3に分類し、以下の所見を認めます。

-Zone1(ⅡV5V6)のST上昇+PR低下。

※ST上昇は5mm未満でSTEMIほガツンと上がりません。

-Zone3(aVR)のST低下+PR上昇。

-(進行すると)Zone2(上記を除く誘導)のST上昇+PR低下。

・なおSTやPRの上昇/低下は、T波の最後から次のP波の最初までを結んだ基線を基準とします。

・Zone1の変化だけでは普段注目しない枠組みのため、見逃しやすいとされます。

・また、以下のような時系列変化を認めるためさらに診断を難しくしています。

典型的な時系列変化(60%程度に認める)

-Stage1(数時間−数日):PR低下とST上昇あり。

-Stage2(1−2週間):PR低下とST上昇が平低化する(ほぼ正常となる)。

-Stage3(2−3週間):陰性T波が出現。

-Stage4(3週間以降):心電図は正常化する。

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松下 ER ランチ・カンファレンス: 急性心膜炎(松下心電塾より) より画像引用

 

●コラム:急性心外膜炎の診断が難しい理由

・80%は特発性で、一般内科や小児科への受診となることが多く、循環器内科医の前に初診で出現することが少ないとされます。

・かなり稀で大きな総合病院でも1年に4例程度の頻度とされます。

・胸部症状のみで鑑別できることは珍しく、心電図や心エコー所見も軽微であることも多いとされます。

・先行感染は1つの重要な手がかりですが、自ら攻めて問診しないと明らかにはなりません。

結局のところ経験が重要なようです。生活習慣病オーラのない若年者の胸痛で、怪しいと思ったらスイッチをいれて心電図を読みこみます。

 

自験例の覚え書き

・症例:若年男性。血管リスクなし。

・先行:2か月前から周期的な発熱+上気道症状(先行感染+アレルギー症状混在?)。

・胸痛:仰臥位時と労作時に増悪、(言われてみれば)吸気時にも痛いかもしれない。

・外観:診察に行くといつもベッドの頭を上げて過ごしていた。

・初診-入院:一般内科受診時ST上昇はV4などにごく僅か、しかし初心医は胸痛の性状から急性心外膜炎を疑い循環器コンサルトの好判断。入院となり翌日は広範囲にST上昇が出現し、機械診断ですら急性心外膜炎となる。

・胸膜摩擦音:経過中聴取されず。

・心エコー:経過を通して全く異常なし(心嚢水も全く出現せず)。

・その他:発熱と炎症反応は入院日がpeakでそこそこ派手だった。

・治療:バファリン®︎とネキシウム®︎を投与、1週間程度で軽快。その後再発なし。

 

たこつぼ型心筋症

・典型例は、高齢女性がストレスに曝露されることで、冠動脈によらない虚血変化が起き心尖部の壁運動障害が生じるものです。CAGでのみACSと鑑別できます

※ストレスは身体的、情動的いずれでもあり得ます。原因不明も3割程度あります。

aVRでST低下があるV1でST上昇がない、ことはたこつぼらしい心電図所見ですが、結局のところ完全にACSとの鑑別はできません。

・また時系列で心電図変化も示し、下記Stage2ではrecent MIとの鑑別にも難渋しますが、いずれにせよ虚血を疑い循環器内科コールで問題ありません

典型的な時系列変化

-Stage1(発症−24時間):ST上昇

-Stage2(24−48時間):陰性T波①(±QSパターン)

-Stage3(数日):平低化①

-Stage4(10−14日):陰性T波②

-Stage5(1か月以降):平低化②

・初診時の心電図所見はST上昇が42%、T波陰転化が38%、異常なしが13%です。

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医療関係者の皆さま|持田製薬株式会社 より画像引用