●この記事は2021/1/23に内容更新しました。
キューピーです。
今日はNPPV(NIPPVと略す場合もあり)についてまとめていきます。
結構使用頻度は高いのですが、管理はなんとなくだったりします。
より良い管理をするための基礎知識を学びます。
※この記事の内容が原因で生じたいかなる不利益にも責任は負いかねます。
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目次
【参考文献】
【基本事項】
・非侵襲的陽圧換気法(NPPV:non−invasive positive pressure ventilation)はマスクによって陽圧換気を行う人工呼吸療法です。
・実臨床では心原性肺水腫、COPD急性増悪、神経筋疾患に伴う呼吸不全への使用が多い印象です。
・気管挿管に伴うVAPなどのトラブルを避けることができます。
・また、原則として鎮静が不要であるため、コミュニケーションが可能です。
※ただし近年では不穏に対する軽度の鎮静が行われる症例が多いようです。
→特に前駆症状の不眠に行われ、使用薬剤はデクスメデトミジンが多いようです。
・マスクにはいくつかの種類がありますが、急性期にはフルフェイスマスク(図)がよく用いられます。
・禁忌に該当しないか常に注意しながら使用します。
【適応と禁忌】
①適応基準
・低酸素血症や換気障害が大まかな適応基準となります。
・厳密な適応基準はありませんが、生理学的指標として以下は目安となります。
※ガイドラインでは適応疾患ごとに詳細な記載があります。
-急性呼吸不全の徴候
-中等度~高度の呼吸困難感
-呼吸回数>24/分
-呼吸補助筋の使用
-奇異性呼吸運動(吸気時に腹壁が内方に陥凹する)
-ガス交換障害
-PaCO2>45Torr、pH<7.35
-PaO2/FiO2<200
②-1 適応疾患(急性呼吸不全)
・推奨度
A:行うよう強く勧められる
B:行うよう勧められる
C1:科学的根拠はないが行うことを考慮してもよい
・エビデンスレベル
Ⅰ:システマティックレビュー, メタアナリシス
Ⅱ:1つ以上のRCT
Ⅲ:非RCT
Ⅳ:分析疫学的研究(コホート研究や症例対照研究)
⑴推奨度A
・心原性肺水腫(Ⅰ)
・COPD急性増悪(Ⅰ)
・COPDの抜管後呼吸不全の予防(Ⅰ)
・免疫不全者に合併した呼吸不全(Ⅱ)
・拘束性胸郭疾患(肺結核後遺症含む)の増悪(Ⅳ)
⑵推奨度B
・周術期呼吸器合併症の予防/治療(Ⅱ)
・多臓器の障害が少ない軽症ARDS(Ⅱ)
・COPD患者に合併した重症肺炎(Ⅱ)
・小児の急性ウイルス性下気道炎/肺炎(Ⅱ)
・COPDや心不全の合併があるDNI患者や高齢患者の急性呼吸不全(Ⅳ)
⑶推奨度C1
・ARDS(Ⅰ)
・喘息発作による急性呼吸不全(Ⅱ)
・小児の喘息発作(Ⅱ)
・胸郭損傷を伴う急性呼吸不全(Ⅱ)
・終末期や悪性腫瘍に伴う呼吸不全の緩和ケア(Ⅱ)
・間質性肺炎における急性呼吸不全(Ⅳ)
②-2 適応疾患(慢性呼吸不全)
⑴推奨度A
・拘束性胸郭疾患(肺結核後遺症や脊椎後側弯症)(Ⅳ)
⑵推奨度B
・神経筋疾患(Ⅱ)
・肥満低換気症候群(Ⅲ)
※神経筋疾患以外の2疾患はまずCPAPを使用します。
⑶推奨度C1
・COPD(Ⅰ)
③禁忌
⑴絶対的禁忌
・呼吸停止/心停止
・マスクがフィットしない(顔面外傷など)
⑵相対的禁忌
・低血圧/ショック
・2つ以上の臓器不全がある
・気道確保困難(意識障害)
・非協力的/不穏
・上気道閉塞
・大量の気道分泌物/排痰ができない
・咳反射の減弱や消失
・最近の腹部手術/食道手術
・嘔吐/腸管の閉塞/活動性の消化管出血
・ドレナージされていない気胸
※上記の禁忌を意識しますが、最終的には症例ごとに検討します。
→例えば意識障害でもCO2ナルコーシスが原因ならば、NPPVで意識回復が見込めます。
【モードの選択】
・NPPVはほとんどが従圧式であるため、これについて述べます。
・一般的にはCPAPモードとbilevel PAPモードの2種類に大別されます。
・また、bilevel PAPモードの中では主にS/Tモードが用いられます。
→従ってCPAPモードとS/Tモードが使用頻度上も重要なモードとなります。
・大まかにCO2排出も必要な場合はS/Tモードを、CO2貯留はなく肺胞虚脱を防ぎたい低酸素血症患者にはCPAPモードを使用するという理解になります。
※ただしCPAPのみでも呼吸仕事量が軽減し、CO2貯留が改善することも多いです。
①CPAPモード
・continuous positive airway pressure(持続的気道陽圧)です。
・吸気-呼気ともに一定の圧がかかり、肺胞を広げて酸素化を補助します。
・人工呼吸器でのPEEPに相当します。
・換気補助はなく、無呼吸時のバックアップもありません。
・設定項目:CPAP、FiO2。
②S/Tモード
・Spontaneous/Timedモードで、Sモード+Tモードという考え方です。
・IPAP(吸気圧)とEPAP(呼気圧)を設定するbilevel PAPの一種です。
・Sモード:PEEP(=EPAP)とpressure support※で自発呼吸のみを補助します。
・Tモード:一定時間内に自発呼吸が感知されないとき、バックアップでIPAPを供給します。
→S/Tモード:自発呼吸に合わせてSモード運転を行い、一定時間内に自発呼吸が感知されない場合はIPAPを供給します。
※pressure support:IPAP-EPAPのことで、吸気時にEPAPに上乗せされる圧です。
→吸気仕事量軽減により、肺胞換気量増加や吸気筋疲労軽減をもたらします。
→ただしpressure supportが高すぎると、口やマスクからエアリークを招いたり、空気嚥下で腹部膨満感を生じ、誤嚥リスクも上昇します。
・CPAPに比べ、pressure supportや無呼吸時のバックアップがあることが特徴です。
・設定項目:IPAP、EPAP、呼吸回数、FiO2。
・主な適応疾患:COPD急性増悪、神経筋疾患など。
【S/Tモード設定の実際】
① IPAPとEPAP
・IPAP(吸気圧):呼吸仕事量を減らして1回換気量を増やし、PaCO2を下げます。
※IPAPの役割は、そのままpressure supportのもつ役割でもあります。
・EPAP(呼気圧):機能的残気量を増やして肺胞虚脱を防ぐことで、PaO2を上げます。
※ただしEPAPは吸気時にもかかり(=CPAP)、換気補助の役割も果たします。
→(特にCOPD患者では)EPAPのみ(=CPAP)の設定でもPaCo2低下は期待できます。
・初期設定値:IPAP 8cmH2O、EPAP 4cmH2Oを基本とします。
・設定値調節:IPAP 8−15cmH2O、EPAP 4−10cmH2Oの間で調節するのが一般的です。
※調節の際は血ガス以外にも以下を指標にします。
→IPAP:患者自身の呼吸数≦25回/分、1回換気量 6-10mL/kg(理想体重)を目標にします。
→EPAP:呼気努力の改善を目標にします。
②バックアップ呼吸回数
・初期設定値:自発呼吸より2−4回/分少ない値に設定します。
※大まかな目安は12−16回/分程度です。
・設定値調節:状態改善により努力呼吸数が減少したら、バックアップ呼吸回数も減らします。
③FiO2
・設定値:SpO2 85−90%を目標としながら調節します。
・目標SpO2を90%以上とするとFiO2を上げざるを得ず、高濃度酸素は呼吸数を減少させるため、PaCO2低下を妨げることにもつながります。
【実際の使用例】
①心原性肺水腫
・呼吸筋疲労がないⅠ型呼吸不全の場合
→CPAPモードを使用します。
-CPAPモード
-CPAP:4-5cmH2Oで開始し、治療反応性や忍容性により8-10cmH2Oまでupします。
-FiO2:100%で開始し、SpO2 90%を目標に適宜減量します。
※30-60分で改善がなければ、気管挿管/人工呼吸管理へ移行します。
・ 呼吸筋疲労ありorⅡ型呼吸不全の場合
→S/Tモードを使用します。
-S/Tモード
-EPAP:4-5cmH2Oで開始し、治療反応性や忍容性により10cmH2Oまでupします。
-IPAP:8-10cmH2Oで開始し、治療反応性や忍容性により15cmH2Oまでupします。
-FiO2:100%で開始し、SpO2 85-90%を目標に適宜減量します。
※30-60分で改善がなければ、気管挿管/人工呼吸器管理へ移行します。
②COPD急性増悪
→EPAPのみ(=CPAP)で開始し、忍容性があればS/Tモードを使用します。
-CPAPモード
-CPAP:4-5cmH2Oで開始し、治療反応性や忍容性により8-10cmH2Oまでupします。
-FiO2:100%で開始し、SpO2 90%を目標に適宜減量します。
→患者の忍容性があり、CO2貯留も遷延する場合はS/Tモードに切り替えます。
-S/Tモード
-EPAP:4-5cmH2Oで開始し、治療反応性や忍容性により10cmH2Oまでupします。
-IPAP:8-10cmH2Oで開始し、治療反応性や忍容性により15cmH2Oまでupします。
-FiO2:100%で開始し、SpO2 85-90%を目標に適宜減量します。
※30-60分で改善がなければ、気管挿管/人工呼吸器管理へ移行します。
●コラム:NPPVの生理学的機序
①心原性肺水腫
・毛細血管から漏れた水分により、肺胞が潰れた状態になっています。
・NPPVにより、末梢気道および肺胞を開存させることができます。
→虚脱した肺胞が開くため、酸素化の改善効果があります。
・胸腔内圧上昇→静脈還流量低下→前負荷軽減→うっ血の解除も期待できます。
・胸腔内圧上昇→胸腔外へ血液が流れやすくなる→後負荷軽減→心拍出量増加といった効果も期待できます。
②COPD
・末梢気道を支える組織が脆弱化して、過膨張により胸腔内圧が上昇し、末梢気道が外側から押しつぶされています。
・また、呼気が妨げられることでさらに過膨張が進む悪循環に陥っています。
・さらに、過膨張した状態から吸気を開始するためには大きな呼吸仕事量が必要で、呼吸筋疲労も起こります。
・EPAPやCPAPは潰れた末梢気道を開いて悪循環を断ち切り、過膨張を解除します。
・pressure supportは呼吸仕事量を軽減し、換気を改善させます。
【実際の導入の流れ】
①禁忌がないことを確認します。
②30−45°以上にヘッドアップを行います。
③適切な種類のサイズのマスクを選択します。
※急性期はフルフェイスマスクを用いることが多いです。
④設定値を入力します。
⑤マスクを顔に押し当てるか、患者自身に持ってもらい換気を開始します。
⑥呼吸回数や1回換気量(IPAP)、呼気努力(EPAP)、SpO2(FiO2)などを確認して、設定値を微調整します。
⑦換気に耐えられればストラップで固定し、過度のリークを防ぎます。
※30mL/分程度のリーク量が目標になります。
⑧創傷被覆材で皮膚トラブルを予防します。
⑨30-60分後に動脈血液ガス分析で効果を確認します。
※効果改善が乏しい場合は気管挿管/人工呼吸器管理に移行します。
⑩6時間以上使用する場合は、必ず保湿を行います。
※呼気時にマスクが少し曇るくらいが理想です。