●この記事は2021/10/12に内容更新しました。
キューピーです。
人工呼吸器使用に際して、鎮静の知識は必須となります。
2013年にPAD(Pain Agitation Delirium)ガイドラインが刊行されました。
2018年には睡眠や早期リハを加えたPADISガイドラインが刊行されています。
今回はPADISガイドラインを基本にまとめていきます。
※この記事の内容が原因で生じたいかなる不利益にも責任は負いかねます。
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目次
【参考文献】
【analgesia first sedation】
①基本事項
・ほぼ全ての気管挿管患者で鎮痛薬が必要な疼痛が生じていると言われています。
・analgesia first sedationは"鎮痛優先の鎮静"と訳され、注目されている考え方です。
→鎮静よりも鎮痛(通常はフェンタニル)を優先し、その後に鎮静の必要性を検討します。
→これにより人工呼吸期間やICU入室期間の短縮が期待できるとされます。
・特にフェンタニルなどのオピオイドは鎮静作用も持ち合わせています。
→鎮静薬を用いずにフェンタニルのみで鎮静/鎮痛の両立が達成できることもあります。
※なお、これに関連して(深い鎮静より)浅い鎮静が推奨される傾向にあります。
→ただし患者アウトカムに与える鎮静の深さの影響は、完全には分かっていません。
②痛みの評価
・自己申告可能:NRSが最も推奨されます。
→痛みの程度を0-10の間で示してもらう方法です。
・自己申告不可:BPSやCPOTが推奨されます。
→NRS≧3、BPS≧5、CPOT≧2は有意な疼痛の存在が示唆されます。
・なおvital signs単独を痛みの評価の指標とすることは推奨されていません。
●NRS(Numerical Rating Scale)
●BPS(Behavioral Pain Scale)
●CPOT(Critical−Care Pain Observation Tool)
③鎮痛薬の使い方
・一般的にオピオイド、特にフェンタニルが用いられる印象です。
→作用発現が1-2分、半減期が3-4時間と短く、量を調節しやすいためです。
・投与例:フェンタニル 0.5mg/10mL+生食40mL 1-3mL/hrで持続投与。
→一般的に10-30μg/hr(上記速度)でコントロール良好となることが多いとされます。
※添付文書通りだと0.05-0.5mL/kg/hr(0.5-5μg/kg/hr)の速度です。
→例えば体重60kgだと3-30mL/hrとなり、やや過量である印象があります。
・禁忌(添付文書):過敏症、筋弛緩薬が禁忌、頭部外傷/脳腫瘍、痙攣既往、喘息、ナルメフェン投与中/投与中止1週間以内。
・副作用:悪心、呼吸抑制、血圧低下、筋強直など。
→疼痛と副作用をモニタリングしながら投与量を調整します。
・肝障害例では蓄積性があるため、過剰投与とならないように注意します。
・無効例では、アセトアミノフェンの追加などが推奨されます。
【鎮静の基本事項】
・目的:患者の快適性確保、酸素消費量や基礎代謝量の減少など。
・鎮静の評価:RASSやSASが用いられ、特にRASSの頻度が高い印象です。
・"プロトコル化された浅い鎮静管理"や"毎日鎮静を遮断する方法"が推奨されます。
→鎮静の遮断とは、鎮静薬を一定時間中断し、RASSが-1~+1程度になることです。
※ただし、前述のように患者アウトカムに与える鎮静の深さの影響は未解明です。
・"浅い"鎮静の明確な定義はありませんが、RASS -2~+1が1つの目安ではあります。
・前述のanalgesia first sedationの考え方も重要で、まず鎮痛薬を検討します。
・例外的に深い鎮静が好まれる病態もあり、以下に例示します。
-頭蓋内圧亢進
-てんかん重積
-(ARDSなどで)人工呼吸器との非同調が著しい場合
●RASS(Richmond Agitation-Sedation Scale)
【鎮静薬の使い方】
⓪基本事項
・主にプロポフォール、デクスメデトミジン、ミダゾラムが用いられます。
・PADISガイドラインではプロポフォールかデクスメデトミジンが推奨されています。
(条件付き推奨,低い質)
・両者のどちらがより優れているのかについて、結論は出ていません。
①プロポフォール
・作用:鎮静、催眠、抗痙攣、抗不安、健忘。鎮痛作用はありません。
・長所:半減期が短く鎮静作用の遷延が起こりにくく、鎮静深度の調節が容易です。
・短所:呼吸抑制の他に血圧低下作用が強く、血圧低値の患者は注意が必要です。
・投与例:ディプリバン® 500mg/50mL 下記速度で投与。
→初期投与:0.03mL/kg/hrを5分間で投与。
→維持投与:0.03−0.3mL/kg/hrで適宜増減。
・初期投与後作用発現:1-2分。
・消失半減期:短期投与時は3-12時間、長期投与時は50±18.6時間。
・禁忌(添付文書):過敏症、小児。
※投与可能とする文献もありますが、原則として卵/大豆アレルギーも禁忌です。
・副作用:注射時疼痛、血圧低下、呼吸抑制、アナフィラキシー、PRIS(後述)など。
・深い鎮静になるほど、覚醒が著明に遅延する傾向があるとされます。
②デクスメデトミジン
・作用:鎮静、交感神経抑制、弱い鎮痛(原則として鎮痛薬の併用は必要)など。
→抗痙攣作用がないことには注意します。催眠作用もありません。
・長所:呼吸抑制が少なく、浅い鎮静に向いています。
→プロポフォールよりも鎮静中のコミュニケーションが容易という研究結果もあります。
・短所:徐脈(や血圧低下)が生じやすく、深い鎮静にも不向きです。
・投与例:プレセデックス® 200μg/50mL 下記速度で投与。
→初期投与:1.5mL(6μg)/kg/hrを10分間で投与。
※血行動態が不安定なら初期投与(負荷用量)は行わないようにします。
→維持投与:0.05-0.175mL(0.2−0.7μg)/kg/hrで適宜増減。
・初期投与後作用発現:5-10分。
・消失半減期:1.8-3.1時間。
・禁忌(添付文書):過敏症。
・副作用:徐脈、血圧低下、負荷用量に伴う一過性の血圧上昇、呼吸抑制など。
・重篤な徐脈のリスクがあるため、ボーラス投与は避けます。
③ミダゾラム
・①や②に比して血圧低下作用がやや弱いとされます。
→①や②が第1選択ですが、循環動態が不安定な症例ではミダゾラムを選択し得ます。
・作用:鎮静、催眠、抗痙攣、抗不安、健忘。鎮痛作用はありません。
・投与例:ドルミカム® 5A(50mg/10mL)+生食40mL 下記速度で投与。
→初期投与:0.01−0.05mL(mg)/kgを数分間かけて投与。
→維持投与:0.02−0.1mL(mg)/kg/hrで適宜増減。
※肝代謝/腎排泄であり、肝/腎不全患者では半量程度に減量して使用します。
・初期投与後作用発現:2-5分。
・消失半減期:3-11時間。
・禁忌(添付文書):過敏症、閉塞隅角緑内障、重症筋無力症、特定の抗HIV薬内服など。
・副作用:呼吸抑制、悪性症候群、血圧低下など。
・ベンゾジアゼピン系のため、せん妄のリスク因子となります。
●プロポフォール注入症候群(PRIS)
・PRIS:Propofol Related Infusion Syndromeです。
・概要:稀な致死性合併症で、種々の報告で頻度は1-4%程度とされます。
・病態:ミトコンドリアや脂肪酸代謝障害による ATP産生低下が想定されています。
・リスク因子:敗血症、頭部外傷、てんかん重積、カテコラミン/ステロイド投与、炭水化物不足など。
※深い鎮静にせざるを得ない病態は投与量が増え、リスク因子と考えられます。
・症候:代謝性アシドーシス、Brugada様心電図、横紋筋融解、腎/心不全、高TG血症など。
→特に"プロポフォール投与中の原因不明の代謝性アシドーシス"では必ず疑います。
・予防:投与速度は3mg/kg/hrを超えず、7日間以上の投与は原則として避けます。
→上記は添付文書の記載事項であり、可能な限り投与量を少量とします。
→早期発見のためにpH、CK、TG、心電図のモニタリングが推奨されます。
・治療:薬剤中止と対症療法(血液浄化療法など)が中心となります。